【完結】虹色refrain   作:迷えるウリボー

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1部 見つめるリナリア
06 ヴァイオレットの乙女たち


 

 

 ドラム、伊地知虹夏。

 ベース、山田リョウ。

 ギター、後藤ひとり。

 ギターボーカル、喜多郁三。

 結束バンドは、四人体制となって再始動した。

 拠点は下北沢のライブハウス《STARY》。全員が高校生で、バイトも練習もそこで実施する。

 経験や実力はピンからキリまでの四人。けれど、夢や目標があって集まった。

 全体統括は虹夏。他の三人も認める結束バンドのリーダー。企画を出し、目標を掲げ、姉であり店長でもある星歌との折衝も行う。

 SNS大臣は郁三。元々の豊富な人間関係を基に、イソスタグラムをはじめとしたSNSを活用して結束バンドの広報に務める。

 作曲担当大臣リョウ。バンド内随一のバンド経験年数、音楽ジャンキーの技術と感性をもって結束バンドオリジナル曲に挑む。

 そして作詞担当大臣ひとり。誰にも知られていないとある姿(ギターヒーロー)を持つ。虹夏から指名を受け、かつての作詞ノートという(病み)を抱えながらも、オリジナル曲の作詞に迷う。そして初心者郁三のギター講師でもある。

 そんなある日。伊地知虹夏は結束バンドに集合をかけた。

 モバイルメッセンジャーアプリ、LOINE(ロイン)。その結束バンド全体のトーク画面に、虹夏の元気な文章が打ち込まれた。

『今度の土曜日、下北沢駅に集合! アー写を撮るよー!』

 アー写──アーティスト写真とは、宣伝用に使う公式の写真だ。ライブのための広報だとか、レベルが上がればマスコミに提供する写真であるとか、とにかく外様に向けるための写真ということ。

 たくさんの人が行き交う下北沢駅改札前に、まず虹夏が到着。リョウ、郁三と続いて、最後にひとりが到着した。

 そして、ひとりはいつものピンクジャージに首掛け看板『私は約束通りに歌詞をかき上げられませんでした』を持って現れた。

「どしたのぼっちちゃん」

「ちゃ、ちゃんと歌詞を考えてこなかったわたしを吊るし上げる会では……」

「そんな非道なことはしないよ……アー写撮ろうって書いたじゃん!」

 虹夏が考えたバンドらしいことの中の一つだ。

 ちなみに、この間のライブ前にもひとり以外の三人でアー写を撮ってはいたけれど。

 リョウがその遺作をひとりに見せてくれた。

「ほれ見てこれ。喜多くん欠席の卒業写真みたい。ひっどいアー写」

「虹夏先輩、ひどいですよ~!」

 棒立ちのリョウ、ピースサインの虹夏、写真左端のワイプに郁三。

 ひとりは密かに思った。

(こんなひどいアー写見たことない)

 そんなわけで、下北沢を舞台にアー写撮影の旅が始まったのだ。

 虹夏と郁三が前を歩き、どんな写真を撮りたいだとかワイワイ喋る。

「公園、路地裏、階段、あとは良さげな壁……ビンボーバンドマンのアー写聖地っていったらそんなとこだけど」

「先輩、かっこよく撮りましょうよ! こう、夕日を指差してあの夕陽に向かって~とか」

「夕方まで待つつもりかよ」

「男女二人ですし、ちょっとお互いを誘惑する感じの絵面とかできません?」

「やだよそんなの」

「だったら、スタジオで──」

「金がかかりすぎるから却下」

 虹夏と郁三の後ろを、スマホを弄りながらリョウが歩く。

(腹減った……下北沢のうまい店……カレーが食いたい……あ、最近開店した喫茶店が。よし入ろう──)

「リョウ、逃げない。喜多くん、リョウのことふん捕まえといて」

「お任せ下さい!」

「えー」

 リョウの行く手が郁三によって阻まれた。

 そして三人の後ろを、ひとりが歩く。

(下北沢……若者の街……バンドマンのたまり場……怖い)

 今でも自分の拠点に慣れていないひとり。

 それだけではなくて、ひとりにとって心配事は他にもあった。

 虹夏から受けた結束バンドオリジナル曲の作詞。これがまだ完成していない。正確に言えば完成はしているのだけど、いまいち納得のいく出来に仕上がってない。

 ボーカルはザ・陽キャの国道一号線を突っ走る喜多郁三。そんな彼に対し、ひとりは思った。自分の提供する歌詞はあまりに暗い。喜多くんに歌わせるには恐れ多い。

 だから、青春の応援ソングのような歌詞を考えた。顔を上げて。自分を信じて。皆と一緒に。羽ばたこう。

 そんな言葉を選んだ。それがしっくりこない。

 だから、ひとりは三人の後ろで悶々としながら歩いていた。

 と、変わらず虹夏たちは盛り上がっている。主に男子二人に連れられて、女子二人が写真撮影に付き合わされる。直近に虹夏が提案していたように公園やら路地裏やら階段やらを試し試し。

 時間は過ぎていく。

「お、ここなんていい壁じゃない?」

 虹夏が言うところの良さげな壁が、表通りから外れた裏路地の階段を降りた先の公園の横の駐車場にあった。

 試しに一枚。虹夏のスマホと用意した三脚で撮影開始。

 ストレートに横に並んだ写真を撮ってみる。左から郁三と虹夏、二人が笑顔で肩を組む。虹夏の隣にやや棒立ちで斜に構えた感じに。ひとりは人0.8人分離れて下向きに。

「うーん……なんか違うなぁ。方向性がバラバラで……」

「虹夏」

「うん?」

「ここはひとつ、バンドマンのお手本たる私の表情を真似することを進言する」

「どこからその自信が湧くんだ?」

 虹夏は郁三とひとりに目を向ける。

「さっすがリョウ先輩。やってみましょう! ね、ひとりちゃん」

「アッハイ」

「リョウ、喜多くんの純情を弄ぶのはやめてあげなよ……」

 とはいえ、イエスマン二人がイエスと言った。またまたとりあえず撮ってみる。

 立ち位置は変わらず、殺意の波動に目覚めた目線で睨む三人。ひとりは前髪が長いので睨んでも意味なかった。

「なんかお通夜みたい」

「ですね……」

 虹夏とひとりがお通夜状態になった。

「ぼっちちゃん」

「アッハイ」

「顔上げてみない?」

「アッハイ?」

 一瞬頷いてからひとりの声が上擦った。顔を上げるとは?

「というか、髪上げてみなよ。ひとりちゃん、可愛いんだからさ」

 と、赤髪陽キャが言う。ひとりは免疫がないのでふやけにやけた。

「喜多くんが言うと様になるねぇ」

「えっへん」

「でも、喜多くんの言うとおりだしさ。ぼっちちゃんもそうすると、一気に華が出るからさ」

 虹夏の背中が小突かれた。

「虹夏、私は?」

「うん、リョウ? まあ、そのままでいいんじゃない?」

「……」

「なにさ」

「なんでも」

 リョウは腰を下ろした。

「リョウ先輩!」

「ん?」

「リョウ先輩はそのままで十分素敵ですから!」

「……どうも」

 虹夏がひとりに近づく。

「ね、どう? ぼっちちゃん、髪上げるの」

「ぇ……ぁ……ぅ」

 ひとりの心臓が飛び跳ねる。

 顔が近い。人との距離が近い。それどころじゃない。虹夏は男。

 ひとりにとっては異性だ。虹夏も郁三も、ひとりにとっては十分天変地異レベルの接触ではあった。

 かわいいかわいいと言われながら、男に顔を向けられ詰められる。その男二人はひとりの前髪を狙っている。これは核融合レベルの衝撃だった。

 幻想が妄想となって爆発する。目線が合わせられず、美容院にもいけないひとりだから前髪が伸びているのだ。その前髪があがるのは、後藤ひとりにとって死と同じ。

 結果、ひとりはしなびた。

「あ、ぼっちが胞子に」

「ひとりちゃん、顔を晒すのはストレスだったのか……」

「風舞うぼっち胞子を背景に黄昏る……ちょっとよくない?」

「あ、それいいですね!」

「命名……ひとりぼっち下北沢」

「君ら鬼畜か! はいはい、ぼっちちゃんが復活したらアー写撮影再開するよ!」

 そう怒鳴る虹夏自身が鬼畜であるとは、本人には自覚がなかった。

 

 

────

 

 

 ひとりが復活してからも、その壁前でアー写撮影は続く。虹夏と喜多がスマホの写真を見比べてあーだこーだと話し合う。

 やかましい男子たちがいる一方で、リョウとひとりは壁にもたれかかっていた。そして、二人の間に会話はない。

 体育座り、けど腰を壁にあずけているので汚れはしない。かがめた膝に肘をついて、さらにその手で頬杖をつく。

 そして、リョウはぼんやり男子たちの様子を眺める。

「……」

 結束バンドの四人、リョウと虹夏は小学生の頃からの付き合いだ。互いの趣味嗜好はよくわかっている。

 虹夏は誰とも分け隔てなく接するコミュニケーション強者で、クラスの誰とでも仲良くなれる。けれどどちらかと言えばインドア派で、つるむ男子どもも同じタイプが多かった。

 郁三は誰が見ても陽キャだ。結束バンドの他三人とはかけ離れている。虹夏がそんな男子と和気あいあいとしているところなんて、特別なイベントの打ち上げくらいでしか見たことがなかった。

 だから、今のように郁三と馬鹿馬鹿しい話をしている虹夏を見るのは、リョウからすれば少し新鮮だった。

「……」

 ぼっち。そして郁三。正反対の二人が来て、結束バンドの時間が走り出した。

(……柄でもない感傷)

 リョウは立ち上がる。

 ちょうど、郁三がまたなにか陽キャらしいことを言ったところだった。

「あ、みんなで一斉にジャンプします?」

「またコテコテな青春ムーブを……でもいいかもね、喜多くんそれ採用!」

 ジャンプか。しばらくやった記憶がないけど。

 少し乗ってやるか、と思った。

「有識者が言っていた。オープニングでジャンプするアニメは神アニメと。つまりジャンプすれば神バンドになれるのでは」

「何がつまり?」

 ひどいな虹夏。提案したのは郁三じゃないか。

 ともあれ、やってみる。その結果、スカート姿のぼっちのあぶない写真が撮れてしまった。

「あ、ぼっちのパンツが」

「とんでもない写真が撮れちゃったね……」

「ええ……そうですね」

「……」

 男子二人、黙るなよ。ベースでバキッと叩くぞ。ポムっとじゃないぞ。ここ重要。

「二人共、変態」

「リョ、リョウ」

「リョウ先輩、俺は違うっ……男の性といいますか」

「無価値なものを見せてしまってすみません……」

「ひとりちゃんもとことん自信がないねー」

 二度目のジャンプは問題がなく取れた。

 特段文句はない。ぼっちも、虹夏も、郁三もその出来に満足している。

「いいねー! バンド感に青春っぽさがプラスされたよ!」

「また人気バンドへ一歩近づきましたね、先輩!」

「おー、ここから結束バンド本格始動だ!」

 男子二人がやっぱり馬鹿馬鹿しい。

 虹夏が拳を振り上げて言った。

「夏までに曲作って!」

 未定だけど。

「ライブにも出て!」

 未定だけどさ。

「ミニアルバムをリリースして!」

 未定なんだけど。

「下北沢発祥のエモエモなエモロックバンドになるぞ!」

 うん、未定だね。

「よ! 確定情報が何一つないけど走り出す! 青春ロック!」

「いぇーい!」

 郁三がちょっと厚かましいので逃げた。元々一人が好きな性分だし、気にせず三人それとお腹も空いたから、スマホで検索した喫茶店に向かった。

 下北沢の雑踏を歩いて、GPSを頼りにその店へ。開店祝いのスタンドが目を引いた。

 店の中は落ち着いた調度品があって、カウンター席とテーブル席があって、それなりに賑わってしまっている。落ち着いた雰囲気が好きなのだけど。

 とはいえ、食欲が勝った。何があるか。カレーが食べたい。

 席に座ってメニュー表を眺める。

 お金あったかな……まあなかったら虹夏に来てもらえばいいや。

「カレーください」

「かしこまりました」

 数分の待ち。カレーが運ばれてくる。

(……美味しいそう)

 まず、鼻をくすぐる香ばしい香り。単なるレトルトや出来合いのルウとは違うスパイスだとわかる。草とは違う。

 スプーンでライスと特性ルウをすくう。ほのかに湯気がたつ。喫茶店によくある、野菜といった具が極端に少ないカレー。草とは違うのだよ、草とは。

 そして一口。

(これは……!)

 体に走る衝撃。まだ飲み込んですらいないのに、胃が動き始める。

 喫茶店にあるような特別だから美味しいし、カレーのような変わらない味だから美味しいのだ。スパイス、肉、ルウ。それらが男女問わず食を求める人たちの胃に突き刺さるのだ。

 どうして、このカレーはこんなに涙が出るほど美味しいのか? それは決まっている。

(ここ最近、草しか食べてこなかったから……!)

 結論。お金ないや。どうしよう。

 ロインの通知音がスマホから鳴った。

「……虹夏かな」

 通知を確認する。意外な人物からの連絡だった。

『ぼっちです。まだ下北沢にいるんですけど、歌詞の相談をできませんか?』

(……珍しい)

 控えめに優しく言って超絶引っ込み思案なぼっちからの連絡。初めてだ。

 私は結束バンドの全体ロインに参加しているし、虹夏とはロインを使い始めた頃からの個別ロインがずっと残っている。加えて郁三が最初に結束バンド入りした時に彼とロインの連絡先を交換していた。

 ぼっちとももちろん交換はしていたけれど、会話は『よろしくお願いします』『あ』の二文のみだった。

 結束バンドが始動してもうすぐ一ヶ月。やっとぼっちからの追加連絡。

「……」

 ひとまず『この店にいるから来て』とマップ情報を添えて返信した。

「……どんな歌詞ができたのかな」

 まだ郁三が再加入する前、虹夏が気まぐれでぼっちにお願いした結束バンドオリジナル曲の歌詞作成。きっかけは『ぼっちに歌詞のトラウマが多いから』というものだったが。

 いずれにせよ、楽しみなのは確かだった。

 まだ食べきらないうちに、喫茶店の扉を開ける音と一緒にぼっちの声が聞こえた。

「あへっへい、大将やってるー……」

 大将やってる……?

「ぼっち、こっちー」

 とりあえず隣の席に招いた。

 ぼっちが座る。言葉が来ない。

 構わず残りのカレーを食べる。無言の時間は嫌いじゃない。

 ぼっちと二人きりで会うのは初めてだ。私と同じく孤独に生きるぼっち。

 ところで、どうして歌詞の話をしない?

「ごちそうさまでした」

 食べ終わってしまった。口元を拭いて、それからぼっちを見る。

 いつの間にかナフキンで折り鶴まで作って……やっぱり文系だな。

 ぼっちもこっちを見てきた。

「早く歌詞見せて?」

「あっはい」

 ぼっちはノートを出してきた。『歌詞ノート』と書かれている。

「おっお願いします……」

「うむ、拝読いたす」

 見た目真新しいのに、不自然にシワとヨレが目立つノート。

 最初のページをめくる。そこにはぼっちの世界観が広がっていた。

「お、おお……」

 これは、これは独創的だ。恐るべき後藤ひとり。でも……。

「本当にこれでいいの?」

「あっはい。けっ傑作です……」

「ふむ……」

 《Hitori》《ごとう》《後藤》《ぼっち》など……そこに☆やらニコちゃんマークを追加した多彩なサインの数々。そして《Bocchi》に矢印で『決定』と、サインの決定稿。

「このサインはロックバンドにしてはファンシーな気がする」

「そ、そのページじゃないです!」

 今日いちでかい声が出たな。

 改めて、ぼっちが指定したページを開いて今度こそ歌詞のページを見た。

 そこには、と銘打たれた曲の、その歌詞が書かれていた。

 一文字一文字、単語単語に、目を通す。

 

 あきらめないで。信じ続けて。ファイト。頑張って。

 

 そんな風な歌詞が書いてある。

 ……正直に言って、拍子抜けだった。

 ありきたりな言葉の数々は、胸に訴えかけては来ない。これっぽっちも。

 別に、歌詞そのものを否定するわけじゃない。似たような歌詞で、世間的に人気な曲も、自分が好きな曲もたくさん知っている。前向きな歌は人を救う。いい曲は多い。

 けれど、()()()()()()()()()()()()これはありきたりにしかならない、と思う。

 たった一ヶ月もたたない時間だけど、少なくともぼっちの存在は他の誰よりも違いすぎて強烈な印象がある。

 青春をコンプレックスだと言って、完熟マンゴーを被って、変な笑い声を上げながら妄想に溺れるぼっちを見てきた。とても、この歌詞がぼっちの()から出たようには思えなかった。

 何度も書いては消しゴムで書き直した跡。真新しいのにヨレヨレのページ。

 曲名も、何度も書き直してある。

 

 《ラブソングを歌って》に二重線。

 《忘れられない青春》に二重線。

 《朝焼けの君へ》に丸。

 

(……きっと、郁三のことを考えて書いたんだろうな)

 そう思う。郁三が歌うから、なのだろうか。だから、ここまで明るい歌詞になる。

 けれど、それはぼっちの歌じゃない。ぼっちの歌じゃないのなら、結束バンドの歌にはならない。

「……ぼっち的には、この歌詞で満足?」

「あっはい、じっ自慢の一曲です……」

「……私の話、していい?」

「えっえ……」

「私、昔は別のバンドにいたんだ」

「えっそうなんですか……?」

「うん。わりと最近までね」

 虹夏はもちろんのこと、前バンド時代の私を見た郁三も、そのことだけは知っている。

 でも、ここから先は虹夏だけしか知らないだろう。

「そのバンドの青臭いけど、でもまっすぐな歌詞が好きだったんだ」

 音楽にのめり込んだきっかけは、甘やかしてくる両親への反抗心からだった。けど、今ではそんなことは関係ないくらい音楽が好きだ。

 好き嫌いがあっても、音楽は自由だ。音楽に正解はない。音楽に間違いはない。音楽に優劣はない。

 音楽は、その人の魂に触れられる。

 でも、前にいた私のバンドはそのままではいられなかった。

「そのうち、売れるためにどんどん歌詞を売れ線にして……それが嫌になって、辞めたんだ」

 その時も、バンドメンバーとは揉めに揉めた。

 音楽は、有名になるための道具でしかないのかなって。

 私が大好きだったはずのベースは、共感もできない『売れ線』を盛り上げるための脇役でしかないのかなって。

 そんな私なんて、嫌いでしかなかった。

 バンドが、音楽そのものが嫌になりかけた。

「……でもっ、虹夏が私を誘ってくれたんだ」

「けっ結束バンドに……?」

「まあ、その時はバンド名も決まってなかったけど」

 思い出す。放課後に学校のベランダで外を見てた時だ。曇り空だった。

 虹夏に肩を叩かれた。そして言われた。

 

『ねえ、暇ならベースやってよ』

 

 なんで、と答えた。

 そうしたら、言われた。

 

『だって僕、リョウのベース好きだし!』

 

「……それで、もう一度バンドを頑張ってみようって」

「リョウさん……?」

「……とにかく、個性捨てたバンドなんて死んでるのと一緒だよ」

 私は、今度こそこのバンドで音楽を生きたい。それに、このバンドを死なせたくない。

 だから、虹夏が呼んできたぼっちには、ぼっちらしくしてほしい。

「だから、変なこと考えてつまんない歌詞書かないで。自分の好きな歌詞を書いてよ」

「でっでも、それじゃあすごく暗い歌詞を喜多くんに歌わせることに……」

「でもそれ、あの熱血太陽にめちゃくそ暗い曲歌わせたら面白くない?」

 正直、私はめちゃくちゃ面白いと思う。

「バラバラな個性が集まって、ひとつの音楽になるんだよ」

 我ながら、らしくないことを言った、と思った。

 らしくないことを考えたから、だとも思った。

 虹夏もなかなかな人材を拾ってきたものだ。演奏の腕前はともかく、ここまで素質のあるギターを見つけてくるなんて。

 ……虹夏が、見つけてきて。

「ぼっち、最近はどう?」

「あっはい。最近……」

「男子たち。基本やかましい感じだから」

「ま、まぁ確かに、あんまり、どころか、全然わたしには理解できない二人ですけど」

 自分からすれば、郁三の行動原理は少しわかりやすいので聞くべくもない。少し対応に困ってはいるけれど。ただ、ほとほと天然過ぎるのでぼっちとの距離も近い。その度にぼっちが溶けている風景が見えて、それがSTARY楽屋裏の風物詩になりつつある。もうライブハウスのダークな雰囲気がどっかに逃げてしまった。

 ちなみに虹夏にしても、最初は今日みたいにぼっちに溶けられることがよくあった。最近はもう距離感覚を掴めてきたのか、辛うじて人対人として接することができている。

「きっ喜多くんも、虹夏くんも、優しい、です」

「ま、失礼な二人じゃないしね」

 仮に、万が一ぼっちが歌詞を作れなかったとしても、それでぼっちを責めるような二人でもない。

 ……問題はなさそうだ。

「まあ、いいや。ぼっちは安心して作詞に専念して」

「りょ、リョウさん」

「うん」

「もっもう一度……歌詞、わっわたしらしく、考えてみます」

「うん、待ってる」

 結論。ぼっちは面白くていい後輩だ。

 

 

 

 

 

 

 

~その後~

 

「じゃあ、そろそろお店出ようか」

「えっリョウさん、あの、お金は……?」

「えっ?」

「あのだからっ、だっ代金は……?」

「……」

「……」

「ごめん、お金ないからおごって」

「えっ!?」

 虹夏を呼ぼうとしてたのを忘れてた。

 

 

 







Q:なぜぼっちが胞子となったのにみんな死ななかった?

A:屋外だったから。


呼び方

ひとり:虹夏くん、リョウさん、喜多くん
虹夏 :ぼっちちゃん、リョウ、喜多くん
リョウ:ぼっち、虹夏、郁三(未登場)
郁三 :ひとりちゃん、虹夏先輩、リョウ先輩

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