帆布に描くぎじゅつ   作:Aa_おにぎり

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六色目
第肆拾壱話


二〇二六年 二月七日

北海道 

 

極寒の地、北海道。

一昔前までは樺太までが我が国の領土であったが、今はイェルサレム共和国が土地を購入した事から日本は千島列島をオホーツク海防衛の拠点としていた。

島には隠匿された無数のミサイルサイロが常にロシア連邦の何処でも攻撃できる様に配備されていた。

オホーツク海防衛の拠点は択捉島に存在し、ここには警備府も置かれていた。

 

 

 

 

 

そして真冬の北海道は兎に角雪が凄い。特に今年は豪雪であり、積雪量は例年よりも多かった。その為スキーには打ってつけの天候であった。

 

「ヒャッホーッ!!」

 

銀色のゲレンデを滑走する影が一つ。桜色のスキーウェアを羽織り、切り開かれた山の斜面を滑走する。その後を黒と黄色のスキーウェアを着た二人組が追いかける。

 

「上手いな。とても初めてとは思えん」

「そう?」

 

ゴーグルを外し、沙耶香に褒められ少し嬉しそうにさくらは答える。すると彼女は辺りを見回して一人足りない事が気になった。

 

「あれ?冬歌は?」

 

すると沙耶香は親指をゲレンデの上の方に向け、その方を見るとそこではオリーブ色のスキーウェアを着た人物が白いスキーウェアを着た人を介護する様に子鹿の様に震えた足で滑っていた。

 

「冬歌は運動神経が壊滅的だな……」

「あ、ずっこけた」

 

そう言い、白いスキーウェアで遠目だと分かりずらい冬歌がゲレンデの真ん中で転けたのをバッチリ見ていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

この日、一週間ほど冬歌達四人は前々から誘われていたスキーに来ていた。

パウダースノーが売りのこの地で、スキー場近くの分譲マンションを持つ沙耶香に誘われて冬歌達は一週間の宿泊をする事となった。

 

「一向に上達せんな」

「五月蝿い!」

 

スキーのレストランで四人はそれぞれ食事を摂る。スキーが初めての冬歌とさくらはそれぞれ愛結と沙耶香に教わってスキーを始めたのだが、さくらは上達しているが、冬歌はいまだに上手く滑れないでいた。

 

「ハの字にして滑っているか?」

「ちゃんとやっているわよ」

 

少なくとも愛結が真横で指導をしてくれたからハの字で滑っている筈なのだ。それなのに……。

 

「冬歌さんは後ろに体重を掛けすぎですね。思っているよりももっと前に体重をかけた方が良いですね」

「うーん、そのつもりなんだけどねぇ……」

 

彼女は今、眼鏡を外しており雪色の結った長髪がよく映えていた。そして天藍色の瞳や非常に整った顔は少々一目についている様だった。

 

「やっぱ綺麗だね」

 

目を見ながらさくらが言うと二人も頷いた。

 

「少なくとも学校じゃあ見せられんな」

「そしたら学校が色々な意味で大惨事でしょうね」

 

そう言い、四人はその時を想像すると思わずため息が漏れてしまった。

 

「「「「はぁ……」」」」

 

こう言う市井の中だと公爵と言うのはやはり天皇家に次ぐ二番手であるために印象には残らない。帰ってそれが今では有難いことではあったが……。

 

「此処は基本的に地元の人しか居ないし、スキーヤーしか居ない。有難い事だねぇ」

「スキーヤーしか居ない事になんか意味とかあるの?」

 

さくらがそう聞くと、沙耶香はその理由をアリアリと話す。

 

「あるとも、スノーボーダーが真横で駆け抜けていくのは初心者には怖い話だ。おまけにスノーボーダーは突撃してくる場合もある」

「えぇ、怖……」

「そうよ、数年前。私も滑っていた所を突撃されましたしね」

「え?そんな事が……?!」

 

冬歌が聞くと愛結は頷きながら言う。

 

「しかも最悪な事にソイツらぶつかった事に誤りもせず滑って行ったのですよ。全く、あの時ははらわたが煮え繰り返るかと思いましたわ」

「マナー悪いんだね」

「そう言うのは少ないが……ガラが悪いことは否定しない」

 

そう話し、四人はそれぞれカレーやラーメンを食べていたのだが、沙耶香は苦笑気味に向かいに座る冬歌に言う。

 

「しかし、匂いがきついな」

「よく食べられるよね。そんなラーメン」

「そう?結構美味しいよ」

 

そう言い、彼女は全国の数多くあるラーメンの中でもチャイコンラーメンというニンニクにニラ、唐辛子などをたっぷり入れた見た目も匂いもやばいラーメンを選んでいた。名称の由来は第三次国共内戦で勇敢に戦っていた中国共産党から取られたと言う話がある。

 

「よくそれを選んだよ。普通味噌ラーメンとか海鮮ラーメンじゃ無いの?」

「その方が北海道らしいですしね」

「好きなものを食べるのが良いんだよ。特にこう言う時は」

 

そう言い、スープまで全部飲み干し冬歌は大盛りで頼んだはずのラーメンを食べ切った。

 

「さぁて、お代わりしてこよっかな」

「「「早っ!?」」」

 

いつもはこんな食べるイメージが無かったために三人は思わず声を漏らしてしまった。すると冬歌はそんな声を気にする様子も無く次のラーメンを注文しに向かった。

 

 

 

 

「げふっ」

「食い過ぎるからだぞ」

 

リフトに乗り、あの後二杯ラーメンを食べた冬歌は軽く溜まっていた息が漏れる。

 

「うん…ちょっと食い過ぎたかも……」

 

初日早々先が思いやられると思いながら沙耶香はややジト目で冬歌を見ていた。

羽田国際空港からプライベートジェットで羽田に飛び、そこからバスでスキー場まで来ていた。もっと大きい所であればジョイフルトレインが出ているのだが、生憎と此処には走っていなかった。だが、スキーヤーしか居ないと言う利点から沙耶香達は此処数年はこのスキー場に来ていた。

 

「はいはい、ハの字でゆっくりと大きくS字を作るのよ」

 

そう言い、沙耶香はゆっくりとコースを大きく描いてその跡を追う様に冬歌もゆっくりと降りて行く。既にさくらは滑れるので、今は愛結と共に何処かのコースを滑っているはずだ。

 

「おっとととと……」

 

ゆっくりと沙耶香の後を追う様に滑っていき、その横を滑り慣れた様子の子供が走って行く。その姿がなんとも滑稽で、沙耶香は笑い転げそうになるのを抑えながら冬歌の滑りを見ていた。

 

「その調子だ」

「け、結構怖いなぁ……」

「はんっ、五〇階のビルから飛び降りた奴が何言ってんだ」

 

そう言い、公爵の娘二人がタイマンでスキー指導をすると言うなかなか見られない光景が広がっていた。

 

「下に降りたらリフトに乗って上にまた上がるから」

「了解……ですっ!わぁっ!?」

 

そう答えるとまた冬歌は足を滑らせてずっこけていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

それから何本か滑り、ナイターは初心者には危険という事で一行は沙耶香の持つマンションに戻ってきた。

 

「夕食は、近くのレストランを予約してあるから」

「了解」

「それまでに着替えておけば良い?」

 

部屋でそう話し、冬歌達も持ってきたキャリーケースを開ける。此処に居るうち、三人が華族と言う状態。部屋は余っているので、冬歌とさくらは同室で荷物を広げているとさくらがケースの中に入れていた荷物に苦笑する。

 

「え、それ持ってきたの……?」

 

そこには数ヶ月前の小競り合いで奪ってきたSCARが入っていた。これもプライベートジェットの荷物検査が乱雑であるが故に運べた品だ。

 

 

 

 

 

そして沙耶香と愛結の寝室でも愛結は沙耶香に苦笑する。

 

「沙耶香、それ持ってきたの?」

 

そう言い、視線の先にはHK416が斜めに置かれていた。弾倉も込みでついており、弾薬まで詰め込まれていた。

すると沙耶香は銃を手に取りながら言う。

 

「何言ってんのよ。何かでっかい事件があったらどうすんのよ」

 

そして手に取った銃のコッキングレバーを短く引いてチャンバーチェックを行うと沙耶香はHK416をベットの上に置いた。

 

 

 

 

 

「特に新しいロシアの大統領さんのせいで上はピリピリしているしね。警戒した事に越したことはないよ」

 

ベットにSCARを置き、冬歌はスキーウェアを吊るして乾燥させる。

 

「現に今、イェルサレム共和国はレベル1の警戒態勢だ。今まで何度も上陸作戦をされてきた国故に今回の当選も警戒し続けているのさ」

「でもその新しい大統領になってから数ヶ月も経っているよ?」

 

しかし彼女は首を軽く横に振った。

 

「第三次上陸作戦の時。一旦敵が引いていって何ヶ月もして警戒が緩んだ頃に再上陸してきたから、その時のトラウマがあるんだよ」

「ふーん」

 

ベットに横になり、さくらは天井を仰ぐと呟く。

 

「怖いねぇ……」

 

すると、冬歌は頷いた。

 

 

 

 

 

「そう、あの国は怖いのさ。明治維新以前から、日本は北からの猛攻に常に晒されてきた」

 

荷物を纏めながら沙耶香は続ける。

 

「ロシア帝国、ソ連。そしてロシア連邦……。いつの時代になってもロシアは南下しようと目論み、それを防いだのが近代日本の歴史だ。その為ならば、何だってしてきた。

主なところで言えば日露戦争にシベリア出兵……国民の怒りを買おうとも、ロシアの南下だけはあの国の覇権拡大を阻止するためには必須の事であった」

 

荷物を整理し終え、一週間分の衣服や軽い化粧用具を寝室のテーブルに置く。

 

「そして第二次大戦終結……パラオ条約締結ができたのも、社会主義に対抗する為でもあった。当時、米国内でも社会主義に対する恐怖と言うのは浸透しつつあった。

おまけに、当時のアメリカ大統領ハイラル・ルーズヴェルトが死去し、国内も混乱していた。その時の日本の高官は上手くそこをついて講和条約まで持って行ったわけだ。次のトルーマンは大のアカ嫌いだったしな」

 

そう言い、着替えた彼女は寝室の扉に手を当てる。

 

 

 

 

 

「それで、アカ嫌いのトルーマンは日本が社会主義の防波堤になるのならと講和条約にサインした。当時、国内では黒人差別による抗議運動も盛んで。とても二勝面作戦を取れるほど余力がなかったんだろうね」

 

寝室で最後にSCARを仕舞って冬歌は言う。

 

「人気絶頂の大統領の死。国内の黒人差別の激化。忍び寄る社会主義者による革命騒動。そして二正面作戦……米国としては日本を倒して太平洋の拠点にしたかった様だが、その目録は潰えたと言うことだ」

「でもそれってロシアと関係あるの?」

 

その問いに冬歌はさあ?と言って軽く首を傾けた。

 

 

 

 

 

「今の所、分からないが……まぁ、一つ言えるのは……」

 

冬歌達のいる寝室の扉の向こう、沙耶香は扉に前に立って言う。そして部屋の中にいる冬歌も言う。

 

「「今の日本にとって、ロシア連邦とアメリカ合州国の内部崩壊はもっと望ましい展開ってこと」」

 

 

 

 

 




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