【完結】虹色refrain   作:迷えるウリボー

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46 《カラカラ》

 

 

 STARRYのスタジオに《グルーミーグッドバイ》が流れる。

 虹夏のドラムを先頭に、リョウのベースが支えて、ひとりのギターと郁三のボーカルが走る。

 いくつかミスがありつつ、曲を最後まで。アウトロの余韻が残る。

「喜多くん、もっとビブラート効かせた方がいいと思う」

「はい」

「ぼっちちゃんは全体的に走りすぎてる。サビはいいけど……この曲はギャップがものを言うし、それまでは少し抑えて」

「あっはい」

「リョウは逆に抑えすぎ。少し感情を出しなよ」

「えっ、出していいの?」

「いいからやれっ」

 6月のライブ審査では、全部で3曲演奏する。そのうちの一つは《グルーミーグッドバイ》だ。

 残り2曲。もしひとりが今作っている歌詞を完成させて、リョウが良しとすればそれもライブ審査で出すことになる。

 残り1曲、もしくは2曲。これは今まで作ってきた曲の中から出す事にはしているし、候補の曲も3曲くらいまで選定はしている。でもまだ決めることができていない。

 《未確認ライオット》だけが大事なわけじゃない。日々のライブだって大切なものだから、四人は満遍なく練習している。

 春先、夏前。夜になる頃にはそれなりの時間で、四人も疲労が見えてくる。

 そうして《忘れてやらない》とか、《ギターと孤独と蒼い惑星》とかも練習して。

「うん、それじゃあ……今日はここまでにしようか」

 虹夏自身、疲れが隠せなくなってきた。少なくとも通しての練習はここまでだというように、終わりの合図としてドラムスティックをカチカチと鳴らした。

「お疲れ様です」

「あっお疲れ様です」

「おつ」

「うん、お疲れ」

 喉もカラカラだ。それぞれ水分を摂る。

 スタジオの中を片付けて、それぞれ世間話にも花を咲かせて。今日は虹夏と郁三、りょうとひとりが互いに話している。

 そんな中、郁三がポツリと言った。

「それにしても、もうすぐ5月も終わりですか。あっという間ですね」

 今日は5月28日。

 ネット審査。結束バンドは29位の順位で通過することができた。本当に首の皮一枚繋がった状態での滑り込みゴールだった。

 5月21日の全投票期間が過ぎて、次の日に発表されたその順位を見た日には、ひとりは緊張のあまり文字通りぐずぐずに溶けたし、リョウも椅子に座ってしばらく動けなかったし、虹夏と郁三も喜ぶ暇もなくてただただ通過できた事実を噛みしめるだけだった。

 投票してくれたたくさんの人たちにできる限りの方法で感謝を伝えつつ、見据える先は6月のライブ審査となった。自然練習も熱が入るわけで、学校やバイトがある時はほぼ必ず四人で集まって練習するようになった。

 練習を終えて、STARRYの業務後の片付けも終えて。

「あっお、お疲れ様です」

「先輩、俺らはこれで失礼しますね」

「お疲れ」

「ぼっちちゃん、喜多くん。お疲れ様」

 ひとりはもちろん、今日は郁三も残らず帰るらしい。最近は誰かと一緒に帰路を歩くことも少なくなった四人としては珍しい。

「あ、リョウ先輩」

「ん」

 ひとりが外に出た後、郁三が顔だけ出してきた。

 虹夏が声をかける間もなく、郁三はさらにぐっと固めた拳をリョウに向かって突き出して。

「リョウ先輩、それじゃ……!」

「……ん」

 と、会話になってないような会話だけして、郁三は今度こそSTARRYの扉を閉めた。

「……なんだ? 喜多くん」

 僕に挨拶しなかったなあの野郎、というのは放っておいて。

「虹夏」

「リョウ、どうしたの?」

「ちょっと相談があるんだけど」

 リョウも一時期はすぐさま帰っていたけど、最近は前みたいな生活習慣に戻っている。

 お互いの感情は理解していても、少なくとも一緒にいられる。それは、何よりも大切なことで。

 リョウは言った。

「……ライブ審査、曲はどうするの?」

「あー……悩み中。ぼっちちゃんの進捗はどうなの?」

「順調だって……もうすぐ皆に見せれるって言ってた」

「そっか。じゃあそれで決めれるかもね」

「……どっちにしても、一曲は残ってる」

「実は、目星はあってさ」

「どれ?」

 虹夏はライブ審査で演奏したいと思ってる曲と、その理由を伝えた。

「なるほど。ちょっと納得」

「でしょ? みんなも同じ気持ちだろうし」

「じゃあそれで決まりかな、1曲は」

「ぼっちちゃんと喜多くんにもちゃんと意見は聞くけど」

「うん」

「それで、セトリが相談したいことだったの?」

 リョウは間を空けてから答えた。

「……実は、虹夏が曲に迷ってたら提案しようと思ってたんだけど」

「え、なになに。リョウが演奏したい曲?」

「……それと関係、ある。バンドの新曲リリースがあってさ」

「え、どこの?」

「虹夏は知らないバンド。私しか知らない」

「なんだよそれ。それがセトリとどう関係があるの?」

「……とにかく、聴いてほしいんだけど」

「わかったよ。URL送ってくれる?」

「今日の12時に送るから」

「……んん?」

 いまいち要領を得ない言葉に、虹夏は首を傾げた。

「今じゃなくて?」

「12時に」

「なんで?」

「なんでも。別に、起きてられるでしょ」

「そりゃまあ……あ」

 リョウが意図することを遅れて察して、虹夏は気まずくなった。

「まあ……とりあえず、わかった」

「……それじゃ。お疲れ、虹夏」

 リョウはいそいそと荷物を持って、こそこそと逃げるようにSTARRYを後にした。

 虹夏は、その後ろ姿に何も言うことができなかった。

 今日は5月28日。日付が変われば、5月29日。

 虹夏の誕生日だ。

 結束バンドを結成してから丸1年。最初の虹夏の誕生日の時は特に話題すら挙がらなくて、まだリョウにからかわれるばっかりだった。けどメンバーの結束が強まってきたころにはリョウの誕生日があって、皆で祝った。ひとりと郁三の時は恋愛騒動で色々忙しかったからそれどころじゃなかったけど。

 別に隠すことでもないし、リョウに限らず郁三もひとりも虹夏の誕生日が近いことは知ってる。それに郁三なんかは気軽に話題にもしてた。「誕生日プレゼント用意しますね!」なんてことも言っていたし、ひとりも「たっ楽しみにしてください……」なんて言ってくれたので、複雑なのは確かだけど嬉しい気持ちもあった。

 逆にというか、いつも通りというか、リョウからは特に話題に挙がることはなかった。今まで通りのことだ。

 なのに。

「今日の12時。それって」

 どう考えたって、そういうことだろう。

 練習を終えた虹夏は、いつも通り夕飯を作って食べて、片付けて、お風呂に入って。それでも少し時間は余って、メンバーでは一番真面目に勉強して。

 そうして、やっと時間は12時まであと10分になって。

「……そろそろか」

 寝支度も済ませた虹夏は、自分の部屋でいつもとは違ってそわそわとしていた。

 リョウとの見かけ上の態度が戻っても、心の奥ではお互いの感情を理解している。臆病で寂しがり屋なリョウがよみ瓜ランドで郁三と話した。リョウもいろいろなことがあって、そうして前よりもちゃんと行動するようになった。

 そんなリョウが、誕生日になる瞬間まで起きてろという。しかも、バンドの新曲がリリースしたなんて見え見えの嘘をついてまで。

(僕が、ぼっちちゃんに話したみたいに)

 ひとりに自分の気持ちを受け止めてもらったように、きっとリョウも話そうとしている。

 それは半年前の虹夏には考えもしなかったことで、今でも戸惑っているのは変わらない。

 けど、それでも。

「僕も……リョウの気持ちに、向き合うんだ」

 12時。ロインの通知が鳴った。

 ベッドの上で、横にはならずに壁にもたれかかって座って、応答する。

「……こ、こんばんはっ」

 めちゃくちゃカッコ悪い声と間抜けな言葉が出てしまって、開始早々後悔した。

『……虹夏?』

「う、うん」

『こんばんはって』

「わ、笑わないでよ……」

 スマホの向こうで、リョウが笑っているのが分かった。

 虹夏もなんて言えばいいかもわからなくて、リョウが落ち着くまで黙っていることしかできない。

『……虹夏』

「……うん」

『誕生日おめでとう』

「うん」

 予想通りで、信じられなくて、でも不思議と心のある場所にストンと落ちるような、リョウの言葉。

「リョウから、もったい付けて、まともに祝われるなんて初めてだ」

『そうだね。ずっとそうしたくて、でもできなかったんだ』

「ありがとう」

『うん』

「……」

『ぼっちより、郁三より、店長より。今年だけは……一番早く言いたかった』

「そ、そっか……」

『……』

「……」

 お互い予想できていたことだから、言葉はたくさん準備してきたはずなのに。

 スムーズに口が開かない。

 沈黙があって、耐えられなくて、リョウも、変な抑揚で言った。

『……プレゼント、ある』

「うん、その、僕はどうすれば……」

『URL送る。一回、通話切るから』

「うん……」

 通話を切って、少しだけ待つ。

 そうして数秒後。もう一度リョウから通知が来て。それを確認すると、確かにURLだけど。

「オーチューブのURLだよね、これ?」

 タップ。ライブ映像が出てきた。

 タイトルも日付と時間が数字で羅列しているだけのもの。ただ『イヤホン推奨』とだけ書かれている。視聴人数は一人だけ。自分だけ。

 画面に映るのは見知った景色で、リョウの自室。

 そして、ベッドに腰かけているリョウが正面に見える。

 撮った映像じゃない、リアルタイムだ。ついさっき、自分の誕生日を祝った女の子が、画面の向こうにいる。

 いつもの態度だけ飄々としてるリョウじゃない。明らかに緊張して、寂しがり屋で、臆病な、彼女の本当の姿が目の前にある。

 そしてリョウは、楽器を持っていた。けどベースじゃない。ギターだ。しかもアコースティックギター。

『……えっと、虹夏、聴いてる?』

 虹夏は「聴いてる」とだけコメントした。恥ずかしかった。

 配信映像と実際の時間に少しだけラグがあるんだろう。数秒経って、リョウは意を決して、そして。

『……聴いて』

 ギターを弾き始めた。

 虹夏は、ただ、ただ、それを黙って聴く。

 静かな始まりだった。

 普段はベースを好むリョウだけど、昔はバイオリンも習ってたし、作詞も作曲もできるし、音楽関係のスキルは本当に万能だ。ギターもできるからそこに驚きはしない。

 曲のリズムと空気感には聴き覚えがあった。

「これ……《カラカラ》?」

 原曲は全体的に激しいし、そもそもロックバンドの曲だからドラムもエレキギターの音も目立つ。

 アコースティックギターからか、弾き語りみたいに落ち着いた雰囲気だけど、メインの音程は馴染みがあるものだった。リョウが「息抜きに作った」とか言いながら、そう簡単に歌うことを避けていた、作詞作曲すべてがリョウの曲。

 テンポは少し遅いけど。これは確かに何度か聴かせてもらって、そして練習もしたことのある《カラカラ》だ。

 スマホの中のリョウが口を開く。そこから出た最初の歌詞は、やっぱり虹夏の予想通りで。

 不安を残したまま微睡(まどろみ)にふける、女の子の情景が脳裏に浮かぶ。

 

 

────

 

 

 いつもとは違う環境で弦を弾く。

 どこか、思い通りにならない指先が、必死に音を奏でる。

 震える声で、なんとか、一言。

 歌詞とは反対に、こんな気持ちを抱えたままじゃ眠れないと言うように。

 でも、その次の言葉は私が書いたままだ。愛された方がいいのにねって。

 でも、気が付いたら虹夏はぼっちのことばかり見ていて、私のことは見ていなくて、ただの昔馴染みでしかなくて。

 虹夏にどんどん置いていかれる。ぼっちをどんどん、羨ましく思ってしまう。郁三にどんどん、よくない感情が芽生えていく。そんな時に、ある意味の前向きな願いを込めて作った曲。それが《カラカラ》

 歌詞だけじゃない。特に虹夏には、ちょっとした八つ当たりみたいな形で馬鹿みたいに難しいドラムの譜面を当てつけたのもある。

 どっちにしても、正真正銘、私が虹夏に向けた曲なんだ。

 だから、聴いてよ。虹夏。

 私が、今までどう思っていたのか。

「──簡単な道も──」

 曲は続く。5分は超えない曲だけど、今はローテンポに進んでいる。時間なんて考えない。

 そう、本当だったら、虹夏に伝えれば一言で終わるはずだったのに。

 虹夏だって女子に人気だったけど、私が遮った部分もあるから、虹夏を朴念仁にしたのは半分私のせいだ。

 だから虹夏は、私に対して妹みたいに接するようになったし。

 私は、それで心地よかったし。

 ぼっちと郁三が来るまで遠回りに遠回りを重ねて、気が付いたら行き止まりに立っていた。

 郁三の気持ちに気づいて、でもなあなあで済ませていたのも。虹夏の気持ちに気づいて、それでも何もしなかったのも。

 全部が私だけのせいじゃなくても、でも確かに、全部私のせいだ。

 居心地のよかった結束バンドは崩壊して。

 それでも、ぼっちや郁三が、大事な仲間が魂を震わせて立ち上がった。

 そうして繋いだ今、結束バンドは結束バンドのままでいられる。三人の魂を借りたその命で、私は結束バンドの山田リョウでいられる。

 後輩たちが、勇気を出して私や虹夏に、手を差し伸べてくれた。

 私だけが、このままでいいわけがない。

 

──だから、私も頑張るから──

 

 郁三に伝えた言葉。裏切ることなんてできない。

 でも、もう5年以上溜め込んで、1年近く決定的に悶々としてきた想いを、簡単に伝えることなんてできないから。

 最初はぼっちがしたように、歌で、伝えさせてほしい。

「──教室の隅で──」

 ずっと、ずっと、想っていたんだよってさ。

 そうして、バラード調の《カラカラ》を歌い終えて。

 深夜に火照る顔。激しい演奏でもなかったのに、額ににじんだ汗をぬぐって。

 ライブ映像を切って、ギターを置いて、今度はスマホを持って、虹夏に通話する。

 ほとんどノータイムで応答が来た。

『……もしもし』

 虹夏の声が、少し固い。

「虹夏、最後まで聴いてくれた?」

『う、うん』

「そっか」

『うん……』

「……」

『……』

「……プレゼント、だから」

『あっありがと』

「明日も、ぼっちと郁三と一緒に渡すつもりだけど」

『そ、そうなんだ。うん、嬉しいよ』

「本当にそう思ってる?」

『そ、そりゃもちろん……! リョウからのプレゼントだよ!?』

「歌をプレゼントするなんて、だいぶクサいけど」

『自分でそれ言うの。まあ姉ちゃんとか、ぼっちちゃんのプレゼントソングをまだ待ってる節があるんだけど』

「何それウケる」

『だから自分で言わないでよ』

「……」

『ま、まあ、リョウから……大事な──』

 虹夏の言葉が止まった。

「いいよ」

『え』

「『大事な』の続き。言っても、私は別に怒らない」

 相手は虹夏だ。何を言おうとしたかよくわかる。

『……大事な仲間からの贈り物だから。戸惑うけど、嬉しくないわけがないって』

「そうだよね」

 

──僕たちは仲間だろ。それと、大事な腐れ縁の昔馴染み──

 

 文化祭。二人で回った時に、虹夏が言っていたことだ。

 やっぱり、それが虹夏のリョウに対しての正直な気持ちだ。

 でも、そんなことは関係ない。

「……虹夏。話したいことがある」

『……うん。聴くよ』

「……私はっ」

 喉が()()()()になる。

 でも。

 今、言わなくちゃ。

「虹夏の前だと……だらしなくて、隠す必要もなくて……ありのままの私でいられるんだ」

 別に、他の場所で不安になるわけじゃないけれど。

「虹夏の部屋だと、安心するんだ」

 いろんな楽器を演奏できるけど、それでもベースを選んだのは。

「虹夏が眩しいから……私は、張り切ってベースで支えられるんだ」

 恥ずかしくてたまらない。

「言えなくなる前に、言いたいんだ」

 私は。山田リョウは。

「私は、ぼっちとは違うけど……」

 それでも、どうしようもないくらい。

「好き、なんだ。虹夏がのことが。私のベースを好きだって言ってくれた時から」

 ああ、言い切った。痺れる頭の片隅で、そう思った。

『リョウ、僕は──』

「待って」

 虹夏の言葉を、引き留めた。

「その先は、言わないで」

 鎌倉で叫んだ言葉の焼きまわし。けれど、決して嫌になって、自棄になって、想いの丈をぶちまけたわけじゃない。

「今、虹夏が誰を好きなのか、知ってる。虹夏がその子のことが好きで、悩んでたこと、知ってる」

 そうだ。私が虹夏を好きなように、虹夏も。

 だから、この告白が成功するなんて欠片も思ってない。

「でも、少しでいいから……」

 でも、もし。このちっぽけな願いが叶うなら。

「ほんの少しだけでいいから……」

 どうか。

「私のことを、見て」

 私のことを、忘れないで。

 虹夏のことを好きな子が隣にいるんだって、知って。

 それだけで、いいから。

「明日、練習があるでしょ。だから虹夏にっ、会いに行く、から」

『……』 

「……それだけ、だから」

『う、うん』

「それじゃあ、また明日、練習で」

『……うん』

 逃げるように通話を切った。

 スマホを思わず放り投げて、そのまま後ろに、ベッドに倒れる。

 見上げた天井。視界が揺れる。

 今日は、眠れそうにない。

 

 

────

 

 

 日が昇って。5月29日が始まって。

 結束バンドの四人が、またSTARRYに集まる。

「虹夏先輩。誕生日、おめでとうございます!」

 郁三の声が、そこはかとなく元気に響く。

 隠しもせず、もったいぶることもなく、集まるなり虹夏のプチ誕生日会だ。

「俺からは~……普段からいろいろお世話になってるお礼に」

「これって?」

「疲れが取れるように、バスボムです!」

 男子から男子に送るにしてはなかなか珍しいカラフルなものだった。

「なんか、こういう所が喜多くんらしいな。ありがとう」

「わっわたしからは……これを」

「これって……」

 ひとりがおずおずと渡してくれたのは、誕生日用のリボンで包まれた袋。空けてみると、新しいドラムスティックとそのケースが。

「ぼっちちゃん、ありがとう……!」

「え、へへ……おっおめでとうございます」

 ただただ、嬉しかった。

「虹夏」

「リョウ」

 そして、リョウからも小さい包。

「……おめでと」

「うん」

 開ける。

 ピックが付いた、金色のブレスレット。

「リョウ」

「別に、銀のブレスレットを外せって意味じゃないから」

「うん……わかってる」

 その言葉が、前夜の言葉と重なった。

「ありがとう。大切にする」

 三人の大切なプレゼントを抱えて、虹夏は改めて思う。

 結束バンドは、最高のバンドだって。

 この最高のバンドを、もっとたくさんの人に知ってほしいって。

「うん。それじゃあ気持ちを切り替えて。《未確認ライオット》まであと少し。今日も、また練習だ」

 虹夏が言う。リョウと郁三が頷く。

 そんな中、ひとりは。

「あ、あの、練習の前に、すっ少しいいですか……?」

「ぼっちちゃん……?」

「新曲の歌詞ができたんです」

 一冊のノートを、三人に差し出した。

 虹夏と郁三は何度か。リョウは何度も。見たことのある、ひとりの作詞ノート。

 何も言わずにリョウがノートを受け取って、その両側に虹夏と郁三が控えて、三人でしっかりとひとりが作ったそれを読み込む。

 今までの曲も流して読んでいたわけじゃないけど、今回の曲は、どうしてか今まで以上にしっかりとじっくりと読みこんだ。

 そうして数分かけて、郁三、リョウ、虹夏がお互い読み終えたのを察して。

 リョウはノートを郁三に渡して。

 虹夏とリョウは目を合わせて、そして言った。

「ぼっち」

「ぼっちちゃん」

『採用だ』

 ひとりは一秒の沈黙もないレスポンスに頭がパーになった。

「……え?」

「え? どうしたのぼっちちゃん」

「ゑっあっあ、だって、ほとんど急で突貫作業の歌詞なのに……」

「でも、最初の曲(ギターと孤独と蒼い惑星)だってそういうものだったし。なんの問題もないよ」

「リョウ、作曲はできそう?」

無問題(モーマンタイ)。元々ぼっちと相談もしてたし、とっかかりはできてるし。すぐ仕上げられる」

「よし。ならこの曲はライブ審査のセトリにいれよう」

「いっいいんですか……?」

 おずおずと聴いてくるひとりに対して、虹夏もリョウも、頼もしく笑って答えた。

「もちろん。というか、演奏させてよ。僕、完成したこの曲をライブ審査で披露したい」

「私と虹夏だけじゃない。郁三だって同じだよ」

 そうして、黙っている郁三に目を向ける。

 郁三は、少しだけ沈黙を作って、言った。

「……決めた」

「え?」

 ひとりの歌詞。今日までのひとりの想いが込められた歌詞。

「俺も同じ意見だよ。ライブ審査で歌いたい」

「きっ喜多くん」

「いい歌詞だね。精一杯、俺の気持ちを込めて歌う」

 郁三は今も歌詞を読んでいる。

 言葉(ことば)でうまく想いを伝えられないひとりが、(ことば)という形で世界に叫んでいる。

「この曲なら、きっとさ。ひとりちゃんや、大槻さんと悩んだこと。全部繋げられると思うんだ」

 郁三も、今も悩んでいる。大切な子への気持ちを、悩んでいる。

 けれど、今。

 リョウが後押しして、虹夏が励まして。そして完成したひとりの歌詞を見て、郁三も決心がついた。

「獲ろうね。俺たちの曲で、グランプリ」

 郁三の眼は、どこまでも真っすぐだった。

 恥ずかしがっていたひとりも、それでようやく落ち着けて。

「あっ……はい!」

 四人の気持ちが結束する。

 目標にしてきた《未確認ライオット》。

 大勢を目の前にして生演奏を披露する。

 ライブ審査まで、あと少し──

 

 







ここまで、

OP 《青春コンプレックス》
01~05
1部 見つめるリナリア
06~16
2部 星屑染まるライオット
17~32
3部 upside down,dawn,constellation
33~46
ときました。


次回、未確認ライオットのライブ審査。

ED 虹色refrain
47 《忘れてやらない》

です。
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