【完結】虹色refrain   作:迷えるウリボー

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※実際はアネモネは食べれません。毒性があるとのこと!





2部 星屑染まるライオット
17 アネモネを食べて生きていきます


 

 

 下北沢駅前。リョウはなんとなくスマホを弄り続ける。

「……あいつら、遅いな……」

 ロイン発動。個人宛で虹夏に『遅い』と送りつける。

 数秒で既読。けれど、結束バンドの方に返信がきた。

 

『だから先に行くなって言ったじゃんか!』

『リョウ先輩、俺すぐ行きます!』

『喜多くん逃げんな! ぼっちちゃん運ぶの手伝えよ!』

 

「……隣にいるのにロインで会話するなよ」

 リョウはため息を吐いて、スマホをポケットにしまった。

 大方、久しぶりにひとりが爆発四散でもして虹夏がそれを収集しているところか。別に一緒にSTARRYを出てここに来てもよかったのだけど、なんだか今日の地下の空気が面倒くさくて一足先にここまで来てしまった。

 数日前の、秀華祭の個人ステージ。結束バンドは大盛況だと言ってよかった。それぐらいの盛り上がりが()()()()()()あった。

 二曲目でひとりのギターにアクシデントがあって、一瞬譜面通りのライブとはいかないときがあった。けど努力を重ねた郁三がアドリブで場を繋ぎ、ひとりがボトルネック奏法なんていう土壇場での超技術を披露して、《星座になれたら》は全員への拍手喝采でしばらく歓声がやまなかったくらいだ。

 残念ながらひとりのギターが故障してしまったことでラスト3曲目は中止にせざるを得なかった。けど、その後虹夏が力の限りMCで場を盛り上げて、それは郁三やリョウは元より、土壇場を乗り切ったひとりに対してもたくさんの黄色い声が溢れかえった。

 そして、それが破滅の始まりだった。

 達成感に満ちた郁三が「ひとりちゃんもなんか言おうよ!」とマイクを渡した。その瞬間のひとりの顔面崩壊は、たぶん公然のもとになってしまったと思う。

 そして、何を血迷ったのかひとりはギターを置きマイクを置き、壇上から観客に向かって盛大にダイブした。

 そして突然の出来事に観客はよけてしまい、ひとりは顔面腹部から落下して気絶した。

 あれは、リョウの十余年の人生の中で、たぶん五本指に入る爆笑シーンだった。

 その後、郁三は『俺がせっかく《後藤ひとりちゃん》だって言ってたのに、あれのせいでみんな《ダイブの人》で広まっちゃったんですよ……』とそこはかとなくしょんぼりしながら言っていた。

 ともあれ、あの日のひとりは緊張から無心になり、窮地から夢中になり、恍惚からダイブして、とにかく忙しい一日だった。その後の打ち上げさえも(人間体で)顔を赤らめたり(溶け崩れながら)体に熱を持ったり、リョウを見てにこやかになり、虹夏を見て平静になり、きくりを見て溶け崩れ、郁三を見て爆発したりしていた。

 その回復には一日要したのでひとりは秀華祭後最初の登校を休んだらしい。

 そしてひとりは親と相談し、今までのギター(レスポール)は修理しつつ、新しいギターを買うことになった。そのため、今日は結束バンド全員で御茶ノ水まで足を運ぶのだ。

 今日は学校もない。STARRYでバイトをしたりたむろをしたりした後の外出。

 久しぶりの下北沢の外へのお出かけ。バンドとの関係があることとはいえ、そこはかとなくテンションが上がる四人だった。

「虹夏、渋谷にも楽器屋はあるよ」

「渋谷? そんなイメージあったっけ?」

「最近は結構力いれてるんだよ」

「リョウ先輩! 渋谷最近俺も行きましたよ! 服買いに!」

「えー」

「古着屋ありますよ! 今度行きましょう!」

「渋谷、古着屋……考えとく」

「え、リョウ先輩……!?」

「おお、初めてリョウが堕ちた」

「堕ちてない」

 古着屋に興味があるだけだ。

 ところで……。

「今日の主役がどうしてもう溶けてんの?」

 リョウはぼっち()()()()()を指さした。

「え? あ! ぼっちちゃんがドロドロに!?」

 振り向いた虹夏の向こうで、()()()()()()()()が往来で朽ちていた。

「ふるぎや、しぶや、でえと……グハァ」

 ぼっち、どこから声だした?

 虹夏と郁三が慌てに慌てていた。

「え、デートはともかくそこに反応するの!? 青春コンプレックス広!」

「いやひとりちゃんこの間俺と渋谷に行ったじゃん!?」

「はぁ!? 喜多郁三なんだよその話!?」

「いってぇ! なんで怒るんですか虹夏先輩!?」

「いや……! だって……! 何でもないよ!」

 少し野次馬に紛れながら見ていたリョウ。

「なにこの状況」

 誰がと何があって、何に対して何を思っているのか、絶妙にわけがわからなかった。

 いや、虹夏についてはわかりきっているんだけど。

 

 

────

 

 

 虹夏が「昔姉ちゃんが働いてた楽器屋さんがあるんだよ」と言うので、四人はそこへ足を運んだ。

 ひとりは何を思ったのか、店に入るなり頭を揺らしてヘッドバンギングして入店。結束バンドメンバーはそんなことは気にもしないのだけど、さすがに初対面の店員さんたちはひとりを取り囲んで「どんなロックバンドがお好みで!?」なんて聞いている。郁三とリョウは特に気にせず素通り。虹夏がひとりをフォローしている。

「ああ、この子いつもこうなんで! 気にしないで大丈夫ですよ……!」

「だ、大丈夫ですか……!? メタル志向のギターでしたら二階にありますから!」

「またよさげなの見つけたら声かけますからー!」

 からーらーらー……と変に木霊しながら虹夏とひとりが店の奥に消えていった。

「……虹夏? まったくどこに──」

「リョウ先輩先輩っ!」

 リョウが振り向くよりも早く、後ろから郁三が店内BGMに負けない声でリョウを呼んだ。リョウ自身は一瞬びくついたものの、もう慣れたもので冷めたというよりは無表情な感じで振り向いた。

「なに?」

「おすすめのピックとかあります!?」

「そんなものは自分の感性でいいじゃん。ってかピックはなじむものだし」

「じゃあストラップは……!?」

「だから自分で選びなって」

「俺としては先輩の意見を聞きたいんですよ……!?」

「……仕方ないなー、少しは意見するよ」

「やたっ!」

 リョウとしても、こいつのおかげで秀華祭が上手くいったというところはあるし、秀華祭までみっちり練習に付き合って頑張ってきたことも知っている。

 音楽に真面目に取り組んでいるなら、むげに扱うのもちょっとだけ気が引けた。虹夏ほどではないけれど、ひとりにも郁三にもそれなりの関係性はできている。なんといってももう半年近くだ。

「その代わり試奏に付き合ってよ」

「もちろんです!」

「あと今日の夕飯奢って」

「任せてください!」

 クズなのは変わりなかったけれど。

 とはいえ、郁三もリョウもひとりと違って今日新しい楽器を買うわけじゃない。楽器周辺の小物を漁っていく。

 そんな中、直接楽器に関わる部分ではなくて、ピックコーナーのポップに『イヤリングにしてる女子多数!』なんて書いてあるし、郁三はいろいろ話を脱線させにかかる。

「……リョウ先輩はピックイヤリングとかしないんですか?」

「ちょっと主張激しすぎない? 私は今つけてるシンプルなのでいいよ」

「確かに、リョウ先輩はそのままで素敵ですもんね~」

 ドストレートな郁三である。

「……そういえば、虹夏先輩もピックのブレスレット付けてますよね」

「ああ、あれね。昔から大事な時につけてる。そうでないときも鞄とかどこかしらにつけてると思う」

「へぇー。虹夏先輩の私服とはちょっと離れてますよね」

「小学生の時からつけてたけど、最初は巻かれてる感があった。まあ今は虹夏の一部になってるけど」

「へぇー……俺はどうしようかなぁ」

「郁三が? ブレスレット?」

「どうです? こんな感じで」

 郁三は手首にピックを添えて決めポーズをとってきた。

 今日は高校も休みなので、全員が私服。郁三はその高身長を活かしたというか、スキニーなズボンにシンプルな黒いシャツだ。確かにそのイケメン顔バンドマンにコテコテジャラジャラなブレスレットは一周回って似合うかもしれないけど。

 けど、リョウの中でピックブレスレットと言えば虹夏の姿がどうしても思い浮かぶ。今日の虹夏はブレスレットはつけていないが、緩いカーゴパンツにいつものフード付きパーカーだ。低身長を──馬鹿にされない限りは──恥ずかしがることもない虹夏が、ゆるーい感じでブレスレットをつけるのが、やっぱりリョウにはしっくりくる。

「……郁三には似合わないよ」

「ちぇ、残念」

「それよりも、試奏するから、片付けよろしく」

「はいっ」

 数分後、店内にはやたらと長時間ベースの試奏をして疲れるリョウと拍手する郁三と店員の姿があった。

 一方虹夏に介抱されるひとりは、もともと少しテンションがぶっ飛んでいたのとヘドバンで頭を激しく揺らしたことが原因で回復するのに少し時間を要していた。

「ぼっちちゃん、大丈夫……?」

「ぁ、に、虹夏くん……はい、大丈夫です」

「無理しないでよ? そもそもライブの時だって頭からダイブしたんだし。心配は心配なんだから」

「文化祭……ライブ……うぉえ」

「ああ、その反応は一応大丈夫なのかなぁ……?」

 単なる変形にはもう大した感情も湧かない結束バンドメンバーである。

「でも、どうしたの? ずいぶん顔が熱かったというか……いつものとは少し違う気もしたけど……」

「えっあっえっ……そ、そんな感じに見えました……?」

「うん」

「あっあっ……ご、ごめんなさい」

「ちょいちょい、なんで謝んのさ」

 虹夏はカラカラと笑った。

「あっ……で、でももう大丈夫です……今は……」

「そう? 本当に?」

「は、はい……虹夏くんだと、落ち着く、っていうか……」

「えっ? あっ……たはは、そっかぁ……」

 郁三たちとは打って変わって静かな二人だった。

 ほんの少し、ほんの少しだけ顔を赤くした虹夏は、反比例するように落ち着いてきたひとりを見れない。けど、何とか今日の本題を果たそうとする。

「そ、それよりもさ、ぼっちちゃん。ギター、選んじゃいなよ」

「あっはい。で、でも虹夏くんは……」

「僕ドラムだから選ぶもんもないし。一緒にいてあげるよ」

「あっ、わかりました」

「……その代わりさ、今度はドラム専門店にも行こうね。秋葉原にあるし」

「はいっ」

 虹夏自身、ギターのことはあくまで一バンドメンバーとしてしかわからない。

 ひとりは熱中すると無言になる。そこに妄想が介入すればすぐ外に漏れだすのだけど、さすがにギター選びに関してはそうはならなかったようだ。

 一通りを見て歩いて、ひとりの足がとある場所で、目線が一本のギターに止まった。

 以前のひとりのギターは、父直樹が持っていた年代物。だからというわけではないけれど、ほとんど黒一色のボディに金色のパーツが映えるシックなものだった。あまり変化を好まないからなのか、ひとりはやっぱり黒のボディに、今度は銀色のパーツが映えるギターに目を奪われていた。

 よさげなところで虹夏が店員さんを呼んで──店長さんが来た──ほとんど擬音しか喋れないひとりの通訳をする形で虹夏が話に加わって、多少の問答はあったものの無事そのギターを買うことに決める。

 一度店長さんにギターを預け、会計へ。

「選べたね。ぼっちちゃんの新しい相棒」

「あっはい……きっと、いい音が出る……と思います」

「だね。でも試奏しなくてよかったの?」

「い、いえ、いいんです」

「リョウなんて向こうで店員さんと喜多くん相手にまだ試奏続けてんだけど」

「い、いや……わ、わたしが試奏したらギターヒーローってばれるかも……」

「それはないと思うけど」

「う、うへへ……そこからスカウトされて始まるサクセスストーリー……えへへへへ」

「おーぼっちちゃんが戻ってきたなぁ」

 リョウが試奏で独壇場していることと含めて、店内に自分たちだけしかいなくてよかったと思う虹夏だった。

「まあいいや。弘法はなんとやら、だし。文化祭のボトルネック奏法もすごかったねぇ」

「え、えへへへ、ありがとう、ございます」

「あれも、練習したんだもんね? 配信じゃ見たことなかったけど」

「あっ……さすがに宅録でやることはないから……」

 ギターヒーロー名義のひとりの動画配信の話だ。基本流行の音楽のカバー動画が多い。本人の顔出しや技術披露なんてまるでない。それが余計に人気を集めていることの一因かもしれないけれど。

 そんな風に世間話をして、はっと虹夏は手を叩いた。

「そういえば、最近配信してなかったね?」

 ひとりは吐瀉(としゃ)こそしなかったものの、心臓に刺さった虹夏の言葉を重苦しそうに抜きながら苦々しく語った。

「あっ……さ、最近はどうしても忙しくて」

「忙しく……あ、そっか、そりゃ急にバイトにバンド練がはいったら忙しくなるもんねぇ」

 結束バンドに入ってからのひとりの生活は、そりゃもう激変したといっていいくらいだ。加えて精神への影響も大きかったので、いくら家でのソロギターが気分転換になるとは言えても動画を配信するまでの余裕はなかった。

 ひとりにもその自覚はあって、実は秀華祭一日目でメイド喫茶から逃げたときに現実逃避してネットの世界に逃げ込もうとしたら『ギターヒーロー〇んだかー』なんて心無い感想にこれまた心を痛めていたりもした。

「久しぶりに、宅録しようかなぁ……」

 そんな呟きが漏れるくらいには、ネットの世界から離れていた。

 ひとりと虹夏が沈黙する。店長さんもそろそろ戻ってくる。

 先に口を開いたのは虹夏だった。

「あっ、あのさぁ、ぼっちちゃんっ」

「は、はい」

「よかったらなんだけど──」

「虹夏先輩! ひとりちゃーん!」

 喜多郁三(陽キャの権化)がやって来た。

 また後藤ひとりは爆発した。

 

 

────

 

 

 新しいギターを購入して、「まずは一人でギターを弾きたいだろう」というリョウの機転で今日は早めに解散になって。

 他の三人と別れて、一人の帰路について、ようやくひとりは落ち着くことができた。

「……つかれた、でも楽しかった」

 誰もいない地元の駅の帰り道。ひとりは呟いた。

 そして、ひとりが自分の心臓にそっと手を当ててみても、まだ心臓のバクバクは収まっていない。今も息切れしそうなくらいに暴れまわっている。

 文化祭以降、どうして以前のように爆発四散したり、いつも以上に顔が熱くなって溶け崩れたりと別形態の変形が多くなったのかといえば、理由は一つしかない。

 郁三に対しての感情を自覚したからだ。

 ひとりはこれが初恋だった。それが本当に、いわゆる世間の陽キャ様が感じる恋の感覚なのかわからないくらいだった。

 数日がたった今でさえ、ひとりは自分で「本当に?」と自分に問いかけ続けている。それで寝れなくて、体も変な方向に暴走したのでさすがに体調不良になってしまった。

 だから郁三をまともに見ることができない状態が続いていた。初めて郁三と相対したとき以上に郁三に近づけなくなってしまった。それが知恵熱やら爆発の真相だった。

 辛うじて結束バンドそのものは自分の居場所になっていたから、一応STARRYに顔を出すことはできた。そして郁三と対面して爆発したのだった。それがリョウを先に行かせてしまったので、虹夏に介抱されるまで余計にひとりの分裂体が戻らなかったりした原因なのだけれども。

 今日に関して言えば、リョウの近くに行くのもだいたい郁三が近くにいたので崩壊。反面、虹夏は若干孤立していたので一緒にギターを買う時は一番落ち着けていた。

 今日は、とにかく疲れた。本当はすぐにでもギターを弾きたかったけど、もしかしたらお夕飯を食べてお風呂に入ったら寝ちゃうかもしれない。

 そんなことを考えていると、ポケットに入れたスマホが揺れた。

「あ、ロインだ……虹夏くん?」

 虹夏からのロインだ。珍しいことに、個人ロインだ。

 

『ぼっちちゃん、今日はお疲れ様! 新しいギター、買えてよかったね!』

『お疲れ様でした。ギター選び付き合ってくれて、ありがとうございました』

 

 疲れた反動か、ひとりにしては特に感慨なく返した。

「あっ、もう既読が着いた」

 

『いえいえ! ところで、ちょっと頼みたい、というか興味があるんだけどさ』

 

「……興味?」

 ロインを開いたまま待っていると、二分ぐらいたってからまた虹夏のロインが届いた。

 

『ギターヒーローの宅録、僕も見てみたいんだ』

 

 

 










第2部よりスタートのあとがきコーナー

X年後……ファン1・2号による結束バンド恋愛アンケート(※異論は大歓迎)
1号「片想いしてた頃の心情について、当時のつもりで返答してもらいました」
2号「昔はこんなドロドロだったんですか……」


Q1 好きになった瞬間は?
ひとり「ぶ、文化祭ライブで……」
虹 夏「台風ライブの後、打ち上げで涼んでた時」
リョウ「バンドに誘ってくれた時」
郁 三「路上ライブで一目惚れっす!」

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