帆布に描くぎじゅつ   作:Aa_おにぎり

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第弐拾漆話

沙耶香達に話したからだろうか。今日は久しぶりに帰りの電車内であの時の夢を見ていた。シカゴの孤児院で育てられた私は、そこで他の子と共に遊んでいた。

 

「おい、ゼーロ!!こっちに来いよ!!」

 

そう言うのは赤髪の宇野と言う少年だった。年は自分と同じ六歳。そしてゼーロとは、孤児院での私の呼び名だった。

ここにいる孤児院の子供の中では最も私が昔から居る事から、誰もが私を姉として慕っていた。ここの孤児院には私を含めて十三人の子供がおり、幼い頃からずっと一緒だった。

孤児院の部屋の中で本を読んでいた私は宇野に呼ばれるとそのまま部屋を出ると、そこである男と顔を合わせた。

 

「あっ!院長さん!!」

 

そこには年相応に老けた一人の老人が健康そうに立っていた。

彼の名はデイビット・ハドソン、又の名を……エドモンド・クライツァーと言う。ここの孤児院の院長であり、私を幼い頃から育てた人であった。ここに何人かの職員が出歩いており、自分たちの世話をしていた。すると、デイビットは私を見つけると宇野を見ながら言う。

 

「済まない宇野、今日はゼーロの血液検査の日だ」

「えぇ、まじかよー」

 

そう言って残念がる宇野だったが、そんな彼に私は言う。

 

「大丈夫、終わったらすぐに戻るから」

「ん、じゃあまた後でな」

 

そう言うと、宇野は消え。私はデイビットの手を取った。

 

「じゃあ、今日も頼むよ」

「はい」

 

そう言って、孤児院の医務室の椅子に座るとそこで左腕の所に針を刺された。刺される時は痛く無いのだが、そこから吸われていく血を見るとなんとも言えない表情になってしまう。

少ない量を摂られると、デイビットは私に言う。

 

「はい、今日はこれで終わりだ。ありがとうね」

 

そう言った、自分の血の入った試験管を持つと、そのまま私は部屋から出て行く。月に一回ある血液検査だが、まさかこの時に人工術師の薬剤を使っているとはこの時は全く知らなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

そんな生活をしていたある日。私達はバラバラになった。あの孤児院に警察がこの孤児院の摘発のために、私たちを確保する為に孤児院を囲んでいた。私は真っ先に孤児院から逃げ出すように言われてあとでここに戻るよう言われるとそのまま外に出された。

数多の警察を振り切り、数時間後に再び孤児院に戻った時。私は私はふと腕を掴まれ、その方を見るとそこには一人のスーツを着た一人の男性が立っていた。思わず叫びたくなってしまったが、その男の人は私を見てこう言った。

 

「あぁ、ここに居たのか……」

 

ここで悲鳴を上げようと思った時、私は口元を塞がれた。

 

「今ここで叫ぶと、君は殺されるぞ」

 

少しだけ、感情のこもった真剣な声色に思わず出しかけた声を抑える。すると、その男の人はホッとした様子をしながら私に持っていた眼鏡を付けさせると言った。

 

「これでもう大丈夫。……あぁ、すまない。自己紹介をしていなかったね。私は杉峰貴一郎、君を迎えに行くように頼まれた者だ」

 

そう言って、貴一郎と名乗った人は私に名刺を出した。そこには孤児院で教わった日本語という言葉で内閣府と書かれた名刺を見た。

 

「内閣府……?」

 

そう呟くと貴一郎は私を見ながら驚いた表情を浮かべると、私に聞いて来た。

 

「君、その文字を読めるのか?」

「うん…孤児院で習った……」

「そうか……君、名前は?」

「ゼーロ……」

 

貴一郎は私の名前を聞くと、そのまま手を引っ張った。

 

「では、ゼーロくん。移動しよう」

「ま、待って!何処に行くの?私、あそこに戻るように言われているの……」

 

そう言うと、貴一郎は私の手を持ちながら言う。

 

「此処は今は危険地帯だ。また後で此処に来ればいい」

「……」

 

そう言うと、貴一郎は私の手を取るとそのまま私を車に乗せた。

私も、孤児院の周りに大勢いる銃持った警官に少しだけ違和感を感じ、離れるのが良いだろうと言う事で貴一郎について行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

それからは色々と貴一郎には世話になった。日本大使館に向かい、人物照合やら遺伝子鑑定を行い、間違いないかの確認作業。それからパスポート発行諸々の作業を行って帰国する準備が整えられていた。

その間、私は貴一郎に世話をされ、ホテルで一ヶ月程生活をしていた。その間に私はあの孤児院の真相をニュースで聞き、同じく過ごしていた宇野達の安否を気にしながらも、ショックを受けていた。

 

そして、ゼーロと言う番号呼びの名前に嫌気がさし、私はそこで本当の家族の名前を教えてもらい。それが自分の本当の名前であると刻み込んでいた。

 

そして、一ヶ月が経ってパスポートが使えるようになると私は貴一郎に連れられて日本行きの飛行機に乗っていた。その時も貴一郎に言われて髪の毛の色を変える変装具をつけていた。

 

そして、日本に帰り。そのまま貴一郎に連れられて今の家族と再会した。嗅いだ事のある懐かしい匂いに不意に涙が溢れていたのは良い思い出だった。その時、六年ぶりに実母である雪と再開したのだが、そこからの生活は恐ろしい位箱入りだった。どの位かと言うと私が十二歳になるまでは外出すらしないとんでもない箱入り娘だった。まぁ、赤ん坊の頃に誘拐されたのであれば警戒し過ぎることもないのだが、そもそも家にいても充実していたのでそこまで窮屈でも無かった。

そして、十三になってからはたまに母に付き合って外に出るようになり、そこで何人かの有名人と出会っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

学校が終わり、冬歌は家に帰るとそこで心陽が出て来て鞄を受け取りながら、冬歌に言う。

 

「お嬢様、御当主様より旧帝国ホテルに来るよう連絡がございました」

「あら、御母様が?分かった、着替えたらすぐに行くわ」

 

そう言うと、冬歌は家に入ってシャワーを浴びると着替えて私服姿で家を出ていく。

旧帝国ホテルは明治からあるホテル御三家の一つであるが、今は宿泊業を取りやめ、客室を改装した完全個室制のレストランへと改装され、防音制も高く。今は政治家同士の密会の場としても人気を博していた。

また、滅多に帝都に来る事はない母が気にいる数少ない場所の一つであった。

 

 

 

そして、着替えた冬歌は車に乗るとそのまま母のいる旧帝国ホテルに移動する。

玄関に着くとそのまま冬歌だけ車を降りるとそのまま中に入る。名前を言うと、そのままウェイトレスに連れられて部屋に入る。

すると席には既に雪が座っており、冬歌の到着を待っていた。わざわざ帝都に出て来るなんて、よっぽどあの二人を捕らえたのが気になっているのが良く伺える。そう思いながら席に座ると、雪は冬歌を見ながら言う。

 

「よく来てくれたわ。色々と聞きたいことはあるけど…まずは食事からにしましょうか……」

「はい、分かりました」

 

そう言うと、雪はウェイトレスに注文を入れると料理が出て来る。ホテルを改装した全個室の完全防音のこのレストランは霞ヶ関から近いこともあって密会をする人達には打ってつけの場所であった。実際、入り口でスーツを着た人物が護摩を擦っている様子が窺えた。

下手にスキャンダルに巻き込まれるのはゴメンだと思いながらも、冬歌は出てきたフランス料理に舌鼓を打っていると、雪が冬歌に言う。

 

「この前の術師の一件は良くやってくれたわ……あの二人の捕縛は他の全ての代償を払ってでも、見合う価値がある」

「御母様、その一件で一つお願いが……」

「何かしら?」

 

そう問われ、冬歌は少し間を置いた後に雪に言う。

 

「確保した二人の術師への対応は暫く待って頂けませんか?」

「あら、どうしてかしら?」

「……少し、気になる事があるので。自分が調べたいと思います」

 

そう言うと、雪は動かしていた手を止めると。冬歌に、少し間を置いた後に言う。

 

「そうね……ベースカラーはエドモンド・クライツァーにつながる人物。……今は封印されているけど、目覚めた後に貴方と接触すれば何が起こるか分からない。だから、まだ保留にします」

「……分かりました」

 

雪は冬歌が話術で懐柔される事を恐れ、クワト達との接触はまだ保留と言うことにしていた。話すこともできないとかと内心悔やみながらも、事情を理解して食い下がる事はなかった。そして、食事を摂っていると冬歌は雪にある事を聞かれる。

 

「冬歌、この前の戦闘で銃を失ったと聞いたけど。代わりの物はどうするの?」

 

あの事件でSCARを分捕ってはいるが。あんな物を日常生活で持ち歩くなんて無理だから、レイジングブルの代わりとなる拳銃をどうしようかと聞くが、冬歌は雪に答える。

 

「新しい拳銃は、既にカラニット・イェニエル氏が手配してくれると連絡がありました。この前の事件のお礼との事だそうです」

「あら、そうなの?」

「はい、沙耶香嬢にも準備すると言う事で……勝手ですが個人的に注文をさせて頂きました」

「それなら、問題ないわね」

 

そう言い、雪は事前に調べたのだろうカラニットの素性を思い返しながら頷くと冬歌は注文した内容を思い返しながらやや苦笑してしまった。

 

「(結構無理な注文だったけど、出来るのかな……?)」

 

そう思いながら、冬歌は雪と共に食事を摂っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

同じ頃、家に帰った沙耶香は自室のパソコンである事を調べていた、

 

「……あった」

 

それは英語の記事で書かれたシカゴの孤児院での事件であった。

 

『シカゴ市内の孤児院で院長が子供に暴力を振い、警察が摘発。しかし、院長は行方不明』

 

見つかったのはこの記事だけである。シカゴの孤児院で一〇年前と言うかなり絞れる事件のはずなのに見つかったのはこの記事だけだった。

アメリカ政府が恐れたと言う人工術師の実験。もし行けるなら現場に行ってみたい物だが、今も残っているかは分からない。

詳しい場所は分からないが、冬歌の言っていた人工術師の実験を行っていたエドモンド・クライツァーの詳細を調べようと思っていた。

 

自分があの黄色髪のベースカラーの術師を対面した時に使った、あの見た事のない術式が沙耶香はどうしても引っ掛かっていた。

少なくとも、札などの媒介無しに術式を発動していたあの技術はどんな原理なのか……

沙耶香はあの時、術師を回収された事を少しだけ後悔していた。




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