リョウがきくりに連れられた場所は居酒屋だった。しかも以前初ライブの後に打ち上げで行った居酒屋。
まさかのきくりとサシ飲み。リョウは、まず最初にお金の心配をした。
「……廣井さん」
「んー?」
「私、お金ないです」
「心配しないで。私も大して持ち合わせないから」
「心配、とは?」
ひたすら正論、というか正しい心配だった。
きくりに連れられたリョウは、久々に下北沢で遊んだ。ハードオフに寄ったり、古着屋を巡ったり。残念ながら喫茶店には寄らなかったけど。普段は一人行動が好きなリョウなのだけど、ファンであるきくりだし、今はいろいろあって疲れているし、悪い気はしなかった。
そうして日が暮れて、夜になって、きくりに連れられて居酒屋へ来て。そもそもお金を使わないムーヴをしていたし、相手がきくりなのだから予想するのが当たり前の状況だった。
それでも、きくりは構わずリョウを誘って、座席へどかんと座る。四人席だ。そしていきなり生ジョッキを注文。リョウも仕方なく、ジュースを頼む。
二人は今、四人席で対面している。
「なに~? リョウちゃん、いつもとは違って思いっきりがよくないねぇ」
「……もちろん、使いたいときは使いますけど」
普段は、郁三が奢ってくることが度々あった。そうでなくても、最後には、虹夏に助けてもらえた。
打算的な意味じゃない。特に虹夏に助けてもらうのは、本当の意味での安心感があった。
それがない。一応、一人用のお金は持ってきているので最低限は払えるけど、心がどうしても落ち着かない。
一体全体、どうしてこうなったのか。
なにが原因なのかは、リョウもわかっている。
「廣井さん……今日は、どうしたんですか?」
きくりと話すのは楽しい。でも、それよりも心配事の方が勝る。だから道中はともかく、面と向かって腰を落ち着ければ自然口が動いてしまう。
「ぼっちか虹夏か……誰かから、聞いたんですか?」
「うん」
きくりはさもあっけらかんと返した。
「ごめんねー。なんとなくだけど、みんなのことを知っちゃって」
「……」
「それでさ、先輩からもリョウちゃん、落ち込んでるって聞いたからね。乙女同士、ベーシスト同士、バンドマン同士? たまには乙女トークもいいんじゃないって」
ひたすら似合わないきくりだった。店員がビールとジュースを運んできた。
それをあおって、それでもリョウが黙っているのできくりが喋り倒す。
「私も喜多くんとどっちかって言ったら虹夏くんかな。面倒見てくれそうだし。あはは、やっぱりうちら気が合うねぇ」
「……」
「でも、女子からすりゃまずは喜多くんに目が行くんだろ~ね~。お子ちゃまはわかっとらんのよ。ご飯作ってくれて優しくて家庭的な男の子の素晴らしさってやつが」
「……まあ」
「実際、どうなの? 虹夏くんの人気は」
「まあ、人気です」
「でもリョウちゃんがアンテナ張って女子を近づけさせなかったと」
「……」
「乙女だねぇ~、可愛い」
「……」
「で、リョウちゃん」
「はい」
「喜多くんのことはどうなのさ~」
「……」
リョウは考えた。さすがに郁三がきくりに事情を吹聴したわけでもないだろう。でも先日の郁三との一件があったからこそ、少し身構えもする。
「喜多くん、好きですオーラ隠さないもんねぇ。悪い気はしないんじゃないの?」
「……」
やかましいこともあるけど。
「いやー、少女漫画のヒロインしてるね~。幼馴染の家庭的男子と学校のイケメンとか」
少女漫画のヒロイン。そうだと言ってしまえば、そうなのかもしれない。
でも現実はそう簡単にはいかない。都合よくイベントは起こらない。ヒロインは自分じゃない。
そして少女漫画には、報われないヒロインもいる。
「でも……幼馴染のヒロインは、本当のヒロインには勝てない」
「ま、それが相場だよねぇ。幼馴染は負けヒロインの代表例だって聞くし」
とっことんあっけらかんとしていた。一見してリョウを励ます気がないように見える。
だけどそれがきくりの平常運転で。何かを伝える時、いつも目が開く。
「でも、出る漫画を変えれば勝ちヒロインだ」
「……」
「変えるつもりはないの? ヒロイン属性、幼馴染から憧れの先輩にさ」
郁三の想いに応えるつもりはないのか。
「できないです」
「どうして?」
「私は虹夏が……好き、です」
「喜多くんは?」
「別に、後輩です」
「そだねー。後輩だ。ギター始めてまだ1年たってないんでしょ? 前途有望な少年だねぇ」
「それはロックの話で」
「好きじゃなきゃ別に付き合っちゃいけないわけじゃないでしょ」
「……」
何を言っているのだろうか、とリョウは考えた。
きくりは何を言いたいのだろう。虹夏が好きで、でも負けヒロインな自分を慰めたいのか。そうと言いながら、郁三のことを意識させて。
「傍から見れば、別に断る理由はないと思うけどね」
「……」
「気づいてる? リョウちゃんの喜多くんを話す時の眼」
「眼、ですか」
「うん。けっこう、いい顔してんだよ?」
「それは……」
思い当たる節がないわけじゃない。
もちろん陽キャの熱が苦手で、江ノ島に行った時なんかはアウトドアの行動力に当てられたし、趣味趣向や性格からしても陽キャとは反対方向だ。
でも郁三のことは認めていないわけじゃない。逃げたところをちゃんと反省して、必死でくらいついて、秀華祭ではアドリブなんてやってのけてひとりを救った。今も順調に成長してる。ひとりや自分に指導を受けたことは無駄じゃなかった。
だからこそ、思わずにはいられなかった。ひとりが、郁三が、もっと嫌な奴なら。こんな風に思い詰めることもなかったのに。
でもそうだったら結束バンドは成り立たないし、そもそもこう思う。自分がもっと嫌な奴ならよかったのにって。
今、首の皮一枚で自分の心が死んでいないのも郁三のおかげだった。虹夏にも、ひとりにも、リョウの誰にも持ち合わせない前向きさ。あれがなきゃ、もう結束バンドは結束バンドじゃない。郁三は結束バンドの中で必要な個性になった。
今ではまあ、郁三なら、あのノリも嫌いじゃない──
「……」
リョウの思考が止まった。
きくりが笑った。
「リョウちゃんにとって、喜多くんは、大事な後輩だし、大事な仲間でしょ。恋にはならないにしても、愛にはならないの?」
「恋じゃなくて愛ですか」
「そそ。確かに『恋は下心、愛は真心』なんていうけどさあ。上下関係を付けられるようなもんじゃないと思うけどね。ま、女子高生相手に何説いてんだってハナシだけどねー! あはは」
「……」
少し身震いした。
自分はどうなのか。
郁三を前にして、郁三の気持ちには応えられないと確かに言った。
それは虹夏が好きだからだ。数日会えなければ寂しくなるくらい、虹夏のことが好きだからだ。
でも、郁三自身のことはどう思ってる……?
「……」
「まあ何が言いたいのかっていうとさ。好きなだけが恋愛じゃないよってことだよ」
きくりも何かを強制させるつもりはない。自分の意見を押し通すつもりはない。
ただ、虹夏の時と同じだった。強い想いに振り回されては、見えるものも見えなくなってしまう。
だから、きくりは敢えてリョウを惑わした。
そのうえで、こう言った。
「それに今日の主役は私じゃないしね」
「え」
「──待たせたな、廣井」
いつの間に居酒屋の中に入ってきたのか。伊知地星歌が、リョウの了解も得ずに四人席の一つを陣取ってきた。
リョウの正面にはきくり。隣には星歌。気持ちとしては挟まれた形だ。
「どもーっす」
「店長……」
「悪いな、リョウ。呼び出して」
「……奢りならいいけど」
「あー、いいよ奢りで。たまには店長の甲斐性を見せやるってんだ」
「店長に奢ってもらえるの初めて……」
「そりゃお前、いっつも虹夏とぼっちちゃんと喜多からお金借りてっから奢るわけないだろ」
「郁三は奢ってくれるし……ぼっちは貸してくれるし……虹夏は許してくれるし」
「いいわけないだろ」
返す言葉もなかった。
「店員さんビール追加ねー!」
「廣井は自腹だからな」
「焼酎も出して―!」
「聞いてんのかてめー!」
あれよあれよと料理が出されて、四人席なのに3人の目の前が居酒屋料理でいっぱいになる。
しばらく、きくりと星歌が世間話に興じるのに耳を傾ける。
それは普段だったらリョウも大好きなロックの話だったり、ライブの裏話だったり、新宿FOLTの話だったりする。
ただ、今のリョウにその余裕はない。
「店長、なんで私を呼んだの」
「そりゃ話をするためだよ」
「なら早く話して」
「少し待ってくれ」
「待てない」
「待ってくれってば」
「そう言って、酔っぱらうだけ」
「いいんだよ。酔わなきゃ……恥ずかしいことなんて言えっこないだろ」
リョウが
「……なんの、話?」
そんなことは聞くまでもない。けどストレスに、きくりとの対面に、トドメの星歌に、鎌倉の時みたいな疲れを感じる。
「今のお前らを見てるとな。少しは外野が首を突っ込んだ方がいいって思った。それだけだ」
「余計なお世話」
「首を突っ込むだけだ。体ごと押し入って何かをするつもりはねーよ」
「虹夏とぼっちのために、虹夏を諦めろって?」
「お前……」
「店長、ぼっちのこと大好きだもんね。虹夏とぼっちがくっついた方がいいんでしょ。盗撮するくらいだし」
「ばっ」
一瞬周囲の空気が淀んだ。客の何人かがリョウたちの席を振り向いたから。
きくりは爆笑してた。ゲラってた。
「えー!? 先輩ぼっちちゃんにそんなことしてんの~!?」
「ちげーわこのクズベーシスト共! ちゃんとMVに使わせただろうがぁ!」
ひとしきり怒鳴って、他の客も有事ではなさそうだなと判断されて、息切れした星歌は敗北者みたいに疲れ果てた。
「ったく、人がせっかく真面目な話をしようとしてんのに」
酔った方がいいんだから、とことん酔えばいい。リョウは投げやりに思った。
しばらくして、星歌が言う。
「私と虹夏の母親のこと、虹夏から聞いたか?」
「……交通事故で亡くなった、てことだけ」
「虹夏の夢の話は?」
「聞いたことない。けど虹夏を見てればなんとなくわかる」
「そうか」
虹夏と星歌の母親の件は、小学校低学年の時。その後虹夏はドラムを始めた。虹夏とリョウが出会った──というよりお互いのことを認知し始めたのは高学年の時だ。
小学校、中学校、そして高校。二人は、多くの時間を一緒に過ごしている。
「お前は虹夏の仲間だ。公私はともかく……お前が虹夏にとって大事なのなのは確かだ」
リョウは自分の恋心を今まで誰にも明かしたことがなかった。学校でも、バイトでも、他の場所でも。学校だとさすがにどれだけの人にばれているか、なんてことは予想がつかなかったけど。
「……店長は、いつから気づいてたの」
「中学の頃には。STARRYもまだ始めてないのに、虹夏の部屋に入り浸ってただろ。気づかないとでも思ったか」
「ぼっちも郁三も気づかなかったのに」
「年季が違うんだよ、年季が」
「そうだよ~年若い乙女と私たちじゃ経験が違うんだよ経験が~」
得意顔のドヤ顔二人。リョウはちょっとムカついた。
なので聞いてみた。
「二人とも恋愛経験は?」
『………………』
居酒屋の室温が2℃下がった。
「ト、トニカクダナ」
星歌の声が今日一頼りなかった。
「誰が誰を好きになることが駄目だ、諦めろだ頑張れだなんて、私たちに言えるわけがない。お前がロックを好きで大切なのと同じように、恋愛だって大切なことだろうから」
「……」
「さっき、ぼっちちゃんの方が嬉しいのかって聞いたよな? 嬉しくとも何ともねえよ」
「うそだ」
「嘘じゃない。そもそもぼっちちゃんはどう転ぼうが可愛いだろうが」
『……』
リョウときくりが沈黙した。
星歌の眼が
「虹夏がどうするのか。それは虹夏の問題だ。私は私の気持ちを言うだけだ。別に虹夏ど誰がどうなろうが、言うことじゃない」
星歌は、少し顔を赤らめていた。それが酔いのせいなのか、それとも気恥ずかしさからくるのかは、表情だけじゃわからない。
「それで私の想ってることだけど。虹夏もぼっちちゃんももちろん、リョウのことも、喜多のことも。可愛くて大切だよ」
「でも、それは虹夏のバンドのメンバーだから」
「そりゃな。虹夏のことが大切だから、その友達や仲間が大切だ」
「……ブラコン」
「うっせーよ! クズ共揃いも揃ってブラコンブラコン言いやがって!」
紛れもない事実だった。
「STARRYで店長やれてるのも悪くない。充実してる。発見があるし、新しい出会いがある」
「……何の話」
「でもな……私だって後悔してることはあるんだ」
リョウは首を傾げた。
「恋愛で?」
「この流れでそうはならねえだろ!? ……でも、人と人との関係でだ」
きくりがちょっとしょげた。
「恋愛事じゃないのか」
「お前席外してもらうか」
「嘘々、先輩は孤高の人ですもんね~」
「少しは真面目に話させてくれよ……なんでお前らが集まるとこう話が脱線するんだ……」
真剣な空気でもなんでも、それがリョウときくりの姿だった。
星歌はため息をついて、そして肘をついて、そして手で顔を覆った。
「はぁぁぁ……」
長い長いため息。
そして。
「母さん……亡くなる直前な。言ってたんだよ。『世界一仲のいい姉弟でいてね』って」
リョウだけじゃない。きくりも知らないことだ。前にライブの日の打ち上げの時、きくりも星歌がバンドを辞めた理由は知らない。
今、星歌の心の内を初めて聞いた。
星歌と虹夏の母親は、おっとりとした女性だった。同時にしっかりとした母親で、「おねえちゃんが遊んでくれない」とぐずる虹夏をよく慰めていた。当時大学生、ちょっとした反抗期の星歌に対してもほどよい距離感を保っていた。
母親が亡くなる一か月前。星歌は虹夏と喧嘩して、その頃組んでいたバンドのメンバーの家に転がり込んでいた。そこに母親が尋ねてきて、世間話の後に言った。
「……はっきり覚えてる。カフェで話したんだ」
──もう虹夏を泣かせちゃだめだよ。
──世界一仲のいい姉弟でいてほしいの。
そしてさらに。
「で、私はそれに『うん』って言わなかった」
『うん』と言わないで、適当に茶を濁した。恥ずかしかったから。
──虹夏にライブ、誘ってあげてね。本当はすごく行きたがってるんだよ。
──今度はお母さんのことも呼んでね。いつか星歌の音楽、聴いてみたいな。
「当然だよな。後悔するに決まってる。もっと親孝行すればよかったって。あの時、もっと話していればよかったってさ」
何よりも。
「なんで、あの時『うん』って言ってあげなかったんだって」
星歌は視界の正面にリョウを捉えた。
大学の同級生と、当時のバンドメンバーや拠点としていたライブハウスの人たちは知っている。星歌の当時のことを。
もう9年もたった。昔のことだ。
後悔の叫びは、弱音になった。悲しい嗚咽は、ため息になった。事故を起こした奴への怒りは、諦めになった。
全部、弱々しくなった。でもたまに思い出す。いつだって、楽しかった思い出と同じように。悲しい記憶も隣にいる。
だったら、できることは寄り添うこと。
「確かに、虹夏にとって今までリョウは妹みたいなものだったかもしれないよ」
唐突な話題転換。それに本題、しかもリョウが聞きたくない類の言葉だ。リョウの肩がわずかに震えた。
「でもそれはお前だけだ。私は姉。喜多は男友達。ぼっちちゃんは……まあ、あいつにとってどうなってるのかは知らないけど」
「……」
「虹夏がドラムを始めたのと近い時期にベースを始めて、一緒に成長していったのはお前だけだ。ぼっちちゃんにも喜多にも、ましてや私でもない。高校のクラスメイトもファンもライバルも……誰にもできないことだ」
「……誰にも」
リョウは、それを噛みしめる。
ひとりにはできない。
郁三にもできない。
星歌にもできない。
他の誰にもできない。
虹夏と一緒に成長して、虹夏と一緒に中学を過ごしてきたのはリョウだけ。
リョウだけにしかできない。
だから、星歌の言いたいことは。
「恋人だろうが、仲間だろうが、友達だろうが……縁だけは、切らないでくれよ。切ってからじゃ遅いんだ」
星歌は、母親との約束を守ろうとする。
だから、リョウには──この約束を。
「世界一仲のいい、ドラマーとベーシストでいてくれよ」
一番、恥ずかしそうに。星歌は言った。リョウを見て、彼女に対して、出会ってから一番、真摯な気持ちで、真摯な声で。
それを聞いたリョウは少し涙ぐみながら、ほんのちょっとだけ笑ってた。
「それっ……すっごい酷いお願い」
「まあ、確かに。約束ってか、ある意味呪いだよな」
「私……虹夏の好きな人、じゃないのに」
「仕方ねえだろ。お前しかいないんだ」
「……」
「いいじゃんいいじゃん!
きくりが言った。
世界一仲のいいドラマーとベーシストでいてくれ。恋人でも、仲間でも、友達でも、なんでも。他人にだけはならないでくれ。
ひどいお願いだ。虹夏を好きな気持ちは、リョウの中で揺らがないのに。どんな結果に終わったとしても、世界一仲がいいままでいてくれ、なんて。
「『もっと話していればよかった』か」
リョウは虹夏の隣にいた。ずっと虹夏の隣にいた。
でも、リョウは自分の気持ちを虹夏に
郁三は、リョウに話した。郁三自身の気持ちが先走ったとしても、リョウのためを思って話した。
状況なんて何一つ変わってない。誰が誰を好きなのかも変わってない。虹夏の好きな人はひとりのまま。自分は郁三に告白されて、虹夏を傷つけてしまったまま。
怖い、辛い、泣きたくなる、涙がでそうになる。
(でも、私はまだ何もしてないなら──)
まず、今、この場で言わなきゃ後悔してしまうことを。
「店長、廣井さん」
リョウは姿勢を正した。
「ありがと。ちょっとだけ元気出た」
『……』
「え、なに、二人とも」
「リョウお前……」
星歌は心底珍しそうな顔をしていた。怖いものを見るような顔でもあった。
「なに?」
「いや、案外可愛い顔できんだなって」
「ほんとだよ~。リョウちゃん、その顔できれば男子なんてイチコロだって~!」
きくりまで同調してくる。ちょっと失礼が過ぎないかこの二人は。
でもまあ、そんなものかと思う。
虹夏に甘えたり、郁三に奢ってもらったりというのは、自分の性分ではある。でもそれが世間的に良く見られないというのはわかっている。演じて真面目な風を装うことはできる、でもそれは自分に仮面をかけることであって、肩肘が張ってしまう。だから演じない。自堕落な性分は、わざとだし本当のことだ。
可愛い女の子に比べれば、自分は精々クールと言われてたぐらいだ。
いいじゃないか。それが私なんだ。
少しだけ、本当に少しだけ、いつもの自分が戻ってくる。
だから、リョウは。
毒気のない満面の笑顔で、そう返した。
「そうだよ。知らなかったの?」
────
約束はまた約束を生んだ。
リョウが、虹夏が、たくさんの想いと言葉を受けて、真っ暗闇に光る星を探そうとするように。
郁三とひとりも、それぞれの悲しさや迷いを抱えて、真っ暗に光る星に手を伸ばそうとする。
夜。郁三はその場所に到着して、待ち合わせた人に声をかけた。
「……遅いわよ、喜多郁三」
「お待たせ。遅れちゃってごめん」
「それで、何の用? 前に話したことで十分だと思ったけど」
「それはありがとう。おかげで俺も成長できたと思う」
「フ、フン。やけに素直じゃない」
「でも、もう一度だけ……俺を指導してほしいんだ。大槻さん」
新宿FOLT。郁三は、ライブ終わりの大槻ヨヨコに、頭を下げた。
その手にはスマホが握られていた。その画面にはロインの画面、ひとりからのメッセージがあった。
そのメッセージ画面には、ひとりと星歌のメッセージ画面をスクショした画像があった。
ひとりが決意して、星歌に宛てたメッセージだった。
『大事な相談があるんです。虹夏くんにドラムを教えてくれた人を、知りませんか?』
X年後……ファン1・2号による結束バンド恋愛アンケート
Q番外編:応援団に雑感を聞いてみた。
①次子→ひとり
「ギターカッコいいし、いいと思う。あと喜多の性格だと女子のストレス半端ないし、残機沢山あるほうがいいでしょ? 応援してるよ」
②星歌→虹夏/リョウ
「惚れた腫れたは当事者の問題だけど、一応弟だからな。やっぱり情が移るよ。あと、ぼっちちゃん可愛いし」
「リョウか……性格やばいけどさ。でも、ずっと虹夏と一緒にいてくれてるから。いなくちゃならない奴だよ」
③きくり→リョウ/虹夏
「恋~? リョウちゃんなら乙女の顔して迫れば男子なんてイチコロだよ~!」
「虹夏くんね~。養ってほしいんだよなー。え、リョウちゃん先輩ぼっちちゃんなにドン引きしてんの? 気持ちは一緒でしょ? 喜多くんもなんで哀れみの眼で──」
④ヨヨコ→郁三
「べ、別に喜多郁三のためにボーカル指南してるわけじゃないんだからねっ!」
《青い春と西の空》を、誰に向けて歌いたい/演奏したい?
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ひとりちゃん
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虹夏くん
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リョウさん
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郁三くん
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虹夏ちゃん
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郁代ちゃん