2月。結束バンドの新曲が、ひとりとリョウによって完成した。
曲名は《グルーミーグッドバイ》。スランプを抱えたリョウが依然苦心しながら、それでも曲に向き合うことを止めないで、1ヵ月もの間頑張って作り上げた結晶だった。
当然ひとりも歌詞づくりに尽力した。同性で同じ陰キャとして距離が近い、ということもある。ひとりの存在はリョウにも頼もしくて、そうして〆切前に、レコーディングの余裕をもって作ることができた。
何はともあれ、新曲は出来上がった。そしてデモ音源審査に向けて、〆切までにレコーディングをすることになった。
レコーディング担当はPAさん。それぞれ決められた期限までに、ある程度自由なスケジュールでPAさんと予定を合わせていく。まずはひとりが、次に郁三がギターだけ。その次にリョウ、そのまた次に虹夏。多少作業が止まることはあっても、全体的には滞りなく、余裕を持ったうえで行程は進んでいる。
けれど郁三のボーカルだけは違った。
「……どうですか? PAさん」
スタジオから、汗を拭きながら出てきた郁三は、ちょっとだけ疲れた様子で声をかけた。そこには星歌とPAさんがいて、機材を調整している。
「うーん、そうですねぇ……」
PAさんは、ヘッドホンを付けて郁三の歌を確認する。新曲グルーミーグッドバイを。
そして、一言。
「最初のと変わりませんね」
「えー……」
郁三はうなだれた。
「参考までに。喜多くん、今何を変えたんですか?」
「えーっと……今までは、音の高低をとにかく意識してたんですけど。でもそれだけじゃだめだなって。ちゃんと、
「それって、つまり歌詞を意識してるってことですか?」
「あ、はい」
「うーん……」
PAさんは珍しく腕を組んで悩んでいた。
郁三は、このレコーディングをしばらく続けている。正直、仕事として業務をこなしているPAさんの労力を圧迫するくらいには。それでもPAさんは快く引き受けてくれている。だから、郁三は感謝してただひたすら迷惑をかけ続けている。
郁三はまだボーカルに対する答えを見つけられていない。ヨヨコと話をして、ひとりのことを知れば少しは解決するかもと思って初詣に行った。八景島にも行って、ひとりが住んでいる神奈川県の空気を吸った。
それでも解決はしなかった。実際のところ、その時はまだ新曲が完成してなくてそこまで焦っていなかったこと、それで八景では遊びつくしてしまったことや、ひとりが形態変化してそれほど会話にならなかったことも理由にあった。
だから郁三はまだ自分のボーカルに納得がいってなかった。
「喜多くん、レコーディングの場はもう本番。できていることのミスはともかく、小手先の技術を理解してもどうにかできるものではないと思います」
「うーん……」
「ここから先は、喜多くんが考えている通り、意識の問題。だとすれば回を重ねることはむしろがんじがらめになっちゃうと思いますよ?」
「そうですかね」
「はい」
その様子を隣で伺っている星歌は思った。
(こいつ上手いこと言いやがったな)
別に郁三のためを考えていないわけじゃなくて、考えているからこそドツボにはまらないようにしている。けど、それによってPAさん自身がこの業務から解放されるのが何よりの理由だった。
「大槻さんに言われたんです。歌詞に入ってる作詞者の魂を、自分たちの根本を知るといいって」
「あのSIDEROSの。なるほど」
「あー、そういや喜多、あの子と色々話してたもんなあ」
「はい、店長の30歳の誕生日に」
「お前わざと言ってんだろシメるぞ」
「まあそれは置いといて。喜多くん、聴いてみてください」
PAさんからヘッドホンを受け取った。
自分の、ある時を境に「いまいち上手くない、覇気がこもってないな」と感じるようになった、自分の軽い歌声。
一曲分聴くまでもなかった。やっぱり軽い。最初のサビの途中ですぐにヘッドホンを外した。
郁三は脱力したように笑った。
「……ほんと、変わってないですね」
「ですね。喜多くん。その大槻さんの言ったように、まずは歌詞と後藤さんを知ることから始めましょう。〆切まで1ヵ月以上時間もありますし、焦るにはまだ早いですよ」
「……はい」
「手始めに、まずは二人で遊びに行ってはどうですか? 高校生のデートなんて、高校生の間にしかできないんですから」
心が泣いてるPAさんだった。
「あ、でもひとりちゃんとはもう一回遊びに行く約束はしてます。日付とかは調整中なんですけど」
「おー、さすが高校生」
「ぼふっ」
『店長?』
飲んでたジュースをこぼした星歌に、郁三とPAさんが異口同音に問いかけた。
「どうしたんですか?」
「い、いや……喜多、ぼっちちゃんと遊びに行くのか?」
「はい。ひとりちゃんが誘ってくれたんです。歌詞の相談も兼ねてって」
「ヘ、ヘー。イイジャン」
「声が上ずってますよ?」
地獄の結束バンドを知り、そして虹夏の姉である星歌としては、胃がキリキリする以外の何物でもないことだった。ひとりと郁三のデート(仮)は。
「こっこんにちは……」
ひとりがSTARRYにやってきた。
「あ、噂をすれば。PAさん、何度も無理行ってすみません」
「いえいえ。今日はここまでにしましょう。後藤さんと調整してきては?」
「はい! おーい、ひとりちゃーん!」
元気に犬みたいにひとりに近づく郁三を見る、星歌とPAさん。
「元気ですねぇ、喜多くんは」
「……そうだな」
「後藤さんを取られて悔しいんですか?」
「んなわけねぇだろクビにすんぞ」
「またまたぁ。お似合いだと思いますけどね? 喜多くんと後藤さん」
台風の日ライブの打ち上げの頃から一貫した意見を持ってるPAさんだった。
「それは……そうだけどよ。だから困るんだよ」
「はい?」
星歌は遠目にひとりを見る。
注意深く見ればわかる。最近のぼっちちゃんは、郁三を前にして極端に変形することが少なくなってきた。
つまりひとりが際限なく可愛くなってきたということだ。
それは虹夏も理解しているようで、ぽいずん♡やみが来た時には何とか持ちこたえられていた虹夏のメンタルが、また少し揺らぐようにもなっていると、星歌は考えている。
無理もない。なんせここ数か月でどんどん可愛くなっていくひとりは、ずっとたった一人しか見てないのだから。
星歌は……めちゃくちゃ心配だった。いろいろなことが。
そんな会話を知らないひとりと郁三は、今日も今日とて無邪気に話す。
「あっ喜多くん……今日は練習、ですね」
「うん。今日もよろしくね、先生」
「う、うへへぁ……」
「そういえば、今日は先輩たち来ないんだっけ?」
「あっはい。特に用事があるってわけじゃないみたいなんですけど」
「リョウ先輩は作曲にレコーディングって激務だったし、ゆっくり休んでほしいかな。虹夏先輩にしても俺たちを引っ張ってくれてるし、先輩の励ましがなかったらリョウ先輩も動けなかったかもしれないし」
「はっはい。ゆっくり休んでほしいです」
二人してスタジオへ。もちろん星歌から許可はとってある。
ギターの準備をしつつ、ひとりは言った。
「あっあの、喜多くん」
「なに?」
「初詣の時に話した、遊びに行くのなんですけど……祝日……23日はどうでしょう」
「23日ね。うん、空いてる。あれ、てかこの日はSTARRYも休みか」
「はいっ。だから、都合がいいなと思って」
「いいね」
郁三は快活に笑った。ひとりも嬉しそうに笑った。
「そ、それで……場所、何ですけど」
「うん。遊びに行くけど、俺としてはぼっちちゃんのことを知りたいってのもあるし。やっぱりまた家の近く?」
「あっ、でも、せっかくだし、ちゃんと遊べるところで遊びたいなって。き、喜多くんと遊べるのなんて……せっかくだし」
「そっか。どう? ひとりちゃんは行きたいところはある?」
そう聞かれて、ひとりは服の袖をぎゅっと握った。
「ずっと、考えてたんです……鎌倉はどうかなって」
「鎌倉?」
「喜多くん、江ノ島に行った時……」
「あ」
言われて郁三は思い出した。8月末の弾丸江ノ島小旅行。体力が有り余っていた郁三は、事あるごとに「鎌倉に行きたい」と駄々をこねていた。体力のない他の3人が全力で拒否していたから行くことはなかったけど。そういえば、リョウにもそうやって「鎌倉行きましょう!」とか言ったような気がする。
「ひとりちゃん、覚えててくれてたんだ……!」
「あっはい……!」
もともと、結束バンドでの時間が大切なひとり。郁三のことを好きだと自覚する前のことでも、よく覚えていた。
そして、郁三が言った『鎌倉デート』に、ひとりはあこがれを覚えた。
「でもひとりちゃん、祝日の鎌倉なんて絶対に人が多いよ。大丈夫そう?」
「そ、そこは何とかガンバリマス……」
「うーん、ひとりちゃんに無理させるのもなぁ……」
ひとりは勇気を出す。
好きな人のためなら、疲れることも麻薬みたいに心地がいい。
「む、無理、したいです……喜多くんと、遊べるし」
そして女の子にそこまで言われて、その想いを無碍にするような郁三じゃない。
満面の笑顔で応えた。
「うん、それじゃ行こうね! 23日、鎌倉!」
────
今日の虹夏はひたすら家事に努めている。
年末年始は忙しかった。STARRYのライブもそうだし、新宿FOLTでのクリスマスイブのライブもあった。そこからゆっくりできたのは初詣で、その後はリョウがバイトに来ないので虹夏がヘルプをしていた。そこから郁三とひとりと一緒にリョウの家に行って──。
「まずは食器洗いだ」
朝食後の食器、それと昨日またきくりが来て深夜に星歌と駄弁っていたのでその分の酒瓶とかも一緒に洗う。ちょっとだけ虹夏のこめかみが動いた。
「……次は、洗濯物」
自分の服と、星歌の服を一緒に洗濯機へ。15年以上も一緒に過ごしてきた家族だ。星歌の下着とかが眼に入るけれど、恥ずかしさなんてものがなければ反抗期みたいな余計な感情もない。ひたすらに無。無であることすら意識しない。
のだけど。
「……これ、廣井さんのじゃん」
星歌のものとしては見覚えのないキャミソールが出てきたのでつまんだ。きくりがよくスカジャンの下に着ていたキャミソールだ。
あの人、忘れて帰りやがったな。知ってて置いていった……てのはなさそうだ。とういうか、じゃああの人今何着てるんだ。ちゃんと姉ちゃんの服借りたんだろうな? 夏場はともかく今真冬だし凍死するぞ。
「……下着まで置いてくのは困るんだけど」
これで『あはっ弟君気づいたー? お姉さんのじゃない大人の下着なんて男の子には困るかなーごめんねー!』とか泥酔しながら言うもんだから困る。
「PAさんならまだまあ……なんだけど廣井さんだもんなぁ」
他に誰もいないのでちょっとやべぇことを言い放った虹夏。
ともかく、自分と星歌ときくりのそれらを全部洗濯機に突っ込んで、適当に洗剤をぶっかけてスイッチオン。いつもより量の多い洗濯物に、洗濯機が困ったように震える。
「……次は掃除」
掃除機をかける。リビングから。きくりのまき散らしたティッシュとか、星歌の夜食の残りとかが残っている。それらはゴミ箱へ。窓を開けて、酒の匂いのこもった部屋を開放する。
掃除機の音が聴覚の全部を覆いつくした。しばらくの間無心で床を見る。
一度掃除機を止めて、今度は雑巾を手にして水場へ。
「うぉ、冷たっ」
冬場は本当につらい。もう何年も続けてきたことだから、今更弱音なんてものは吐くこともないけれど。でも、ちょっとつらい。
「外出るの本当にきついよなぁ。電車が多いとはいえ、2時間かけてるぼっちちゃんはほんと凄いや……」
バンドをしてると指先の調子は慎重に管理しなくちゃならない。なんとなく、郁三はしっかり手入れしてそうだと思った。逆にひとりは、ああ見えて体が強そうだから問題なさそう。リョウは……。
「リョウ、弱いからなぁ。絶対に入念にしてそうだ……」
無心。無心。
無……。
『私とデートして』
「っ……雑巾がけ、終了!」
雑巾がけ終了。
「でっと。僕の部屋も掃除掃除……」
自分の部屋の扉を勢いよく開ける。掃除機と濡れた雑巾と乾いた布を持って。
ただし、自分の部屋の癖に思ったように手早く掃除、とはいかない。
「ほんと、リョウ。なんで僕の部屋に大量の私物を……」
机の上を見る。僕の学校の教科書や参考書に混じって、リョウの教科書が一つ。これ昨日の授業科目じゃん、どうしたんだよ。
本棚を見る。リョウの漫画が20巻くらいずらりと並べられてる。20巻だよ? 1作丸ごとだよ? 棚の一つ丸々リョウ一色だよ。
テーブルの上。僕よりリョウの方がいわゆる男物の趣味が強くて、なんかよくわからないスペースシャトルの模型がある。僕の私物? ドラムが趣味だしないよ。はは。
布団の上を見る。自分の枕と毛布や掛布団。さすがにここは僕のスペースだから死守しないと……あ、リョウのモバイルバッテリーがあった。
「まったく、どこから手を付ければいいんだか」
年明け以降はまだリョウが部屋にやって来たことはないから、ある程度は虹夏が勝手に物の配置を動かしたりしているのだけど。
「もういいや。適当に掃除してやる。あとで文句言ってきても知らないよ」
『お願い……虹夏』
「……知らないよ」
自分の部屋の掃除を始めた。部屋の掃除には、食器洗いよりも、リビングの掃除よりも、時間がかかった。
それが終わると洗濯機の震えが止んで、自分の服だろうが星歌のだろうがきくりのだろうが構わず干してやった。
一通りの家事を終えて、それでも気が付けばもう昼食の時間も近づいてくる。けどすぐに取り掛かる気にはなれなくて、虹夏はリビングのソファに仰向けに寝転がった。
「ふぅ」
ぼふっと漫画みたいな音が鳴る。ソファが凹んで、虹夏が沈み込む。いまいち信頼しきれない心地よさ。
「……お昼ご飯食べたら、トイレ掃除に風呂掃除」
今日は疲れる。たまの一日休みだから家丸ごと掃除したい。けど、いつもより進みが遅い。
スマホが鳴った。中身を確認する。ロインだ。学校の友達からだった。
適当に返して、そうしてトーク画面をスライドさせる。
どうしても目に付くのは結束バンドのロイン。
「……」
一番新しいのは郁三の個人ロイン。次に結束バンド。ちょっとした用があってひとりともした。
結束バンドメンバーで、最近で一番連絡をしないのはリョウだった。
いつもは、リョウからひっきりなしに独り言でロインが来るのだけど、虹夏も適度に無視したり、適度に相槌を打ったりとしている。そもそも虹夏とリョウは学校にSTARRYと一緒にいる時間が長いので、ロインをする必要がほとんどないとも言えるかもしれない。
そして年始のリョウのバックレがあって……
『曲が作れたら……私と、デートして』
あの時のリョウの言葉が、虹夏の鼓膜に張り付いて離れない。
(リョウ……)
虹夏はリョウのことを良く知っている。
親への反抗心から始めたロックが好きで、その経緯と同じくらい素の性格が人と変わっていて、変人だと言われると喜ぶ。自分と同じインドア派、そして自分以上に一人が好きな性分で、郁三のようなド陽キャは苦手。
けれど人のことは嫌いじゃない。むしろ除け者にされると寂しがる。『ヤマアラシのジレンマ』というほどに攻撃性はないけど、虹夏の人生で会った人の中では、その言葉が今のところ一番に似合う性格をしている。
そして理由はわからないけれど、あの時のリョウは精神面のスランプの頂点にいたってわかる。バイトにも学校にも来ないで、虹夏のロインにすらまともに応えないで。《カラカラ》の時はあっという間に作詞作曲を仕上げた癖に、この《グルーミーグッドバイ》は恐ろしく時間がかかった。
リョウが自分で言ってた『グランプリ獲れなかったらバンドが解散するんじゃないか』という心配はたぶん本当だ。
『じゃあ、誰かが傷ついたら?』
『誰かが、傷ついたら、それでも結束バンドは続けるの?』
この言葉の意味が、虹夏にはわからない。
「誰かが傷つくって、誰のことを……」
バンドで有名になるなんて、そもそも不安定な夢だ。公務員とか堅実な職業じゃないし、音楽で食べていけるようになるだけでもとにかく難しい。加えて人気の低迷、メンバーの不祥事、メンバー同士のいさかい……店長の星歌と一緒にライブハウスでバイトしている虹夏は一応はわかっている。
(僕だって少し無謀な夢だなって思ったよ。でもそれをぼっちちゃんが助けてくれて──)
リョウを誘って、郁三が引っ掻き回したけどその結果ひとりが虹夏の目の前に現れた。台風のライブの日。あの日は運命だと思った。
(え……まさかリョウ、僕がぼっちちゃんを好きだってこと気づいてるの……!?)
衝撃の可能性に気づいて虹夏は跳ね起きた。視界が天井から壁に切り替わる。
初恋をしてからもうすぐ半年。恋愛経験なんてないから変な工作も状況掌握もできる自信はなかったので、ひたすら隠してきたのに。
「思いっきり……ばれてた?」
マジかよ。マジかよ……! マジかよ!?
「ああああああ!!??」
悶え悶えて、再び虹夏は仰向けにぶっ倒れた。
昔馴染みに恋心がばれるとか拷問以外の何物でもない。
「ああああ」
思い解せば、秀華祭の1日目もなんかそれっぽいこと探られたような……。
「ああああ」
ただでさえ気まずかったギターヒーロー宅録後の時なんて、リョウなら探ろうと思えば簡単に探られるかも……。
「ああ……」
地、獄。
「いやいやいや……! ならリョウ、絶対からかってくるだろ……!」
普段からやれ「虹夏ちゃーん」だとか「背が変わらないねー」とかしつっこく言ってくるリョウのこと。からかうつもりなら絶対「ぼっちとデート楽しかった?」とか言ってくるだろうに。
「まさかそれか? 『デート』なんて言ったのも僕をからかって……?」
と、結論付けたいけど。結論付けたほうが楽だけど。
自分がひとりを好きなことと、リョウのスランプは関係ない。
「……問題から逃げるな、伊地知虹夏。問題はあの時のリョウのことだろ」
結局、『デート』って言葉は何のために……。
『どこに行くの?』
『秋葉原。
『私も行く』
『そう言うと思った。早く準備してよ』
大体この会話が通常運転だ。
それに『デート』なんていう言葉を使うとしたら、リョウはいつもの軽い空気でからかってくるだけだ。この間は明らかに追いつめられた感じだった。
「……」
気分転換なら「遊びに付き合って」でいい。
相談事があるなら「虹夏にはわからないよ」なんてことは言わない。
結束バンドじゃなくて自分だけに相談がある? ならストレートにそう言えばいいのに。
思い当たる意図が
なら、デートは……。
「……そのままの意味?」
スマホを弄る。『デートとは』でグルグル検索。
──男女が日時を決めて会うこと。
──交際中又は互いに恋愛的な展開を期待していて、日時や場所を決めて会うこと。
「だよね、だよね。別に男と女だからって別にそういう意味がないとデートなんて言わないし──」
脳裏に閃く言葉。
──
「…………えっと……」
なんで? なんで? なんで?
持っていたスマホがまた振動して、驚いて虹夏は手放した。スマホが顔面に落ちて痛い思いをする。
「ってて……えっと……」
振動の原因は通知だった。通知はロインの。ロインの送信相手は……。
今、虹夏のことを一番惑わせている人からだ。
────
自分の部屋で、リョウはスマホを弄る。
気ままに繰り返してきた、虹夏との連絡。
『虹夏。デートの日付、決めていい?』
『いいよ。遊びに行くの、いつにする?』
いたって普通の会話。いつもしそうな会話。それを画面の向こうの虹夏はどういう顔でしているのか。
きっと、悩んだ末に『デート』とは書かなかったんだろう。
「……にじかのばか」
リョウはメッセージを打ち込む。
『23日。STARRYも休みだし、ちょうどいいでしょ』
『だね。それでどこ行く?』
『目星は付けてある。鎌倉』
『鎌倉? 絶対人多いでしょ。リョウ大丈夫なの?』
『大丈夫。古着屋も多いって言ったの、虹夏でしょ』
『そうだっけ。でもリョウが遠出したいだなんて珍しいね』
『いいじゃん。デートなんだし』
この発言の後、間があった。
『わかった。リョウが提案したんだし、遅れないでよ』
『遅れないよ』
リョウが呟いた。
「遅れるわけないよ……」
どうして、個人的にはそこまで魅力を感じない鎌倉を提案したのか。
虹夏が江ノ島の時に言ったからだよ。
『いいじゃん、行ってきなよ。鎌倉、古着屋たくさんあるみたいだよ?』
『喜多くんと二人で。鎌倉行ってくればよかったのに』
郁三が自分に向けて「デートしましょう!」と言った鎌倉。たぶん、あの頃から虹夏はひとりのことが好きで、自分と郁三を少しでも遠ざけようとしていた。
だったら、虹夏のお望み通り。デートをしてあげるよ。
正直、虹夏たちが家に来た日は冷静じゃいられなかった。
虹夏やひとりの暖かい励ましと、虹夏の結局私のことをわかっていない言葉で、感情がめちゃくちゃになった。その末に、気が付いたら『デートして』と言ってしまっていた。次の日は何も手がつかないくらいに悶えてしまった。けれどもう、引き返せない。
リョウが、表しきれない気持ちを抑えて、そして、メッセージを打った。
『忘れないでね。23日、鎌倉』
第2部「星屑染まるライオット」も大詰めまでやってまいりました。
もうすぐ、第3部。そこに至る……Wsideデート編
19話の作者「これ以上の地獄はないと信じたかった」
今話の作者「この先に希望があるのかって? さらなる地獄かもって? それは…進み続けた者にしかわからない」
30話の作者「森の子ら」
31話の作者「憧憬と屍の道」
以降の作者「悪魔の子」
未来の作者「これは、お前と某スレ民が始めた物語だろ」
ネタがわからない人、ごめんなさい…ごめんなさい…! なんでかわかんねぇけど…やりたかったんだ…どうしても…。
《あのバンド》を、誰に向けて歌いたい/演奏したい?
-
ひとりちゃん
-
虹夏くん
-
リョウさん
-
郁三くん
-
虹夏ちゃん
-
郁代ちゃん