帆布に描くぎじゅつ   作:Aa_おにぎり

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第参拾陸話

『ーー現在、中華民国政府は撤兵を開始し……』

『中華人民共和国と交わされた青島条約の内容ですが……』

『そもそも、なぜ北中がこうも無謀な侵攻をしたのか……』

『えぇ、現在分かっている損害ですが。日本人の被害も確認されており……』

 

画面で報道がされ、ここ一か月の間に起こった電撃的な出来事に情報が錯綜している中。冬歌は車の中でそれを眺めていた。

日にちは一一月二九日。肉屋が安売りをする日でも有名だが、そんな事など吹っ飛んでしまうくらい国内の情勢は荒れに荒れていた。何せ、冷戦後稀に見る大規模な戦争だ。オマケにとんでもない損害比と来た。

 

「戦車一一二両に対して二八両…幾らなんでも酷いわね……」

「一体、どう言う目的なのでしょうか……これほどまでの軍事行動を起こせる戦力があったのが驚きです」

「……」

 

車に乗って呼び出した裕翔を待ちながら、今回の軍事行動に憶測を話していると、車の扉がノックされ。心陽がロックを外すと中に裕翔が入ってきた。

 

「一か月で随分と荒々しくなってきましたね……」

「えぇ、そっちの状況は?」

 

冬歌は無駄話をする暇は無いと言う目線を向けながら裕翔に聞くと、彼は今の状況を話す。

 

「相変わらずだよ。新潟の方からちょっかいかけてくる……ってか、あんな欠陥品渡しやがって…アルミ製の銃身だから数発撃ったらパックリ割れたぞ」

「あら、それは悪い事をしたわね」

「おかげで部下は結構お冠だ。如何してくれるんだ?」

 

そう言うと、冬歌は車のトランクを指差した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……それで、今は裕翔がお前さんの娘に武器の話をしているが……どうしてあんな欠陥品を渡した?」

 

ややドスを効かせた声で洋一郎が反対側に座る雪に聞く。二人は欅坂にある料亭で話し合いをしていた。今回は洋一郎の好みに合わせてこの料亭を選んでおり、今日の立場の上下がハッキリしていた。

そんな洋一郎の話に雪は淡々と交わす様に答える。

 

「あんな短い期間で用意できる物ではあれが限界ですわ。ですが、事前に用意した金額で今回は信用に値する物が届けられるかと……」

「そうか……では、今回は信用して良いのかね?」

「えぇ、前回の様な無茶な要求でなければ……」

 

そう言うと、二人は日本酒を一杯飲む。本当は煙草を吸いたい気分であるが、ここは全面的に禁煙となっており吸った瞬間に店から嫌な顔をされる。仕方ないと我慢しながら洋一郎は代わりに日本酒をよく飲むと雪に聞く。

 

「して、今回の品物とは?」

「そうですね…今までの中では一番いいかも知れませんね」

「そうか…」

 

仕事の殆どを息子に任せている状況で、後を継がせて残りは見合い相手を見つけるのが仕事だと思いながら洋一郎は雪と話す。

こんなヤクザもんがこの時代になっても生き残っていけるのは一重にこの狼八代と言う公爵家のバックが居るのと、自分達がシマにしている浮浪島から若い人材を引き抜けるからだろう。反抗しようと思ったこともないし、そんな事をしたら軍隊が出てくる。公爵とはそう言うものだ。

 

公爵と言うからには狼八代家にも当然皇族の血が流れているわけで、何代か前の狼八代家当主が嫁入りで皇族が来たと言う。つまり、この目の前にいる御仁にも、息子が相手している娘にも薄くではあるが皇族の血が流れていると言う事。普段は滅多に会うことすら叶わない相手だという事だ。

 

狼八代家の娘だってこの前皇居に新嘗祭の手伝いに行ったと言うくらいだし、そこでやはり皇族の血筋を感じる。

世界で最も高貴な存在である皇族。その血が流れているだけで随分と人の見る目というのは変わるものだ。おまけに狼八代冬歌は赤ん坊の頃にナチスの生き残りに誘拐されたときた……

 

「(あまり、彼女にとって娘は表に出したくないと思っているんだろうな…だから、息子を護衛として勧誘したのか……)」

 

洋一郎は前に提案された話を思い返しながらまた日本酒を飲む。好みの銘柄で気分は良いと思いながら二人は料亭で次の予定を話していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ひゅ〜…こりゃ良い」

 

トランクに入っていた箱の中身を確認しながら裕翔は呟く。冬歌はそんな満足げな様子を浮かべる裕翔に言う。

 

「これを、三五丁準備する。6.5粍弾仕様の特殊部隊モデルよ」

 

そう言い、箱の中に置かれた一丁の銃を見ていた。やや玩具の様にも見えるが、中身はしっかりとした機構を持った自動小銃であった。

 

「XM8……いや、このタイプなら五式自動小銃と言ったところか?」

 

そう呟くと、裕翔は今回冬歌が持ってきた銃を手に取った。

 

日本では五式自動小銃として特殊部隊に採用されているH&K XM8。そんなものが手に入れら手たのかと言う驚きもあるが、冬歌はこの銃を仕入れた理由を呟く。

 

「北中がなぜ無謀な進撃を行なったのか……政府はロシアがバックについていると考えている」

「あぁ、この前新しく大統領になったな……」

「そこで政府はこの行動が日本侵攻への下準備ではないかと判断した」

「おいおい……嘘だろ?」

 

裕翔はそこまで話して良いのかと言う疑問と、政府はそんな馬鹿げた考えをしているとかと言う二つの疑問を思い浮かべた。すると冬歌はやや呆れを交えつつ裕翔に言う。

 

「政府ってのは臆病な生き物でね……もしかすると満州を一瞬で制圧してそのまま日本海を縦断か、カムチャッカから突撃万歳する可能性があるのよ」

「イェルサレム共和国を飛ばしてか?」

「あの国の粘り強さはよく知っているでしょう?」

「あぁ、なるほど納得」

 

そう言い、今まで行われた上陸作戦が全て失敗した過去を思い返すと、少なくともソ連という脅威はあっても実際に侵攻されたことの無い日本の方が恐怖を与えられそうだと思いながら、裕翔は弾倉を抜いて中身を確認する。

 

「それで、ロシアは前々から戦争をする相手の国に潜り込んで実地調査を行う。そして、それらはだいたい観光客として入ってくるので警察や軍隊は手出しができない」

「ほうほう……ん?」

 

なんだか雲行きが怪しくなってきたと思いながら裕翔は話を聞く。

 

「そんでもって裕翔が暴れてくれたおかげで中華マフィアは尻尾を巻いて逃げ出した」

「うん……それで?」

 

裕翔は何となくこの先の展開がわかると、冬歌は恐怖を覚える笑みを浮かべると裕翔を見て言う。

 

「と言うわけで、怪しいロシア人観光客を取っちめてね?こんな良い武器を支給するんだし」

「(ちっ…!!やられた!!)」

 

裕翔は面倒な仕事を押し付けやがってと内心毒吐く。すっかり最新鋭の良い武器を貰ったと思っていたが、確かに自分達のシマは関東一帯だが、出来るわけがないと思って武器をしまおうとするが、先手を打って冬歌は裕翔に言う。

 

「あぁ、因みに断ったら問答無用で警察に突き出すから」

「俺に逃げ道はないってか?クソッタレ!!」

 

そう言い、地団駄を踏む裕翔はしてやられたと思いながら内心諦めが生まれ。冬歌に聞き返す。

 

「んで?俺はどこまでやれば良い?」

「ロシア人観光客の中でも北部に移動する人。若しくは北から戻ってくる人の監視。確定したら気絶するまでなら良いわ」

「それって……特高とか情報部にやらせちゃ駄目なのか?」

 

そう聞くと、冬歌は厄介な表情を浮かべながら答える。

 

「人手が足りないのよ。少なくとも関東圏ではね。その代わり、刑務所に収監されている貴方のお仲間の出所時期も早くなる……悪くないでしょう?」

「へいへい、分かりましたよ……」

 

少なくとも、これで部下の文句は抑えられそうだと思いながら武器を片付けると、ふと呟く。

 

「俺達はPMCじゃねぇんだぞ……」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

戦後の日本が待ち受けていたのは苦難の連続であった。

戦争を一抜けした日本ではあったが、国内の経済状況は悲惨の一言であった。

 

物資不足にあえぐ国民。

膨大に発行された国債。

増備しすぎた軍備。

 

真っ先に政府は軍縮を行なった。それから国際返済のために次々と外国の株を売り始める。株の売買は二割から四割の間であったが、それで外貨獲得を行い、国債の返済に当て。粛軍と言われる軍縮のおかげで五〇年代中盤には混乱もだいぶ落ち着いてきた。

 

戦時中にチチハル作戦として指揮をとった西条英機は関東軍の撤退に猛反対したが、部下がクーデターと称して西条英機を射殺していた。おかげで関東軍は簡単に撤退を行い、粛軍の影響をもろに受けて全軍が解体されると言う稀に見る人員削減を受けた。

 

そして、五〇年に起こった国共内戦にどさくさに紛れて陸軍は参加したが、送り込んだ派遣軍のうち七割が壊滅すると言う大損害を受けて陸軍はすっかり勢いを失ってしまい、無能の烙印すら押される始末。国共内戦の援護のために北京を砲撃した海軍はそこで大和を送り込んで陸軍とは反対に大活躍していた。何気にこれが大和が建造されて初の実戦であった。世界最大の四六糎砲の威力は凄まじく、北京市を文字通り焼け野原にしていた。そして改装を受けながら今でも予備役で在籍し、頻繁に海外で行われる観艦式などに招待されていた。

何せ、英国王室やタイ王室が直で見たいからと言って駄々を捏ねた噂があるとかないとか……

 

そんな、日本を象徴する巨大戦艦は一時期は解体も危ぶまれたが、今日も海の上に浮かんでいた。




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