【完結】虹色refrain   作:迷えるウリボー

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41 《なにが悪い》

 

 

「あっ……ぼっちちゃん」

「にっ虹夏くん……」

 STARRYに入ったひとりの目に映ったのは、黙々と掃除に精を出している虹夏だった。

 入って数秒、虹夏もひとりもどちらも顔面が固まった。

『……』

 思い出す、いろいろなことがあった。

 宅録見学のこと、鎌倉の日のこと、初路上ライブの後のこと、そして数日前の初ライブのこと。

 いろいろなことがありすぎて、そうそう屈託なく笑えるわけがない。

 虹夏もひとりも知っている。お互いの好きな人も、自分をどう思っているのかも、そしてそのことをお互いに知っていることも。

 それでも、虹夏は笑った。

「お疲れ様っ、ぼっちちゃん」

「あっ……ぉ、オツカレサマです」

「……ぼっちちゃん、ありがとう」

「えっ……」

 いろいろなことがあった。いろいろなことを考えた。

 幸福になるような気持ちだけじゃない。悔しくて、投げ出したくて、自分を殺したくなるような想いだってある。

 もう一度、同じ想いを言うか。星歌もいるSTARRYで考えなしに。

 それとも謝ろうか。突き放すように、言いたいことだけを言って逃げてしまったことを。

 そのどちらも違うって考えた。

 これを言おうと、虹夏は思っていた。

「最高のライブだったよ」

「……ぁ」

 嘘偽りのない気持ちだ。本当だ。

「これからもよろしくね、ぼっちちゃん」

「……はいっ」

 固く、にへらっと笑った虹夏。

 少し震えて、ただ一言を返したひとり。

 遅れて、楽屋から顔を出した郁三がその二人の様子を見届けた。

「虹夏せんぱーい、楽屋のゴミなんですけどこれ……」

 虹夏とひとりが向かい合って笑うのを見て、郁三はふっと笑った。

 ほとんど同時に、郁三の視界に──ひとりと虹夏の向こう側に、リョウがやってくるのを見つけて、リョウも照れくさいように笑っているのを見て。

 郁三とリョウが虹夏とひとりに近づいて。

 その様子を見て、星歌が魂が抜けたようにほっと息を吐いた。その過保護な様子をPAさんだけが知っていて。

 虹夏はひとり、リョウ、郁三を見回して声を上げた。

「さあ、久しぶりのミーティングだ」

 

 

────

 

 

 いつかのミーティングと同じように、結束バンドの四人は一つの机を四人で囲んで座った。

「……再確認をしよう。《未確認ライオット》のデモ音源審査の合否通知が来るのが、だいたい二週間後。4月30日だ」

 そこで結果が明らかになって、デモ審査を通過すればそのまま約3週間、5月1日から21日までネット上で参加者のデモ音源とMVが公開されて、一般の人が毎日1票投票できるようになる。

「そのネット審査で30位に入れば、6月にライブ審査がある。会場は東京、大阪、名古屋……僕たちは十中八九東京会場になると思うけど」

 そして、そこで上位にのし上がれば、最後は大会場でフェス形式の審査……となる。

 郁三が言う。

「デモ音源はもう出したから、吉報を待つのみ。俺たちがやるべきことは、路上ライブで有名になる、ですよね?」

「うん。そこはブレない。いかんせん僕たちはまだ下北止まりのアマチュアバンドだし、どんどん名前を売らなきゃいけない。そうしないと、次のネット審査で一般の人たちに気にしてもらえないからね」

 拙くたっても、MVも出した。新曲も仕上げた。路上ライブも始めたし、このまま続けるつもりでいる。

「まあ、その……()()()()あって路上ライブもごたついちゃったしね。アハハハハハ」

「虹夏先輩、顔面崩壊してます」

「ぼっちちゃんが?」

「いや、虹夏先輩が」

「ちなみにぼっちは崩壊どころか溶けてる」

『…………』

 だれも笑えなかった。

 閑話休題。

「と、とにかく……! 少し考えたんだけど、路上ライブはもちろん続けるとして、僕ら、今まで新曲(グルーミーグッドバイ)を披露してないよね?」

 リョウも郁三も頷いた。

 リョウが《グルーミーグッドバイ》を完成させたのが2月初め。そのレコーディングが終わったのが2月末。もちろん、()()()()なことがあった。

 結束バンド全員、自分たちが作り出した曲には自信がある。けれど事実として、ネット審査で矢面に挙がるのは《グルーミーグッドバイ》だ。

 それをライブでやらない手はない。

「後々、ライブ審査とフェス審査に向けたセトリ(セットリスト)も考えなきゃいけないけど、《グルーミーグッドバイ》は確定。これはみんな、異存はないよね?」

「モチ」

「もちろんです」

「はっはい……」

「だから、しばらくはその練習を多くしたい。それに、今すぐじゃないにしてもセトリをどうしたいか考えて欲しい。そんな風に思ってる」

 方針に変更はない。

 ライブ審査で演奏できるのは3曲だ。フェス審査でも3曲。セトリを変えないという選択肢もある。

 

・ギターと孤独と蒼い惑星

・あのバンド

・カラカラ

・忘れてやらない

・星座になれたら

・グルーミーグッドバイ

 

 この中から何を選ぶか。

 リョウが言った。

「《カラカラ》はなしでしょ」

「でも、俺以外の人も歌えるってなったらカッコよくないですか?」

「……いっそ全員が歌うなら文句はないけど」

「え゛」

 ひとりが震えた。

「ぼっちはこの間歌ったのがある」

「ムリですムリデスムリムリムムムムム!!」

「リョウ、そもそもあれオリジナル曲じゃないし」

「じゃあ虹夏もオリソン歌えばいいんじゃない」

「はぁ……?」

「あ、いいですねそれ! 俺、虹夏先輩の作詞した曲と歌聴きたいです!」

「喜多くんまで何言ってんだよ……僕は音痴なんだって」

 虹夏は頬杖をついてため息をついた。

 実際、作曲と作詞の負担が女子二人に集中しているのを申し訳なくは思っていた。歌う歌わないはともかく、郁三と虹夏が作詞をほんの1曲でもする、そしてそれを自分で歌うというのは悪くない。

 ただ、それも《未確認ライオット》を乗り越えた後になりそうだけど。

「……そういえば、《カラカラ》は全部リョウが作ったんだよね」

「そうだけど」

「参考までに、作詞ってどうすればいいのさ」

「……」

「どうして黙るのさ」

 リョウは狭いテーブルに突っ伏して、誰にも表情を見せないで言い放った。

「……この朴念仁」

『う……』

 虹夏と、ついでに郁三まで心にダメージを負った。

 めちゃくちゃ気まずい男子二人だった。

 誰も何も言えなかった。気まずすぎて。

 死にてぇと思ったリョウ、郁三、虹夏だった。

「……あっあの」

 唯一死にてぇと思わなかった、というか基本的にいつもマイナス思考なので特別今それを考えることがなかっただけのひとりが、おずおずと手を挙げた。

「また、1曲仕上げても……いっいいですか?」

 今度は三人も真面目に顔を挙げる。

「思いついたのがあったんです……」

「それは構わないけど……ぼっちちゃん、忙しくない?」

「だ、大丈夫、です……せ、《星座になれたら》みたいに……早くできそう……というかもう、書いてて」

 人知れず心に再ダメージを受けた郁三。虹夏とリョウはそれを知らず問いかける。

「ぼっち、調子いいね」

「……まあ、秀華祭の時の勢いもすごかったし、無茶しないって約束するなら僕も止める理由はないよ」

「虹夏、人のこと言えるの」

「リョウこそ」

 二人とも爆死した。

 後ろでパソコンを弄ってる星歌は耳だけ傾けながら思った。こいつらなんで攻撃しあってんだ?

 ひとりの恋心自体は虹夏とリョウにもばれているけど、『郁三がひとりの恋心を知っている』というのは郁三だけが知っていることだった。それで《星座になれたら》の話題が上がるたびに爆死する郁三。

 互いの感情も理解してひと悶着あって半ばやけくそになった結果、お互いたまに素の態度で話しちゃうが故に爆死する虹夏とリョウ。

 馬鹿みてぇな状況だった。そして郁三に自分の気持ちが知られているとは露知らず、リョウと虹夏の間で何があったのかをほとんど知らないひとりは、三人が爆死する様子を見て焦りのあまり爆散した。

 結果、結束バンドは全員死んだ。馬鹿みてぇな状況だった。

 5分後。

「……と、とにかくぼっちちゃんがそれ仕上げたら、いつも通りにリョウに見てもらって。リョウがもし行けるってゴー出したら、ライブ審査かフェス審査に向けて練習しよう。いい? リョウ」

「……ま、異存はない」

「リョ、リョウさん……ありがとうございます」

 虹夏が頭の後ろで手を組んだ。

「それと、ごたついちゃったし他のハコとかでライブもできればいいんだけどね~」

 秀華祭や路上ライブそのものに郁三のSNS力を掛け合わせた集客。それと、この間のひとりと郁三が企画した路上ライブの話題性は悪くないとは思えた。

 でも自分たちが狙うのはグランプリだ。そのためには、例えば《SIDEROS》だって超える必要がある。まずは自分たちを知ってもらわなくちゃならない。

 もっとファンを増やすために、できることはないか。

 そう考えた時、虹夏のスマホが振動する。

「ん?」

 確認してみると、メールだった。しかも、その文面には──

「えーっ!?」

 絶叫した虹夏に驚いて、他の三人がびくついた後に虹夏の後ろへ回り込む。

「ブッキングライブの誘いがきたー!」

「おおお!?」

 盛り上がる虹夏と郁三。やかましい

 リョウは言った。

「また廣井さんじゃないの?」

「違う! 全然知らないハコだよ! 下北の外で活動できるチャンスだ!」

 メール文は本当に知らないところが宛先で書いてあった。送り主であるブッキングマネージャーの《柳》という人物もやっぱり知らない。

「迷ってる暇はない! 当然参加するよ!?」

「是非!」

「まあ、いいけど」

「アタラシイハコキンチョースルデス……」

 ひとりの呟きは無視された。

 とはいえひとりも緊張するだけで参加そのものは否定しない。他のバンドのファンも来る以上、自分たちを知らない人が大勢だということ。うまくいけば、結束バンドをたくさんの人に知ってもらえる。こんなに今の自分たちにふさわしいライブはない

「よし、じゃあ、このブッキングライブが未確認ライオットの前哨戦だ。みんな、頑張ろう……!」

 虹夏が、本当に久しぶりに伸び伸びと拳を挙げた。

 リョウは、虹夏が張り切る時というのは大抵何か良くないフラグが建つということを理解していた。

 というのは、虹夏はわりと陽キャにもついていける性格なのだけど、本質はインドアで陰キャ寄りだ。結束バンドのリーダーで四人のことを統括するけど、割と「いつも明るさで何とかなる」と考えてる節がある。つまり時々無理したり無茶したりするときがある。で、失敗する。

 虹夏自身もそれをあまり理解してなくて、理解しているのはリョウと星歌とか本当に一部の人間だけだったりする。

 例えば、郁三のギターの腕を全く考慮せずに《逃げたギター事件》の遠因を作ったり。

 他にも、詳しくは知らないけど虹夏がひとりの家に遊びに行った時も、そんなことがあるんじゃないかと思ったり。

 ブッキングライブ自体はいいと思った。今の結束バンドに必要なことだった。

 ただ、リョウの中に引っ掛かることがるのも事実で、メールの文面にも結束バンドを『ハードロック』と書いてあったり、何も知らないマネージャーからのメール、というのが気になった。

 そしてリョウの予感は的中した。

 ブッキングライブ当日。

「地下アイドルの《天使のキューティクル》で~す! よろしくお願いしま~す!」

「デスメタルバンド《屍人のカーニバル》デェス! ヨロシクお願いシマァス!」

「弾き語り担当、臼井と申します。若人に負けずに頑張りたいと思います」

「……け、ケッソクバンドです、よろしくおねがいシマス」

 順に、きゃぴきゃぴ地下アイドル。死神メイクにぎらついたコスチュームバンド。孤高の中年痩せ細りサラリーマン。そしてごく普通の男子高校生伊地知虹夏くん。

 わけわからねぇ組み合わせだった。

 

 

────

 

 

 結束バンドが初めて来たハコ。そこで、少し前時代オタッキーな服装でペンライトを振る人だったり、デスメタルな格好の人だったり、普通の若者だったり、あるいはスーツ姿の哀愁漂うリーマンがいたり。

 先鋒、サラリーマン。

「え~……本日トップバッターを務めさせて頂きます、臼井です」

 どよめき漂う中、真っ暗闇な空間に浮かぶ一つのスポットライト。座り、胡坐をかき、アコースティックギターを携えた孤高のシンガー、臼井サラリーマンが口を開いた。

「友人に裏切られて手にした1億の借金。娘の非行。家は三度の全焼。娘がやっと成人した後に襲い掛かる、妻からの離婚届け」

 なんということだ。すでに物悲しい。会場の空気を一気に一つの方向へ変えた。

 すでに弾き語りは始まっているのか。そう勘違いしてしまう。ギターの実力以上に、齢40を超えるであろう人間の空気と言うのは、誰であってもすさまじいものだ。

 アーティスト? 官僚? スポーツ選手? そんなものは関係ない。歳月を重ねた人間の歴史そのものが、完成された一つの芸術……!

 

──人生は盆水。私は覆水。しからば枯山水は君への酔い。

 

「こ、これが大人の哀愁……! 俺もいつかはこんな演奏をすることになるのか?」

「喜多くん。僕らのバンドのジャンル、思い出そうか?」

 絶対何もわかってない郁三が何かのたまった。虹夏の目線がこれ以上ない暗い冷えてた。

 というか会場の人たちも年齢がいくほど目に涙を浮かべてた。結束バンドの四人は沈黙してた。

 次鋒、《天使のキューティクル》。四人の天使が地上に舞い降りた。

「この世からダメージをヘアをなくしたい! 《天使のキューティクル》でぇ~す!」

『うおおおお!』

 ファンたちの怒号が響く。

 ここは地下じゃない。爆発するファンの熱意は留まるところを知らない。震えるサイリウム、揺れるハチマキ。

「ミカエルちゃんI love you!」

「ラファエルちゃん今日もかわいいよぉぉ!」

「ウリエルウリウリマジキュート!」

「私を食べてよガブリエル!」

 地下アイドルの文化を知らない虹夏は思った。

 なんだこの会場は。

 《天使のキューティクル》こと地下アイドルの四人は、見事なパフォーマンスで会場を沸かしつつ、合いの手を会場に求めた。彼女たちを知らない観客にも容赦がない。

「シャンプー? リンス?」

『ヘアオイルゥゥゥ!!』

「ヘアキューティクルは?」

『ビューティフルゥゥゥ!!』

 さっきのサラリーマンとはえらい違いだ。

「OK! それじゃあ聴いてねっ! 《黒髪以外くそビッチ!》」

『YEAH!! 黒髪清純マジ(マンジ)ィ!!』

 白熱する会場、よくわからなくてもめちゃくちゃ盛り上がる観客。

 そしてサイリウムを振ったまま気絶したリョウとひとりがいた。

「うわぁ、地蔵と化してる……」

「さ、さすがに二人には刺激が強すぎましたね……」

「喜多くんは?」

「楽しいです!」

「陽キャの適応能力怖い……」

 中堅、《屍人のカーニバル》。

「ウオォォォァァア!!」

「I’m ○○(自主規制) on the great!!」

『ヨォォォォ!!』

 屍たちの行進が始まる……!

 となるのだけど、ここまでくると虹夏だけでなくて郁三もよくわからなくなってきた。

「……なんか、今までのライブで一番異質ですね」

「だね。何か狙いがあるとは思うんだけど」

 そう考えた虹夏だったのだけど、頼みの綱のマネージャーは立ったまま寝てた。

 畜生だった。

 そろそろ結束バンドの出番も近い。四人も各々準備はしているけど、場の盛り上がりはいつものライブとは全然違う。

 結束バンドの実力が、たとえ話題性だけだとしても期待されているものかとばかり思っていた。

 ただ、実際はブッカーのスケジュールを埋めるために来ていた。

 観客でさえ困惑してる。他のバンドも本心では混乱しているかもしれない。なんせ、ファン以外は自分たちのことを異物を見るような眼をしてみてるから。

 中年シンガー、地下アイドル、デスメタル、学生バンドなんてそれぞれの領域からすりゃ異質すぎるに決まってる。

「……ほんと、失敗続きだなぁ、僕」

 ドラムの準備をしながら、虹夏はほとほとため息をついた。

 最近、やることなすこと裏目に出てばかりだ。

 結束バンドを壊しかけたし、イラついてばかりだし。自分のことがかっこ悪く思えてくる。

 結束バンドのリーダーなのに、みんなにいいところを全然見せられなかった。

 ……でも。

「みんな」

 準備を続ける三人に向けて、虹夏が声をかけた。

「にっ虹夏くん……」

「虹夏先輩」

「虹夏」

 それぞれ、違う呼び方で声をかけてくれる。

「……前のライブは、ぼっちちゃんと喜多くんに助けられた。今度は、僕らが頑張る番だ」

 リョウを見た。

「といっても、喜多くんにもぼっちちゃんにも助けてもらわないと、どうにもできない」

 この半年間、いろいろなことがあった。

 つくづく、自分は無力だと思わされた。

 でも、だからなにが悪いってんだ。

 そんなボロボロの、誇ることができないような日々の中に、確かにわかったことがあった。

 結束バンドは、自分が始めたんだ。

「大した確認せずに今日のライブも承諾しちゃってさ。みんなを調子に乗らせちゃったし」

「虹夏……」

「けど僕には……みんなが必要なんだ。だから頼りないリーダーだけど。助けてほしい」

 あんな、トンチンカンな路上ライブをした後だ。それぞれが結束バンドをどう思ってるかなんて、言葉に出さなくてもわかる。

 それでも自分の口で伝えたかった。

「要するにさ」

 リョウが、ほとんど間髪を入れないで返してきた。

「ここにいる客全員ファンにするようなライブ、してやりゃいいんでしょ」

「……うん」

 虹夏とリョウの身長はほとんど変わらない。見上げることも見下ろすこともない。

 同い年の二人が、同じ目線で、対等に話している。

 ずっと虹夏と話しているリョウは、虹夏が考えていることがわかる。

「この間のぼっちと郁三に、廣井さんやリナさんに負けないライブをしてやりゃいい」

 いろいろなことがあって、それでもみんなと一緒に動きたいんだとわかってる。

「あちゃぁ、眠れるリョウ先輩を起こしちゃったかぁ」

「私にだって、ぼっちや郁三に負けたくないことがあるんだよ」

 リョウだけじゃない。郁三もひとりも。

「どっちにせよ、俺は手を抜きませんよ! 異質だってなんだって、大切なライブなんですから!」

「わっわたしも……! ぐっグランプリのために、手は抜きません……!」

 あの時の路上ライブで全員が感じた、全員が同じように想っていること。

 虹夏は手で促して、円陣を組ませた。まだデスメタルが響く会場内、少し早いけれど、もう自分たちのボルテージは上がっている。

「さあ、もう一度締め直すよ、《結束バンド》」

 ライブはまだ終わらない。

 それだけじゃない、もう一度ここから始めるんだ。

 一度巻いてしまえば、もう戻せない、切ってしまわないとほどけない、でも切ってしまえば戻らない結束バンド(インシュロック)

 同じ名前だって、まったく違う。

 中年サラリーマン臼井。天使のキューティクル。屍人のカーニバルと続く次のバンドは。

 

 その名は《結束バンド》だ。

 

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