その日、関東某所。人里離れた場所に一台のトラックに搬入作業が行われる。中に乗るは数ヶ月前に冬歌達が捉えたベースカラーであるクワトとノーヴェ。二人は冬歌の施した封印によって目覚める事は無く、研究も兼ねて移送される事が決まった。冬歌としては直接話がしたいと何度も雪に嘆願していたが、許可が出る事は無かった。
途中の襲撃がある可能性も鑑みて術師を配備した上でダミーのトラックも走らせていた。
「外に陸軍の部隊と思わしき影や所属不明の部隊が居ます」
報告を受け、湊斗は少し考える仕草を取る。
「所属不明か…よっぽど人工術師の技術が欲しいと来たか……」
軍事的に考えて人工的に安定して術師を
「軍事バランスを崩壊させる技術を渡すわけには行かないな……」
そう口にすると湊斗は部下に指示を出した。
その頃、外ではベースカラーの確保の為に派遣された陸軍部隊の偵察兵が報告を上げていた。
『定時連絡、周辺に米国、ロシア、中国など複数の情報機関の部隊展開を確認』
「そうか……」
市内の駐車場。偽装されたトラックの中で指揮官は唸る。今回の目的は諸外国部隊の排除、並びにベースカラーと言う術師の確保にあった。情報部によるとベースカラーは元アーネンエルベ職員が開発した人工術師のプロトタイプであると言う。
「人工術師か……」
それは確かに各国が喉から手が出るほど欲しいわけだ。今の世界、術師の数ほど軍事力も増している。術師の数が多くて困ることは無い。そんなところに舞い込んできた人工術師の技術。食いつかないわけが無い。ベースカラーに関する情報を最も多く保有しているのは米国と狼八代家だ。しかし、米国の情報機関が出ていると言うことはベースカラーに関する情報は何も持ち合わせていないと言うことだった。
「まずは邪魔者の排除だ。各部隊に連絡」
「はっ!」
軍事バランスを崩壊させる要因は始末せねば。
「トラックを視認」
双眼鏡を持って報告を入れるのはアメリカの部隊だ。彼らの任務はベースカラーの確保にあった。
「他にも多くの部隊が展開しています」
「やはり、人工術師は誰もが欲しがる夢の技術か……」
それは激しい奪い合いになるだろうと推測しつつ、彼らは他の部隊が潰し合いをしてくれればと内心考えていると……
「がぁっ!?」
「「「!?」」」
一人が撃たれた。彼らはM4カービンを持って撃たれた方向を警戒する。
「くそっ、こっちを潰しにかかったか」
此処は日本の領土、日本陸軍も展開していると聞いていた為に最初に潰しにかかってきたかと内心舌打ちをしながら警戒を剥き出しにしていると、突如横にいた兵から炎が巻き上がった。
「くそっ!術師かよっ!!」
市街地戦において術師の有用性はアメリカが最も分かっていた。アフガニスタン紛争にてタリバーンの術師攻撃で大きな被害を被ってきたからこそ、術師の増員は急務であった。術師の制限された生活に国内からも批判を浴びている現状、人工術師の技術はアメリカとしても欲しい技術であった。人工術師の研究を行っていたエドモンド・クライツァーの居場所は不明だ。その為、彼の居場所を聞く為にもベースカラーの確保は絶対であった。
「破魔装置を使え!最大出力!!」
するとアメリカ部隊は持ち込んだ破魔装置を展開する。しかし……
「あぁぁああああっ!?」
「なっ……!?」
突如、横にいた隊員が燃え盛る。
「馬鹿なっ!!」
破魔装置を使っている筈なのに……!!なぜ術式が使えるのだ。
混乱する中遂に……
「う、うわぁぁあああっ!?」ダダダダッ!!
一人が錯乱して銃を乱射する。恐怖は伝染する物で、見えない敵にアメリカ人部隊は恐怖に陥っていた。
その頃、展開中の陸軍特殊部隊は……
『目標のトラックの搬出を確認』
「了解、現状を維持しろ」
通信班からの報告を聞き、本部は未だ動かなかった。理由は簡単で、諸外国の部隊が潰し合いをし始めた可能性があったからだった。
「破魔装置の発動場所は?」
「こちらに」
「……」
報告を聞き、指揮官は破魔装置の発生源を探知した場所を確認する。
「潰し合いをしてくれると言うのは実に良い兆候だな……」
しかし破魔装置を起動したと言うことは術師がいると言う事。展開中の部隊の交戦報告も無し、どこかの勢力が術師を引き連れていた可能性がある。
「全く、技術局には頑張ってもらわんとな……」
術師に対応可能な防犯カメラの開発が今は行われている。破魔装置と言う術式を初めて科学で凌駕した技術力を持つ我が日本は最近増えている術師による犯罪を抑える事を目的にした監視カメラを開発していた。これが出来れば術師による犯罪を抑えることが出来る。
現在は免許制である術師は軍への優遇がいい為に殆どが軍か警察への道に入る。職業選択の自由は与えられているが、街中での術式の使用は法律違反まっしぐらなので、基本的には軍に入るのが慣例となっている。国家機関に入れば、多少市井で問題を起こしたとしても訓練不足などの理由づけが出来るからだ。
「状況は?」
「はっ、不鮮明な部分も多いですが…概ね問題は無いかと……」
「そうか……」
報告を聞き、指揮官はトラックの追跡をさせていた。するとその時、
「ぐあっ?!」
突如、地面が揺れる感覚となり、指揮車が大きき揺れる。
『敵襲!!』
外にいた兵が叫び、一気に警戒態勢に移行する。
「兵を出せ!我らの庭を荒らす者を一掃しろ!!」
しかしその瞬間、指揮官は愕然とした。
「(なっ、なんだ!?)」
体が突如として動かなくなったのだ。それは同じく指揮車にいた兵士も同様で、体が麻痺したのか如く動かなくなったのだ。
「(一体何が……)」
するとその瞬間、指揮車の扉が開き。一人の青年が入ってきた。青緑色の目と髪を持ち、右目には鉤十字のあしらわれた瞳があった。
「(こいつ…まさか!!)」
その姿に指揮官は背筋が凍る感覚に陥った。すると、その青年は指揮官を見ながら口を開いた。
「君たちは日本人だから殺さないでおくよ。だから、うちらの用事が終わるまで動かないでくれよ」
指揮者の外には痺れて動けない様子の兵士の姿があった。
その頃、護送中のトラックでは術師の攻撃が飛んでいた。後ろにはタイヤがバーストして停車したトラックがあった。中にはクワトとノーヴェが収容されていた。
ダミーのトラックが全て見破られ、ピンポイントで襲撃を受けたのだ。
「撃て撃てっ!!」
狼八代家のPMCの兵が手にEMー2を持って射撃をしていた。目の前には赤い髪と鉤十字の施された右目を持った一人の術師、宇野が右手を前に突き出して術を展開していた。
「障壁術式!!」
それを見て術師が叫び、障壁魔法を展開すると……
ゴォォッ!!
障壁魔法に爆炎が衝突し、溢れた熱波が周りの街路樹を燃やし尽くす。
「なんて威力だ……!!」
焼け焦げたビルの壁を眺めながら思わずそう呟いてしまう。相手の実力は間違いなく甲級。いや、特級とも言うべき実力だ。この威力で相手は対術師用強装弾を弾くほどの障壁魔法を展開していた。
「奴を近づけるな!」
「撃てっ!!』
そして持って来ていたM72 LAWを発射した。ベースカラーの奪還だけは何としても避けなければならない。しかし……
「なっ……!?」
「直撃のはずだぞ!!」
目の前には対戦車ロケット弾の直撃を受けても涼しい表情をしていた宇野が立っていた。その事実に唖然となってしまったその瞬間。
「家族を返してもらうよ」
そう言い、宇野は更に術式を展開。防御に徹していた狼八代家の部隊を無数の炎で壁を作り、トラックと分断していた。
その中を宇野は進み、停車したトラックのドアを開ける。中には棺桶の様な箱に入ったクワトとノーヴェ。そして……
「あれ、まだ居たんだ」
「……」
トラックの奥、宇野が来るのを待っていたかの様に湊斗が佇んでいた。いつものタキシード姿のまま、彼は言う。
「……御覚悟を」
すると、ほぼノーモーションで術式を発動し。宇野は身の危険を察して顔を横に逸らすと、頬に一線の切り傷が出来た。
「……マジか…」
宇野の目ですら追えなかったその速さに、久しぶりに宇野は身の危険を感じる。湊斗は片手に術式用の御札を持って構えた。
「主君の命だ。悪く思わんでくれ」
「…っ!」
相手の自分に容赦ない攻撃を加える目を見て宇野は冷や汗が溢れてしまった。
「ーー父さん!!」
帝都の病院、その一室に心陽が飛んできた。部屋には左腕にギプスを付け、身体中に軽く怪我をした様子の湊斗の姿があった。すると部屋に入って来た湊斗は心陽に注意する様に言う。
「心陽、冬歌様より先に入室するとは何事か!」
そう言い、部屋に入って来た冬歌を見ながら忠告する様に言うと後から入って来た冬歌が宥めるように言う。
「いいですよ湊斗さん。そんな叱らなくても……」
「お嬢様……執事を務める以上、公私を分けなければなりません」
「えぇ……」
冬歌はそこでやや引き気味に答えてしまう。すると今度は、湊斗は冬歌に頭を下げた。
「申し訳ありません。お嬢様」
「ああ、良いのよ別に。湊斗さんが生きているだけで良いから」
「しかし……」
「命あっての物種っていうでしょ?」
冬歌の言われ、湊斗は黙り込んでしまう。この傷は宇野との戦闘で出来た傷だ。右腕を折られ、結果としてクワトとノーヴェは連れて行かれた。激戦だと聞いては居たが、湊斗が此処まで深傷を負うとは……。
「相当強くなっているのね……」
「申し訳ありません。実力を見誤りました」
「大丈夫よ。それよりも、私は湊斗さんがこうして生きていてくれたから」
そう言うと、横で心底ほっとした様子の心陽を見て少しだけ羨ましそうな目をしていた。
その頃、クワト達を奪還した宇野達は拠点のクルーザーの上でクワト達に掛けられていた封印を解いていた。足元には魔法陣のような物が敷かれ、赤紫色の髪をした青年。ドーディがその魔法陣に手を触れた瞬間、彼らを覆っていた厳重な封印用の紙が燃えていく。
「これで多分いけるはず」
そう答えると、彼女らを封印していた札は完全に消え。冬歌の施した封印も解呪されると、クワト達は閉じていた黄色と青の瞳を開けて数回瞬きした。
「おや?」
「よう、起きたか」
目を覚まし、身体を起こした二人はそのまま腕を伸ばす数ヶ月封印されて体が動かなかったこともあり、あらゆる関節から音が鳴った。
「んあぁ…よく寝たわ……」
そう言うと、封印をされていた二人に宇野はそれぞれ服を渡しながら言う。
「情報は?」
「漏れてないよ〜、何度か解呪され掛けたけど抵抗したしね」
「そうか…それなら良い」
そして短く確認をした後、クワトが自分の細くなった腕を見ながら言う。
「うわ、全く動いていなかったから困難になっちゃったや」
「その腕じゃあ、しばらく前線復帰は厳しいか?」
「そうだね、二ヶ月くらいは無理かも」
そう答えると宇野は顎に手を当ててしばし考え始めるのだった。
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