【完結】虹色refrain   作:迷えるウリボー

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26 レッツ! エンジョイ! クリスマス!

 

 

 

 クリスマスライブin新宿FOLTが終わった。

 結束バンドとしては初めての、拠点以外のライブハウスでのライブ。それに12月24日という世の若者たちはだいたい浮かれる日のこと。

 結束バンドのライブの手応えは……ぶっちゃけふっつーにアウェイだった。観客の視線は冷たいとは言わなくても暖かくないし、台風の日のライブみたいに「結束バンドってなに?」なんて声も聞こえた。

 ひとりのギターヒーローが覚醒する──なんて何度もマンガみたいな都合のいいことは起こらなかったし、無難に始まってちょいちょい盛り上がって(くれて)無難に終わった。そして《SIDEROS》と《SICK HACK》の時間はめちゃくちゃ盛り上がってた。純粋に悔しかった。

 とはいえ結束バンドとしては頑張った。初めてのハコで、しかも自分たちの拠点よりも沢山の観客に囲まれてのことだから、そんな反応も当然のこと。

 そんなライブを終えて、けれど今日はクリスマスイブだ。聖夜はまだまだ終わらねぇ。

「というわけで!」

 虹夏が叫んだ。時間、場所は閉店後の《下北沢STARRY》。

「メリークリスマス! STARRYクリスマスパーティ、始めます!」

「司会は結束バンドのリーダー伊地知と、この俺喜多が努めます!」

「イエーイ!」

 ともかくやかましい男子たちだ。それを聞く相手がSTARRYの面子だけだと負のオーラが勝る。けど今日は違う。

「そして今日はクリスマスライブの打ち上げも兼ねてます! 《SIDEROS》の皆さんでーす!」

『ありがとーございまーす!!』

 プラコップのジュースを元気よく掲げるSIDEROSのあくび、楓子、幽々。三人が一つのテーブルにいる。ちなみにヨヨコもちゃんといるけど陰キャ気味なので、ひとりとリョウと3人でテーブルを囲んでた。

「さらにうちの姉ちゃんの誕生会も兼ねてまーす!」

『おめでとーございまーす!!』

 方々から声がかかってきた。郁三と虹夏と同じテーブルの星歌はちょっと困ったように笑ってた。

「兼すぎだろ」

「えーっと、店長は今日で30歳なんですね! おっとなー!」

「てめぇシメるぞ喜多ァ」

「えーっと、姉ちゃんと喜多くんは置いといて。せっかくの機会だし、お菓子もジュースもあるので、親交も兼ねて盛り上がっちゃいましょー!」

「今度SIDEROSの皆さんも、STARRYでライブしてくださいねー!」

『はーい!』

 

 

────

 

 

「なんか、8月のライブの打ち上げを思い出すなー」

「えっと、どういうことですか? 店長」

「なんか絵面がさ。そんな感じしねぇか?」

 進行役の虹夏と郁三もさすがに腹が減ったということで、わいわいガヤるSIDEROS卓とほぼ沈黙の陰キャ卓にすぐにはいかず、まずは星歌と同じテーブルに戻っていた。

 星歌が言ったのは、結束バンドメンバーにとっては記憶にも新しい居酒屋の話だ。特に星歌と虹夏は最近も食べに行ったことがある。惜しむらくは、PAさんが用事があるとかで早々に帰ってしまったことだけど。

 星歌の拳骨を喰らって少し痛そうな郁三は尋ねた。

「でも、PAさんだけじゃなくて廣井さんもいないですけど」

「……ちなみに、どうしてあいつを呼ばなかった?」

 虹夏が即答。

「円滑に会を進行したいから呼ばなかった」

「正解だ」

『ありがとーございまーす!』

 すかさずSIDEROS卓から拍手が巻き起こった。

 そもそもイライザは同人誌の〆切が近いとのことで忙しくて、志麻はきくりがライブを滅茶苦茶にしたことで修羅の顔になっていたので声をかけられなかった、というのがあった。結果的にライブのメインだったSICK HACKの面々は呼ばなかったことになる。

「で? 肝心のライブはどうだったんだよ」

「普通にアウェイだったよ、僕ら。無難に始まって失敗して、無難に盛り上がって終わった」

「そんなもんだよ。経験積めガキども」

「まあ、俺たちとしても実際大きい舞台でライブできるのは嬉しいですし」

「お前と虹夏はそうだろうけど。リョウとぼっちちゃんはどうだった?」

「リョウはまあ、無難に。ベースを走らせたときにノる人もいなかったし、あのスマホを弄る様子はいじけてるかな」

「ぼっちちゃんは?」

「顔面溶けてた」

「ああ、そう……」

 郁三が一通り食べ物にがっついて、ジュースを仰いだ。

「じゃあ、別テーブル行ってきます!」

「おーおー行ってこい。青春してこい」

「はーい!」

 颯爽と立ち上がる喜多郁三。比べて伊地知姉弟の腰は重い。

「ほら、お前も行って来いよ」

「ええ……」

「はよ青春してこい」

「自分じゃもう青春できないから? 30だし」

「てめぇ三途の川に送るぞ」

「喜多くんと僕じゃ違うって。青春がコンプレックスになりそう……」

「物騒なこと言うなよ、ぼっちちゃんじゃあるまいに」

 星歌がわいわい盛り上がるSTARRY内を見る。

 同時、その中で結束バンドメンバーを見る。《地獄の結束バンド》を。

(前途多難だな、こりゃ)

 ため息しか出なかった。

 

 

────

 

 

 リョウ、ひとり、ヨヨコの陰キャ卓。

「……」

「……あっ」

「……」

 沈黙。それぞれポテトやらお菓子やらをつまむ。

「……おっ、フォロワー増えた」

「……あっへへっ」

「……」

 沈黙。リョウはスマホを弄ってて、ひとりは両サイドのリョウとヨヨコを見てあたふたしたり急に変な声が出たりと、つまるところいつものひとり。

 ヨヨコは、正直STARRYに来たことを後悔していた。それはどうしてかというと、他のメンバーが虹夏に誘われたことで乗り気になって衝動的についてきてしまったから。そして3人以上の集まりが苦手だから。SIDEROSメンバーだけで既に4人いたのに。

 総じて陰キャ卓。間を持たせる手段は食べ物をつまむことしかない。結果として早々に食べ物がなくなった。

「……」

「……あっあっ」

「……後藤ひとり」

「アッハイなっなんでしょう……!?」

「貴女たち、《未確認ライオット》にエントリーするそうね」

「あっはい……! じ、実はかくかくしかじかでしてっ」

「かくかくしかじかぁ?」

「ぼっち、それは地の文で言えること。本当に言ったら意味がない」

「貴女なにをメタいことを……」

 かくかくしかじか。ぽいずん♡やみのことまで話した。

「その割には怒ってなさそうね?」

「まあ言われたことは本当だから」

「ふーん……」

「SIDEROSは出るの?」

「さてね。……ところで、山田リョウ」

「なに?」

「そっちの伊地知虹夏と喜多郁三、ちょっと圧が強いから怖いんだけど」

「わかる?」

「のっけから激しいのよ。あと、貴女たちのとこのファン1号と2号? あれも怖いわよ」

「……わかる?」

 リョウがたぶん、初めてヨヨコをちゃんと見た。

「郁三も主張が激しいし。疲れる」

「なんであんな陽キャがロックバンドにいるのよ」

「それは偏見じゃ。成長著しいし、よかったら郁三あげるよ」

「いらないわよ。大事なメンバーをなに売ってんのよ」

「きっ喜多くんの体が売られるあばばべば」

「そして後藤ひとりは何を言ってるのよ?」

「ほっといてあげて」

「あ、そう」

 三度沈黙。

「……」

「あばばべばべべ」

「……」

「……え?」

「え?」

「伊地知虹夏は?」

 ヨヨコ的に話はまだ終わっていなかった。

「ああ、虹夏ね。虹夏」

「なによ。てっきり伊地知虹夏も売るのかと」

「別に」

「あ、そう」

「……」

「……」

 悲しき沈黙続きの陰キャ卓。

 

 

────

 

 

 一方、あくび、楓子、幽々賑やかなSIDEROS卓。

 中でもよく話すのは楓子とあくび。

「STARRYの雰囲気もいいね~」

「ウチらも今度本当に出させてもらおっか? STARRYライブ」

「お客さんの層も増えるし、雰囲気もよさそうだしね~」

「結束バンドのライブもよかったし。やっぱり物販頼もうかな」

 ヨヨコが特別コミュ障が目立つだけで、他のメンバーはいたって普通の女学生たちだ。幽々は霊視ができたりとちょっと普通とはとびぬけているけど。

 そして、楓子とあくびが星歌卓の男子二人を見やる。

「……二人ともイケメンだね~」

「美男美女のバンドかぁ。後藤さんと山田さんが羨ましい」

「付き合ったりしてるのかな~?」

「そんな風には見えないけど」

 楓子が妄想。

「犬系男子と飼い主の赤青カップル?」

「ああ、王道ー」

「伊地知さんと山田さん、昔馴染みなんだって」

「それも王道」

「山田さんが羨ましい~」

「あの、ふうちゃん」

 あくびは楓子を《ふうちゃん》と呼ぶ。

「なに~?」

「後藤さんは?」

「……あれかな? 『ふっ、面白れぇ女』ってやつ」

 SIDEROSの前では陰キャ属性全開の姿しか見せたことのない後藤ひとりだった。

「ちょっとアプローチしてみる~?」

「うーん。見てるだけでいいかな」

「……止めておきなさい」

 イケメン談義になって初めて幽々が口を開いた。

「止めておきなさい」

『ど、どうして?』

「結束バンドの爪の部分を引き裂いてはいけない。なぜなら」

『な、なぜなら?』

「地獄の釜の蓋が開くわ」

『ああ……』

 理屈じゃないけど、嫌な予感がしたあくびと楓子だった。

「SIDEROSのみんな、お疲れさま!」

 地獄の釜の喜多郁三(爪の部分)がやって来た。

「あ、喜多さん。どうも~」

「長谷川さん! 本城さんも内田さんも!」

「喜多さん元気いっぱいっすね。あ、席どうぞ」

「お、ありがと~!」

 用意してあった椅子に郁三がダイブ。

「SIDEROSのみんな、生で聴くとやっぱり迫力があったよ!」

「どもっすどもっす」

「いや~もうファンになっちゃった」

「私たちもです~。また一緒にライブしましょ~」

「いいね! 『学生たちが奏でる青春!』みたいな感じで」

「アハハ、それなら他の学生バンドも呼ばないと」

「そうだ! これも何かの縁だし、ロイン交換しようよ!」

「距離の詰め方抜かりないっすね……」

 これが陽キャパワーである。

「にしても伊地知さんから聞きましたけど、喜多さんギター始めて半年って聞きましたよ。上達早いっすねー」

「そう? 嬉しいなぁ。これもひとりちゃんのおかげなんだ」

「そっか、後藤さんがギターを教えてのか」

「ひとりちゃんかっこいいんだよ! 本当に」

『かっこいい……?』

 楓子とあくびが首を傾げた。当たり前と言えば当たり前だった。

「そう! なんたって文化祭ライブの時なんて──」

 その後5分ほど喜多郁三のひとり解説は止まらなかった。

 楓子とあくびは、自分たちの予想した赤青カップル予想を撤回するか迷うことになった。

 

 

────

 

 

 なんだかんだでクリスマスパーティは盛り上がるもの。ひとりを始め陰キャも陰キャの楽しみかたをするので、たまにひとりが弾けたりリョウが空気を読まなかったりとはするけど全員楽しみながら時間は過ぎていく。

 SIDEROSだけ、陰キャだけ、STARRY組だけでテーブルを囲むのももったいない! なんて誰かが言い出して適当に席が交換された。

「そして私と伊地知さんと山田さんか……平和なことは良きかなっすねー」

 あくびはヨヨコも郁三もいない平穏を噛みしめた。

「あはは、だねぇ。このリョウは空気読まないからちょっとしんどいんだけど」

「そう言って、虹夏も私のことが好きな癖に」

「よく言うよこのクズベーシストめ」

「二人とも仲いいっすね」

「もう小学生からの仲だからね。SIDEROSのみんなは……結成して1年目か」

「はい」

「ライブ前にも言ったかもだけど。前の経緯があったにしては仲いいねぇ」

「そりゃもう、大槻先輩を弄るのが楽しいので」

「あ、あははっ」

 結束バンドの伊地知虹夏。SIDEROSの長谷川あくび。SICK HACKの岩下志麻。どうしてか、ドラムに癖のない調整役の真面目面子がそろう界隈。

「結束バンドの皆さんは未確認ライオットに出るんですよね? たぶん。ウチらも出ることになりそうっす」

「え、そうなの?」

「大槻先輩がなんか皆さんのこと敵視してるじゃないですか。だからたぶん、勝手に申込すると思います」

「なんか既視感のある感じ……」

「すみません、ウチのリーダーがちょっかいかけて」

「まあ、いい発破だと思っておくよ。やみさんみたいに……おっと、飲み物がなくなっちゃった。取って来るね」

「いってらー」

「働けこのベーシスト」

 文句を言うのは口だけで、虹夏は颯爽と立ち上がってドリンクコーナーの冷蔵庫に向かった。

 リョウとあくびの二人だけになる。

「……」

「……」

「山田さん」

「なに?」

「安心してくださいっす。伊地知さんのこと、誰も取って食おうとは思ってないんで」

「……!?」

 

 

────

 

 

 星歌、楓子、幽々のテーブル。

「女性の店長さんなんて珍しいですね~」

「まあね。新宿FOLTは吉田さんだったか。元気にしてる?」

「はいっ。この間もコスメの指南をしてくれて~」

「はぁー。変わんないねぇ吉田さんも」

「そういえば、店長さんと伊地知さんって……?」

「わかった? 虹夏と私は姉弟なんだよ」

「そうなんですね~。お姉さんのライブハウスで弟さんがバンド組むのって、なんかエモいですね~」

「……エモい? ああ、エモいね、エモい」

「ところで」

「はいはい。えーっと、内田ちゃん?」

 幽々は他のテーブルの面々に聞こえない声量で星歌に尋ねた。

「聞きたいことがあるんです」

「うんうん。なに?」

「地獄の結束バンドのことです」

「……!?」

 星歌の瞳孔がガン開き。その様子だけで理解した楓子は笑った。

「これは幽々の言った通りね~」

「ごほっごほっ……」

 酒ではなくジュースをこぼしそうになる。ちなみに星歌はお酒よりもジュースを好む。

(この子ら感がよすぎだろ……いや、内の男どもとぼっちちゃんが感悪いだけか)

 リョウはともかくとして。ひとりはコミュ障過ぎて他の人の機微に気づいていない。郁三はひとりが不器用とはいえ気づかないどころか、自分のリョウへの想いが言ってない人にはばれてないとか考えてる節がある。虹夏はひとりに脳を破壊されたことは同情するけど、当の本人が何度かリョウの脳を破壊していることに気づいてない体たらく。

 だからこそ今の結束バンドが成り立ってると言えば聞こえはいいのだけど、郁三と虹夏には「はよ気づけやボケェ」と、リョウには「ちょっと勇気出せやこの純情クズベーシスト」と言いたい星歌だった。ちなみにひとりに対しては虹夏には悪いけど純粋に応援してる。とことんぼっちちゃんに甘々な星歌。

「未確認ライオットのことも聞きました~。なんか、大変そうですね~?」

「ウン……ソウダネ」

「お姉さんも、応援頑張ってくださいね~!」

「ウン……アリガトウネ」

 楓子と幽々の声が悪魔の囁きのように聴こえる星歌だった。

 

 

────

 

 

 ヨヨコ、郁三、ひとりのテーブル。他のテーブルと比べるとかなりしんどそうな組み合わせ。

 ヨヨコはそもそもバカ騒ぎが苦手で、それと正反対の郁三がいて、郁三に惚の字のひとりがいる。ひとりは、この組み合わせになった時点で胃に痛みを感じていた。

 けど郁三から陽キャバリバリの提案が出ることはなかった。

「……大槻さんに、聞きたいことがあるんだ」

「はい?」

「あっえ?」

 実は何かできないかとひっそりトランプを買ってたヨヨコと、「陽キャのパーティーと言えば大様ゲームじゃないか?」と妙な妄想を爆発させて割り箸を準備してたひとりは呆気にとられて郁三を見た。

「……何かしら? 貴方らしくもないというか」

「いやいやぁ。俺と大槻さん、別にまだ2回しか会ってないのに」

「その数がちっぽけに感じるほどのインパクトなのよ、貴方は……!」

「ごめんね、ひとりちゃん。せっかくのパーティなのに」

「い、いえっ……」

「それでなんなの? 聞きたいことって」

「差し出がましいことけど、ボーカルのコツを聞きたいんだ」

 未確認ライオットに出ると決めてから、結束バンドメンバーの練習に対する意識は変わった。今まで手を抜いていたわけじゃないけど、明確な目標ができて、これから競うかもしれないライバルたちのことを意識するようになって、相対的に自分たちの演奏を気にするようになってきた。

 その中で、郁三はボーカルを兼ねている。虹夏が作ったMV、そしてファン1号2号が作ったMV。それぞれを飽きるぐらい聴いているうちに──

「思ったんだ。『俺ってあんまりうまくないんじゃないか?』ってさ」

「きっ喜多くん……」

 ひとりは、いつになく考える様子の郁三を、少し心配気に見つめた。

 実際、ギターはひとりを始めリョウや虹夏にもアドバイスをもらってメキメキ上達しているけど……歌唱力について具体的なアドバイスをしたことはほとんどない。せいぜいリョウが、あからさまに郁三の音程が外れた時に声をかけるくらいだった。

 郁三はしばらく前からこのことを気にしていた。けれど結束バンドメンバーには言わず、レコーディングを担当したPAさんに通い詰めだった。とはいえ、PAさんも指導できるわけじゃないから正直に話すくらい。

 そして今日。郁三からすれば同じギターボーカルで、自分より先を走っているヨヨコと話せる機会ができた。この機を逃すはずがない努力家だ。

 ヨヨコは今日をはじめ、何度か聞いた郁三のボーカルを思い出す。そして郁三の様子を観察する。

「参考までに聞くけど、貴方がボーカルになった経緯は?」

「俺は入った時からボーカルなんだけど……ひとりちゃん、どうだったんだっけ?」

「あっえっと……わたしは人前で歌えないですし、にっ虹夏くんは自分で『歌が下手だ』って言ってて」

「山田リョウは?」

「わっ『私がフロントになったらワンマンになってバンドが崩壊する』って……」

「どんな自信よ山田リョウ……」

「リョウ先輩の言うことは正義だから」

「何なの? 神なの? 海を割るの?」

 それは預言者モーゼだ。

 ヨヨコは続けた。

「コーラスとか、そういったことを習ったりした経験は?」

「ない。独学とも言えないかな」

「カラオケはよく行く? というか行きそうね……」

「おお、よくわかったね」

「わかるわよ……」

 カラオケ(陽キャの巣窟)。別に歌うのが好きなら誰でも入るし、その道のプロなら練習に使ったりもする。

 ヨヨコは言った。

「カラオケでは上手い、けど違和感があるとか?」

「それは」

「図星ってところかしら」

 郁三は頷いた。少し真剣な空気がテーブルに流れる。

「カラオケじゃ、たまに満点とかとってるし。基本は90点以上なんだけど」

「まずはもう少し、お腹から声出してみなさいよ。きくり姐さんの声量にも負けてると思うわよ」

「……」

 インディーズで活躍してるきくりなのだから、きくり()()負けるというのは表現として正しくない。けれど、知識が薄い郁三にショックを与えるには適格な表現だ。

「カラオケが上手いからって、レコーディングが上手いとは限らない。ましてやライブは、その場限りの、一期一会の音を響かせるの。技術は大事だけど、それ以上に大事なものがある」

 郁三とひとりが、それぞれ秀華祭のライブを思い出した。

 あの時、ひとりのギターの弦が切れた。その困難を塗り替えようと、郁三はギターにおいて練習してきた以上の力を発揮して、ひとりはそれに呼応してボトルネック奏法を披露した。

 実際の《星座になれたら》の楽譜とはまるで異なる演奏があった。()()()()()会場は熱気に包まれて盛り上がりは最高潮になった。

「技術については?」

「技術は誰だって発展途上よ。そうじゃなくて、今の貴方のコピペみたいな歌い方じゃ、結束バンドのボーカルである必要性が感じられないってこと」

 これは郁三にそれなりの重力を植え付けた。

 音程が合っていればそれなりの点数が出せるカラオケと、レコーディングやライブとは違う。

 ヨヨコは、STARRYを見回して……そうして、虹夏やリョウを目にとどめる。

「私なんかが言えたことじゃないし、指導者でもないけど。実力を飛び越えたイメージで……伊地知虹夏はひたすら標になろうとしてるってわかる。山田リョウも、ちょっとのミスなんて気にしないでのびのびやりたいことをやろうって意志が伝わる」

 同じ席にいるひとりについて、ヨヨコは特に語らなかった。

 そして。

「その意味じゃ、歌よりもギターの方が信念こもってるように聴こえるわ、貴方」

 これは、郁三を少し唸らせた。

 結束バンドからは今まで出たことのない意見だった。

 あくまで比較対象としてだけど、ひとりから学んできたギターはそれなりに評価はされたけど、自分そのものは……。

「技術よりも……信念を、歌に」

 ひとりは、言葉を挟めないでいた。

(……喜多くんが、練習の時よりも真剣な表情してる)

「そうね。バンドのボーカルはフロントマンなんだから。ある意味……楽器隊以上にその曲とバンドの《魂》を伝えなきゃいけない」

「魂を」

「そう。カラオケで音程を合わせるのはいいけど、音程を合わせることに()()()()()できないことでしょ」

「……大槻さんは自分で魂を込められてると思う?」

「言ったでしょ。発展途上だって」

「……大槻さんはどうやって魂を込めてる?」

「あー……」

 ヨヨコは頭を掻いた。

「私、人に合わせるのが苦手で」

「確かに」

「しばくわよ喜多郁三! ……で、中学の頃は浮いてて、その苛立ちを歌詞に込めてた」

「なんかひとりちゃんみたいだ……!」

「ダカラシバクワヨッテイッテンデショ!!」

(わたしと同じ……)

 ヨヨコは軽い酸欠を起こした。寝不足なのは変わってなかった。

「はぁ……はぁ……って、もしかして結束バンドの曲の歌詞って……?」

「そう、ひとりちゃんが書いてる」

「え、えへへへへ、はいぃ」

「誰も褒めてないわよ」

「ハイィ……」

「でも、そうか。そりゃ確かに喜多郁三が歌に魂を込められないのもわかるわ」

「え?」

「貴方、後藤ひとりと歌詞の相談とかした? あとは、後藤ひとりの昔のこととか知ってる?」

「一応生態には詳しいつもりだけど」

(生態……?)

(へへへへ、きっ喜多くんがわたしのことを丸わかりぃ)

 秀華祭の1日目では、消えたメイドひとりを効率的に探し当てたのは、『ひとりちゃんはジメジメした茸とか生えてそうなところにいます!』と断言した郁三だった。学校で一番ひとりと会話してるだけあって、家族を除けば郁三が一番ひとりに詳しいというのは事実だったりする。

「とにかく、歌詞には作詞者の魂が入ってる。そこを知って、自分たちの曲の根本が何なのか。それを考えてみるといいんじゃない?」

「そっか……少しはわかった。ありがとう、大槻さん」

「……貴方たちがあっさり落ちたら、私がきくり姐さんに怒られるのよっ」

 郁三はまた黙り込んだ。ワイワイ騒ぐ他テーブルとは違って、また沈黙となる陰陽テーブル。

 ひとりもヨヨコも、アドバイスを得た郁三の行動を見続ける。郁三が次にどんな行動を取るのか。ひとりは作詞者として、ヨヨコはアドバイスをした者として、それぞれ気になった。

「ひとりちゃん」

「はっはい」

 そして来た。陽キャ郁三のターン。

「元旦は空いてる?」

「え? かっ歌詞の相談じゃないんですか……?」

「うん、歌詞の相談」

『え?』

 あまりの言動の乖離にコミュ障二人の思考回路が止まった。

「初詣行こうよ!」

「──エ?」

「大槻さんと話した通り、確かに俺は深く歌詞を考えてなかったと思う」

「はっはい……でもどうしてそれが初詣──」

「歌詞作ってるのはひとりちゃんだし。ひとりちゃんのことを知ればいいんだ」

 ナチュラルに遊び、見方によってはデートに誘う。

「……ええっ」

(これが喜多郁三……コワイ)

「本当はもっと遊びたいけどさ、年末年始だし。まずは初詣、行こうよ!」

『……』

「あー、楽しみだなぁ……!」

 ヨヨコとひとりは郁三の輝きに灼かれた。

 

 

────

 

 

 その後はきくりが乱入してきたり、星歌への誕生日プレゼントタイムなどもあったのだけど、クリスマスパーティ兼ライブ打ち上げ兼星歌の誕生日祝いは無事に終えることになった。

 今日のクリスマスライブが、結束バンドにとって今年最後のライブ。

 STARRYでは、8月から毎月1回。秀華祭のライブと、新宿FOLTでのライブが1回ずつ。合計7回のライブをした。

 結束バンドの全員にとって初めて続きの1年だった。

 そして、それぞれが決定的に心奪われる人を見つけた1年だった。

 ──未確認ライオット、デモ音源審査の〆切まで、あと4か月。

 結束バンドの最初の年が終わって。

 そして、次の1年が始まる。

 

 









★サブキャラプロフィール☆
《伊地知星歌》
 ライブハウス《STARRY》の女店長。結束バンドリーダー、伊地知虹夏とは姉弟の関係にある。
 齢29。あ? ちょうど今回で30だと? しばくぞ虹夏ゴラァ。
 ぬいぐるみ、JK、陰キャな女の子など可愛いもの好き。
 ぼっちちゃんを猫可愛がり。おいやかまし喜多ぁ、ぼっちちゃんを怖がらすなゴラァ。
 公私を分けつつ、分けきれない私の部分が結束バンドを応援して止まない家族思い。ぼっちちゃんを助け、リョウをしばき、虹夏のフォローを忘れない頼れる大人。
 結束バンドが男女混合バンドとなることは、虹夏とリョウの始まりから覚悟はしてた。でも虹夏から《虹夏→ひとり→郁三》の件を聞いて、そこに《郁三→リョウ→虹夏》の件を当てはめて作中逸早く《地獄の結束バンド》を知ってしまい、阿鼻叫喚し戦慄した。でも虹夏のフォローは忘れない。
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