帆布に描くぎじゅつ   作:Aa_おにぎり

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第肆拾参話

イェルサレム共和国

 

人口一千万以上の人口を持つ国家であり、樺太をその領土としていた。世界でも珍しいユダヤ教を国教とし、ユダヤ人のための国家を望んだ彼らにとっては第二の約束の地であった。

 

始まりは第二次世界大戦前の一九三〇年代、当時の日本はとにかくアメリカとの戦争を避けつつも日本の主権を守る為の策を幾多でも講じてきた。そのうちの一つにユダヤ人の保護があった。

 

ユダヤ人はアメリカ国内でも強い影響を持ち、選挙にも影響してくる程だ。そのユダヤ人を味方に付けることができればアメリカとの開戦を避けることが出来ると考えられていた。

 

そして次にユダヤ人の持つ資産であった。彼らは金貸しや商売で儲けているものが多く、資産には余裕のある者が多かった。それら資産を日本に投資してもらえれば外貨獲得や国内経済の回復が出来ると目論んでいた。

 

そしてその目論見は見事に的中し、ついでに日本に多大な技術力ももたらした。当時、世界中で迫害されてきたユダヤ人を全て樺太に受け入れた通称東のエデン計画はユダヤ人の悲願であるユダヤ人による国家建設を前面に押し出し、周辺国の反感を買うものでもあった。

 

ロシアは帝政時代よりポグロムというユダヤ人迫害を政府への不満の捌け口としており、欧州はナチス・ドイツの台頭によりユダヤ人は追放処分を受けていた。

 

樺太に集まった世界中のユダヤ人を日本は温かく迎え入れ、それと同時にソ連に対し北樺太の売却を持ちかけた。

元々極東の辺鄙な土地であり、当時は資源も何もない場所として認識されていた。だが、ソ連にとっては極東の日本と直接国境を接する唯一の場所であり、近くにはウラジオストクもあった。極東における領土を失っても良いのかと何度にもわたる長い期間での会談や裏工作を終え、ついに北樺太の購入に取り付けた。

資金は移住したユダヤ人から寄付されたものが多く、樺太は日本から樺太自治州として半独立を果たした、事実上の独立である。政府としてもオホーツク海防衛の戦力抽出をしなくても良い為、千島列島に戦力を集中できた。これほど上手い話も無い。

 

 

 

 

 

江戸時代から日本は多くの獣人を保護して鎖国を宣言していても世界の情報を収集していた。欧州との直接的な玄関口は出島であったが、間接的に欧州の情報なども仕入れていたのだ。そしてそこで情報の需要性を認識した当時の幕府や日本は積極的に獣人()()を受け入れていった。

中世の時代。欧州では純血主義と呼ばれる思想が広まっており、獣との混ざり物である獣人は純潔を保ち、生物の頂点に立つ人間より下であるとという認識が根強かった。とても日本とは相容れない思想に当時の日本人は欧州を野蛮人の国と称していた。

 

あの黄金に国に獣人ならばその市民になれると言う話は欧州にも舞い込み、変装して入国しようとした者が居たと言う話もあった。そしてそう言う者達は大体斬首刑に処されて出島に見える位置に晒し首になったと言う。

 

そしてそれら獣人からもたらされた技術や情報は国全体を発展させ、日本という国は情報の重要性をよく理解した。外国では鎖国なんてしていないと言うが、南蛮などの国しか国交を結んでいなかったのだから鎖国は鎖国だ。

この情報収集網のおかげで日本はイギリスに並ぶかそれ以上の情報管理能力を持っていると今では言われていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

北海道にてスキー旅行中の冬歌達四名はゲレンデにて自由に滑っていた。

一週間、学校を休んで訪れたこの旅行もいよいよ後半に入った四日目。冬歌達は切り開かれた山の斜面を滑走していた。

素の運動音痴にも程のある冬歌であるが、初めてのスキーでも沙耶香の猛特訓の甲斐あって今ではすっかり満足に速度を出して滑れるようになっていた。

 

白いスキーウェアを進ませて冬歌は滑走する。その後ろでストックを斜面に刺して押し込む桜色のスキーウェアが一人、声を上げて言う。

 

「待ってよ冬歌!」

「ん、分かった」

 

虹色に反射するゴーグルをつけたまま冬歌は振り返る。ネックウォーマーをもつけており、もしここがゲレンデでなければ確実に強盗とも言われそうな格好をしている二人はゲレンデでも最も遠い道を進んでいた。所々クロスカントリースキーみたいに坂道もあったりするこの順路は滅多に人も通っていない為、意外な穴場として冬歌達はよく通っていた。

まだまだ初心者の二人を残して沙耶香達は上級者コースでそれはもう楽しげに滑っていた。

 

「いやぁ、かなり滑ったね」

「そうね。毎日滑っているせいか少し日焼けしちゃったかも」

 

ゲレンデと言うのは反射した日光に混ざって紫外線が直接肌に当たるため、冬に日焼けをしてしまうのだ。その為、山登りやスキーの時は必ず日焼け止めを塗っておかないと悲惨な目に遭うのだ。

 

「特に冬歌は直射日光も苦手だもんね」

 

少なくとも夏に白いカーディガンをずっと羽織っていたのを思い返していると冬歌は答える。

 

「元々うちの家系って外に出ていないから色々と真っ白なのよね」

「まぁ、髪も肌も真っ白で綺麗だもんね」

 

さくらはそう言い被っていたネックウォーマーを外すとそのままゴーグルを外して空を眺める。

ゴーグルをつけていて慣れた頃だったので若干視界が黄色っぽく見える中、空を見る。

 

「今日は珍しく晴れたね」

「そうね。今日の降雪は無いのかな?」

「予報じゃあ夜に降るらしいけどね」

 

そう言い、コースの途中で休憩しているとさくらは徐に聞いてくる。

 

「それを思うと冬歌って色々と苦手なの多いよね。紫外線とか運動とかピーマンとか……」

「まぁ、体質の問題だからね」

「ピーマンは違うでしょう……」

「そう?ピーマンを食べると私は発作を起こしちゃうのよ」

「嘘つけ〜」

「嘘じゃ無いってんだ!!」

 

そんな軽口を言いながら冬歌とさくらは言い合っていた。

 

 

 

 

 

「大丈夫かしら。あの二人」

「ん?」

 

ゲレンデの中腹。そこで上級者コースを滑っていた沙耶香と愛結は話す。二人はそれぞれ別れて滑っており、冬歌の提案で今日一日はそれぞれ自由に滑っていた。

 

「大丈夫でしょ。あの二人なら」

「あら、自身ありげ?」

 

愛結はそう問いかけると

 

「あいつの術師の能力は非常に強力なのはよく知ってるだろ?」

 

そう言い、沙耶香は外していたゴーグルを付け直す。

狼八代家の術師は強いと言うのは華族階級では一般的な常識である。そしてその能力は日本と皇族を守る事のみにしか使わないと言う事も……。

 

「それもそうね」

 

それを知っているからこそ、愛結もゴーグルを付け直してストックを斜面に突き刺す。

上から均等に圧縮され、硬くなった斜面を二人は滑走する。毎年訪れて滑って行く慣れたゲレンデだ。目を閉じていても滑れる自信がある。

元々軍人の家の娘として生まれた沙耶香は記憶のある内から何かしらの運動をしてきた。それが武道であれスポーツであれ……

 

 

 

 

 

そして自分と同様、冬歌も狼八代と言う公爵の家の娘として生まれた。

人生がナチス残党によって狂わされたとは言え、それを知るものはこの世にほぼいない。いや、知ってしまったらからこそ今自分がここに生きていることが恐ろしくなってしまう。

 

人工術師の技術

 

それは長年、列強が夢見てた人材確保のために必要な技術だ。日本や中国などの亜細亜地域に多く獣人と術師を持っている地域ですら必要であると思われている技術だ。

常に術師不足に喘いでいる欧州やアメリカなどにとっては喉から手が出るほど欲しい技術だろう。

第二次世界大戦末期のドイツにて開発されたと言われている技術であるが、その後のペーパークリップ作戦においてアメリカの軍門に降ったドイツ人科学者達にその研究を行っていたと言うドイツ人が居た。

いや、元々ペーパークリップ作戦の本来の目的自体この人工術師の開発を行っていた科学者の確保だったのだろう。

 

ベースカラー

 

その人工術師のプロトタイプであり、この前関東郊外で陸軍や諸外国の部隊をまとめて一掃した非常に強力な術師の集団だ。それも対術師用の訓練を受けた特殊部隊が最も簡単に倒された。

 

恐ろしいのが、それが彼らの本気では無いことだ。でなければ、我が軍に一人も被害が出なかったのがおかしな話だ。それ以外は全員が死亡したと言うのに……そう、全員が。

 

 

 

 

 

都市の一区画丸ごと封鎖しての戦闘。元はと言えば狼八代家が隠していたベースカラーの二人が問題なのだが……

 

秋に捉えたあの二人はあの時までずっと狼八代家の管轄下に置かれていた。ある意味ではその時の方が最も安全だったと言えるだろう。

ただ、何もしなくてもベースカラーは強襲していただろう。ただ、被害が減ったと言う点ではミスを犯したのかも知れない。

 

日本……いや、世界はまだ人工術師を自らの手で抑えられると思っている。しかし、その先に待つのは破壊と恐怖で満ちた不秩序な世界だ。

考えてもみろ。一人で一個大隊を葬れる力を持った者が溢れかえればどれほど恐ろしい事か。

破魔装置があると言っても市民は隣の部屋にビルを丸々破壊できる力を持つ他人がいればどう思うか?不安と焦燥に駆られ、恐怖で何をしでかすか分からない。

 

人工術師とはそれほどの諸刃の剣であると言う事だ。力を持つ者が溢れる世界になればそれほど潜む危険も増すと言うことになる。

その点、日本は実に多くの問題をひた隠ししてきた。諸外国のどの勢力にも支配されるよう外にのみ目を向けた結果がこれだ。

 

「母国は臭い物に蓋をし過ぎたな……」

 

自分がこう思うのも、ひとえに人工術師の開発に友人の犠牲がついているのを知ってしまったからなのだろう。もし知らなければ、私は人工術師の技術に大いに興味を示したはずだ。

 

「……ん?」

 

そんな思いにふけながら滑っていると、ふと斜面の変な場所に人影を見た。

 

「あいつら……」

 

冬歌と同じ白いスキーウェアを羽織る二人組のスキー客。二人は山の圧雪されていない斜面の途中で立ち止まり、地面に足を下ろしているようだ。

スキー場によくいる圧雪されていないところを進む馬鹿どもかと思っていた。

 

「ああ言う奴がいるから困るんだよなぁ……」

「まったくですね」

 

沙耶香の呟きに横を滑っていた愛結が同じく圧雪されていない部分を滑っていた馬鹿どもをやや貶すように見ていた。

 




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