【完結】虹色refrain   作:迷えるウリボー

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24 繋がるてのひら

 

 

 十一月末。結束バンドは日々練習を続け、少しずつ成長を遂げていく。

 学校は休みの日。いつもよりも余裕がある早いライブの終わり。

 ひとりと郁三は、並んで帰り道を歩く。ひとりが電車に乗るまでの短い道のりだけれど。

「ひとりちゃんさ、今日のライブ、俺の演奏どうだった?」

「あっ……す、少しストロークが弱かったと思います……」

「そっかー。最近いろんな曲を弾くようになったでしょ? 今までは特定のライブに特定の曲だったけど、手広くだと慣れなくて」

「そ、そうですよね……コッコードの使い分けも難しい、ですよね」

 ライブのミニ反省会。もちろん結束バンド全体でバンドの直後にするはする。けれどひとりと郁三は同じギター。二人だけの時の方が、よりスムーズに話すときもある。

 ひとりが初恋を自覚してからもうすぐ二ヶ月。ようやく……以前のように会話をすることができるようになってきた。やっべぇコミュ障で不器用なひとりだけど、ギターをはじめ何かたった一つのこと意識を向ける集中力は尋常じゃない。心優しい虹夏と、応援の意志を示してくれたリョウの後押しもあって、郁三への想いに余計なものが入らなくなったひとりは、一歩ずつ確実に緊張に慣れていった。

 そうした頃。最近、郁三とひとりは一緒にSTARRYから帰ることが多くなってきた。こうして二人反省会をするのが日課になりつつある。

「ひとりちゃん、この前のMVの時からオシャレするようになって……だいぶジャージ以外にも慣れてきたんじゃない?」

「あっ、そう、だと思います……スカジャンは、今でもお気に入り、で」

 ファン1号2号が作ってくれたMVは上々だった。やっぱり専門の映像がつくと雰囲気もガラリと変わって、素人目にはプロ仕様の映像と変わらないように見えるくらいだった。

 それで虹夏が「僕やっぱり素人だったな……」としょぼくれていたのはここだけの話。それを見て1号さんが「ジカくんかわい~」と笑って、虹夏とリョウがダメージを受けたのもここだけの話。

 ひとりはといえば、郁三との会話に慣れてきているのと同じように、その服装も少しずつ変わっている。さすがにまだ毎日変える、というわけではないけれど。休日集まる時は少しずつ変えて。リョウと一緒に古着屋をめぐることもあった。

 ちなみにまだ学校では制服でなくてピンクジャージのまま。さすがに結束バンド以外の集まりでは難易度が高いからだ。

「ま、とにかくさ。俺はいいと思うよ。どんどんオシャレしなよっ」

「う、うへへ、頑張ります……!」

「なんて言ってもリョウ先輩チョイスでしょ? ひとりちゃんが似合わないはずないって!」

「……ガンバリマス」

 慣れてくると同時にリョウ先輩話に心を打ち砕かれる。結局ひとりの心労は大して変わっていなかった。

「ところでそのリョウ先輩だけどさ」

「アッハイ」

「新曲の進みが上手くいってないみたいだけど、どうしたのかな?」

「あっなんか、今回はあまりフレーズが浮かんでこないって……」

「そっかぁ。《ギターと孤独と蒼い惑星》とか、結構スピーディに仕上がってたのにねぇ」

「でっですね。リョウさん器用なのに」

「演奏は問題ないように聴こえたけど。なんかスランプなのかなぁ。《カラカラ》なんて歌詞も含めて一週間で作ったとか言ってたし」

 二人の話すことは本当で、虹夏に作曲を頼まれてから約一か月。ひとりとリョウのここ最近の作曲事情を考えれば、今は停滞してる時期だった。

 最初の曲以降、基本的にひとりが作詞したものをリョウが作曲する、という流れが多かった。多少リョウと相談して歌詞を手直しする部分はあっても、リョウはひとりの作る歌詞をほぼそのまま使ってくれることが多い。それは、リョウが以前ひとりに話した『私たちらしい音楽』をやるためでもあった。

 ただ、例えば《あのバンド》や《星座になれたら》みたいに、期限が差し迫っているわけではない。そういうわけで今回は、ひとりの作詞から始めるスタンスは保ちつつ、リョウの意見も大いに取り入れるかたちとなっていた。

 まずリョウがひとりに『初恋の件』を聞いた日、二人で新曲の方向性を大まかに決めた。

 さらに数日をかけてお互いの作詞を持ち寄って、相談。

 いつものリョウならその合間に作曲も走りくらいは完成させそうなものなのだけど、今回のリョウはまだ音の一つもひとりに聴かせていない。

 時間をかけているから進みが遅いのは当たり前なのだけど。リョウの深層を知らない二人には疑問符しか浮かばないことだった。

 郁三は天を仰いだ。冬の空はいい加減寒い。

「もうすぐ十二月かぁ。年の瀬もあっという間だね」

「あっそうですね……」

 ひとりは考える。

 十二月。今まで、ひとりにとっては別に楽しくもない一年の十二分の一。むしろ、クリスマスは家族でのパーティーが楽しい一方、ギターヒーローに送られてくるリクエストソングがラブソングばかりだったのだ。

(そんなだからクリスマスなんて、血反吐を吐きながら過ごしてたけど……)

 ひとりは周囲を見た。

 十二月にもなれば、世の中はもうクリスマス一色で。夜は暗くて。灯りが煌々と雑踏を照らしていて。

 冷えた空気が、白い息を生み出して。

 隣に立つ郁三を見る。

(……かっこいいなぁ)

 自分よりも長身、男子の中でも背が高くて。無邪気に周囲を見る郁三は。

 大人らしい見た目と、子供らしい表情の喜多くんは……。

「ひとりちゃん? どうしたの?」

「ぁひゃいっ」

 ぼーっと見てれば、見返されるのも不思議じゃない。

「ぃ、いや……喜多くんは、ク、クリスマスはどぅするのかなって」

「えー? いつもは友達と会って遊びまわってたけどね」

 グハァ。

「そ、そうですよね……」

「でも今年は、みんなで過ごしたいよね。結束バンドのみんなで」

 みんなで過ごすクリスマス。

 ひとりはそれを想像した。

 忌み嫌っていた聖夜は、今はとても楽しみに感じる。

 結束バンドのみんなと。

 ここでスマホの通知が鳴った。

「あれ? なんだろう」

「わっわたしもです……」

 そうなれば、通知の正体が何なのかは予想がつく。

「結束バンドの全体ロインだ。なになに?」

 郁三が、ひとりが、それぞれのスマホの画面を見る。

 その文面を読み上げて、二人の表情が驚きに変わった。

「じ、『十二月二十四日、《新宿FOLT》の《SICK HACK》のワンマンライブに──』」

 

 SIDEROS(シデロス)と結束バンドがゲスト出演──!?

 

 

────

 

 

 《SIDEROS》。

 それはライブハウス《新宿FOLT》を拠点とするガールズロックバンドの名前だ。

 結束バンドのメンバーは、このバンドグループを知っていた。それは未確認ライオットに出るにあたって、四人が調べたことがスケジュール確認以外にもあったからだ。

 今までのライブのように、ただ観客を味方につければそれで大成功、というわけじゃない。今度は自分たちと同じように頂点を獲ろうとする──ライバルがいる。

 だから当然気になって、同世代の有名バンドを少なからず調べていた。相手が同じように未確認ライオットに出るかはわからないけど、十代の多感な時期。立ちはだかる壁が気になるのは当然のことだった。

 都内で活動しているエレクトロロックバンド《ケモノリア》。

 大阪のコミックバンド《なんばガールズ》。

 そしてきくりと同じ拠点、《新宿FOLT》で活躍するメタルロックバンド《SIDEROS》。

 それらが、ネットに転がる情報のなかで何度も見たバンドグループの名前だ。最近はガールズバンドの実力が高いらしい。

 だから結束バンドは新宿FOLTでのゲスト出演に驚いただけじゃない、SIDEROSのことにも驚いていた。

 SIDEROSはメタルバンド。十代の、そして全員が女子という可愛らしいメンバーで、とてつもなく狂暴で魅力的な音を奏でる様子がたくさんのファンと人気を集めている。

 メタルバンドにふさわしく、ネットに出てくる彼女たちの恰好はまさにロックというような様子で、露出があってヘソ出しルックで扇情的で、チョーカーに革グローブにネックレスに、網タイツに黒基調のスカートにジャケット……と、主張が激しい。それでも様になっているのが、彼女たちの実力を感じる説得力のある実力だ。

 中でも注目は、ギターボーカルの大槻ヨヨコ。結成一年でワンマンライブができるようになるほどの人気を博したSIDEROSのリーダーだ。ライブ中はトレードマークのベレー帽を被って、ツインテールが揺れている様が可愛らしくもかっこいい。

 そのリーダー、大槻ヨヨコとは、何を隠そう──

 

「この私のことよっ!」

 

「つっきーちゃん、どこ向かってドヤ顔してるの?」

 ツインテールをライブとは違っておさげにして、落ち着いたダッフルコートに眼鏡な目立たない女学生風の大槻ヨヨコは、結束バンドのファン1号2号が見つめる先で壁に向かってそう宣言していた。

 新宿FOLTじゃなくて、下北沢STARRYの一角。結束バンドの十二月ライブが始まる直前。

 2号が()()()()こと大槻ヨヨコに話しかける。

「それでそれで、つっきーちゃんは誰が気になるの~? 私はもうひとりちゃんにゾッコンで~」

「だ、だから私は別に結束バンドが好きなわけじゃ……!」

 ヨヨコは1号と2号の押しに気圧され、慌てながら彼女たちの『結束バンドの中で誰が推しなのか』という誤解と質問に答えようとする。

 SIDEROSのリーダー、ヨヨコがどうして単身でSTARRYに来ているのか。

 きっかけはネットに挙がった結束バンドのMV。最初の虹夏作MVはお世辞にも微妙なクオリティ。そして次の1号2号作MVは結構様になっているカッコいい映像作品になった。

 もちろん有名アーティストみたいに即バズリというわけでもないし、幸運が重なって大バズリでもない。でも少なからず反応はあって嬉しい感想もあって、そしてSIDEROSのメンバーの一人がそれを見つけて、ヨヨコの前で「結構イイっすよね」なんてことを言った。

 そして、ひとりや郁三と同じタイミングでSIDEROSにも『SICK HACKライブへのゲスト出演』の件が知らされ──

 同じバンドを盛り上げる、協力し合う二組のバンドだけど、ヨヨコは自分と肩を並べる結束バンドの存在が非常に気になって、ちょっとした敵対心を抱いて、気が付いたら下北沢までやって来てしまった。

 特にリードギター《後藤ひとり》の演奏がなんか気になる。別に上手そうでもないし、リードギターの癖に覇気も華もなくて猫背な感じなのに、なんか気になる。

 そして結束バンドのライブを静かに観ようと待っていたらファン1号2号に捕まって──今に至る。

「でも、私たちなんてたまたま路上ライブで知っただけなのに、つっきーちゃんみたいにライブ以外でファンになるなんて結束バンドも有名になったね」

「私たちのMV効果だよね~」

「だから別に結束バンドのファンじゃないってば! ……《つっきー》は認めてあげるけど!」

 1号命名《つっきー》ちゃん。渾名を付けてくれることに内心では喜んでいる大槻ヨヨコ(ツンデレ)

「そもそも、どうして二人とも私に話しかけたのよ……?」

 ヨヨコは1号2号に問いかけた。

 1号2号はヨヨコを見て頭をひねる。

「そうだなー……なんか、ひとりちゃんと同じ空気があるというか」

「あっだよね~。どうしてだろう? 全然違うのに根本が同じというか?」

(この二人……! 本当は私がギタリストだと気づいて……!?)

 ヨヨコは戦慄した。今、私はギタリストでもなんでもない、地毛も暗めな茶髪をおろしているだけのどこにでもいそうな出で立ちをしているのに、どうしてバレる……!?

(恐るべしSTARRY。恐るべし結束バンドファン。恐るべし結束バンド……!)

大槻ヨヨコ。さっきも身を隠しているくせに、派手に「この私のことよっ!」とか言ったり、警戒はしてるけどもう《つっきー》という渾名が嬉しくて1号2号に(ほだ)されていたりする。

 1号がスマホを取り出した。

「ねえ、それよりも結束バンド目当てで来たんでしょ? つっきーロイン交換しよ?」

「したことないからわからない……」

「うーん、やっぱりひとりちゃんみたい」

「だ、だから後藤ひとりは知らないってば! そりゃ並々ならぬ感情はあるけど……!」

『並々ならぬ感情!?』

 女子大生二人が鼻血を抑えながら()()()()()()()──ヨヨコにとってはちょっとした敵対心──に興奮した。誤解されたことに一応気づいたヨヨコは慌てふためいて。

「って、そういうわけじゃない! 気が付いたら気になって頭から離れなくなってー! 居ても立っても居られなくなってー!」

『ガチ恋だー!?』

 乙女二人がさらに興奮した。さらにヨヨコに詰め寄る……!

「えっ誰に!? やっぱりひとりちゃんに!? いやまさかのリョウちゃん!?」

「誰がガチ恋よ! 私は立派な異性愛者(ヘテロセクシャル)よ!」

『余計にマジだー!?』

「世のLGBTを敵に回すわよー!?」

 大槻ヨヨコ。すでに目立ちまくっていた。

 ちなみにヨヨコが郁三もしくは虹夏目当てという誤解によって、1号と2号の暴走は収まった。理由は別段普通のことだから。厄介なお姉さんたちだった。

 1号2号はやいのやいの言う。

「でも、郁三くん絶対女たらしだしねぇ」

「ジカくんはのほほんとしてるけど陰で泣いてる女はいる。絶対」

 結束バンドのメンズと交流もあるので、弟君たちには特段ガチ恋してないお姉さんたち。

 そんな二人の背後に忍び寄る影。

「あの、そんな根も葉もないことを言わないでもらえると……」

「あ、噂をすればジカくん」

 《ジカくん》こと虹夏降臨。ヨヨコが敵の急襲に飛び跳ねた。

「い、伊地知虹夏……!」

「え、僕のこと知ってくれてるの? 嬉しいなぁ」

「ち、違うわよ! 別に貴方のことなんて知らないんだからね!」

『本物のツンデレだー!?』

「あなたたちちょっと黙って!?」

 やがて星歌が虹夏に拳骨を喰らわせるまで1号2号の暴走は続いた。虹夏はしょげた。

「痛い……」

「何なのよあの暴君は……」

「僕の姉ちゃん、ていうか店長。迂闊に騒いだら絞め殺されるよ……」

「嫌よそんなライブハウス……」

 閑話休題(それはさておき)

「ジカくん紹介しようっ! 記念すべきファン3号、つっきーちゃん!」

 1号は虹夏を《ジカくん》と呼ぶようになった。その1号がヨヨコの後ろに回ってヨヨコを虹夏の前に押す。

「だから勝手にファンにするな!? 《3号》ってなによ!?」

「あはは……どっちにしてもありがとう! 観に来てくれて嬉しいよ」

『……』

 さっきまで会話をしてたので、1号2号は思った。これが女子陥落必須の、可愛い系男子の能天気な笑顔か……。

 ヨヨコは別に虹夏の笑顔にドキッとしたわけじゃないけど、結束バンドのメンバーがいるという意味ではドッキドキのドキだった。

「改めて、僕は伊地知虹夏! 結束バンドのドラムだよ。STARRYは初めて?」

「ええ、まあ……」

「そっか~。そんなに大きくないハコだし、雰囲気は悪くないから楽しんでってよ」

「まあ……しかと見届けさせてもらうわ!」

 結束バンドが本当にゲスト出演にふさわしいのかをね!

(なんかすごい熱血な子だな)

 虹夏はよくわからない熱意に気圧されていた。

「ところで、貴方たちのMV観させてもらったわ」

「え? ありがとう~」

「ベースはまあ、貴方のドラムはともかくとして。ギター二人はどうなの?」

「マネージャー志望……? まあ、楽器始めた時期に開きがあるんだ」

「特に《後藤ひとり》だけど」

「……」

 虹夏は警戒を強めた。ひとりは《ギターヒーロー》。ギターヒーローといえば、最近印象が強いのは《ぽいずん♡やみ》だ。

「……彼女が、どうかしたの?」

「なんであんなに猫背なのよ!? もっとシャキッとしないと華がでないって言っておいて!!」

「あ、うん、ありがとうね……」

 虹夏は脱力した。この子なんかツンデレっぽいな。

 ヨヨコ一人にかまうのもさておいて、虹夏はMVの件で1号2号に振り返る。

「そういえば、1号さんも2号さんもこの間のMV、ありがとうございました!」

「どういたしまして。ジカくんもみんなもかっこよくできてよかったよ」

「一番『もっとかっこよく』って言ってたのぼっちちゃんですけど、彼女も満足気でしたし」

(ぼっちちゃん……?)

 ヨヨコは訝しんだ。1号2号といい《ぼっちちゃん》といい、結束バンドのファンは名乗ることを許されない……?

「虹夏ー」

「あ、リョウ」

 今日も今日とて、女の子三人に囲まれたハーレム虹夏を抑止するためにリョウがやってくる。そしてヨヨコが反応する

「や、山田リョウ……!」

「ん、誰?」

「ファン3号のつっきーちゃんだよ~」

「だからファンじゃない!」

 リョウの眼が女子三人を診断する。

 1号。虹夏をジカくんと呼び始めてるけど、全然その気なし。

 2号。虹夏というか、むしろぼっちへの熱がやばい。ぼっち、南無。

 3号。初めて見る顔だ。新しいファン……あれ?

「んー……どこかで見たことある気が」

 リョウは近眼ではないけど、気になってヨヨコに近づく。

「き、気のせいでは……?」

『女と女のただれた関係──!?』

「もう訂正するのもめんどくさい……」

 虹夏がリョウの首根っこをふん捕まえた。

「ほらリョウ! みんなに迷惑かけないっ! そろそろ行くよ」

「や、まだ3号の観察が」

「それはまた後で!」

 そろそろライブ開始の時間だった。虹夏は方々に愛想を振りまきつつリョウを引きずって楽屋へ入っていく。

「私、また観察されるの……?」

 ライブ開始前から疲れてしまったヨヨコ。1号2号から逃げることが許されず、結局三人でライブを観ることになるのだった。

 ヨヨコのSTARRYライブ初感想は、『ぶっちゃけ楽しかった』だった。

 

 

────

 

 

「お疲れ様ー! みんな、今日のライブよかったよ!」

いつものライブ終わり。楽屋を後にした結束バンドメンバーに、もうファンというより友達のような空気感で1号2号が駆け寄って来る。

「ひとりちゃん良かった~」

「2号さん、あっありがとうございました……」

「喜多くんも相変わらずイケメンだね~」

「自分、女子の笑顔のためなら幾星霜ですから」

「そういうところだよ」

「え、1号さん?」

 ヨヨコが警戒する後藤ひとりその人が、近づいてくる。

(これ以上顔見られたらバレるかもしれない……)

 帰ろう。ヨヨコはそう思った。結束バンドが自分たちを知っている前提の大槻ヨヨコである。

 だがしかし、そうは問屋が、降ろさない。

「ひとりちゃんと喜多くんにも紹介するね! ファン3号のつっきーちゃんで~す!」

「えっちょ……」

 虹夏との接触の時の焼きまわしのように、1号が今度はひとりと郁三の前へ。

 ひとりと郁三の目の前に人を連れてきたら、喋るのは疑う余地もなく郁三なわけで。

「え~、結束バンドのファン!? ありがとう! 名前は?」

「おお……《つっきー》です」

「つっきーちゃん!」

 渾名を使ってしまった。悔しい。

 とまあ、ほんわか結束バンドで特に男子たちは純粋にファンができてうれしいので盛り上がる。そして郁三の陽キャスキルたるや、1号2号を上回るポテンシャル。

「STARRYは初めて?」

「え、ええ……」

「普段からライブとか観に来てるんだ?」

「まあ、馴染みもあるし」

「へぇー、どこに行ってるの? 気になる!」

「し、新宿……」

「ああ! 俺も行ったことあるよ! 新宿FOLTとか!」

「でしょうね……」

 呑気に話す郁三。郁三と話すのに慣れたけど、今度は学校含め周囲の女の子が郁三と話すのに心が()かれるひとり。

 虹夏が話に入る。未確認ライオットもある以上、少しでもアクションをしておきたいと思う虹夏だった。

「僕ら、今度新宿FOLTでライブやらせてもらうんだ。よかったら観に来てよ」

「知ってるわよっ。クリスマスイブでしょう!」

「あ~、さすがにイブは予定あるよね! ごめんごめん、先輩が変なことを」

「おい郁三殴るぞ」

「誰が一人寂しいクリスマスよ!?」

 と、ヨヨコを観察してるリョウがポツリ。

「あっ思い出した」

「え?」

「大槻ヨヨコだ。SIDEROSの」

 ザワ、ザワ。結束バンドの四人とヨヨコ本人がざわめく。

「え~! あのSIDEROSの!?」

 相も変わらず郁三がめちゃくちゃ驚いた。

「なっ、ばっ、人違いじゃないの!?」

「すっげー変身! やっぱ女の子ってどうオシャレしても可愛いんだな~。面白い!」

「ばっ、喜多郁三……! 貴方からかうの止めてくれるかしら!?」

「ひとりちゃんもそうだし!」

「後藤ひとりと一緒……」

『イケメンの《面白れぇ女》発言キター!?』

「なんか1号さん2号さんが言ってるけど?」

「もうどうでもいい……」

 ヨヨコは微妙な面持ちでリョウを見た。正体を暴いた張本人は、何食わぬ顔でいる。

 隣の虹夏が。

「そうなんだ……でもどうして僕らのライブを観に?」

「そ、それは……」

「僕ら、前にSIDEROSのライブ映像見たよ。すげーって思った!」

「ふ、ふーん、そう」

 郁三も虹夏もチヤホヤしてくる。口うるさい後輩たちはいない。ファン1号2号はやかましいけど悪くない。

 下北沢っ、悪くない──

「って、そのために来たんじゃないわよ!」

 ヨヨコは自分の顔を殴った。ひとりは自分以外の人間の奇行に驚いて奇声を挙げた。郁三が介抱。

「気づかれたら仕方ないわ……! そうです! 大槻ヨヨコとは私のことよ!」

「いやだから知ってる」

「私はねぇ! 廣井姐さんが見つけたあなたたちが本当に実力があるかを確かめに来たのよー!」

 よーよーよー……。

「え、僕たちの」

「私たちの実力?」

「あべばばべば」

「ひとりちゃん起きて-」

 大した反応のねぇ結束バンド。

 ヨヨコは敵対心を持った結束バンドの実力を確かめに来た。のだけど、実際結束バンドからすれば急にそんなことを言われたってヨヨコの気持ちを推し量ることはできない。

 そんな空気を感じ取ったヨヨコは、ばつが悪そうに悔し顔を浮かべてから負け犬の遠吠えみたいな言葉を吐くのだった。

「結束バンド! 特に後藤ひとり! 私と姐さんライブを台無しにするのだけは許さないからね!」

 バタン、と閉じられるSTARRYの扉。『台無しに──』の件で若干自分たちが敵視されているのがなんとなく理解したのだけど……。

「なんかツンデレっぽいね」と虹夏。

「可愛い感じですね~」と郁三。

「……殺される」とひとり。

「面白れぇ女」とリョウ。

 結局、最近のメンバー内のストレスがマッハなせいで大した脅威にならない大槻ヨヨコだった。

 

 








X年後……ファン1・2号による結束バンド恋愛アンケート

Q5 バレンタインチョコを……
ひとり「わ、渡せるかな……義理チョコって思われるかも……そもそもわたしなんかが……(ブツブツ)」
虹 夏「もちろんほしいけど、くれるかなぁ……」
リョウ「他の女子のを食べさせるわけにはいかない」
郁 三「むしろ渡したいっす!」
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