結束バンドのライブ審査は終わった。
《グルーミーグッドバイ》、《星屑に染まれ》、《ギターと孤独と蒼い惑星》。息絶え絶えになって、郁三のやることに仲間どころかその場の全員を巻き込んで、前代未聞のライブを終えた結束バンド。
拍手喝采の中、魂が抜けたように全部がふわふわとして、楽屋裏に戻っても誰も何も言うことができなかった。
結束バンドは5番目。残りはもう、二組だけ。
四人の体力が回復しきる前に、あっという間に全部のスケジュールが終わってしまって、他の人たちも楽屋裏に戻ってきた。
そして、ライブ審査の結果が発表となる。
「それでは結果発表! 《未確認ライオット》の
壇上には、MC以外にも暗闇の中に2組のバンドが立っていた。FSに進むバンドには、すでにその結果を伝えてこのライブ審査の進行のために控えてもらっていた。
そして、華やかな光の演出と共に、彼らの素顔が明らかになる。
「最終ステージに進むのは──SIDEROSとケモノリアだ!」
その瞬間。観客が全員盛り上がる。2組の元々のファンも、そうでない人たちも、彼らの活躍に盛り上がって。
「審査員も最後まで迷ったんだが、どのバンドも皆いいライブをしてくれた! 本当に、ありがとう!」
栄光に一歩近づいたバンド、そうでなくても精一杯に会場を盛り上げたバンド、目一杯楽しんだ観客たち、会場を支えたスタッフ。全員が全員に向けて感謝と頑張りを讃えた瞬間。
結束バンドは、観客席からステージを見上げていた。
結束バンドはファイナルステージに進出することは叶わなかった。
1・2位以外の順位はわからない。7組中3位から7位までのどこか、というわけだけど、順位なんてものをつけるのもどこか寂しい気はした。どのバンドも頑張ったことには変わりがないのだから、ライブを盛り上げるという意味では全員が勝者と言いたい。
それでも、悔しいものは悔しい。けれど、涙は出ないで、呆然としてしまって。
結束バンドの《未確認ライオット》は終わった。
────
新宿FOLTを後にする四人。
メンバーは、それぞれ応援に来てくれた知人にお礼して、きくりたちや銀ちゃんたち新宿FOLTの関係者にも挨拶をした。
SIDEROSにもFS進出を「すごかったね!」と褒めて。特にヨヨコが、結束バンド四人に対して少しシュンとしてたのが印象的だったけど。
次子たち秀華高校の面々にお礼をしに行くと、郁三は出会いがしらに次子から脳天をどつかれ、男友達には無言でアッパーを喰らい、その醜態を女子のスマホに撮られる、なんていうものもあったけど。
車で来た後藤家もいたけど、直樹と美智代が気を利かせて「僕たちが皆の荷物を運んでおくよ」と、特に虹夏のドラムセットをSTARRYまで持って行ってくれることになった。それで四人で打ち上げができるからと、FSに進めなかった四人に対する配慮だし、
そうして、四人は荷物をまとめて。ひとりと虹夏は楽器を後藤家に預けたので、荷物があるのは郁三とリョウだけだ。
そんな、四人の帰り道。
「──ひとりちゃん」
郁三はひとりを呼び止めた。
「……きっ喜多くん」
FSに進めなかったというそれなりのショックがあって、しばらくの間感情が動かなかったけれど、帰る時間……太陽も落ちれば落ち着いてきて。
郁三も恥ずかしくなって、ひとりも悶えたくなって、虹夏もリョウも少し気まずくなってくる。
そんな中、新宿の雑踏で、郁三はひとりを呼び止めた。
前を歩く虹夏とリョウが振り返って。ひとりは二人よりも遅れて、最後方で止まった郁三に向き直って。
「……話がしたいんだ。少しだけ、いいかな?」
郁三が言った。郁三の顔は、彼にしては珍しく赤くなっていて。
ひとりも、赤くなって何も言えない。
「えっ……あ、ぅ……」
「えっと……だめ、かな」
二人ともアホなくらい何も言わない。
「……ぼっちちゃん、喜多くん」
虹夏は二人に声をかけた。
「ファミレスでいいかな? リョウと二人で先に席取っておくよ」
「あっはい」
「に、虹夏くん」
「あはは、喜多くんがぼっちちゃんみたいにどもってるよ」
虹夏は疲れた表情で、にっこりと笑う。
「大事な打ち上げだから、ちゃんと来てね……ちゃんと、二人でだよ?」
そういうと、虹夏とリョウは先に歩いていく。
小さくなっていく二人。リョウが背丈の変わらない虹夏の頭を撫でていた。ちょっとだけ涙目の虹夏がうっとおしそうにそれを払いのける姿が見えた。
二人きりになる郁三とひとり。
「……」
「……」
『あっあの』
思いっきり被った。
「っと、ひとりちゃん、いいよ」
「きっ喜多くんどうぞ」
「……」
「……」
沈黙が長い。
お互い何か言いたいことがあるのは明らかで。
けど、言い出すのに勇気がいることも知っていて。
「……なんかごめんね、ひとりちゃん」
郁三は、まず最初に謝った。
「えっと」
「俺の自己満足に、巻き込んじゃった」
「……」
郁三は、柄にもなく左右の掌で顔を隠して俯いた。
「なんか……振り返ってみると、恥ずかしさで死にそうだ」
ライブ会場で、それに他のバンドもたくさんいる会場で。次子とかひとりの両親とか、知り合いも大勢いる場所で。ぼかしたとはいえ、思いっきり、本当に力の限り叫んだ。
ずいぶんと無茶なやり方で。相手を無理やり引きずり込むやり方で。
でもそれくらいハイにならなきゃ、罪悪感とか、責任感とか、いろいろなものが邪魔をして言えなかった。
「そっそんなこと、ない……です」
ひとりは、消え入りそうな声で、精一杯返した。
「おっ驚きましたけど……でも……すごく、嬉し、かったです」
郁三は、指と指の間をあけて、言葉を返してくれたひとりを見た。
カッコいいと思っていた女の子が、今。
上目遣いで自分の顔を見上げていて、すごく可愛い顔をしている。
脳の中がバグりそうだった。話そうとしていたことを、どう話せばいいかわからなくなってきた。
それでも。
「……改めて、伝えたいんだ」
「は、はぃ……」
「ひとりちゃんにも『リョウ先輩に一目惚れした』って言った……それは嘘じゃない」
嘘だけはつきたくなかった。それがどれだけ愚かなことだとしても。
「ただ……俺に結束バンドに戻るきっかけをくれて、俺にギターを教えてくれて」
苦しいこと、辛いことを乗り越えて本心を話した仲間のように、自分も自分の
「すごいギターの腕があって……そんな女の子を、支えたいって思ったんだ」
「……」
「秀華祭、勝手に申請しちゃったのも……結束バンドのみんなが、ひとりちゃんが、すごいんだっていろんな人に知ってほしかったからなんだ」
「えっあ、そうだったんですね」
ひとりは驚いた。郁三はその反応で少しだけ昔の傷がえぐれた。
そうだ。思えばあの頃から、目の前の女の子のことを単なる仲間以上に気にかけていた。
ずっと、郁三は自分の感情に気づかなかった。
「女の子と付き合ったこともないから、どんな言葉をかけるのがいいかもわからないし」
郁三が自分のことを卑下するのはそれだけじゃない。
ひとりの密かな決意を盗み聞きしてしまったこと、その後に自分がこういう感情を持っていること。都合のいい、なんて都合のいい行動と感情だ。
「他の人を好きだって言ってたのに、急に違うことを言って。そんなの、気持ち悪いかもしれないけど──」
「そんなことないですっ」
ひとりは、郁三と話し始めてから一番しっかりと声を出した。郁三の声が途切れる。
ひとりからすれば、郁三が自分のことを好きだというのは本当に驚いたけど。
それでも、郁三が嘘を言うような人じゃないって知ってる。
「きっ喜多くんがリョウさんを好きだったこと、すごい真剣だったって知ってます」
一度逃げたことに罪悪感を感じて、きっかけが必要だったにせよ謝って、身を引こうとしたこと。
思い通りに鳴らない6弦ベース。勘違いだったとしても、指にタコができるまで頑張っていたこと。
「きっ喜多くんが、すごい頑張ってるって、だっ誰よりも知ってます」
ずっと、郁三の成長を目の前で見てきたから。郁三のことが好きだからいい面ばかり思い出すけど、それでも郁三の未熟な面をたくさん知っている。
だから郁三が真剣なことはわかっている。郁三が自分の感情に怒って、そのうえで確かに想っていることなんだってわかっている。
(わたしたちは……みんな、同じ気持ちを持ってるから)
そして、ひとりは郁三のことが好きで好きでたまらない。
お互い、気持ちはわかっている。
結束バンドの仲間として想っていることは、路上ライブで、今日のライブで、たくさん叫びあってきた。
だから、もう。
言うことは、これだけだ。
「俺は……ひとりちゃんと、一緒にいたいって思ったんだ」
「わたしは……喜多くんがずっとわたしを見てくれて……それで、好きになりました」
「ひとりちゃん……俺と、その……付き合って、ほしい」
郁三は、頭を下げた。
そして、右手を差し出した。
沈黙の後。
「はっはい」
郁三の手を包む、温かいものが振れた。
「よろしく、お願いします……!」
────
日々は、忙しく巡っていく。
ライブ審査が終わっても、結束バンドの活動は変わらない。
いつか、虹夏がリョウに言っていたように。例えグランプリが獲れなかったとしても、それでバンドを解散するわけじゃない。
毎月のSTARRYでのライブがある。頻度は下げても、路上ライブがある。バイトがある。練習がある。
変わらない毎日がある。
そうしてライブ審査から一か月後、7月。
「来たぞー! 《未確認ライオット》ファイナルステージ!」
真夏の暑い時期。虹夏のはつらつとした声が青空に響く。
結束バンドの四人は、《未確認ライオット》のファイナルステージ、フェス審査会場に来ていた。
進むことは叶わなかったけど、それでも目標に掲げた場所。SIDEROSが出ている、というのもある。その活躍をこの目に焼き付けておきたいと思った。
「いやー、ついに来たね! ひとりちゃん!」
「あっはい……!」
「郁三元気だな……」
「リョウがやる気なさすぎるんだよ。ぼっちちゃんでさえ結構張り切ってるんだよ?」
いつもと変わらない四人の会話。相変わらず準備の良い虹夏がレジャーシートやら遠足道具を持ってきている。
「虹夏、よくやった」
リョウがいきなり敷いたレジャーシートで寝始めた。
「いきなり寝るな」
「もう疲れた……ぼっち、
「あっはい」
「フェス会場を自分の部屋にするな!」
「違う、これ虹夏のだから虹夏の部屋」
「どっちにしろダメだ山田ァ!」
「ひとりちゃん。ひとりちゃんも疲れてるだろうし、俺が代わるよ」
「えっあっいいんですか?」
「おい喜多こんなとこでイチャコラすんな」
「違いますよ虹夏先輩、リョウ先輩が暑そうだから」
「どっちにしろだめだろ!?」
ひたすら虹夏が叫んでいる。
ロックフェス。郁三はめちゃくちゃ楽しみだった。虹夏も体力面に若干の不安はあったけど、楽しみなのは変わらない。
問題があるのは女子二人。
陰キャ、後藤ひとり。インドア、山田リョウ。二人とも野外フェスなんてまず行かない。
それでも女子二人は前向きにならないわけじゃなかった。
ひとりの場合はこうだ。一緒に行く四人の中に、大好きな人がいる。しかも、その人も自分を好きでいてくれる。だから、もしかしたらお姫様よろしく守ってもらえるかもしれない。よくいるカップルみたいに。
リョウの場合はこうだ。一緒に行く四人の中に、大好きな人がいる。ぶっちゃけ告白もしたし恥ずかしいんだけど、最近仲は悪くない。だから好きな人と遊びに行けるのはまあ楽しい。
けど、結論から言えばそうはならなかった。二人ともフェス舐めてた。
フェス飯を食べ、周りの盛り上がりに浮かされて、そうして12時、フェスが始まる時間がやってくる。
レジャーシートをしまって、立見スペースで盛り上がりに混ざろうとする四人。サークルやらモッシュやらアクロバティックな動きにことごとくダメージを受けて、恋だのなんだの言ってる場合じゃなかった。
「ひとりちゃん、俺から離れないでね」
「あっ……天国……?」
「え?」
郁三に守られて天国だったのか、それとも大勢の観客に圧されて天国が視えたのか、どっちなのかはひとり本人にしかわからない。
ともあれ郁三とぼっちは辛うじて固まって、いつの間にか虹夏とリョウがモッシュに振り回されて、先輩組・後輩組に分かれてしまった。
リョウがフラフラになりながら先頭集団から離れて、その後ろを虹夏が追いかける。
「夏フェス……二度と来ない」
「なんか鎌倉を思い出すなぁ」
「虹夏、水頂戴……私荷物向こうに置いてきた」
「なんで生命線すら置いてっちゃうのさ。僕のしかないけどいい?」
「……いい」
適当な縁石に二人して座って、会場の熱狂を遠くに眺める。虹夏は鞄からペットボトルを取り出してリョウに渡した。
結構遠慮なく水を喉に流し込んで、一息ついて。
「ぼっちと郁三は?」
「んー、喜多くんがついてるし、ぼっちちゃんは大丈夫じゃないかな」
「それはつまり、虹夏の甲斐性が」
「なんで隙あらば僕を男として格落ちさせようとするんだよ」
虹夏は頬杖をついてため息を吐いた。
そんな虹夏に対して、リョウはそれ以上何も言わない。
虹夏はいつも通りの様子でいる。リョウの眼からみても、今日の虹夏はほとんど平常運転だ。
虹夏とリョウは、今こうして隣同士で座ってる。
リョウは虹夏に告白の返事を求めなかった。ただ、私のことを見て欲しいと、それだけ言った。
だから、虹夏からの明確な返事はない。それは逃げかもしれないし、中途半端かもしれない。
ただ、リョウもあの時、誕生日に《カラカラ》を歌って、電話で気持ちを伝えて。時間にして十分も経ってないその時間で、虹夏に対する勇気を全部使い切ってしまった。
だから、リョウはひとりや、郁三の話を振れなくて。
「ライブ審査……残念だったね」
それでも、虹夏を少し悲しませてしまうようなことを振ってしまう。
「そうだねぇ。残念だったねぇ」
虹夏はあっけらかんとして笑った。
「悔しく、ないの?」
「もちろん悔しいよ。でもリョウだってそうでしょ?」
「……もちろん」
「ぼっちちゃんだって、喜多くんだって、みんな同じように思ってるよ。僕だけ弱音は吐けないよ」
「……そう」
虹夏は立ち上がった。スマホをリョウに見せてくる。
「喜多くんから連絡来たよ。『SIDEROSのライブが始まるから一緒に観ましょう、ひとりちゃんと一緒に前にいます』だって」
「……そっか」
「ちょっとは休憩できた? 僕たちのライバルだけは、ちゃんと雄姿を観ないとね」
「……ガールズバンドだけどね」
リョウも、しっかり膝に手を当てて億劫そうに立ち上がる。
前を歩いて、少しでも空いてそうな場所を先導してくれる虹夏。
虹夏の後姿を見て、リョウは思う。
(嘘だよ。泣きたいに決まってるでしょ)
どれだけ虹夏のことを考えてきたと思ってるんだ。虹夏の考えなんて全部お見通しだ。
いろいろなことがありすぎた。《未確認ライオット》はライブ審査までしか進めなかったし、失恋をして、しかも仲間の男子が初恋の女の子と一歩先を進んで。
そんな中で、虹夏はリョウの気持ちを受け止めることになって。
隣にいる虹夏の想っていることは、以前リョウが感じてきたストレスと同じか、それ以上なのに。
(昔馴染みの私にだって言わないのか)
いや、違う。
(私が告白したから……ただの昔馴染みじゃなくなったのか)
自分で「その先は言わないで」と言ったのに。そこまでしか言えなかった自分を恨めしく思う。
好きだと言ってしまった。
その先、虹夏に聞きたいこと。
(ねえ。虹夏は、私のことをどう思ってるの?)
言葉に出さなければ、いくらでも言えるのに。
────
ファイナルステージはSIDEROSの優勝で幕を閉じた。
全国3か所のライブステージを勝ち上がってきた猛者たち。どのバンドも盛り上げ上手で、曲も演奏もプロに負けないくらい熱があった。
結束バンドの四人も、全部のバンドを最後まで見届けた。
終わるころには、空は赤くなっていた。
「はー、楽しかったぁ」
満足気の虹夏がいた。
「大槻さんのドヤ顔すごかったですね」
そんな風に、恩師を少し笑う郁三がいた。
「……ドヤ槻」
リョウはボソッと呟いていた。
今日、結束バンドの四人は観客だ。フェスのスケジュールが終われば、運営スタッフにも出演者にも挨拶することはない。もう帰るしかすることはない。
そんな中、帰ろうと振り向く三人。ひとりだけは、まだぼーっとステージの会場を眺め続けていた。
「ぼっちちゃん? 帰り支度するよ?」
四人の最後方を歩く、というのはひとりのいつも通りの生態だ。とはいえ別にひとりは集団行動を拒否するわけじゃない。付いてくるのが当たり前だ。
そんなひとりが、ずっとステージを見続けている。三人は気になって、ひとりの顔を伺う。
三人とも驚いた。ひとりは変わらない表情で涙を流していた。
「ぼっちちゃん!?」
虹夏が驚愕する。その声で、ひとり自身も自分の状況を理解して。
「あっ」
「えっ大丈夫ひとりちゃん!?」
「どこか痛いの!?」
郁三もわたわたと慌てて。
リョウは何も言わない。けど、ひとりが泣く理由がわかっている。
「あっやっやっぱり……悔しくて……みっみんなで今日……大きいステージに、たっ立ちたかったです」
ひとりだけじゃない。虹夏も郁三も、リョウだって、思っていた。
「もっと……たくさんの人に……結束バンドの曲……聴いてほしかった……!」
ライブ審査の結果は納得してる。ただ、自分たちよりもすごいバンドがいただけ。自分たちの実力を全部出しきって、それをたくさんの人に聴いてもらったんだから、後悔しないわけがない。
「誰かに力を認めてもらうとか……そういう事より……もっと……」
ただ、ただ、今日ここでライブをできなかったことが、悔しい。
みんな必死で我慢してた。リョウと二人で話した時の虹夏がいい例だ。
でも、そんな風に一人が泣き始めてしまったら。
「やだな、ぼっちちゃん……僕だって我慢してたのに」
「……虹夏」
「僕だって、皆と今日……ライブ、したかったよ」
虹夏の瞳から、流れるものが。
郁三とリョウの瞳に揺れるものが。
バラバラだった個性の集まりだった。それでも、こんなにもたくさんの共通項ができた。
しんみりとする四人の背中に、声をかける人がいた。
「ちょっと……!」
四人そろって振り返る。そこにいたのは、たった一回しか会わなかったけど、それでも強烈な印象を残した人で。
「ぽいずんさん……? どうしてここに?」
ぽいずん♡やみ。結束バンドが《未確認ライオット》に出る原因となった音楽ライター。
秀華祭の後のライブ。あの時やみの諸々の発言で空気が悪くなった、なんてことがずいぶんと昔のことのように思える四人だった。
虹夏の質問に、やみは答えた。
「貴方たち、絶対ここに来てると思って。その、どうしても言いたいことがあったから」
「言いたいことって?」
郁三も尋ねる。あの時、郁三はやみの発言に声を荒げていた。
やみは郁三にちょっと気まずげになりつつ、それ以上に四人に対して真摯な態度で。
「ごめんなさい。ギターヒーローさん以外お遊びって発言、撤回するわ……!」
きれいに、しっかり、四人に向かって頭を下げてきた。
四人は気づかなかったけど、やみは結束バンドのライブを何度か観てきた。路上ライブ、ブッキングライブ、そしてライブ審査を。
「いろんな変化があって、その度に成長して、強烈なメッセージを残してくれるライブだった」
やみは、もう一度言う。少し強めに。真っすぐな目で。
「ライブ審査の演奏を観てわかった。ギターヒーローさんの居場所は結束バンドじゃなきゃダメだって」
ライブでの演奏は、まだギターヒーローの域には達していない。でもひとりはギターヒーローで、同時に結束バンドの後藤ひとりだ。後藤ひとりでしかできない演奏がある。
それだけじゃない。ひとりだけじゃない、全員が変わっている。ただ一人が結束バンドの四人を支えるように、四人がただ一人を支えるように。
それがわかって、やみは自分の考えを改めた。
「ライブ審査の時、私にとっては結束バンドが一番だったから。それだけ伝えておきたくて──」
「……追い打ちかけないでくださいよー!」
「え? えっ!?」
出会った時のやみの言葉は棘があったけど、本当のことでもあったし四人が頑張る原動力にもなった。だから全員、やみの発言に思う所があっても今更怒っていない。
しんみりしたところに謝られるものだから、虹夏がついにやけくそになってやみにあたり始めた。
それは感謝の裏返しでもある。きっかけはどうだって、結束バンドの音楽を評価して、認めて、好きになってくれた。SIDEROSやケモノリアをおいて、一番だと言ってくれた。
STARRYを有名にしたい、そのために人気のあるバンドになりたい虹夏。
結束バンドを最高のバンドにしたいひとり。
自分たちらしい音楽を追求したいリョウ。
みんなで頑張ることを求めた郁三。
誰にとっても、やみの言葉は嬉しい。
やみ自身、自分の発言が原因だったことに責任を感じていたし、結束バンドの反応を見て余計に気まずくなって。
話を変えることにした。
「その、今日会いたかったのはもう一つあってね。紹介したい人がいるの」
「紹介したい人……?」
「あの、そろそろよろしいでしょうか」
やみと一緒に行動していたのだろう。最初から近くに控えていたらしいスーツ姿の凛とした女性が近づいてきた。
「この方を紹介したかったの」
「えっと、どうも、初めまして……?」
「初めまして、伊地知虹夏さん。結束バンドのみなさん」
女性は名刺を差し出してくる。
「レーベル《ストレイビート》でマネジメントをしています、
『……れーべる?』
四人の声が裏返った。
「はい」
「……
「いえ、クソ雑魚ではなくてですね」
「虹夏がぼけた……」
リョウはしこたま驚いた。
「
「いえ、当て字でもなくてですね」
どうして漢字までわかった? とは誰も突っ込まなかった。
都は、コホンと喉を鳴らして、決してふざけた態度にならないよう注意したうえで、改めて虹夏に名刺を渡してくる。
「先日のライブ審査の皆さんのライブ。結果は残念でしたが、素晴らしいものを観させていただきました。よければ前向きにお話できればと、佐藤さんに仲介をお願いしたんです」
『佐藤さん』がやみであると、虹夏以外の三人は気づかなかった。
そしてようやく頭がまともに戻ってきて。
『レーベルー!?』
虹夏と郁三のめちゃくちゃな叫び声が響いた。
「ちょっと、うるさい!」
二人に慣れないやみがしかめっ面になる。
「あの、まだ話が……」
遮られた都にも気づかないで、四人は手を取り合って喜ぶ。
「にっ虹夏くん……!」
「ぼっちちゃん……」
ひとりと虹夏。手を取り合うことはない。それでも、虹夏は掌を出す。そうすれば、ひとりもハイタッチをして応えてくれる。
「まっまた夢に近づきましたね……!」
「うん! ぼっちちゃんの……みんなのおかげだ!」
「ちょっと、俺も混ぜてくださいよ~!」
「にじかー」
「だぁ喜多くんとリョウは喧しい抱き着くなっ!」
さっきまでのしんみりした空気は吹き飛んだ。
やみとの出来事、レーベルからの話。結束バンドは確かに、それぞれの夢へ確実に進んでいる。
嬉しさのあまり、やみも都のことも思わず忘れてしまって、ちょっと怒ったやみが叫ぶまで、四人はわいわいと喜んで、盛り上がり続けていた。
そんな様子を、大人二人は、ただただ見ていて。
「……仲のいいバンドですね」
都が呟いた。都が結束バンドを観たのはライブ審査の一度だけ。音楽性とか、実力とか、優劣をつけてしまうならSIDEROSとかケモノリアとかには負けてしまうけど、それでもたった一回で魅力が伝わった。
ボーカルがはっちゃけて、でもそれを裏で怒るでもない。みんなで一緒に喜んでいる。
別に他のバンドが仲が悪い、なんてことは思わないけれど。
それでも、仲がいいバンドだと、都は正直に思った。
「はい。それがこの子たちの強さですよ」
やみは言った。
やみは知らない。結束バンドにも、その仲のよさをぶち壊してしまうようないろいろなことがあったこと。それを乗り越えてきたこと。
「……ところで、喜多さんの告白のその後、どうなったんでしょう?」
「さあ……?」
やみと都が結束バンドの恋愛事情に戦慄するのは、また別のお話……。
次回、本編最終話
「50 colorful constellation」です。