47 《忘れてやらない》
《未確認ライオット》ライブ審査当日。
予想通りというか、当たり前というか、結束バンドは東京会場になった。泊まり込みで大阪か名古屋に出発──なんてこともなく、普通に下北沢に集合することになった。
とはいえ、そこは結束バンドと言うべきか。ひとりは緊張で妹のふたりに連れてきてもらうことになるし、リョウも緊張なのかマイペースなのかわからなかったけど普通に遅刻して家族の車で現地集合になった。
向かう先、東京会場は、まさかの新宿FOLT。まったく知らない会場じゃない。その意味では安心したのだけど、店長の銀ちゃんが泥酔状態のきくりの介抱で忙しいというわけわかんねえ状況に遭遇することになった。どうやらオープニングアクト、ゲスト出演するバンドはSICK HACKになったらしい。
「というわけで、準備も完了したけど……」
「色んなバンドがいますね」
今日、東京会場で競い合うのは全7組だ。そのうちの一組はSIDEROSだけど、とはいえ5組も知らない同世代のロックバンドがいる。緊張もするし、空気もぴりついているように思う。
それだけじゃない。若手バンドマンの登竜門のような大会だから、音楽関係者もいる。まだフェス審査前の予選といったって、少なくないスーツ姿の人がちらほらと。
もう、芸能への道は始まっているんだと実感させられる。
虹夏と郁三がまあまあ、ひとりが爆発するほどの緊張を浴びている一方で、リョウは知り合いを見つけた。
「あ、大槻ヨヨコ」
「あ、結束バンド」
一瞬、ヨヨコのつり目が可愛いくらいに垂れて、そしてまた睨まれた。
「フンッ!」
「え、大槻さん今の顔なに?」
「知り合いがいて一瞬だけ安心したんですよ~」
「あ、長谷川さん」
「どもっす、結束バンドのみなさん」
変わらないバンドの良心、虹夏とあくびがご挨拶。
「今日はお互い、頑張ろうねっ」
「頑張りましょう。一緒にフェス審査まで進めるといいですね~」
虹夏とあくびが握手。ちょっとだけ目を細めるリョウだったけど、もう何かを思うわけじゃない。
幽々に楓子もいた。ひとりに郁三、それぞれがお互いを励まし合っている。
そんななか、まだ悠然とした体を装って座っているヨヨコは。
「あくび。私たちはライバルなのよ。そんな甘いことは言わないで」
「え~……」
「今日もツンデレね。ヨヨコ先輩」
「幽々も変なこと言わないで!?」
緊張強いのヨヨコがいるとはいえ、SIDEROSの様子は変わらないみたいだ。そのことが強敵が一組はいることを物語っているし、同時に結束バンドにもいつもの雰囲気を与えてくれる。緊張を少しだけほぐしてくれる。
「はぁ、はぁ……それよりも、喜多郁三」
相変わらず寝不足からの酸欠で倒れそうなヨヨコが、それでも胸を張り上げて郁三を見た。
「ふん、ちょっとはマシな顔になったじゃない」
「うん。大槻さんのおかげだよ」
「……!?」
友情に煌めくヨヨコの脳内。赤らむ頬。別に喜多郁三なんて好きじゃないのに、でも友達とか言ってくれるし、わりといい。
爆死するひとり。爆笑するリョウ。郁三にドン引きする虹夏。まったくもって真面目に感謝する郁三。
なんか察して「あー、ヨヨコ先輩が堕ちた。恋じゃなくて友情に」と思うSIDEROSメンバーたち。
変な空間がそこにあった。
それはともかく、ヨヨコも真面目に郁三に指南したクチなので、恥ずかしがりつつも目は真剣に返す。
「そ、そこまで言うのなら、一定の成果は見せてくれるんでしょうね? 貴方の歌で」
「もちろん。とはいっても、俺の歌だけじゃないよ。ひとりちゃんの歌詞を、リョウ先輩が曲にして、それを虹夏先輩がメトロノームになってくれて、そうして俺が歌うんだ」
郁三はいつにも増してもったい付けて、自分を自分の親指で得意げに示した。
「今日の俺たち、すごいよ」
郁三だけじゃない。爆死、爆笑、ドン引き、それぞれの反応は残しつつ、郁三の言葉にだけは、虹夏もリョウも、ひとりも自信満々に頷いて見せる。
後藤ひとりをきっかけにして知り合った結束バンドに、それなりに愛着はあった。コミュ障で言葉が過ぎるだけで根は優しいヨヨコは、郁三に対して感じていた心配を、今度こそ完全に払拭した。
「前言撤回。ライバルだから、しのぎ合うのはフェス審査でよ」
ヨヨコは二本指を立てる。Ⅴサインじゃない。
「この東京会場からフェス審査に進むのは、7組中2組」
元から有名なSIDEROSだけじゃない。《未確認ライオット》出場を決めた時、結束バンドが調べた有力なバンドである《ケモノリア》も東京会場にいる。
他のバンドだって粒ぞろいだ。だから決して楽な仕事じゃないけれど。
「私たちで進むわよ、フェス審査。そうじゃなきゃ、あざ笑ってやるわ」
ヨヨコは言った。励ましでも発破かけでもなくて、あくまで現実的に。
『おう!』
郁三と虹夏が。声は出なくとも、拳を突き出してリョウとひとりが。復唱した。
盛り上がる楽屋の隅。さらに郁三がハイテンションになる──と思いきや、その後ろに虹夏が立つ。
「ところで、喜多くん」
「何ですか虹夏先輩……って肩つねらないで痛い痛い!」
「大槻さんとのアイコンタクトさあ。どういうこと? ボーカルで悩んでたのは知ってるけど。ねえ、どういうこと?」
郁三の眼に映る虹夏の眼が阿修羅そのものだった。
怖い。もう仲間内なら虹夏がどういう状況なのか簡単にわかる。
リョウが好きでぼっちちゃんに好かれてる癖に他の女にうつつ抜かしてんじゃねえぞ喜多こらぁ。といったところ。
郁三は本気で怖がった。リョウは引き続き爆笑。
ひとりが精一杯フォローしようと動く。
「あっきっとそれは喜多くんがクリスマスパーティーの時に聞いたやつで……」
「そ、そう! ひとりちゃんの言う通りで! あとその後もカラオケで指南してもらいましたけど……! いたって真面目な相談ですってば」
ピシッと、楽屋の室温が虹夏を中心に5℃下がった。
「……ヘェ? オオツキサント? フタリデ? カラオケ?」
「い、いや違うんですそれは歌の相談であって決してそういうわけじゃ」
ひとりが本日二度目の爆死。
「ハハハハ喜多クント大槻サンが仲良ク密室でーとアハハハ」
「ひとりちゃーん!?」
「踏んだな、郁三」
「リョウ先輩も助けてください!?」
「郁三、遺影用の写真は任せとけ」
「ちょっと待って!?」
リョウは涙目でスマホを取り出しパシャパシャと。ひとりは死に、SIDEROSも声をかけられず。
背の高い郁三が地に這いつくばり、背の低い虹夏がその上に仁王だって、そうしてドラムで鍛えられた力で郁三を立ち上がらせた。
「喜多くんさぁ。
「いやーっ!!」
虹夏が郁三を、リョウがひとりを引きずって、結束バンドは楽屋から出ていく。
その一部始終の原因の一人、大槻ヨヨコは虚しい風に辺りながら呟いた。
「仲いいわね、結束バンド……」
ちょっと陽キャのノリが羨ましいヨヨコだった。
郁三への
お昼を食べ、運営スタッフから今日の進行の流れを聴いて。さらにライブの出演の順番決めをすることになる。
ちなみにリーダーと言うことで虹夏が順番決めのくじ引きに参加して、結果7組中5番目になった。微妙な順位だった。ちなみにSIDEROSは2番目、トップバッターはケモノリア。
客が入る前のライブも含めた全体リハーサルを終えて、いよいよライブが始まる。
────
ライブ審査、開始。
歓声の中、全体MCの青年がマイクを握り、ステージの壇上で観客たちに激を飛ばしてくる。
『全国の10代バンドからまだ見ぬ才能を発掘する、この《未確認ライオット》! みんな、盛り上がっているかぁ!?』
──おおおおっ!!──
会場、新宿FOLTはSTARRYよりずっと広い。それがライブ審査の会場に選ばれた理由でもある。元々《未確認ライオット》みたいなアマチュアのフェスやライブに来るくらいの客だ。多少の差はあっても盛り上がり具合はすさまじいの一言。
『今年も3000を超えるバンドが応募してくれた……! そしてその中からネット投票を勝ち上がったのは上位30組だ!』
MCも慣れたもので、熱気を生み出すのが巧い。当然というか、これはワンマンライブとは違う。それぞれのバンドのファンにしたって、大した規模はいない。いろいろなバンドのファンや応援団がいる。とっちらかる可能性が多い観客をまとめるための話術は必要だった。
『ここは新宿FOLT、東京会場! 今日ここには7組のバンドが、
MCは好調、このまま次はオープニングアクトだ。これはすごいことになるぞ! と観客たちは大いに歓声を上げた。
『君たちが次世代バンドの最初の
会場の照明が一気に落ちた。同時に、もうすぐ熱狂の舞台が幕を開けるのだとわかる。
『じゃあオープニングアクトはゲストのSICK HACK! 会場を盛り上げてくれぇ!』
暗い照明の中、ステージを歩く3人の人影。一人の靴がカランコロンッと特徴的な下駄の音が響く。
そして大歓声の中、照明から光が弾け飛び──!
「うぇっ……二日酔いなのでエチケット袋持参デースSICK HACKでーす……」
きくりが嗚咽交じりにぼやいた。めちゃくちゃ会場が白けた。
「チョットきくり! ワタシもシマも二日酔いみたいに言わないデネ!?」
「廣井……コロス!!」
白けた会場の空気をぶち壊すみたいに、人を殺しかねない修羅志麻のドラムが鼓膜をぶち破りにかかる。感情的でそれでロジカルなイライザのギターが、それをどうにか方向修正、やがて瞳が妖しく光って、でもちょっと調子が悪そうなまま《ワタシダケユウレイ》の演奏が始まった。
SICK HACKのファンは盛り上がりつつ、そうでない人たちはあからさまにドン引く。けれど、やっぱりきくりのカリスマ性は高い。会場の空気は徐々に徐々に熱くなっていく。
結束バンドは5番目。準備には余裕があって、まだ観客に混じってライブを観る余裕があった。四人は後方できくりの荒ぶる様子を見届ける。
「きくりさん……ほんっと相変わらずだなぁ」
虹夏は苦笑した。そんな想い人の様子に、リョウは少し鼻を鳴らした。
「虹夏、どうしたの」
「いや? きくりさんはカッコイイんだかカッコ悪いんだか、よくわからないって思ってさ」
虹夏の脳裏に映るのは、ひとりぼっちで東京を歩いたあの夜だ。ぶっちゃけきくりは酒臭いし風呂上がりに平気で歩くような人だし、結構な頻度で吐くし、心配になるし迷惑極まりない人だ。でも、あの夜だけはカッコいいと思ってしまった。
酒臭さと、大人の香りと、すましていれば美人なきくりの顔とても近くにあったこと。それが忘れられない。
なのに。
「今はカッコ悪いし、カッコいいし。なんか頭がバグるよ」
「私にとって、廣井さんは偉大なロッカーなんだけど」
リョウとしては虹夏とは逆の感想で、刹那的で破滅的なきくりの生き様は憧れそのものだったりする。虹夏や郁三と違ってひとりとリョウはきくりを尊敬の眼で見ているし、ライブはカッコよくてたまらない。ライブに関しては虹夏も郁三も同意見だけど。
けど、リョウと星歌ときくりの三人で飲んだ日は、きくりのまた違った一面が見えた。感謝はしているけど、郁三のことに関する発言だけは少しふくれっ面をしてしまう。それに恋愛経験を聞いた時に黙っていた。
真摯な眼と、逃げるような態度と、少しムカつく大人の余裕が忘れられない。
「もしかして……リョウ、きくりさんとなんか話したの?」
「ノーコメント。虹夏もか」
「う……まあ、ね」
「……ねえ、虹夏」
「な、なんだよ。リョウの考えてることなんてちっとも思ってないよ」
焦りすぎて言ったそばから矛盾してることに気づいてない虹夏だった。
やがてSICK HACKの数曲が終わって、本番の一番目順番が回ってくる。
きくりは一応ぶちまけずに乗り切った。なんだかんだでここにいる観客のほとんどはバカ騒ぎが大好きで、会場はしっかり盛り上がっている。
『トップバッターは《ケモノリア》! さあ、入場だ!』
元々有名なバンドだ。ただ入場するだけで歓声が段違い。挨拶もなく鮮やかなシンセサイザーが感情を揺さぶってくる。SICK HACKのおどろおどろしいものとは違う、澄んだ高音が吹き抜ける。
『キュートでポップなエレクトリック・ロックバンド! 新時代を感じさせる音楽で会場を熱くさせるぜ!』
そうして始まるケモノリアのライブ。観客のボルテージはいきなり最高潮だ。
ネットの普及で、若者も先進的機材を利用するようになる。いろいろなジャンルが融合して、どんどん新しい文化が生まれる。その先駆けを象徴するにふさわしいトップバッターは、決してプロにも引けを取らない。
そして、二番手。
『続いては、可愛い顔で狂暴な音を鳴らすガールズバンド、《SIDEROS》!』
ケモノリアの熱狂を引き継いで、けれど鮮やかな音なんてお断りだと、今度はエレキギターの心地よい耳鳴りが会場を一色に染める。
あくびのドラム、幽々のベース、楓子のギター、そしてヨヨコのギターとボーカル。
久しぶりに聴いたSIDEROSのライブはやっぱり盛り上がる。ここが新宿FOLTでホームだということを抜きにしても、さすがの人気だ。
メタルバンド。MCがまくし立てたように、一見大人しい風貌のヨヨコたちが、黒ベースでも少し刺激的な格好で激しい音楽を生み出すのだから、観客はそれに興奮しないわけがない。若手の筆頭、という名目は伊達じゃないということだ。
「相変わらず、圧倒的だね」
郁三は隣でステージを見上げるひとりに喋りかけた。
「あっそうですね」
もうそろそろ楽屋で準備をする必要があるけれど、知り合いであり、少なからずライバルとして鼓舞し合ったSIDEROSだ。観ておきたかった。
「大槻さんには世話になったし、やっぱりボーカルも段違い……いろいろと教えてもらったけど、やっぱりこの実力も納得だな」
「いっいろいろと……」
ひとりは少しだけしょぼんとなった。顔面が崩壊して飛び散らなかったのを誰かに褒めて欲しいと思った。
「きっ喜多くん……クリスマスの時以外にも、大槻さんと話したんですもんね」
「うっ」
珍しく郁三の言葉が詰まる。
虹夏の
とはいえ、郁三はこの時期にヨヨコと話したことを、真面目な意味じゃなくて
ひとりがしょげているのもちょっとキた郁三だった。
「……ごめん、ひとりちゃんにも鎌倉でたくさん相談乗ってもらったのに。なんか抜け駆けしちゃったみたいで」
「そっそんなことないです。技術的なことはわたしは何も言えないですし」
ひとりとしても、郁三がリョウを好きというのはもちろん知っているので、本気だとは思っていない。でも好きな人が別の子と仲良くしてれば、どうしてもモヤモヤしてしまうのが心情なわけで、それでひとりの脳は一瞬破壊されてしまった。
「きっ喜多くんが悩んでたのも知ってますから、それが解決できたら、よかったって思います」
「……うん。解決はできたよ。今日はここまでの集大成を見せれると思うから」
ヨヨコに話したこと、罪悪感を覚えたこと、自分自身が苦しさを感じたこと。あったことをなかったことにはしたくない。
「だからひとりちゃんも、もちろん演奏しながらだけど。ちゃんと、
「……はいっ」
やがてSIDEROSのライブも終わって、結束バンドの四人は楽屋に戻る。
最後、調整としての練習を終えて、お互いの緊張をなんとか和らげて、自分たちの一つ前、4番目のバンドが最後の曲を披露する段階まで来ていた。
その時はもう目の前だ。
四人は集まる。自然、円陣を組む。
「さて、それじゃセトリも順番もOK。MCは……喜多くんはともかく、ぼっちちゃん、さっき言った通りでいいのかな?」
「あっはい」
すべての準備を終えた。リーダーの虹夏はMCを臨機応変に切り替える。フロントマンの郁三がメインのMC。そんな中ひとりに進行についての希望が出て、虹夏も、郁三もリョウもそれを了承した。
「いよいよだね」
「はい!」
「といっても、まだライブ審査。次はフェス審査だけど」
「でっでも、今までで一番大きな規模ですね……」
そう、まだ《未確認ライオット》の途中だ。本番はFS、フェス審査。とはいえ結束バンドの今までの経験は、STARRYライブ、路上ライブ、秀華祭ライブ、SICK HACKワンマンライブのゲスト出演だけ。人数は秀華祭ライブの方が大きくても、ライブ審査の方が完全なアウェー。ゲスト出演と同じ会場でも、ライブ審査の方がワンマンライブより完全にいろんな観客がいる。
事実上、今日のライブ審査は結束バンドにとって未知の領域だ。
当然、四人それぞれ緊張はしてる。ひとりなんてさっきはトイレに籠城しようとして虹夏の命令を受けたリョウに付き添われたりした。
虹夏は頷いた。
「うん、一番大きい規模だ。でも、だからなんだってことだよ」
この一年半、いろいろなことがあった。逃げたギター事件、オーディション、台風ライブ、秀華祭ライブ、クリスマスライブ、路上ライブ、ブッキングライブ。
ライブ以外だって。江ノ島弾丸旅行、居酒屋での打ち上げ、ぽいずん♡やみ事件、MV撮影、鎌倉デート、よみ瓜ランド。
四人全員じゃなかったら、他にもたくさんのことがあった。楽しいことだけじゃない、苦しいことがたくさんあった。
それでも、四人は結束バンドのままでいる。
「今日だって、きっと楽しいライブになるよ。僕は忘れてやらないからね」
「虹夏先輩、その言葉好きですよね」
「もちろん。ぼっちちゃんとリョウの傑作だと思ってる」
「え、えへへへへ」
「虹夏は言葉が好きなんだよ」
「皆はどう? 自分たちの曲で、どれが好き?」
一瞬意識を頭上に向けて、それでも三人とも迷いなく答えた。
「わっわたしは《星座になれたら》です」
「《カラカラ》」
「……《グルーミーグッドバイ》に一票で!」
「あはは、ものの見事に全員違う。でもそれでいいんだ。何もかもが違う僕たちだから、できるライブがある」
虹夏は笑った。
「僕は
その言葉に、四人は頷いた。
苦しいこと、辛いこと、逃げ出したくなることがたくさんあった。
それでも、起きた出来事をなかったことにしたくない。何もかも違う四人が、まったく同じことを思っている。
手を重ねる。いつもの黒色の結束バンド。虹夏は、その手に金と銀二つのブレスレットをつけている。
「今日を、忘れられないライブにするよ……!」
「おお!」
「はいっ」
「おー」
四人が息を合わせて天へ腕を掲げた、その時。
運営スタッフが、結束バンドの名前を呼んだ。