【完結】虹色refrain   作:迷えるウリボー

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 《未確認ライオット》の全行程が恙なく終わりを迎えて、数日後。

 今日も今日とて、結束バンドの四人はSTARRYでのバイトに勤しんでいる。

「ぼっちちゃん、ドリンクコーナーお願い」

「あっはい」

「喜多くん、ゴミ出し行ってきてくれる?」

「任せてください!」

「私がゴミ出しに行ってやろう」

「リョウはそのままバックレるからだめだ」

「ちぇっ……」

 学校は休みで午前中にバイトというスケジュールだ。

 虹夏が指示出ししつつせわしなく動いていると、その背中に星歌が声をかけてくる。

「お前ら、今日レーベルに話し聞きに行くんだよな?」

「え? 姉ちゃん、何言ってんの?」

「あ? 今日じゃないのか?」

「明日だよ! まったくもう、気が早いなあ」

 やみを介して知り合った司馬(しば)(みやこ)。レーベル《ストレイビート》のマネジメント担当。

 結束バンドに可能性を感じた彼女は、結束バンドにレーベルとしての話を持ちかけてくれた。

 結束バンドも、業界に関して右も左もわからない。それでもまずは一歩を踏み出そうと、事務所で話を聞くことになった。それが明日だ。星歌はちょっと日付を失念してたみたいだけど。

「そっか。それじゃあ今日はこの後四人で練習すんのか?」

 星歌は尋ねた。

「ううん、最近練習にライブに忙しかったし。今日は休みだよ」

「にしてはえらい張り切ってるな?」

「さあ? たまたまじゃない?」

 そんな風に話して、虹夏は自分の作業に戻った。

 それから数分後、バイトも終わる。

「よし。みんな、お疲れ様!」

「お疲れ様です!」

「つかれー」

「あっお、お疲れ様です」

 と、いつも通りに仲のいい四人は、星歌に挨拶した後、自然集まってワイワイしている。

 時間は12時を過ぎたところ。まだ昼食は食べていない。男女問わず、食べ盛りな年齢だからお腹も空きつつある。

「じゃあひとりちゃん! 行こうか」

「あっはい」

「二人とも。明日はレーベルに話し聞きに行くから。STARRYで集合だけど、遅れちゃだめだよ。時間厳守ね」

「あっはい」

「もちろんです!」

 立ち上がる郁三とひとり。リョウが机に突っ伏しながら言った。

「……二人はこれからデートだっけ?」

「そうです! とりあえずご飯食べたら、行きたいところに行こうかと」

 星歌の感じた頑張りは間違いじゃない。主に郁三とひとりが発していたものだ。

 改めて、クラスメイトで、バンドメンバーで、ギターの師弟である郁三とひとりは、その関係性にもう一つを加えることになった。それから約1ヵ月。二人はもちろん、結束バンドの四人も仲は良好だ。

 郁三やひとりとしては、虹夏に対する負い目がないわけじゃない。けれど虹夏自身が「僕のことを気にしたら二人とも怒るよ」なんてことを言っている。

 何よりも、結束バンドは、それぞれが正直でいたいと思っている。だから郁三もひとりも、気にしないようにしている。

 行動的な郁三と、正反対なひとり。この二人組なので、どうしたって郁三が友達とするみたいに外に出てはしゃぎまくる機会は少ない。そもそも二人で自主練をすることも多くて。今日はたまの外遊びらしい。

「あっそれじゃあ、お疲れ様でした。ま、また明日」

「失礼します!」

「うん。また明日」

 虹夏は柔らかく、リョウは無言で、STARRYを出ていく二人を見届ける。

 ガチャリと扉が閉じて、陽キャがいなくなったSTARRYは途端に静かになった。

「郁三は元気だな」

「だねー。ぼっちちゃん体力もつのかな……?」

「心配性め」

「そりゃ心配するでしょ」

 リョウは突っ伏したまま。虹夏は同じテーブル席に座るけど、でもスマホ弄りに精を出している。

 店長である星歌はコンビニで昼飯を買いに行っているところだ。虹夏とリョウしかいない、沈黙の空間。

「リョウさぁ」

「んー?」

 目線はスマホに向けたまま、虹夏は話しかけた。

「今日の予定は?」

「別に、何もない。家で映画でも観ようかな、ってくらい」

「映画館じゃなくて?」

「そうだけど」

「そっか」

「そう」

「……」

「……」

 沈黙。

 沈黙。

 さらに沈黙。

 リョウが予定がないのは本当だ。《未確認ライオット》も終わった。作曲作業もないので急いだり焦ったりする理由がない。虹夏は家事で忙しいし、真面目に勉強してるけど、リョウはそこまで勉強を頑張ってなかった。

 一年前ならずーっと虹夏と一緒にいて無駄話にふけていた。少なくとも、リョウにとっては無駄なんて一秒もない時間だったけど。

 最近は、少なくとも前よりは、駄弁(だべ)らなくなってきた。映画、というのは暇を持て余した結果だ。

 そんな風に、心の中でため息を吐くリョウ。

 虹夏が唐突に言った。

「この後楽器見に行くんだけどさ。秋葉原まで」

「え?」

「久しぶりに行こうかなって」

「そう。珍しいね」

「うん」

「……」

「それでよかったら、一緒に行かない?」

「うん──へ?」

 リョウの口から、珍しく素っ頓狂な声が出た。

 思わず顔を上げて虹夏を見た。

 虹夏は。

「ドラムは秋葉原(アキバ)だけど、御茶ノ水も近いじゃん。よかったらどうかなって」

「えっ、うん。楽器、物色するのは飽きないけど……」

 

『どこに行くの?』

『秋葉原。楽器(ドラム)見に行くんだ』

『私も行く』

『そう言うと思った。早く準備してよ』

 

 いつもの会話を思い出す。これがそうだ。リョウが必ずついていくのが分かっていたからというのが理由だけど、虹夏から誘うことなんてなかった。

 リョウが感じる違和感。

 虹夏は。

「ん」

「ん、て」

「だ、だから、その……」

 虹夏は、顔を赤くしていた。

「その……で、デートしない? って聞いて、るんだよ……」

 デートしない?

 デートしない……?

 

 ()()()()()()!?

 

「……!?」

 リョウは思わずガバっと立ち上がってしまった。反動で椅子が揺れて、倒れなかったのは奇跡だった。これに奇跡って言葉を使うのもちょっとしょうもないことだけれども。

 リョウは虹夏を凝視した。今までの虹夏からはあり得ない言動だったから。

 虹夏は顔を真っ赤にしていて。

 もうスマホは見ていない。立ち上がったリョウを、真っすぐ見上げている。

「……今まで、リョウのことは妹みたいにしか見てなかった」

 小さい声で。でもリョウには確実に聞こえる声で。

「だって、僕の部屋好き勝手に占領するし、昔から気心知れた奴だし。リョウが僕のことを好きだなんて、考えもしなかった」

 虹夏の誕生日。告白を受けた時、虹夏はリョウにどう言葉を返せばいいかわからなかった。リョウが「その先は言わないで」と言わなかったとしても、虹夏はまともに返事を返せなかっただろう。

 《未確認ライオット》ファイナルステージの時、郁三とひとりとはぐれて二人きりになる瞬間があった。その時も、何かを言う勇気がまだなくて。

 それから少したって、やっと虹夏はこれを言う勇気が持てるようになった。

「僕は……どうしたって好きな子がいる。その子は他の奴が好きで、今だって悔しいし、嫌になるよ。いろいろ強くなったと思うから、一応は平気だよ? でも、やっぱりちょっと落ち込むんだ……」

 虹夏がひとりを好きになったことは、どうしようもなく変わらない。郁三とひとりのあれこれを見聞きするのは、まあ心に来る。

「でも、勇気を出してくれた子に報いないなんて、違うんだ。リョウのこと、大事だから」

 虹夏は、リョウのことを大切な妹分だと思っている。

 大切な仲間だと思っている。

 大切な友達だと思っている。

 そして、自分のことを好きな子なんだと、知ったから。

「リョウのお願いを、ちゃんと聞くよ」

 これから先、ひとりと同じくらいリョウのことを好きになるかなんて、わからない。どうしたって、やっぱりリョウは妹でしかないかもしれない。リョウを悲しませてしまうかもしれない。

 でも、リョウにお願いされたことがあるから。

 

『私のことを、見て』

 

「ちゃんと……リョウのことを見るから」

 ちゃんと、リョウのことを女の子として接していくから。

 喉がカラカラになって、顔を赤くして、それでも虹夏は言い切った。

 リョウの瞳を見て、言い切った。

「……」

「……」

「な、なんか言ってよ……」

 リョウは、虹夏から目を離せなかった。

 虹夏の瞳に吸い寄せられるように、目を離せなかった。

 リョウのことが好きだから顔を赤くしている……とは言えない。単にそういう関係性に慣れないから、恥ずかしがっている部分が多い。

 虹夏はちゃんと自分の気持ちを伝えている。やっぱりひとりのことを好きなのは変わらない。この一年と少しのひとりとの出来事、今までとのリョウの関係。リョウのことを女の子として好きだなんて、虹夏はそもそも考えたことがなかった。

 それでも。

「にじか」

「うん」

「すごく、嬉しい」

 リョウは、初めて本当の自分を見てもらった気がした。

 天に昇るくらい、嬉しかった。

 虹夏はいたたまれなくなったのか、三角アホ毛をかきむしって、大きく息を吐いて。

「取り敢えず、ファミレスでもモックでもいいし、ご飯食べたら秋葉原に行こう。それでいいよね」

「……虹夏、さっきの、よく聞こえなかったからもう一回」

「言わないよ! しっかり聞こえてたくせにこの馬鹿山田ァ!」 

 虹夏はバカみたいに怒鳴った。

「ほら、姉ちゃんが帰ってきたら僕らも行くから。準備してよ」

「……」

「恥ずかしいから何度も言わせないでよ……! なに、行かないでいいの!?」

 そんな風に、やけくそになっている虹夏を、リョウはこの上なく可愛くて、カッコよくて、そしてずっと見ていたいと思って。

 ずっと一緒にいたいと思って。

 だから、リョウは。

「うん、行く」

 毒気のない満面の笑顔で、こう返した。

「虹夏と、デートしたい」

 

 

────

 

 

 わたしにとって、青春は。大事で、大事で。苦しくて、苦しくて。嬉しくて、忘れてやらないコンプレックスだ。

 でも、憧れる人がいて、大切な人がいて、護りたい子がいる、唯一無二の俺の居場所になったんだ。

 だから、私がどんな私になったとしても、そんな私たちらしい音楽を、私たちのままで、奏で続けるために。

 今日も、明日も、明後日も。僕たちは集まって……皆で一緒に、バンドを続けていくんだ。

 

 きっと、これからも。

 

 

虹色refrain

~fin~

 

 











 これにて《虹色refrain》本編は終了となります。
 まずは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
 そして、拙作を書くきっかけとなった某スレを生み出した方々、ありがとうございました。
 設定集などあとがきも、つらつらと書いていきたい今日この頃。
 というわけで、今後のことも含め、おまけコーナーに続きます。
 興味がある方は是非!

どの場面や台詞が一番心にキた?

  • 虹夏の初恋自覚
  • ひとりの初恋自覚
  • 虹夏と郁三の最初の告白
  • 虹夏ときくりの「ひとりぼっち東京」
  • 星歌とリョウの世界一の「約束」
  • ひとりの密かな決意を知る郁三
  • ひとりの《転がる岩、君に朝が降る》
  • 虹夏の二度目のひとりへの告白
  • 郁三の二度目のリョウへの告白
  • リョウの《カラカラ》と告白
  • 郁三の公開告白「好きだーっ!」
  • ひとりの初恋成就
  • 虹夏「リョウのこと、ちゃんと見るから」
  • 選択肢が多いわ……!
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