【完結】虹色refrain   作:迷えるウリボー

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52 渚のバカンス

 

 

 特別な三連休でもないので、首都高を通り抜けてしまえば道中の道路は快適そのものだった。渋滞に引っ掛かることもなくて、予定より早く昼前に到着した。

 リョウの母親の送迎でやってきた。目的地はもちろん、海の近くにある山田家の別荘だ。

 特に忙しさでメンタルがぶっ壊れかけているリョウに対して、息抜きに四人で出かけようと虹夏が発案した。そこからリョウの家の別荘にやってきた。

 話し合った結果。スケジュールは日帰りになった。郁三なんかは「泊まりがしたい!!」

と駄々をこねていたけど、虹夏が自嘲させた。さすがに高校生の男女混合バンドで、しかもいろいろあった手前攻めたスケジュールにするのは怖かった虹夏だった。

 到着して荷物を引っ張り出して、ひとまずは家の中に運ぶ。といっても四人全員大した荷物じゃない。レジャー用のグッズだったり、ご飯のための食材がたんまりとあるくらいだ。

 リョウは覚えのない鞄があることに気づいた。

「あれ、この荷物だれの?」

「それは別荘に備蓄するものよ~。ほら、たまにこの別荘使うから」

「ふーん」

 なんて、リョウ母が言う。

 さすがに豪邸の別荘だけあって、地上地下含めて三階建てだし、部屋も十部屋はある。

 何よりすごいのは。

「バルコニーすげー……!」

「うわぁ、海が一望できる……!」

 郁三と虹夏がバルコニーに飛び出した。リョウ母も寛容だから、男子二人もいつもより子供っぽくなっている。

 木製のバルコニーは、柵の向こうに茂った木々、さらに海が広がっている。まさに別荘だ。

「潮風が気持ちい……」

「あっビタミンⅮが生成されてる……」

 感動しているのは男子だけじゃない。基本動かない女子二人も、自然の恩恵を皮膚に感じていた。

 四人並んで、海を見て。それだけでちょっと楽しい。

「ふぅ、それじゃあ私はそろそろ帰るからね~」

 後ろからリョウ母の声が聞こえた。別荘用の荷物も運び終えたみたいだ。

「リョウのお母さん。ありがとうございました!」

「いえいえ~。虹夏くんにバンドのみんなが来るんだもの。これくらいはお安い御用よ~」

「でも先輩のお母さん、せっかくならゆっくりしていってもいいんじゃ」

 いつぞやとは違って、もう『お義母さん』とは言わない郁三だった。

「そうですよ。また夜に戻ってくる、っていうのも大変じゃ」

「ドライブも大人の楽しみだからね~。虹夏くんもリョウちゃんも、免許取れたら楽しいわよ?」

 虹夏は笑い、リョウは辟易した。リョウは免許を取ろうとしてる癖して怖がりだった。

「じゃあ、私は()()()にまた迎えに来るからね~!」

 リョウ母は去って行った。

 残された別荘は、四人でも広すぎる。

「それで虹夏先輩! 海! バーベキュー! あとは深夜の肝試し! なにから始めましょう!?」

「喜多くん、まず自分の言葉に矛盾してるって気づこうね」

 朝早くに到着して、時間は昼。夕方に帰ることを考えると、遊べる時間は半日もないくらいだ。

 四人はさっそく準備に取り掛かって、バーベキューで野菜やら焼き肉やら、郁三が用意したカステラやらマシュマロやらいろいろなものを胃に収めることになった。

 育ち盛りの高校生四人。こればかりは男女の違いも何にもなくて、それぞれが好きなだけ楽しんでいく。

 そして太陽が昇りきったころ、虹夏と郁三は別荘から出てビーチに出ていた。

「いやっほーっ!」

 陽キャが爆発している。郁三が光り輝いていた。後ろを歩く虹夏は眩しくて目をそらしてしまう。

 すでに男子二人は水着に着替えていた。二人ともゆったりとしたサーフパンツで、虹夏は海用のパーカーを羽織っている。郁三は元気に何も羽織らないスタイルだ。

 やってきたビーチは、幸運なことに誰もいない。虹夏も郁三ほどじゃないけれど、感動しているのは一緒だ。

「すごいなぁ」

「プライベートビーチなんて初めてだけど、他に人がいないと悠々ですね!」

「日本、厳密にはプライベートビーチってないらしいけどね」

 太平洋に沿った浜辺だ。夏場、晴天だから清々しい。

「人もいないし、リョウ先輩とかひとりちゃんにとってもよかったかもですね!」

「だねぇ。改めて、山田家の金持ちっぷりが分かるよ」

「いやぁさすがリョウ先輩だ……!」

「ぼっちちゃんと付き合い始めたってのに、そこはブレねぇな」

「そんなことより! パラソル、チェア、ビーチボール! 二人が来る前に準備しましょう!」

「元気だねぇ喜多くんは本当に。ビーチボールとか、たぶん野郎二人でキャッキャになっちゃうと思うんだけど」

 それでも虹夏はちゃんと協力してビーチボールまで作った。ビーチに、パラソルとチェア、レジャーシートがワンセット用意された。

「こんなもんかな」

「さーて、やることもやったし、虹夏先輩」

「なに、早速遊ぶって? 僕インドアだし、少しは休ませてよ」

 用意したレジャーシートの上で、虹夏は胡坐をかいた。

「そうじゃないですよ! 今しかできないことがあるんですから!」

「うん?」

 郁三は、自分と虹夏の他にはあれもいないのに耳打ちしてきた。距離が近い。

「ひとりちゃんとリョウ先輩……どんな格好してくると思います?」

「ばっ!? この喜多ァ!」

 虹夏の顔が一瞬で赤くなる。それだけじゃない、にやけている郁三の頬もほんのり赤い。

「てめーぼっちちゃんと付き合ってる癖になにをっ」

「それは一端忘れましょう。誰が誰を好きだとか、今はどうだっていいんですよ……!」

 以前、郁三は全く同じ言葉を心の中で吐いたことがある。ひとりが虹夏とリョウを結束バンドに呼び戻すために自分からボーカルを担当した路上ライブの時だ。結束バンドが好きだから、『誰が誰を好きだとか、そんなことはどうだっていい』と吼えた。

 今度はくそしょーもねえ状況で吐かれることになった。

「付き合ってる彼女と! 憧れの先輩が! 満を持して水着姿になる!? これを叫ばずして男は名乗れねぇ!」

 男としての諸々で劣等感を感じている虹夏にしたって、好きな子と自分のことを好きだという女の子が水着になるわけだ。気にならないわけがない。というか昨日はあまり眠れなかった。

「確かに、二人ともどんな格好をしてくるか、ちょっと楽しみだけどさ……」

「そうでしょそうでしょ!? あのプロポーションのひとりちゃんですよ!? あのスタイルのリョウ先輩ですよ!?」

「落ち着けって!」

 虹夏は郁三の頭を叩いた。いつもならしょげるのに、今日の郁三はそれでも止まらない。興奮し続けている。

「でも、何気に二人ともスタイルすごいよね」

「何気にじゃない、やばい」

「リョウもさぁ、自堕落な生活してる癖に体は全くだらけてないし」

「……先輩、もしかしてリョウ先輩の御身(おんみ)を?」

「御身言うな。見たことないよこんちくしょう」

 なんの「こんちくしょう」なんだ。言ってて自分で思った虹夏だった。

「ひとりちゃんはもう……すごいし」

「喜多くん、もしかしてひとりちゃんの……その、それを?」

「いや、さすがにまだですけど」

 と言いつつ、鎌倉と初詣でひとりを負ぶったことを思い出した郁三だった。

「喜多くんそれ以上は止めてくれ。どうにかなりそうなんだ」

「虹夏先輩が血涙流してる……」

 伊地知虹夏十八歳。トラウマ継続中。

「まあ僕のことは放っておいて……喜多くんはさぁ、自分の彼女が他の男にみられるのはいいわけ?」

「でも《結束バンド》は他人じゃなくて家族って感じですし」

「はぁ」

「だからこそ虹夏先輩とは隠し事なしでいたいじゃないですか」

「まぁ」

「虹夏先輩はついてないんですか!?」

「ついとるわこの野郎っ! だからいいのかっつってんだっ!」

 と、男子二人が揉み合いになりかけた時。

「よっ」

「お、お疲れ様です……」

 後方から女子二人の声がした。

 この感じ。男子二人の記憶に新しいのは、ひとりが最初におしゃれ姿を披露したMV撮影の時の話だ。

 ぎこちなく、振り返る。そこにいたのは──。

『…………』

「……男子二人、ぼーっとしすぎ」

「あっあぅ」

 リョウはシンプルな黒のビキニで、けれどその上に薄青のシースルーパーカーを羽織っている。普段大した運動もしてないのに、世の女子がうらやむようなスレンダーなスタイルで、それはつまり男子からしても魅力的に映るわけで。

 そしてひとりはフリルが付いた白ビキニだ。腰には鮮やかなパレオを纏っている。ひとりのボディの特徴は、女子も男子もうらやむその()()()だ。

 男子二人がズボンだけの簡単な格好だったのに対して、女子二人は当然いろいろと準備は必要なわけで。リョウが虹夏と郁三を追い払っていた。だから男子二人は先にビーチにやって来て諸々の準備をしていたのだけど、リョウとひとりはその間しっかりと着替えていたわけだ。

 結束バンド、後藤ひとりと山田リョウの水着姿。

 虹夏の思考が停止した。郁三は一瞬停止して、そして。

「うっ……わー!? 二人ともすっげぇ可愛いっ!」

 ひたっすらに褒めちぎりはじめた。

 陽キャスキル発動、即イソスタ……! そこが砂場かどうかなんて、汗臭い努力の前には関係ない。スマホが再び火を噴いた。

「ひとりちゃん、もう本当可愛いよっ!」

「あっありがとぅございます……リョウさんと選んで……」

「リョウ先輩グッジョブですよっ!」

「ほめろほめろ。あっ、今度奢ってね」

「もちろんですっ!」

「人の彼氏にたかるな山田ァ!」

 虹夏の叫び声ももう通じない。郁三とひとりはお花畑空間に入った。

 そんな後輩二人を見守る先輩二人。

「リョウとぼっちちゃん、二人でその、水着買いに行ったの?」

「うん。ぼっち、学校指定のしかないって言ってたし」

「ふーん……」

 虹夏は明後日の方向を見ていた。さすがに虹夏にひとりの水着は刺激が強すぎる。

「で、虹夏」

「うん?」

「……私に言うことはないの?」

「……あー」

 虹夏はリョウの方向()見れなかった。

 けれど、ぎこちない動きでリョウを見て。

「うん、まあ……可愛いと、思うよ」

 顔を赤らめてそう言った。

「ま、今はそれで我慢しておく」

「今はって……」

「それより、どう遊ぶの? 私はのんびりしたいんだけど」

「ビーチボール用意してきたけど」

「……エッチ」

「僕じゃねぇから!」

 

 

────

 

 

 リョウはパラソルの下でサメ映画を見始めた。虹夏は、ひとまずは気ままに泳ぎ始める。それぞれ自由に動く先輩たち。一方、郁三はひとりに浅瀬で泳ぎ方を教えている。ビーチボールはお預けだ。

「そうそう、ひとりちゃん、足の使い方から慣れたほうがいいかもしれないね」

「……水飲んじゃいそうです」

 ひとりは浮き輪を使って辛うじて練習できている。

 学校では同じクラスだし、放課後は一緒にギターの練習をするし、バイトもバンドも一緒の郁三とひとり。付き合ってからまだ一か月と少し。二人きりの時間は多いとはいえ、デート回数もそう多くはない。

 インドア一直線なひとりということで、郁三は喜んでひとりに水泳を教えている。

 手も一緒に触れるわけで、二人にとっても結構ドギマギする時間。

 バタ足を練習しながら、ひとりは郁三に語り掛けた。

「あっ虹夏くんとリョウさん、それぞれで遊んでますけどいいんでしょうか……」

「まあいいと思うよ、リョウ先輩は静かなのが好きだしさ。ひとりちゃんも作詞大変だったと思うけど、どう?」

「あっわたしは……リョウさんに比べれば、平気だと思います」

「そっか、よかった」

「こっこんな風に喜多くんと、遊べるのも、楽しくて」

「……」

「きっ喜多くん?」

 郁三から見て、ひとりは自分と手をつないで、バタ足の練習をしている。不思議がるひとりが顔を上げれば、当然上目遣いになる。

 純粋な瞳で、自分を見上げているひとりが、ただただ可愛かった。

 郁三はリョウに一目惚れして結束バンドに入った。リョウに対する感情は今も変わらない。でも、今はひとりのことをカッコいいバンド仲間として、護りたい女の子として想っている。

 ギターが上手くて、結束バンドを助けてくれる、最高の彼女だ。

 郁三は笑った。

「いや、男冥利に尽きるなって」

「あっえへへ」

 ひたすらにピンク色の空間が広がっている。郁三もひとりも、今は順風満帆だ。

 そうなると、気になるのは他の二人になるわけで。

「……虹夏くんとリョウさんのことですか?」

「うん」

 郁三は陸の方を見ていた。

 見れば、虹夏が一人で泳ぐのに飽きたのか、リョウが寛いでいるパラソルに近づいてなんだかんだと話している。おふざけ程度でビーチボールをリョウの頭にぶつけて遊んだりもしている。

「ひとりちゃん、あの二人のこと、どこまで聞いてる?」

「あっえっと……リョウさんが、虹夏くんのことを好きだって」

「ひとりちゃんも聞いてたんだ」

「あと……虹夏くんが、その……」

 ひとりのことが好きで、それで虹夏がひとりに告白した。それは言葉に出さなくても、お互いの意図を理解できた。

「実は……リョウ先輩から聞いたんだけどさ。先輩、虹夏先輩に告白したんだって」

「えっ!?」

 ひとりがめちゃくちゃ驚いた。それで、水を飲んでしまった。

「だ、大丈夫……?」

「あっはい……ごめんなさい……」

 郁三はひとりを介抱する。

「……返事はなかったみたい。とはいっても、虹夏先輩が返事をしたんじゃなくて、リョウ先輩がそうしてって言ったみたいだけど」

「あ、そっそうだったんですね」

 リョウが虹夏に告白したのは、五月二十九日。虹夏の誕生日で、《未確認ライオット》のライブ審査より数週間前の話だ。

 郁三とリョウは、告白し告白された関係だけど、今は先輩後輩としてほとんどのことを屈託なく話すような関係性になっている。だから、リョウは郁三に虹夏に告白したことを話していた。

「その後に何があったのかまでは聞いてないけど……でも、今の二人を見る限り、悪いことにはなってないと思うんだ」

「喜多くん」

 郁三とひとりが今の関係になれたのは、二人の頑張りだけじゃない。周りの人たちがいて、なによりも、虹夏とリョウがいたから辿って来れた関係性でもある。

「虹夏先輩の想いを踏みにじることはしない。でも、リョウ先輩の気持ちも応援したい。だから……二人が、仲良くいれたらいいなって」

「はっはい」

 リョウと虹夏は、今度は二人して砂場で何かを作っている。恋愛どうのこうの、みたいな雰囲気はなくて、ただただ楽しそうだった。

 ひとりも思う所はある。

 よみ瓜ランドで、虹夏に二度目の告白をされた。ひとりはちゃんとそれを受け止めて、そのうえで告白を断った。

 虹夏を傷つけてしまうのは辛いことだったけど、それでも虹夏のことを大切に思っていたから、嘘はつきたくないと思った。

 虹夏もそれは同じだった。ひとりが自分のことを好きではないと知っていても、それでもちゃんと想いを告げて、断られることを求めた。

 それでも、ひとりと虹夏は振って振られるだけの関係じゃなかった。お互いがお互いのヒーローだった。

 だから、ひとりは虹夏のことを大切に思っている。

 ひとりは、郁三に対して少しの沈黙を作って、そして言った。

「リョウさんも、虹夏くんも……笑顔でいて欲しい、です」

 

 

────

 

 

 その後、四人は合流して皆で遊んだ。簡単にビーチバレーをしたり、砂場で虹夏と郁三を砂に埋めていたずらしたり。

 それが終わると、疲れてきた四人は別荘に戻ってシャワーを浴びて、みんなでトランプをしたり。

 時間はあっという間に過ぎていった。

 夕方、日が落ちるのが遅いとはいえ、六時を過ぎれば暗くなり始める。

「あー……遊んだ遊んだ!」

 いろいろと満足気な郁三が、浜辺で使った道具を片付けている。

 楽しかったけれど、疲れもある。虹夏はやれやれと笑った。

「喜多くん……なんか朝よりも元気になってる気がするよ」

「そりゃそうですよ! 休みの日に遊ぶ……最っ高の休日でした!」

「後ろで女子二人はくたびれてるけどね」

 虹夏が振り返る。リョウとひとりはソファーでぶっ倒れてた。

「帰りの車は寝る……絶対寝る」

「…………」

「みんな、少しはリフレッシュできた?」

 虹夏が問いかけた。

「まあまあ」

「あっはい」

「いつもの返事だなー。喜多くんは?」

「最高でしたっ! 欲を言えばもう一泊とかしたいんですけどっ!」

「本当に元気だな。それはしないって言ったでしょ」

 リョウが放っていた体を戻して、体を起こす。

「でも、なんか疲れたからこのままでもいい気がしてきた」

「リョウ先輩もそう思いますよねっ!?」

「却下! 僕らさぁ、高校生なわけ! それぞれ親御さんがいるわけ!」

「なんで虹夏が保護者面?」

「リーダーらしいところを見せたいとか」

「リョウ、郁三、殴るぞ」

「こわーい」

 虹夏はため息を吐いた。片付けを終えた郁三に近づいて肩を回す。

「虹夏先輩のスキンシップとは珍しい」

「実際さあ、泊りとかできないよ」

 虹夏は郁三に耳打ちした。女子二人には聞こえないように。

「なんで?」

「修学旅行じゃないんだよ。いろいろと困るじゃん……男女が一つ屋根の下とか」

「虹夏先輩、初心ですね~」

「てめー……」

 マジで郁三を殴りたいと思う虹夏だった。

 それはともかく。郁三がぼやいた。

「それで……リョウ先輩のお母さん、いつ来るんですか?」

「そうだねぇ、そろそろ来てもいい時間なんだけど……リョウ、お母さんに連絡してくれる?」

「りょ」

 リョウがスマホをポチポチ。ソファに座ったまま、もう完全にだらけきっている。

 数分後。虹夏も郁三も、起きたひとりも飽きてテレビを眺め出したころ。

「ん?」

 リョウが素っ頓狂な声を出した。そして言った。

「なんか、『ちゃんと明日迎えに行くから』とか返ってきたんだけど?」

「……はぁ!?」

 どういうことだ。虹夏はリョウのロインを覗き見たけど、リョウの言った通りの履歴が残っている。

 いや、おちゃらけているリョウ母だけど、そのあたりはしっかりしているはずだ。でなきゃ医師なんてできないだろう。虹夏もちゃんと伝えている。

「……連絡する?」

「うん、お願いできる? 僕替わるから」

 リョウのロインからリョウ母へ。繋がってから、虹夏へバトンタッチ。

「あ、リョウのお母さん、どうも」

『あら~虹夏くん! こんばんは~』

 今日の朝も聞いた声だ。さっそく尋ねてみる。

「こんばんは。今日はありがとうございました。それで……迎えのことなんですけど」

『ええ。明日のお昼ごろ、迎えに行くからね~』

「そうじゃなくて!」

 ちょっと待て待て待て待て。虹夏は思わず立ち上がった。このあたりから、他の三人が通話の内容が気になって虹夏の耳に顔を近づけてきた。音量は十分だから全員に聞こえている。

「あの、日帰りってお伝えしたと思うんですけど……」

『ああ、そのことなんだけどね~。実は星歌さんと連絡してね、みんな最近は忙しいみたいだから、せっかくならお泊りでもしてもらおうって』

「……はい?」

 待て待て待て待てオイオイオイオイ。

『実は、ライブ審査の時にひとりちゃんの御両親とも連絡先を交換してね~』

「……ハイ? それと泊りの件と何の関係が」

『だから今日のことはお話してるの』

「……え? あ、おおう?」

『というわけで、心配はご無用よ!』

「あの、僕ら荷物も着替えも」

『荷物も着替えも朝夕の食材も、入用なものは私が鞄に入れておいたから、そこも問題ないわ!』

「……」

『それじゃあ、ごゆっくり~!』

 通話が切れた。

 虹夏はひとりを見た。ひとりはリョウを見た。リョウは郁三を見た。郁三は虹夏を見た。

 みんながみんなを見た。

 一瞬の静寂。

「えっと……マジで?」

 虹夏が話したのはリョウの母親だ。虹夏の家族である星歌と、ひとりの両親にも話は通じているという。

 郁三の両親と連絡はとってないみたいだけど……。

「喜多くん、今の電話聞いてたよね……?」

「はいっ!」

「御両親に連絡は……」

「時々友達と泊りで遊んでますし、急な連絡でも問題なしです! いやーっ、面白くなってきた!」

「うん、喜多くんはそういう奴だったよね……」

 虹夏はぎこちなく振り返った。

 ひとりとリョウが、汗をダラダラに流しながらお互いを見ていた。そして虹夏を見てきた。

 自分たちはいろいろあったわけだし、高校生でお泊りなんていろいろと怖いから日帰りで、なんて思っていたのに。

 自分たち三人、家族はどうしてか全員了承済み、郁三は本人が邪なことなんて全く考えずに太陽みたいに輝いている。

 なにより、自分たちに今から東京へ帰る手段はない。

 退路は断たれた。

 つまり。

(……ぼっちちゃんと、リョウと)

(虹夏と)

(喜多くんと──)

 

 別荘で泊まる──!?

 

「やっほーっ!」

 陽キャのバカみたいな快哉だけが響いていた。

 

 

 






タイトル解説
《渚のバカンス》
歌:因幡深雪(Vo:伊藤フウ)
ゲーム『十三機兵防衛圏』主題歌

 『十三機兵防衛圏』はアトラス×ヴァニラウェアによるドラマチックアドベンチャーゲームです。主人公は13人の少年少女。出自も目的も性格もまるで異なる彼ら彼女らが日本の一都市を舞台に、《機兵》と呼ばれるロボットに搭乗し怪獣と戦いを繰り広げます。
 ロボットを操作し怪獣と戦う『崩壊編』、13人の主人公が決戦に挑むまでの過程をたどる『追想編』、与えられた情報から物語の真実を明かす『究明編』。ほんの少し物語を進める度に、プレイヤーを混乱させ、しかも矛盾なく展開されるSF全開なストーリーは必見ですし、何故ここにそれを書くのかと言えば、『カップル好き』『関係性厨』なら絶対にやれ! と思うほどの恋愛と青春が繰り広げられるからなのです。

 個人的に好きな劇中のセリフは「ゲームオーバーでも交代はナシだ」「無敵の女子高生は、今時ロボットにだって乗っちゃうんだから!」「焼きそばパンください!」「私が愛しているのは覚えてる」「カワイ子ちゃんはすべて俺に関係があるのさ」「あの野郎、とんだ恋文よこしやがって」「猫だぞ? 猫に世界の命運託す気か?」「けじめです。貴女に死なれては困る。焼きそばパンの君」「惚れた女を守るのに、限界なんざ関係ねぇんだよ」などなど。書きつくせない台詞の数々。

 《渚のバカンス》は主題歌であり、同時に劇中に登場する昭和アイドルの曲でもあります。環境音以外で明確に流れるのは、2回。どちらも最高のシーン。皆是非やってみて!
 とまあ、いろいろ語ってるけど、タイトル選出の理由はそのまんまです。

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