天内理子成り代わりは黒井さんを生き残らせたい 作:獄門疆・裏
とある術師に対するインタビューより
「前世の記憶がある、とは言っても私は記憶の中の彼と同じ人間じゃない。なんなんだろうね」
薄暗いシアタールームで映画を見ているみたいだったんだ、一人の少年が生まれてから死ぬまでを描いた映画を。
十五歳で死んだ平凡な少年の生涯、私ではない誰かの記憶。
「記憶はあるけど人格の連続性は低い、だけど生誕時点で他者の記憶を得ている人間の人格形成にそれが全くの無影響だとは考えにくい。私は彼じゃないけど、彼の影響を多大に受けてるってのが妥当かな」
前世、私はあの記憶をそう仮定している。
彼、私の前世をそう呼称している。
彼は生きていたのは2006年より少し先の西暦である事を除けば殆ど同じ世界、だけどただ一点のみ違う点が存在する。
「呪術廻戦、異能を用いたバトル漫画。そしてその中に出てくる星漿体の名前は天内理子……漫画の中の世界だなんて、ライトノベルだけで結構だよ」
もしもこの世に運命というものが存在するなら、定められたストーリーがあるのなら、私はそれを呪うだろう。
黒井さんを死なせる
「そして、記憶がある故の一つの懸念点。私以外に呪術廻戦の知識を持った人間はいないのか?所謂転生者と呼ばれる存在はいないのか?」
それに関しての対策はもう既に済ましてある。
ネット上のSNSサイトにいくつかアカウントを作った、彼の記憶では世界中を混乱の渦に陥れたウイルスの名を使って。
新型コロナウイルスと検索サイトで検索すると、一番上ではないがそこそこの位置にこれがくる。
転生者の目に偶然止まる確率も高いだろう。
確実性を求めるのならもっと呪術関連の情報を使えばいいが、羂索や呪術界に感づかれたくはない。
これが最良、そう私は思っている。
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「いやぁ私もここら辺で長い事運転手やってますけどね、タクシーであそこまで行こうってのは
獄門疆での封印から一夜明け、私はタクシーを用いて移動していた。
向かう場所は地図にも載っていないようなド田舎、とある双子が住まう村。
そしてこれはついでの話だが、呪具による誤認作用で私の事は三十代半ばの女性に見えているはずだ。
「バスを待つ時間がなかったしこっちの方が融通が効くでしょう、色々と急いでるんですよね私」
タクシー代もかなりかかるが、そこら辺の費用は自分で稼いだ物。
どうやら前世の彼の世界情勢に関する知識はこの世界とあまり違いはなく、そのため投資や株式の運用で稼ぐ事が出来たわけだ。
私が多くの呪具を持っているのもそれが理由だったりする、闇ルートとはいえちゃんと金で買った物だ。
「まぁ、あんな田舎に行くバスなんて一日一本有ればいい方ですしね……しかしお姉さんいつも何しにあんな場所へ?里帰りってわけでも無いでしょうし」
運転手は貴方は都会出身でしょう?見れば分かりますよと付け加えた。
都会育ちも田舎育ちも千差万別でありパッと見でわかるような事ではないと思うのだが、言い当てられたと言うことはそうではないのだろうか。
「タクシーを使ってるのはここ2年くらいだから知らないと思うけど、実は6年以上前からあの村には行っているんですよ」
「おや、そうなんですか?」
「えぇ、それで色々と縁が出来ましてね。用事というよりは遊びに行く方が近いかもしれません」
今回の件で言えば遊びの要素はなく、完全に目的のための行動で有り、或いはいっときの別れの挨拶でもあるけれど。
「遊びねぇ、神隠しさえ無ければそれもいいと思うんですがねぇ」
「……神隠し?」
「知らずにあの村へ行ってたんですか?少し前からあの村で起こってるんですよ、もう三人もいなくなったとか」
神隠し、その現象があの村で起こるのは不自然な事ではない。
十中八九呪霊の仕業だろう、それも恐らくそこそこの等級の。
それ自体は不自然ではない、過疎気味の集落で負の感情から呪霊が湧くことはむしろありがちだ。
だがこの世界があの漫画のストーリー通りに展開しているというのなら、この時点でその呪霊が存在するのはおかしな事なのだ。
「バタフライエフェクト……もしくは此処はアレに似た世界というだけで同一ではない?」
「お姉さん?どうかしましたか?」
「ああいや、独り言です。それはいいんですがその神隠しの話、詳しく聞かせてはくれませんか?」
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「代金ピッタリ、お釣りは無しです」
タクシーを降りて目的の村へと足を踏み入れる。
とりあえず村長に挨拶しに行ってから、美々子と菜々子へ会いに行こうとそう考えていると、悍ましい残穢を感じたのだ。
「最低でも準一級……高くて一級上位ってとこかな?」
この村に呪霊がいるのはまず間違いない、この類の残穢を残せるのは呪詛師ではなく呪霊でしかあり得ない。
先程の運転手の話によると、一月前より神隠しは発生していて、丁度三人目は二日前に居なくなったそうだ。
これだけならば私が払って仕舞えば問題はないのだが、既に事が起こってしまっているとなると、菜々子と美々子のこれからが心配だ。
「美々子は問題ないとして、菜々子のやつ呪霊に挑んだりしてないかな」
そもそも私と菜々子と美々子の付き合いは彼らが生まれる前からの物だ。
初めは誰にも知られずに呪術の訓練ができる場所を欲していた、そこでいずれ彼らが生まれるであろうこの村を選んだのだ。
のちのち夏油傑の離反となる要因は一つでも減らしておいた方がいいと思ったからだ。
そして彼らが生まれた、初めは打算100パーセントだったが段々と情が移り、今では黒井さんが私にしてくれたように私も何かを人に与えようとおう精神の元呪術の基礎を教えている。
黒井さんのような人間になりたいという夢物語が生み出した自己満足の行動かもしれないが、それで彼らも笑顔になっているのだからそれはそれで良いだろう。
そんなことを思い返しながら歩いていると、前からダッシュしてくる子供が見えた。
普通の人間には出せない速度、未熟ながらも呪力による身体強化はできている証だ。
「理子!久しぶり!」
「ははっ、久しぶり……って言っても一月前にあったばかりだよね」
そのまま私のお腹に彼らは突っ込んできてダイブする、避けてもいいがそれだと菜々子が地面にぶつかって怪我してしまうかもしれないのでしっかりを受け止める。
再開のハグだ。
「久しぶりって言ったら久しぶりなんだよ!」
菜々子は私の腕の中で満面の笑みを浮かべている。
彼の記憶にあったような痛々しい傷だらけではなく、傷一つない姿で生きている。
それだけで少しだけ満たされてしまうのは、それだけで自分が何かを良くしたと思えてしまうのは、私が低俗で浅ましい人間だからなのだろうか。
「本当相変わらずだね……美々子は?あの子は家?」
「うん、ネットサーフィンしてる」
「こっちも相変わらずだね、じゃあまずは美々子のところ行こっか」
一月振りということもあって、最近どういうことをしてるだろかそう言った話で会話が弾んだ。
菜々子には星漿体云々は伝えていない、だから話すのはもっぱら黒井さんとゲームをしたとかそういう事だけだ。
菜々子が話すのも大抵美々子と遊んだ話だけだ、友達がいるかどうかすらわからない。
そしてこの村では神化しが起こっている、となれば当然気になるところも出てくるわけで。
「そういえばさ、最近神隠しが起こってるじゃない?呪力のある二人のせいにされたりしなかった?」
「うーんどうだろ、わかんない。最近村の奴らと話してないし」
「それは……学校でも?」
「うん、みーんな化け物だのなんだの言ってくるし。ウチらの強さ見せつけた後でも同じ、直接言いはしないけど目がそう言ってる」
「……人前で呪術使うなって言わなかったっけ」
私が菜々子に教えたのは呪術の基礎だけ、術師としての心構えとかはこれから教えるつもりだったけど先に教えた方が良かったかもしれない。
一月前もそうだった、呪術が使えない人間を見下したり排他して美々子と私との三人だけの世界に閉じこもっていた。
まあ、そこら辺は後々教えればいい。
私は天元と同化しないのだから。
不穏な気配に気づかないまま、私は歩を進めていった。