帆布に描くぎじゅつ   作:Aa_おにぎり

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第漆話

六月二〇日 一八時五〇分

 

赤十字のウインドブレーカーを着た職員達が水や食料を乗せたカートを持って校内に入って行く。

生徒達に必要な食料や医薬品を運び入れて居たのだ。

 

その様子を眺めながら作戦本部では現場指揮官が状況を聞いていた。

 

「中の様子は?」

「駄目です。すべての窓が封じられて中の様子は伺えません」

 

すると周辺の監視カメラの映像をすべて確認した兵士が報告する。

 

「車両が学校を出た記録はありませんでした」

「ならばあの校舎の何処かか……」

 

そう言い、指揮官は全てのカーテンが閉じられた校舎を見ていた。

事件が起こってからおよそ六時間。未だ解決の糸口は見つかっておらず、他の場所でのテロ行為は終息しており、残るは此処だけだった。

生徒を人質に取られている事から下手に突入すれば学生に危害が及ぶ。それに窓が全て塞がれていて狙撃は不可能。何処の教室に連れて行かれた生徒が居るのか分からなかった。

するとそこに思わぬ人物がやって来た。

 

「詳しい状況はどうなっている?」

「少将閣下……!?」

 

現れたのは栄三だった。首相官邸の制圧を完了させ、後処理を部下に任せて最後に残ったこの場所に直接来ていた。

事前の報告も無しに来た事に驚きを隠せない様子だったが、指揮官はそこで詳しい報告をした。

報告を聞き、栄三は口を開いた。

 

「大佐、テロリストの要求は一切呑むな。これは政府全体の総意だ」

「なっ!?」

 

栄三からの話に思わず驚いていると栄三はさらに驚きの発言をする。

 

「政府はテロリストの射殺も許可している」

「し、しかし少将閣下。それでは生徒に危害が及ぶ可能性が……」

「……政府は多少の損害は致し方がないと考えている」

「……!!」

 

しかし、よく考えてもそうかも知れない。このテロリストは首都の機能を一時的に停止させる犯罪を犯した。

そんな集団の要求を呑んで仕舞えば国際社会から嘲笑われるのがオチだ。面子の面から拘束か射殺するのが一番だと言う結論になるのも理解出来なくもなかった。

 

「突入作戦を迅速に進めてくれ」

「……分かりました」

 

そうして、どこに自分の娘がいるのかも分からないのに半ば無謀とも思える作戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

突入作戦が行われると言う情報は黒塗りの乗用車に乗っていた女性の耳にも届く。

 

「あら、政府もよほどお冠の様子のようね……」

「如何なさいますか?」

 

運転手の問いに女性は答える。

 

「ふむ…静観するつもりだったけどこれは少しテコを入れた方がよろしいでしょうね……」

「畏まりました」

 

そう言うと運転手は機械を動かし、女性が備え付けられた受話器をとって誰かと話をしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

時刻は午後八時になった。外から搬入された食料品などを一人の構成員が台車に乗せて校舎内に運んできた。

 

『食料を持って来た』

 

そう言い女性の声が響くと構成員は中にその女性を入れる。すぐさま扉が閉じられ、食料を私達に配り出す。

精神的な疲労も溜まっていく中、目隠しをされた私達はそのまま直接口に食事を流し込まれるような感じだった。

そして非常食と思われるレトルト食品を食べ終え、教室には三人のテロリストが居た。

 

「どこに食料を置いておけば良い?」

「あぁ、そこに……ウゴッ!?」

 

すると誰かが殴られた音と蛙を潰したような声が聞こえた。

するともう一人の男が銃を向けて驚愕する声を出した。

 

「お前っ……!!ウグッ?!」

 

ドサッという二人が倒れる音と共に何が起こったのかと困惑していると突如目隠しを取られた。

暗い教室の中、目隠しを取られて視界に映ったのは一人のテロリストだった。

 

「ひっ!?」

 

思わずその光景にギョッとしているとそのテロリストは覆面を脱いだ。

 

「良かった、無事で……」

「っ…!!冬k…ムグッ!」

「シッ、静かに」

 

思わず嬉しさから叫びそうになったが、口を塞がれ。冬歌がそう言うと持って来たカッターナイフでさくらの縄を切り、次に沙耶香の目隠しを取った。

 

「アンタは……」

「静かにおねがいします。なるべく気づかれたくないので……」

 

そう言い、テロリストの格好をしていた冬歌に驚く沙耶香だった。すると彼女は来ていた服を脱ぐと、中から学業院のセーラー服が現れた。カーディガンの上に防弾チョッキやらを来ていて熱くなかったのかと思いつつ、冬歌はさくら達に言う。

 

「ごめん、私が縄を切るから。さくらと沙耶香さんは手伝ってくれる?」

「あ、うん」「えぇ」

 

そう言い、冬歌やさくら達は教室に居た生徒達の縄を解いた。

解放され、生徒達は喜びそうになるが。冬歌はそれを一言で制する。

 

「まだテロリストが残っているので静かにして下さい」

 

そう言い、一瞬で冷や汗と恐怖から声が出なくなると、解放された愛結が冬歌に聞いた。

 

「冬歌さん……貴方…如何やってここまで……」

「詳しい話はまだ今度します。それよりも今はすべき事をしないと……」

 

そう言い、冬歌は教室にあったナイロン紐でテロリストを縛っていた。

 

「私も手伝うわ」

 

そう言い、沙耶香が残っていたもう一人のテロリストを縛っていた。

すると囚われていた一人の生徒が震えた声で聞く。

 

「お前……テロリストの仲間なのか…?」

 

そんな先輩の問いかけに冬歌はぶっきらぼうに答える。

 

「それは貴方の判断に任せます。それよりも……」

 

冬歌は小銃片手に先に廊下に出る。その様子はまるで訓練された兵士の様だった。

その様子を見て沙耶香も徐に地面に落ちていた自動小銃を手に取る。

自分とてあの名門の虎寺の家の子だ。あんな一般の同級生に負けてたまるかと言う対抗心が彼女の中で湧き上がる。

ソ連製自動小銃を持ち、教室を出る。すると警戒していた冬歌が驚いたような声をあげた。

 

「沙耶香さん…」

「舐めんじゃないよ、一般人。私だって銃の扱いくらいは慣れたもんさ」

 

そう言い、やや見下すように冬歌を見る。すると沙耶香は愛結に向かって言った。

 

「……愛結、全員を連れて外の階段に行きなさい。絶対テレビに映らないように」

 

なぜテレビに映らない様にと言ったのか疑問に思うと冬歌が言う。

 

「さくら、テロリストがテレビを見ている可能性があるから。頭を下げて、絶対に映らないようにして。一階に降りたら何処かの茂みに入ってこっそりと警察か陸軍の人に保護してもらって」

「分かりました」「わ、分かった」

 

二人の忠告を聞き、さくらと愛結はその訳を理解するとそのまま他の生徒達を連れて非常口の階段から出て行こうとした。

 

「冬歌達は如何するの?」

 

そんなさくらの問いに冬歌達はさくらを見る。すると沙耶香が自動小銃のレバーをコッキングしながら言う。

 

「それは……こうすんのさ!」ダンッ!!

 

そして一発の銃声が轟き、生徒達が反射的に頭を下げて悲鳴を上げた。

 

「さぁ、行け!」

 

そんな沙耶香の怒声に愛結達は驚きながら慌てて階段を降りていく。銃声を聞いて震えている生徒はさくらや愛結が引きずって階段を降りて行った。

そんな中、冬歌は驚愕した様子で沙耶香に言う。

 

「本当に撃ったんですね……」

「ん?当たり前さ、これが一番有効な手段だってのもアンタも分かるでしょ?」

「……あまりスマートな手段じゃなく無いですか?」

「たが、一番手っ取り早い」

 

するとカンカンッと走ってくる音が響く。その数はざっと一〇名、さっきの銃声を聞いて誰かが生徒を撃ったのかと確認のために走って来ていた。

 

元より増援はできないテロリスト。生徒の安全は最も警戒しなければならない事だ。この銃声を聞いて外に展開している陸軍の部隊が突入を始めるかも知れない。

現状、最も恐るべきは講堂内で無差別に銃撃をする事。まだ講堂内には一〇人以上のテロリストが残っている。それらの戦力を裂くには大きな揺動が必要になる。

そして沙耶香達はテロリスト達に取っては最重要の人質、何かあればほぼ確実に突入が行われ、射殺の可能性がある。その焦りからテロリスト達は戦力の分散をせざるを得なかった。

 

「さぁ、宴会と行こうか……」

 

そう言うと沙耶香は飛び出して来たテロリストにセミオートで足を撃ち抜く。

 

「ぐあぁああ!!」

 

足撃たれて倒れたテロリストを見てリーダーと思わしき人が叫ぶ。

 

「気を付けろ!出たら撃たれるぞ!」

「クソッ!何が起こったんだ!!」

 

階段の踊り場に隠れながらそう言う声が聞こえ、銃撃をしてくる。その間を狙って沙耶香は教室に隠れながら弾丸をフルオートで発射する。

 

「うわっ、コイツら全然弾持ってないじゃん……」

 

そう言い、三〇発入り弾倉が残り二個しかないことに驚く沙耶香。

 

「沙耶香さん!撃ち過ぎには注意してくださいよ!」

 

そう言い、冬歌は沙耶香に気絶させたテロリスト達から抜いた弾倉と持っていた自動小銃を投げる。

 

「アンタ、全部渡す気か?」

「大丈夫です」

 

そう言うと冬歌はカーディガンの下から白いホルスターに隠された一丁の拳銃を取り出した。

冬歌が持ち出したのは五発装填式の純白のリボルバー拳銃であり、それを見た沙耶香はやや驚いた様子を見せた。

 

「トーラス・レイジングブルModel.500……アンタ、それを人に撃つ気?」

「急所に当たらなければ問題ありません」

 

そう言い、冬歌はポーチからレーザーサイトを取り付けるとそのまま扉から顔を覗かせて引き金を引いた。

 

ダン!!ダン!!

 

下から炸薬を減らされて発射された50口径ゴム弾は立って射撃していたテロリストの右足に当たる。ゴム弾とは言えその威力は凄まじく、骨に強い衝撃を与えて骨折させるくらいの威力はあった。

テロリストが思わず呻き声を上げて倒れ、冬歌は次の目標を狙う。五発を撃ち切り、排俠するとポーチから五発が装填されたスピードローダーを取り出すとそれを差し込んで弾薬を装填する。シリンダーを戻すと引き金を弾き、接近してくるテロリストの腕や足を狙う。

 

当たれば取り敢えずボクサーに殴られた様な痛みが走るほどの痛みを持つゴム弾は上手い所に当たれば骨が折れる。また50口径の凄まじい銃声と相まって六人をやった所で相手が出てくる事はなかった。

こっちの残弾は弾倉一個とポーチの中のスピードローダー三つ相手はまだ弾薬は有りそうな雰囲気だった。

 

「このまま撤退する?」

 

残り少ない弾薬を数えながら沙耶香が聞く。どんどん人を呼びつけている様で、これで講堂の方は安全だろうと思っていた。すると血の流れている廊下を急速に走ってくる音が聞こえ、突撃して来たのかと驚いてしまった。

 

「っ!しまっ……!!」

 

廊下から残った全員が走って来たのを見て驚愕し、冬歌達は引き金を引くのを躊躇してしまった。その時、

 

ダダダダダッ!!

 

背後から銃声が轟き、突撃して来たテロリスト達はそのまま倒れていた。

すると階段の影から迷彩服に身を纏い、片手に20式6.5mm自動小銃を抱えた兵士達が現れた。

如何やら講堂の制圧を終えてこっちに向かって来た様だ。

 

「終わった…のか……」

 

そう呟き、沙耶香は疲れた様子で自動小銃を床に落としていた。

 

 

 

 

六月二〇日 二一時四四分

 

事件発生から一一時間。学業院を占拠したテロリストは五名死亡、一七名負傷という形で幕を下ろした。




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