第二回、結束バンドMV作成会の機会は意外に早く訪れた。
虹夏と郁三が提案した、美大の映像学科に所属するファン1号と2号の力を借りること。乗りのいい男子たちとお姉さんたちだ。話はあっという間に進んで、了承も貰って日時が決定。
新曲ができた時はまた作るとして『それなりにオリジナル曲もあるから、既存の曲でまずは一つ作ってみようか』ということになった。
MV撮影とはいっても、スタジオや家の中に街中、あるいは日常風景から非日常の出来事、撮れる題材はたくさんある。
調整役は当然のごとく虹夏と郁三。けど、その男子共が考えるMVのイメージがいまいち統一感がなく、ロインの中でワーギャー
一足先に到着した虹夏と郁三。数ヶ月前、アー写撮影の旅で巡った公園。時間の関係か幼児もいないので遊具で適当に遊びながら時間を潰して女子四人を待ちぼうけ。
男子高校生の日常。仲良しで集まれば公園でも幼稚園児みたいに遊べる。
動物の乗り物に乗ったり、その上で遊ぶ郁三を虹夏が撮影したり。
そんなこんなで、二人は懲りずに自分たちのやりたいMVについて気ままに語り合っていた。
「やっぱり、『あの夕日に向かって──』みたいな感じで撮りましょうよ」
「アー写の時も言ったけど熱血が過ぎる……!」
「俺ら高校生ですよ!? 青春が足りないんですよ!」
「十分青春しとるわ!」
郁三の青春はスポ根だけか。こちとら下北沢のきらきらきららなエモロックバンドだぞ。
「この間の『言葉は刃物』といい、最近の先輩の発言には問題があります」
「発言してない。ていうか心を読むな」
郁三は部活に入っているわけではないけど、運動神経抜群で助っ人への参戦も欠かさない陽キャだ。それにしては少し想像が狭い気もするけど。
「そういう虹夏先輩は、どんなのがいいんですか?」
「そうだなぁ」
「青春に関しては同じだよ? でもさ、もーちょっとこうさ。『爽やか~』な感じがいいんだよね」
「青春の汗は爽やかじゃないんですか?」
「だからちょっとスポーツから離れてよ……」
虹夏は嘆息した。
違う高校だけど、秀華祭やライブで来る郁三の友達の様子を見ればよく分かる。
郁三は生粋の陽キャだ。友達も多いし、異性にはいわゆるファンクラブのような子が多数いるのだって虹夏は知っている。
小中学生のカーストで上位にいるような、単なる目立ちたがりなわけじゃない。
アホなくらい真っすぐで単純。けど浅はかじゃない、考えるべき時は考えることができる青少年だ。そうでなきゃ、ライブ後に友達が郁三に凸することだって少ないはずだ。あれは陽キャ属性じゃなくて郁三本人を慕っている心情の表れだ。
そんな郁三だから暑苦しいけど、結束バンドが成り立っている。
(……ぼっちちゃんが好きになったわけだよ)
そういえば、ギターヒーローのアカウントで名乗る妄想設定も、バスケ部のエースが彼氏だった。
虹夏はさらに嘆息した。感情を抑えられたって、感情が消えたわけじゃない。
ふとした瞬間。特別なきっかけがあるわけじゃない。思い出すときがある。
一人の時でも、誰かといるときでも。目の前に郁三がいるときでも。
(結局のとこ、喜多くんは……?)
少し前から、疑問に思うことがあった。
だから、郁三にこの話を持ちかけた。
「……ところで、喜多くんさ。その後リョウとはなんもないの?」
「え? リョウ先輩と? なんかありましたっけ」
「クソボケがぁ」
「え?」
「『リョウのことが好きだ』って言ってたでしょうが! そこから何もしてないのかよ!」
虹夏は天に向かって
ともかく、少しはヤケクソな気持ちを落ち着かせて、虹夏は言った。
「喜多くん、まあ言動から今でもリョウが好きなのはわかるけどさ。音沙汰ないから気になって」
「……」
「喜多くん?」
「虹夏先輩が恋愛話を振ってきた!?」
郁三が仰天して虹夏に目を剥いた。
虹夏は恋愛話をほとんどしない。別に好きでも嫌いでもないから話題に出さないだけだ。同級生ともそんなに恋愛話はしない。だから虹夏からすれば郁三の方が異端児。
対して、郁三からすれば虹夏が異端児だ。
けど、虹夏はひとりを好きで、ひとりは郁三に恋をしている。そして郁三はずっとリョウに矢印を向けている。
こうなればもう、郁三とリョウの間の出来事が気にならないわけがない。
虹夏は探りを入れる。
「や、なんというか、この半年本当に何もなかったからさ」
「それはもう。俺、リョウ先輩にデート誘ったりしたいんですけど抑えてるんですよ」
「あれで?」
「リョウ先輩ってこの間誕生日だったじゃないですか。奮発してお寿司奢りました」
「普段から搾取されてるから大して変わらないんじゃ」
「本当はもうちょっと攻めたいんですよ? でも抑えてるんです」
「抑えるとは?」
おかしい。僕の目の前の喜多郁三は十秒話せばリョウに愛の言葉を吐いている気がするのだけど。
「ってか、
リョウへ、自分の気持ちを伝えるのを。
「そうです」
郁三は至極真面目な表情で虹夏へ返した。
「なんで?」
「なんでって、前に虹夏先輩に話したのと変わりませんよ」
「……んん?」
記憶を巡らせる。以前、二人だけでこことは違う公園で話をした。
オーディションを前に、郁三は上達することを願ってた。
「でも、それって喜多くんの前科もあって真面目に頑張らなきゃって話だったじゃん」
「うぐっ……まさにそれですよ」
郁三は胸に手を置いて苦しがったけど、それはそれとして虹夏の言に頷いた。
「それがどうしてリョウにアプローチしないことになるのさ」
「だって、かっこ悪いじゃないですか。今の俺は」
「……」
「先輩?」
「いや、何でもない」
お前がイケメンじゃないとか舐めてんのか、と言いたい気持ちもあったけれど。
郁三の眼が大真面目だったので辛うじて口にするのは耐えた。
真面目に、今までの自分のことをかっこ悪いと思っていて、そこからかっこよくなろうとして、郁三はギターの腕を磨いている。
虹夏は、何も言えなかった。
「……なんだ。リョウのこと、恋愛方面は愛想が尽きたのかと思ってたよ」
「それはあり得ませんよ」
「ほ、他に気になるなーって子いないの? 学校とかさ」
「みんな素敵ですよ。でも、リョウ先輩が一番です!」
「この女たらしめ」
コイツはちょっと告白されたぐらいじゃなびかないな、と虹夏はなんともいえない心地になりながら考えた。
リョウも少なくない頻度でクズっぷりを発揮しているのに。体よく奢らせたりとか。ひとりにお金を借りたり、実は対して事を考えてないこととか。
それでも愛が薄れてない。なんだコイツは。脳に
「先輩はいないんですか? クラスメイトとか、好きな子」
恋愛談義が楽しくなってきたのか、今度は郁三が聞いてくる。虹夏の脳裏に、即座に一人の女の子のことが脳裏に浮かんだけど、虹夏はお茶を濁した。
「……さあね」
「あ、その反応は気になる子がいるとみた!」
「知らないよ」
「いいじゃないですか、珍しい野郎二人だけの時間なんだからどんどん話しましょうよー」
「だから気になっただけで。僕は喜多くんほど脳内バラ色お花畑じゃないっての」
「そんなこと言って〜。いるんでしょぉ?」
「……」
「その子と一緒に遊びたいとか」
遊んだわ。宅録見学だけだったけど。
「相談とか勉強とか、なんでもいいからいちゃいちゃしたいとか」
相談に乗ったわ。特級の爆弾落とされてボロボロになったわ、君のせいで。
「その子と
「……」
その子の肢体が男子の妄想MAXバージョンで脳裏に映し出される。
そしてトドメはいつかのアー写の記憶。
「……やめやめ!」
虹夏は脳内の自分を撲殺した。
虹夏は逃げた。臆病者だった。
「っ、喜多くんが、リョウに告れでもしたら教えてあげるよ」
「いや虹夏先輩そりゃ殺生な……」
「だったら、せいぜい男らしく決めてみせな」
どっからどう考えても自分のことを棚に上げていた。そんな高校2年生の秋、伊地知虹夏。
「……わかりましたよ。
「よろしく頼むよ」
いつかの公園の時みたいに、虹夏は言った。
今すぐ告白してくれれば。いや、でもリョウがなびきそうにないか。なんてことも思ったけど。
「あとはそうですね。リョウ先輩をもらう時には虹夏先輩に許しを得ないと」
「僕はどういう立ち位置だよ」
「なんか『うちのリョウはやらない』とか言いそうですし」
「昭和の頑固親父じゃないか」
でも実際、リョウの両親は父母共に彼女のことを溺愛しているし、甘ったる過ぎてリョウがロックに傾倒したくらいには甘いから、頑固親父にはならなさそうだ。
そうなったら代わりにそんな風に言うかもしれないと、虹夏は妙なことを思った。
「でも言ったでしょ。僕は喜多くんのこと応援してるって」
その言葉の意味は、そう言った100%応援だったのに。今は少し、打算がある。
そんな自分に少しだけ嫌気がした、その時。
「お待たせ」
リョウの声が聞こえた。虹夏と郁三が振り返る。
「やっと来た。遅かったじゃん──」
「こんにちは! リョウ先輩──」
振り返る途中で、二人とも続く言葉を失った。
リョウの──いや。リョウの後ろにいる
男子二人が目を剥いて。口をあんぐり開けて。
「え? うそっ、ひとりちゃんマジで……!?」
「ぼ、ぼぼ、ぼっちちゃんが──」
「あっ……あっ……ぅ」
リョウの後ろに隠れながらも、体格がそこまで変わらないから隠れられない後藤ひとりが。白色のロングスカートに、少しアンバランスな薄ピンクのスカジャンを着て──
「ぼっちちゃんがジャージ着てないーっ!?」
伊地知虹夏、魂の叫び。
────
数日前。
「ぼっち。郁三のこと、好きなんだね」
「あっはい──ハイ?」
練習終わりの帰り道。夜の下北沢の、人気の少ない路地裏で。
リョウの突然の爆弾発言に。ひとりはバグった。
そりゃもう、体中から電子音が出た。
「────!」
「ぼっち……?」
「────!?」
「……ぼっち? おーい」
「────!!??」
「……救急車? 警察? 電気工事士か」
呼ばなかった。数分したらちゃんと蘇生した。けどやっぱり近場の喫茶店まで移動するしかなかった。
「すっすみませんリョウさん……」
「ううん、生態観察は嫌いじゃない」
「……」
「まあ、すまぬ。急だった」
窓際のカウンター席に座って、リョウは珈琲、ひとりは紅茶。それぞれすする。
結局喫茶店に来た二人。珍しく、かなり珍しく、そりゃもう珍しく、リョウが払った。
「あ、あの……リョウ、さん
「ん」
「その……い、いつ、から……?」
いつから、自分の気持ちを知っていたのか。
リョウは
「最近、ぼっちまともに郁三と話せてないでしょ」
「ぅ……」
「文化祭の後から。気づいたのは最近だけど」
「ぅぅ……」
見る人が見れば、明らかに恋する乙女だった。ただ、郁三と出会った当初のひとりは大概変形していたので、それがむしろSTARRYのメンバーがひとりの異変に気付くことを遅らせていた。
ひとりは、ひたすら恥ずかしがった。まさか誰かにばれていたとは。コミュ障で恋愛はおろか友達付き合いもまともにないから、自分の感情が誰かにばれる可能性をすっかり考えていなかった。
「そ、その……誰かに、話したり……?」
「してない。安心して」
「……」
「むしろ、ぼっちは誰かに話してないの?」
「ぁ……に、虹夏くん、に」
ひとりが白状した。
やっぱり。あの時の虹夏の態度に合点がいった。
そりゃほんわか虹夏が修羅の顔になるわけだ。好きな人から別の人が──しかも自分とまあ仲の良い奴が好きだと言われれば心中穏やかじゃいられない。 その気持ちは
「虹夏はなんか言ってたの?」
「お、応援、してくれました……喜多くんに慣れないとねって……」
嘘っぱちめ。素直な態度に出れない弱虫虹夏ちゃん。
「す、すみません……黙ってて」
「別に、気にしてないよ。ぼっちの問題なんだし」
「喜多くん……リョウさんのこと、す、好き、だから……」
ひとりはひとりで、問題を抱えている。
ひとりが好きだという郁三は、傍から見れば隠す気ねぇだろってくらいリョウへの態度を隠さない。その割に本気でバンドの関係性にメスを入れようとしてこないのは、リョウとしても助かる。
単に『好きです好きです』言うだけなら、ちょっと厄介なファンが増えたくらいだ。実際結束バンドより前から活動しているリョウからすれば似たようなものだったりする。
褒めてくるのは悪い気はしない。奢ってくれる。そして何よりバンド活動に熱を入れてる。なんて都合の良い後輩か。
それはともかく。以前からその矢印が明らかな郁三に、体が変形するほどの初恋をしたひとりからすれば、下手に打ち明けるなんてできるはずがなかった。
だからリョウはこうして話を切り出したし、そしてこう言うつもりだった。
「いいよ、私、気にしてない。それに郁三のことも……なんとも思ってないよ」
「そ、そうなんですね……」
例えばリョウと郁三が両想いだったら、邪魔なのはひとりのほうになってしまう。
そんなことはない。いろいろな意味で、リョウにとっては。
「私が郁三に何か言うのは違うけど……ま、なるようになるといいね」
「あっ……はいっ」
「応援してるよ」
初めて出会った時は完熟マンゴー被るような、『こいつ、おもしれぇ女』だったのに。随分と可愛らしい後輩になったこと。
そしてリョウからすれば、思い通りに事が進む。ひとりが郁三に対して積極的になるなら。虹夏とひとりが一緒になることは、少なくなる。
ズキリと、胸の奥に軋みを感じながらそう思った。
「……よ、よかった」
ひとりも、強張っていた顔が柔らかくなる。文字通り顔面が、じゃなくて、表情が柔らかくなった。
郁三が好きだって自覚してから、ずっと引っかかっていたことだった。郁三が自分の想いを半ば堂々と口に出せて、それで自分が何もできないのは、陽キャと陰キャの違いなんだと思っていた。
だから郁三がリョウを好きだという事実は、ひとりに重くのしかかっていた。
それで、もしリョウが郁三に振り向いだら……。
それが怖いのは変わらないけど。郁三がリョウを好きだという事実も変わらないけど。 少しだけ、自分に正直に動けるようになる。
リョウがひとりを見る。ひとりがリョウを見る。
ふっと笑った。
珈琲を飲み干して、リョウは頬杖をついた。
「それでさ。今日思ったけど、ぼっちはMVを変えたいって思ったの?」
未だ残る紅茶の、揺れる水面をぼんやり眺めて、ひとりは考えた。
MVの中の自分がかっこ悪いと思ったのは本当だ。
「は、はい……もっと、かっこよく、なりたい」
でも、それは単に自分を着飾りたいだけじゃなくて。
喜多くんが喜んでくれる……すっげーかっこいいわたし、になりたい。
リョウもその意図を察した。
「そっか。じゃあこのまま新曲の話をして。終ったらそのまま行こっか」
「えっと、リョウさん? ど、どこに?」
それは、リョウが今日の話を経て思いついたこと。
「行くよ、服を買いに」
────
そして今日。
後藤ひとりは、久しぶりに自分を象徴するピンクジャージを家に置いてきた。
今までの自分を形作る、愛着のある大事なジャージ。捨てるわけじゃないし、今後も着るつもり。けれど今日、それを着ないのには勇気が必要だった。
白色の、秋の天気にちょうどいいロングスカートは、下半身がスースーする。
薄ピンクを主色にした、控えめな
いつもの三倍の時間をかけて、自分なりに精一杯、髪を整えた。
今朝、鏡に写った自分の顔は、いつも通りに青ざめていたけれど。
お母さんと妹が喜んで、お父さんが号泣するくらいには、自分の身体には似合っていたと思う。
「ど、どど、どうでしょうか……?」
リョウに背を押され、眼の前にはやっっと最近また、辛うじて話せるようになった好きな人がいる。
そんな喜多くんは、瞳を
「すっげー! 似合ってる! 超似合ってるよひとりちゃんっ!!」
ひたっすらに褒めちぎっていた。
陽キャスキル発動、即イソスタ。淀みのない所作でスマホを取り出し、カメラマンばりの角度と挙動で撮りまくる。郁三のフォルダがあっという間に50
「う、うへへぇぁ……」
「いいねその顔! あ、崩壊はなしで! 次はあざとくいってみようっ!」
「あっあざとく……? にぃ……」
「いえぁサイコー! 輝いてるよー!!」
慣れない褒めちぎりにひとりの脳内ホルモンがガンガンにキマりだして止まらない。
なんだこの即席撮影スタジオみたいなノリは。撮影スタジオなんて行ったことないけど。
なんて、自分自身心臓のバクバクが収まらない虹夏は、リョウが隣に来て声をかけられるまで、ずっとひとりから目が離せなかった。
「さすがの郁三もニューぼっちには敵うまい」
「あ、リョウ……」
若干ドヤ顔のリョウを見て、少しぽけっとしてから虹夏は視線を下へ。
気付いた。
「あ……リョウもスカジャン」
「気づくのが遅い」
「ごめんって。てか、お揃い?」
「うむ。さすがにぼっち一人に死地に向かわせるわけにはいくまい」
リョウもリョウで青いスカジャン。それにブラックなタイトパンツ。ちくしょう、似合ってやがる。
「それで……あのぼっちちゃん、リョウが原因?」
「原因てか。まぁ手伝ったのは確か」
「MVの件ってこと?」
「うん。まあ『カッコいい』の方向性が撮影手法と服装じゃちょっと違うけど。ぼっちも乗り気だったし」
「それでスカジャンか」
「ぼっちは
「えっまじ!?」
リョウは思った。そこに反応するな朴念仁。
「まずは真っ白なワンピース着せたんだけど、顔面のパーツがどっかいってのっぺらぼうになったから」
「ええ……」
「どうにも可愛い感じのは感性に合わないみたいで」
「そういえば、いつぞやのバンドTシャツも中学生男子みたいだったもんね……」
「本人も『可愛いよりかっこいいのがいい』って言ってたし、まずはジャージの雰囲気から離れすぎずでチョイスしてみた。その結果があのスカジャン」
「なるほど……」
リョウLOVEな郁三が、ひとりに熱中している。それだけひとりの姿は衝撃だった。
結束バンドの他メンバーも、星歌たち関係者もひとりの顔面のよさは知っている。リョウが言ったようにこのスカジャンひとりは、オシャレと言うにはまだ小手調べ。ひとりのポテンシャルをを考えれば初めの一歩に過ぎない。この先レパートリーが増えたらどうなるかもわからない。
虹夏は、そんな少し先の未来を想像して、ため息を吐いた。
「うん……すっごく、かわいい」
「…………」
(……わかってたけど、やっぱりか)
リョウの心に1ダメージ。自分も一応オシャレをしたってのに振り向いてくれない虹夏。にじかのばか。
(……わかってたけど、喜多くんだよね)
虹夏の心に1ダメージ。めちゃくちゃ可愛いけど、先輩二人そっちのけで後輩同士の時間を楽しんでるひとり。たはは……そうだよね、そっかぁ。
(う、うへへへへ……喜多くんの眼が輝いてるぅ……)
ひとりの心に喜び1ポイント。好きな男の子に褒めちぎられて喜ばない女の子なんている? いるかもしれないけど、この状況だよ? あ、わたし陰キャなので耐性ないので……。
(ひとりちゃんサイコー!!)
郁三の心に感激1ポイント。ただでさえ可愛い女の子がオシャレをしている。これを喜ばないとは漢は名乗れねぇ……! もちろんリョウ先輩、あとで貴女のカッコよすぎる御写真も撮らせてください……!
「みんな、こんにちわー……ってひとりちゃんがオシャレしてるー!?」
その後ファン1号と2号がやってきて、六人の若者たちが一気に賑わった。特に2号がひとりの変わりぶりにむしろ郁三以上に豹変したりした。
元々ひとりの路上ライブがきっかけでファンになってくれた二人だ。ひとりのちょっとした一歩を喜ばないはずもなく、チヤホヤされるひとりはもうエヘエヘしまくってた。
思うところもある虹夏にしても、リョウにしても、純粋に後輩のひとりが楽しそうにしてるのは嬉しいことだ。リョウは自分がプロデュースしたひとりの進化にはまあご満悦で、虹夏は仲間たちの楽し気な姿に嬉しさを覚える。
「それじゃあ張り切って……MV撮影行きますよ!」
1号が手を上げた。未確認ライオットに向けたMV撮影。
思うところがあっても。何があっても。
結束バンドは、一歩一歩進んでいく。
X年後……ファン1・2号による結束バンド恋愛アンケート
Q4 初デートはどこに行きたい?
ひとり「家で一緒にセッションできれば……」
虹 夏「喫茶店とか行ってまったりしたいなぁ」
リョウ「家でまったり」
郁 三「ネズミーランド! ユニバーサルスタジオニホン!」