錬金術士は働きたくない!   作:天枷美春

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2話

「此処にも植物が生えていますわよ」

 

「ん」

 

 

指示された場所を見てみると、確かに何かの植物が生えていた。

こうして共に行動してみると解るが、アリアは見落としがちな採取のポイントを的確に見つけ出す。

野生の感が働くとは本人の弁であるが。

心こそ高潔であれの家訓の裏腹には、涙ぐましい生への努力があったのではないかと勝手に考えてしまう。

 

 

「信じられない、【レッドハーブ】だよこれ。ほら、辛い奴」

 

「何で、海に…………ここ、元々地上だったりする訳?」

 

 

アンニールはそう言うが、可能性は低い。

地図で確認しても、此処は海の中だ。

黄昏より徐々に水が消えたと言われている、海の。

この地域に住むボク達にしてみれば、海とは塩気が強い地帯だ。

元々は一帯全てに水があったそうだが、歴史家の法螺じゃないのかと思えるほど何も無い。

 

 

「この地帯に生えれるって事は、塩害に負けない強さって事?」

 

「ですわね。環境の激変があったと言われている黄昏その日から、かなりの年月ですもの。海に植物が適応してもおかしくありませんわ」

 

「…………雨が降ると塩分が溶け出して、直ぐに塩水に成る地域に良く根差そうと思ったものね」

 

 

その意見にはボクも頷く。

だけど、そのお蔭で旅が少し楽になるのだから、この劣悪な地で生きようと思った植物に感謝をする。

 

 

「これでスタミナ回復の薬は作れるね。レッドハーブがあるなら他の4種類のハーブも生えてると有難いんだけど」

 

「なるべく多く集めるのが良いわね。レッドハーブなら料理にも使えるし」

 

「料理か、料理に使えるなら次の村とかに持ち込むのも良いね。錬金術の材料としては、少し扱い辛いし」

 

「スタミナ回復薬以外にも、使い道あるわけ?」

 

「うん、純粋に属性の力を抽出した錬金補助剤が作れるんだけど、紛らわしくてね」

 

 

そう、補助剤を作るとなると実に紛らわしい。

名前はレッドハーブ、だけど属性の力を抽出すると白色になる。

同じ様に薬になる別の四種類のハーブも、補助剤を作るとなると見た目の色とは全く別の色へと変化する。

補助剤の質的に有効なだけに、早く覚えておいた方が良いとは思うのだけれど、まとまって取り扱う機会が無いからどうしても後回しになってしまう。

 

 

「材料と色の関係……実家で呼んだ魔導書にそんな事が書かれてた様な気もするけど。まあ、関係は無さそうね、錬金術だし」

 

「くふふ。それよりかは、今ある辞典を使って調べた方が何か解るかもね」

 

「民間療法とか載っていませんの? あ、レッドハーブは虫除けの為に粉末にして食糧庫に置いておくと良いと聞きますわ」

 

「………………お婆ちゃんが居る」

 

 

取りあえず、専門的でなくても会話に加わりたいのが解る。

何時もはボク任せにしているアリアだが、構って欲しいオーラが見えて微笑ましい。

言ってみただけと言う雰囲気だが、悪い事は言ってないのでボクはそれを採用する。

 

 

「でも良いね、民間療法。錬金術で一段階上の技術に上げてみようか」

 

「できますの?」

 

「くふふ、この本に載って居ればね」

 

 

でも、錬金術のページは捲らない。

其処に載っているのは大抵技術的な事、そして戦闘用の道具だから。

そして民間療法のページを捲るが、レッドハーブを使うとは何処にもない。

だけど、似た様な素材を使っているページを見つけた。

 

 

「あー……【トウガラシ】? 挿絵には、レッドハーブが描かれてるけど」

 

「別の地域ではそう呼ばれている、もしくは昔そう呼ばれていたのでは無くて?」

 

「確かに。素材の地域差とかは、珍しい物でも無いしね。レティシア、先ずは作ってみたらどうよ?」

 

「そだね」

 

 

アンニールに釜をすぐに使えるようにしてもらう。

具体的には、煮立たせる必要が無い熱湯を出して貰い、火をつけて貰う。

ボクはその間にレッドハーブ……トウガラシでいいや、すり潰して準備が整ったら釜の中へと入れる。

先ず行うのは錬金補助剤の作成。

愛用の杖に魔力を込めながら釜をかき混ぜる。

込める量は強すぎても弱すぎても駄目で、この辺りは反復による経験を積むしか、適正量を導くことは出来ない。

流石に補助剤を作る時に失敗が出来る程ボクは初心者と言う訳でも無いので、かき回していると中の水が白くなっていく。

腕を止め、瓶に詰めかえれば【錬金補助剤(白)】が完成する。

 

 

「できたー」

 

「透明ね。嗅いも無いし、味は、いやその前に飲めるの?」

 

「味は有りませんわ」

 

「…………飲んだこと、あるのね」

 

 

アリアが飲んでしまったのは、ボクが無毒な薬品だと言ったからであろう。

新しい物を作るたびに、食べないでって言う必要があると感じた瞬間だった。

 

 

「辛くないなら、調味料としては使えないわね。辣油と同じ様な作り方してるのに」

 

「らーゆ?」

 

「調味料の一つよ。アンタは水で煮出したけど、それを油でやるの。色々と調味料を入れてね。油自体にレッドハーブと調味料の風味が付くし、油に沈殿してる素材カスも料理のアクセントとして使えるわ」

 

「それは……辛そうですわ」

 

「辣いわ。材料さえそろえば、作るのは簡単よ」

 

「くふふ。別にボクは煮出してる訳じゃ無いからね。このトウガラシが持つ属性を抽出してるだけだから、料理とは全く違うよ」

 

 

一応、料理の真似事も出来るとは伝える。

今回はトウガラシに宿る元素の力を取り出しただけ。

例えばパンとトウガラシを混ぜればトウガラシパンと言う物を作る事が出来る。

尤も、そう言った合成は中々難しくて、完成品のイメージが確りと出来ていないと作り出すことは出来ない。

想像する力が大事なのだが、それは今から作る物にも関係してくる。

 

 

「さて。もう一回レシピの確認かな。此処に書かれている民間療法として冷え性防止の為に、トウガラシを適当に切って、薄い布で包んで手足の末端に巻きつけるって言う事が書かれてるね」

 

「大雑把に書いてあるだけね。そんなのレシピって言えるの?」

 

「専門書以外はこんな感じだよ、錬金術ってね。料理だって同じだよね、必要な材料と、調理方法が書かれても、下処理方法が書かれて無かったり」

 

「ああ」

 

 

話ながら再び用意してもらった錬金釜の前に立ち、同じように素材を投入する。

今回は【トウガラシ】、【包帯】、【錬金補助剤(白)】である。

トウガラシ一単位に対し、包帯一単位は多すぎるとボクは予測する。

実際には作成は可能かも知れないが、多分ものすごく効力が低い代物が出来る。

逆に、包帯が受け入れれるキャパシティ以上のトウガラシを入れると、凄まじい効力の代物に成るだろう。

ただし、使用者に害を及ぼす効果が付く可能性も高い。

効力はそれなりにあるが、副作用は無い物を作らなければならない。

その為には、トウガラシと包帯が均等になる必要がある。

単位では無くて、性質で。

失敗はしたくない、失敗すれば訳の分からないゴミにしかならないし、ボクも無駄に魔力を消費することに成る。

資材が潤沢にある訳でも無いのだから、慎重にやるしかない。

 

 

「…………ねえ、レティシア。錬金補助剤って、一本で良いの?」

 

「んー? ああ、オリジナルのやり方だよ。補助剤に関しては少しずつ混ぜながら様子を見て増やしていくのさ。幾ら錬金釜と言えど、放り込むだけで何かが合成されるならボク達要らないしね」

 

 

取りあえず一本は入れないと合成は始まらないと言うのもある。

そして、分量を間違えると、下手すれば爆発すると言うのもあるから。

最後に爆発したのは、旅に出る前の事だったかな。

確りとした計算式が必要な技術なのに、計算式は手探りで見つけなければならないと言う、面倒臭い技術である。

だけど、それが良い。

そんな事を考えながら釜をかき混ぜて居た所、追加で補助剤を2.5本使った辺りでボクの魔力が材料に馴染み始めた。

悪くない感覚だと、補助剤の投入を止め、暫くかき混ぜ続けるとソレが出来上がった。

 

 

「【ホットパック】の、完成かな?」

 

「見た目はと赤い包帯ね」

 

「んー……成功なのか失敗なのか解らないねコレ。補助剤の時は、色は赤が白に成れば成功なんだけど、コレはトウガラシの色が包帯に移動した感じだし」

 

「使ってみれば解りますわ」

 

「ちょっ!? まだ安全かどうかも試してないのに何でホイホイ使うのさ!?」

 

「レティを信じているからですわ」

 

 

そう言う科白は意中の相手に言ってあげようよ。

仕方が無いので、アンニールには治療魔法の準備をして貰って、アリアを観察する事にした。

何かボクばかりアリアに慌てさせられている気がする。

あー恥ずかしい。

 

 

「………………暖かくなって来ましたわ」

 

「痛くない?」

 

「ええ」

 

「この温かさが何分持続するかによっては、極寒の地でも行動できますわね」

 

「いや、これを全身に巻くのはちょっと抵抗が。まだドリンク状にして、体の中から温める作用の薬を作った方が…………うん、今度作ってみよう」

 

「…………人が閃く瞬間を見たわ」

 

 

突拍子もない事を考え、実現させようとするのは錬金術士のサガだから仕方ない。

ただまあ、アリアが進んで被験者に成ろうとするのをどうやって止めようか。

 

 

「まあ、その話は置いといて。まだ暖かい?」

 

「ですわ。ですが、少しずつ効力は落ちてきているのは解りますわ。勿論、まだ暫く普通に使えるレベルではありますの」

 

「…………30分くらい、かな? 寒冷地帯の採取とかには向かないね」

 

「元々治療具ですわ。凍傷や、冷え性に使えば良いではありませんか」

 

「うん、そうしよう。それで、アリア、此処からが本題だ……売れそう?」

 

「常備薬、とまではムリですわ。ですが、人体を温めると言う効力で見るならば、多くの場面で役に立つことは間違いありませんの」

 

 

大体は予想していたけど、野生系お嬢様(アリア)がそう言ってくれるなら大丈夫。

暫く寒い地方に行く予定は無いし、いざと言う時のための資金を稼いで奥の悪くない。

そして、包帯はまだある、それなりの量を作って置こう。

 

 

「んー……材料はまあ、同じ分量でやればいいか。そうすると、トウガラシが足りないかな」

 

「なら、採取に行ってきますわ」

 

「待って、採取に行くのも良いけど、もう一つ別の奴を作ってから行こう」

 

 

三回目となる釜の準備をしてもらう。

今度はトウガラシだけを使う。

こっちは旅の為に常備出来れば割と楽な代物である。

早く採取に行きたいので、さっさと作ろう。

煮立つ鍋に、トウガラシを放り込めば、錬金開始の合図――――――

 

 

 

 

・・・・・・

「所で、錬金術士って裏方担当だって勝手に思ってるけど。戦闘に参加して良いわけ?」

 

「そりゃボクだって出来れば錬金術だけやって居れたら最高だけどね。アリアばかり外での仕事は気が引けるよ」

 

 

基本的に、キャラバンの中に居れば魔物とかに襲われる心配はない。

モスが番犬代わりとなり、襲ってくる生物自体が少ないのだ。

小さくてもぞうなのだと、優秀な護衛に感謝している。

 

 

「後は、今回は簡単に作りすぎたから。このアイテム、ボクが魔力を込めないと使えないし」

 

「【獣よけ】ね。そんな小さな玉が、本当に使える訳?」

 

「使えますわよ、獣どころか、的確に使用すれば大型の魔物にですら効果がありますわ」

 

 

アリアは効果を知っているので代わりに説明してくれている。

だけど、実際に使ってみれば解るとか言いながら魔物を探さないでほしい。

 

 

「保存も効くし、使わない事に越したことは無いね」

 

「生物は兎も角、魔物が全然居ないと言うのも変な話ですわ」

 

「モスがついてきてるから、襲われないだけじゃないの?」

 

「………………魔力の残り香があるわ。戦闘が行われた後よ」

 

「って事は、魔法使いが居るんだ」

 

 

流石に本職ともなると、魔力の乱れを感知する事が出来るみたいだ。

アリアが反応していない所を見ると、近くに気配が残って居る訳では無い様だけれど、準備しておいた方が良いし獣よけを渡しておこう。

 

 

「成程。道理で気配がしないわけですわ」

 

「これ【海熊】だよね……?」

 

 

海を生息域としている熊だから海熊と名付けられた魔獣。

確か、非常に獰猛で、爪の一撃は岩すら抉り取ると言う。

そんな海熊が何故、干乾びて死んでいるのか。

ついでに、その死体から明らかに此処に生息していない植物が生えている。

 

 

「魔力の元はコイツね。厳密に言えば、この植物だけど」

 

「この植物も、魔物の一種だったりするの?」

 

「流石に解らないけど、見た目は【林檎】の木よ。林檎もなってるし」

 

 

確かに、小ぶりだが良い赤色をした見た目林檎がなっている。

アリアが安全かどうか確認しながら林檎をとるが、何も起きない。

流石にその林檎を口にしようとしているのは2人で無理やり止めた。

やれやれだ。

 

 

「問題ありませんわ」

 

「一応、だよ? それで、アンニール的には、コレの説明できる?」

 

「コイツを養分にさせて木を一気に生やしたと見るわ。他の傷口に何かの種も見える。つまり、死んだのは種を打ち込んだあとよ」

 

「出来る?」

 

「無理ね。少なくとも、並の術士じゃ出来ない芸当。序に、並以上ならそのまま倒した方が早いし、可能性があるとするならもっと自然に近い生物ね」

 

 

因みに、ボクは条件さえ整えば出来そうである。

何かの種を埋め込んで、その後【栄養剤】を振り掛ければと言った所。

そして、アンニールの言う様に、そんな事やるくらいなら誰かに任せて倒した方が早い。

だから錬金術士がやった可能性も視野に入れてみたが、効率の悪さを考えれば可能性は低そうだ。

 

 

「魔物同士の争いかもね。まあ、今回はこれで戻ろうか、その木も回収しておこう、完走させれば木材になるし」

 

「解りましたわ」

 

「手伝うわ。私も使いたいし」

 

 

二人がかりで木を切り倒している。

聞いてみれば、アンニールは木片でスモークチップを作るとか。

燻製器はウチには無いが、どうするつもりなんだろう。

取りあえず、やる事は終わったと木を積み込んで採取は終わりだ。

終わりの筈だった、アリアが急に剣を構えなければ。

 

 

「銃声ですわ、小さいですが聞こえましたわ」

 

「よく聞こえるねぇ。遠いの?」

 

「いえ、近くね。私は魔力を感じたんだけど。多分、そこの岩山を迂回した先よ」

 

「…………危うきには近寄らずってのが一番だろうけど。銃を使ってるなら魔物では無いだろうし、見に行こうか」

 

 

さっさとキャラバンに原木を詰め込み、モスを走らせることにした。

近づくにつれ、ボクも魔力を感じ取れる様になってくる。

先刻も言った通りに、ボク自身はそう言った修行をしていないから感じ取れないのだが、今は無理やり感じ取らされている。

つまり、かなり乱闘な魔力戦が行われて居る様で、魔法使いであるアンニールからしてみれば、かなり気持ち悪い状況みたいだ。

そんななので、ボクが酔い止めの薬を出していると、モスが急に止まる。

バランスを崩して倒れそうになってしまった。

 

 

「モス、何があったのさ?」

 

「ぶもー……」

 

 

モスが止まったのも仕方が無い状況だった。

行く手を阻む様に巨大な木の根が生えている。

このままではキャラバンは通れない。

 

 

「この木、間違いないわ。この先に海熊をあんなのにした奴がいる」

 

「んじゃ、通れないしモスはお留守番」

 

「ぶもっ!」

 

「行きますわよ、根っこくらいならレティの道具も無しで切り捨てれますわ!」

 

 

アリアが一振り。

それだけで木の根が薙ぎ払われていく。

武器の使い手が優秀だと、只の骨の剣でも此処まで出来るのだと感心して、アリアに続いて行く。

そして、戦闘が行われている場所にたどり着くと、俄かには信じられない光景が広がっていた。

 

 

「軽く草原になっていますわ」

 

「何か悪い夢でも見てるみたい」

 

「現実よ。気持ち悪くて、頭も痛くて。嫌になる現実よ」

 

 

その草原のど真ん中で、一際大きな海熊が暴れていた。

多分この辺りのボスだろう。

そして、アリアの言うとおりに銃声も響いている。

響いているのだが、それでも尚小さい銃声と、ボクには海熊が一人で暴れているようにしか見えない、狙撃されているのだろうか。

 

 

「どうなってるの、コレ?」

 

「良く見てみると良いですわ。可愛らしい射手(ガンナー)が、近接戦闘をしていますのよ」

 

「可愛らしい………………ああ、確かに可愛いね」

 

 

目を凝らして見ると、小さな妖精らしき存在が必死に攻撃を躱しながら銃を撃っている?

断定できないのは、どう考えてもその妖精が発射するには似つかわしくない大きさの銃。

と言うよりもボクの身長と大して変わらない大きさの銃が勝手に攻撃を仕掛けているのが見えるからだ。

妖精は囮で、本命として別のガンナーが隠れて居るのだろうか?

 

 

「あの妖精、随分と木気の魔法に長けてるのね。風を操って、重砲や軽弩を配置。あのボス熊が隙を見せたら射撃って言う風に」

 

「ガンナーと言うより指揮官ですわね」

 

「どっちでも良いけど、助けは必要そう? 必要だったらあのデカいのを此方に振り向かせてくれると有難いんだけど」

 

「必要ですわね。如何せん、隙を見て撃ち込んでいるのではボスを倒すのに時間がかかりますの。近接武器なら威力もそこそこですから構いませんが、銃となると弱点部位にしこたま打ち込んでナンボ、ですわ」

 

「だそうで。アンニール、耳元あたりに爆発起こしてコッチ振り向かせて」

 

「了解」

 

 

どうやら対生物に関してはアリアの方が優秀そう。

確かに、妖精さんも壁際に押し込まれそうになっており、このままでは一撃を貰う方がさきであろう。

まあ呑気に見ている場合では無いので、アンニールが呪文を詠唱している間にアリアに次の行動を伝える。

そう言えば、獣よけが大型の魔物に効果があるのかと疑われていたが、どうやら実際に使用してみる場面は近かったみたいだ。

 

 

「【エクスプロージョン】!!」

 

 

耳元で大爆発が起きる。

いや、其処までの爆発をやる必要は無かったのだけれど。

一撃で倒せるなら倒してしまえば良いのだが、一応アンニール的には手加減が必要なのだと思ったらしい。

あの威力で手加減しているのかと思える程度には強かったが、まだ動ける様で、此方に気づいた。

 

 

「アリア、作戦変更。口の中に一つ、爆発した側の目の付近に一つずつ飛ばして」

 

「解りましたわ……!」

 

 

急な指示の変更であったが、アリアは上手くやってくれた。

右の親指で弾いた獣よけの薬は、怒り、そして此方に向かってきている海熊の口の中に入り、もう一つは左の指で弾き、指定した所へと飛んで行った。

確認をしたら、後はボクが魔力を込めるだけ――――

 

 

「爆ぜろ!」

 

「ォ――――――ォオオオオ!!?」

 

 

丸薬が破裂し、海熊に降りかかる。

トウガラシがレッドハーブと同じモノであるならば、成分は刺激臭と辛味。

まあ、傷口に染み込めば激痛が走るだろうし、そんな成分が口内で爆発すれば正常な思考と行動は出来ない。

事実、声にならない声を上げながらのた打ち回っている。

 

 

「アリア、止めを!」

 

「はいですわ!」

 

「いや、それには、およばない」

 

「――――うん?」

 

 

少し片言な声が聞こえたから、横を見たのだが、いつの間にか先程まで戦っていた妖精が此方側へと来ていた。

風の魔法を使って居た所みるに、一気に加速してきたのだろうか?

近くで見ても小さく、二の腕の長さと同じくらいだった。

だから、運んできた銃の大きさが異常な程に見えてしまう。

 

 

「たすかった、れいをいう」

 

「まあ、成行きだから気にしないで良いよ。でも、止めは良いの?」

 

「このまほうは、たいしょうが、いきてないと、こうかうすい」

 

「生きてないと?」

 

「みてろ。『いのちは、うばい、うばわれ、はぐくまれる。そもまた、うばわれるさだめと、なる。はえよ、たいじゅ。だいちにめぶく、いのちのあかしよ』」

 

「グルォォォ――――――………………………………」

 

 

変なイントネーションの詠唱であった。

そんな詠唱で大丈夫なのかと言いたくなってしまったが、成功したのを見ると今ので何も問題が無かったのだろう。

海熊の体を食い破る様に、植物の根が出て来る。

先程見てきた林檎の木と繋がった。

傷口から生えた木、撃ち込まれた種、そしてそれらを可能にする魔法と銃。

この妖精が全てを行ったのだとボク達は理解した。

声こそでなくなったが、海熊はまだ生きている、生きていて逃れようとしている。

けれどもう、根は体所か大地へと根づいてしまっており、もう逃げれない。

動きが完全に無くなったと同時に、木も成長を止めたのだけれど、其処には先程とは比べ物に出来ない、ボク達ですら遙か高く見上げる必要な林檎の木が生えていた。

 

 

「壮観、ですわ」

 

「元海とは思えない風景になったね」

 

「自然に近い生き物ってズルいわね。これほどの魔法、人が行うにはどれくらいかかるやら」

 

「そうほめるな、はずかしい」

 

 

きっと褒めてはいない。

けど、驚きの言葉しか出ないのは当然で、それが妖精への賛美に繋がっているのは間違いないだろう。

 

 

「妖精さん、この木どうするの?」

 

「ティポット。それが、なだ。ついでに、さんもいらない。しつもんに、こたえる。これは、このままだ」

 

「このまま……こんな所に生やして、すぐ枯れない?」

 

「いずれ、たいじゅのいのちが、つきれば、かれる。だが、それまでは、かれない。このちは、しおのだいちだが、なに、あいしょうはわるくない」

 

「林檎の木って、塩害に強かったかな……?」

 

「そういうはなしではない」

 

 

そう言う話では無いらしい。

ティポットは言葉足らずなのか、それとも説明する気が無いのか解らない。

アンニールは理解しているみたいだけど、ボク達に上手く説明でき無い様だ。

悩んでいると、ティポットはふわふわと空へと飛びあがり、林檎をこっちへと持ってきてくれた。

 

 

「おおいになやめ、ふるきせかいを、おわらせるものよ」

 

「や、まあ良いけどね。それで、ティポットはこれからどうするの? 海熊の主も倒して、こんな緑化運動もして」

 

「りょくかうんどう、このはたらきは、そうよぶのか。いいひびきだな、わたしは、せかいじゅうに、りょくかうんどうを、おこないたい」

 

「う、海も?」

 

「うみも、だ。だいたい、なまえこそうみだが、いまここはだいちだろう。くさきをはやして、なにがわるい」

 

 

軽口のつもりで緑化運動と言ってみたのはいいけれど、本人は緑化運動を本気で行っているみたいだった。

ボクとしても、世界中に植物があるなら食糧事情とかも楽になるから良いのだけど、ティポットが其処まで考えながら行っているかは解らない。

林檎をシャクシャクと美味しそうに食べている姿を見ながら、ある事を思い出してしまった。

 

 

「そう言えば、ティポットには悪い事をした事に成るのか」

 

「ん、わたしは、おまえとは、はじめてだぞ」

 

「いや。小さ目の海熊を、似た様な方法で倒してたでしょ?」

 

「――――ああ。そう言えば、木材になるからと言って切り倒しましたわね」

 

「な、に。なんだと」

 

 

頬を膨らませて怒っている。

不謹慎ながら可愛い姿であったが、取りあえずキャラバンへと案内する。

そこでまた、解体された原木を見て、肩を落としているのであった。

 

 

「まあでも、奪い奪われ育むって自分で言ってるんだし、仕方ない事よね。ほら、ちゃんと利用するから」

 

「……………………わかっている。いきるということは、そういうことだ。ただ」

 

「ただ?」

 

「なっとくがいかん」

 

「だよねー……いや、うん。本当にごめん」

 

「ばつとして、わたしをのせろ。とんでいるのも、つかれる」

 

 

その言葉が口から紡がれたときには、既に荷物は詰め込まれていた。

別に乗せるくらい、ボクとしては問題がないので、他二人を見てみたのだけど、苦笑しながら仕方ないって顔をしていた。

 

 

「なんだ、いいのか?」

 

「いや、別に良いよ。乗せるくらい、ね」

 

「いってみるものだな。なに、ただでのるのは、すかない。ついでに、たすけられたれいをする、れいがかんりょうするまで、ともにいる。もういちどいう、わたしは、ティポット。こんごともよろしく」

 

 

小さな小さな妖精が旅の同行者になった。

何時まで一緒なのかは解らないけれど、まあ楽しそうな娘である。

 

 




人物紹介

ティポット
種族:妖精
役割:農家/ガンナー
初期コンセプトは『イタズラ好きな妖精さん(ウフフ)』
…………どうしてこんなキャラになった。
重砲も軽弩も、まあMHのボウガン系統だと思って頂ければ。
撃ち出してるのは種なので、そらダメージは少ない。
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