ひとり視点
聞いてください。
ある日突然男の子に声をかけられて。
誘われるがままライブ活動に励んで。
でも完熟マンゴーは最高に腐りかけでした。
バンドミーティングで今後のためにバイトが決まって。
苦悩の末に一人だけお客さんに笑顔で接客できて。
けどわたしの千歩は虹夏くんの一歩でした。
作詞・作曲、わたしこと後藤ひとり。
《ミジンコの努力ポエトリー》
後藤ひとりです。死にそうです。
意を決してギター学校にギターを持っていったら、放課後、公園で男の子に話しかけられた。
伊地知虹夏、虹夏くん。結束バンドのドラム担当。公園で私に話しかけてくれた。短い金髪で背は私より少し高い。金髪っていうと不良っぽく聞こえるけどそんなことはなくて、結束バンドに誘ってくれた優しい人。
ライブをやるというライブハウスSTARYに入ると、もう一人のバンドメンバーがいた。
山田リョウ、リョウさん。結束バンドのベース担当。わたしにぼっちという最高のあだ名を授けてくれた人。青髪クールな美人さん。そしてわたしと同類なのかと思ったけれど、実はそうじゃなかった。陰キャではなくて一人が好きな孤高の人だった。
完熟マンゴー、わたし。ライブに突如現れた謎の存在。後藤ひとりの化身。わたしの黒歴史……!
「ひぃあああああああ」
《結束バンド》が結成して、そのままライブのチケット代を稼ぐために、STARRYでバイトをすることになった。
バイト初日、STARRYで最初にあったのは伊地知
二人目はPAさん。PAさん。……PAさん? そういえば名前を聞いてない。
バイト自体は、かなり、いやすごく頑張って成長したんだけど。
バイトが嫌で風邪ひこうと氷風呂に入ったら、どういうわけかバイトの次の日に高熱が出て月曜日まで休んだ。
「うぐぁぁぁぁあああ」
と、こんなことを自宅の神奈川県横浜市から、通ってる秀華高校のある東京都世田谷区下北沢に到着するまでの二時間で考えていた。
で、今。学校のよくわからない倉庫部屋。目の前には超絶陽キャでイケメンオーラ満開な男の子がいる。
「へぇ、すげー! 後藤さんギターうまいんだね!」
どうして。どうしてこうなったの? なんでこの短期間で二人どころかたくさんの人と話してるの?
────
虹夏くんが目指すライブは、ボーカルを加えたバンド。だから、結束バンドのミーティングでは新たに「ボーカルを探す!」という虹夏くんの宣言が響いていた。その時、リョウさんの少し含みのある目線が気になった。
虹夏くんとリョウさん曰く、本当はわたしの前に逃げたギターの人がいて、その人がボーカルも担当するはずだったらしい。
わたしも、虹夏くんも、リョウさんも、理由は違ってもボーカルは拒否した。だから四人目のバンドメンバーが必要だった。
だから、少しでも結束バンドの役にたつためにボーカル探しをしてみた。
今日も廊下の目立たないところでお昼ご飯を食べる。だから人の話し声も聞こえてくる。女子生徒の楽しそうな会話だった。
「昨日のカラオケ超楽しかったね~」
「ね~」
「てか喜多くんすごく歌上手くなかった?」
「ねーすごいかっこいいよね。この前も二年の先輩に告白されたって……」
あれ? 話し声が遠く聞こえる。そんな女子の憧れた会話なんて本当に怖い怖い怖いこわい。
「辞めちゃったけど、バンドでギターもしてたんだって!」
「この間はバスケ部の助っ人でシュート決めたって言うし、ほんとにかっこいいし!」
うわぁぁああそんな陽キャど真ん中の人となんてわたしが話したら死んでしまうぅぅ──
「てか、ギター出来る人って本っ当かっこいいよね! 喜多くんみたいなイケメンがバリバリに弾くのいいけど、かわいい女の子が演奏するのも惹かれるって──」
で、放課後。気がついたらその人のクラスの前にいました。中間の記憶がありません。
同じ学年、喜多っていう名前。入学から一ヶ月で学校中に噂が広まった有名人。見つけるのは簡単だったみたいです。
隣のクラスの
どうしてかは知らないけど、たった一人教室で机に座っている姿はとてつもなく様になっている。たぶん少女漫画だったらここで女の子が可愛く登場するんだろうけど。あ、過呼吸……。
(あああんな陽キャ最前線の人になんて声かけれないよぉ……)
と思っていたら、覗き込んでいた教室の扉がガラッと開けられた。
「ヒィ!?」
わたしの目の前に、頭一つ以上背の高い喜多くんがいる……!
「二組の後藤さんだよね? どうしたの?」
「ヒィ!?」
「ひぃ?
佇む喜多くん。なんでドアの縁にそんなに絵になるみたいに立っているの。心臓に悪い。
目の前の陽キャの圧が強すぎる。
言わなきゃ。『バンドのギターボーカルを探していて、わたしたちのバンドに入ってくれませんか』って。
(……言いたいんだけど、声が出ないっ!)
「どうしたのどうしたの。言ってみ? 何か力になれるかもしれないし」
なんだこの全く違う生物は。どうして初めて遭遇したミジンコにそこまで優しくできるんですか。
陽キャになれ。陽キャになれば対抗できる。
(そうだ、わたしはギターヒーロー……! ここからがわたしの花道!)
ギターヒーロー。それはわたしがネットでギターのカバー動画を投稿する際の名義。
ライブでは完熟マンゴ-段ボールに入って最高に輝いてなかったわたしだけど、ネットのオーチューブじゃ登録者数は三万人いてそれなりに人気なんだ。
中学一年生から陰キャでも輝けるんじゃないかって始めたギター。毎日六時間も練習したし、ギターヒーローじゃみんな褒めてくれるし、それなりに上手だと思う。
そしてギターヒーローなわたしは、喜多くん以上に学校の人気者でロインの友達は千人超えていて彼氏はバスケ部のエースの超絶陽キャリア充ガール……!
さあ、言え後藤ひとり!
「バッ……ギッ……ボッ……!」
「……」
「……ぁぁ」
「え、なにその……ヒューマンビートボックス?」
わたしの口が遥か教室の外へ滑っていく。一方で、喜多くんは一瞬目が点になって。
そして屈託のない笑顔で笑った。
「よし、ブンツクパーツク、ツクツクパーツク!」
ノリノリでなんか乗ってきてくれた。
でもごめんなさい。辛いです。
「すすすすみませんでしたぁぁぁぁ!!」
一目散に逃げ出した。喜多くんの声がなんか廊下から響いた気がしたけど、それが聞こえなくなる、いつものお昼ご飯の場所まで逃げた。
久しぶりのダッシュ。息が切れる。下半身が悲鳴を上げてくる。
思わず腰を落とした。
「……黒歴史を作ってしまったぁぁぁ」
ギターを取り出す。え、ギターがある。
聞いてください。
作詞・作曲、わたし。
新曲《ダブル黒歴史弾き語りversion》
憂鬱な日々増えてくトラウマいらないわたしの負の遺産。
おもいだしてはひっそり泣いてる。
暗いcry──
「へぇ、すげー! 後藤さんギターうまいんだね!」
「はうぁぅ!?」
後ろから喜多くんの声がして、心臓が飛び跳ねた。
え、追っかけてきたの? わたしを?
当の喜多くんという名の陽キャモンスターは、平然とあぐらをかいてわたしの前に座っている。
え、なに? この状況。
「なになに、後藤さんって軽音部なの!?」
「いっいえ帰宅部でス……」
「じゃあ中学で?」
「うっ、中学も帰宅部で……」
「てことは独学? それでそこまでできんの!? すっげー! プロじゃん!」
「プ、プロ……」
へ、へへへへへっ。プロだって。
そっと、喜多くんがわたしのギターを指さした。
「うわぁぁ、使い馴染んだギターって感じ。新品なんかとは大違いだな……」
新品……?
「って、ごめんね。演奏の邪魔しちゃった。遠慮せず続けてよ」
「いっいえ今のは弾き語りというか、即興なので別に……」
黒歴史を綴った歌ですとか言えない。
「即興でここまで。マジプロだ」
「う、うへへへへ」
「他にも弾ける? やってみてよ!」
赤い髪に満面の笑顔。陽キャオーラがすごくて直視できない。
「い、いや……でも」
「ってか、ウチのクラスに用があるんじゃなかったの?」
話が折れ曲がった。折れ線グラフ?
「そ、その実はバンドのギターボーカルを探してて、そのっ喜多くんがギター弾けるって聞いて」
「あー……そっか、その話か。クラスの誰かから聞いたんだ?」
「あっはい」
本当は盗み聞きなんだけど。
「……ごめん。俺、バンドには入れないんだ」
「え」
「ぶっちゃけ、その噂は嘘でさ。俺、ギター弾けないの。まったく」
「え?」
喜多くんが「お手上げ!」とでも言うかのように手をひらひらと振った。
「前……バンドの先輩目当てで弾けるって嘘ついちゃって。結局、何一つわからなくて逃げちゃったんだ」
「そ、そうなんですか……」
「ごめんね。すごく上手い後藤さんに聞かせるような話でもないんだけど」
「いっいえそんな……」
少しだけ喜多くんの目尻が下がったように見えた。
後悔を、しているように見えた。
「だから、俺が後藤さんのバンドに入ったところで足でまといだよ」
「そ、そんな……」
落胆してしまう自分がいた。頑張って誘った結果に落ち込むのもあるけれど、喜多くんの言動に少し悲しくなってしまってもいた。
「そもそも、素人じゃ音楽って難しすぎるのな。メジャーとか、マイナーとか、コードとか? 野球じゃないのはわかるけど」
「そっそれはわたしもでした……」
「え、ほんと? 後藤さんぐらい上手くてもそうなんだ」
「はじめはそうで……練習して」
「練習、やっぱり必要だよなー。それに教えてくれる先生でもいないと……」
うんうん言っていた喜多くんの目がわたしを捉えてきた。怖い。
そしてにこやかに、晴れやかに手を叩いた。
「そっか、じゃあ俺が後藤さんからギターを教わればいいのか!」
「ゑ?」
ナンデソウナルデスカ?
ダメだ。話の次元が違う。この人は物語に生きてる! なに!? ギターをきっかけに交流が深まるなんて、それはどこの小説の話なの!? そんな明快な起承転結が現実にあっていいの!? 陽キャには当たり前のことなの!?
「それで、今度こそちゃんとギター弾けるようになって……前のバンドの先輩たちに謝る。うん、それなら後藤さんの誘いにだって応えられるし!」
チョットナニイッテルカヨクワカラナイ。
わたしが、きたくんに、ぎたーをおしえるですか?
そんなことしたら死んでしまうー!!
「いつ教えてくれるかな? 放課後とか?」
「あっわたし放課後はライブハウスでバイト……」
「じゃあそこでスタジオ借りられるかな? そしたら後藤さんの手間も省けて一石二鳥だ」
わたしが断るという選択肢は?
「お願い……!」
断れわたし! 断れわたし!
「ワ、ワカリマシタ」
断れない、わたしのばか。
喜多くんは、ホッとしたような顔つきとなった。
さっき少しだけ感じた後悔の目はなくなり、一気に輝かしい後光が見える。
「よし、それじゃ早速そのライブハウスに行こう!」
予定もないのにいきなり行けるって、わたしとは人種が違う。
喜多くんと話してわかったことがある。
わたしに陽キャはむりだ。
────
そして、下北沢STARYの道中。
「逃げた
虹夏くんの叫び声が木霊しました。
~昼休みの虹夏&リョウin下北沢高校~
「虹夏」
「なに?」
「ぼっちとも話したギターボーカルだけどさ。やっぱり郁三を戻そう」
「へぇ。やっぱり自分を好きな子は珍しいから?」
「……そういうわけじゃないけど。でも、郁三じゃなくても次のメンバーは男子でいくこと。これは絶対」
「なぜに?」
「ハーレムでウハウハしたいの?」
「あー、面倒」
「そういうこと」
「でも、ぼっちちゃんとリョウじゃとてもハーレムとは言わな──いたい頭を叩くな!」
「うるさい」