「ぶもー」
今日も元気にモスが吼えている。
声の具合からして次の村が見えてきたのだろう。
そう思って外に顔を出してみれば、屋根が見えてきていた。
「むらか、なにをこうにゅうする」
「取りあえずは、食糧かな。何か最近、キャラバンの団員が増えてきたしね、食糧が追いつかない」
「しょくりょうか、にんげんはおおぐいだからな」
「君の体格からすれば、異常な量を食べてる事は自覚してね?」
「むう」
そう、ティポットは良く食べる。
では済まされない程度に健啖家である。
1回の食事で林檎を5個、6個は当たり前で、言い方が悪いかもしれないが雑食性であるために肉も野菜も構わずに食べる。
植物を生やす魔法を使ったところで、並程度の魔物では一食分の食事量しか確保できないし、生やした物を持ち運べるほどこのキャラバンは広くない。
食糧確保はかなりの課題となっている。
まさか、余裕を持って買った食糧一か月分が、二週間で無くなるなんて。
「ねー、モスもおかず一品減らされたら嫌だよねー?」
「ぶも…………」
「ひとりと、いっぴきに、けったくされている」
「移動可能な菜園とか作れれば、ボクも楽なんだけどねー」
「つくればよいではないか、れんきんじゅつしなのだろう?」
「どっちかと言うと、大工の仕事だよ」
錬金術士はあくまでも錬金術士。
自分の所有する釜以上の大きさのものは作れない。
逆に言えば、そんな釜があれば作れる……のかな?
「そして、そんな移動菜園なんかを運ぶモスの身にもなろうよ」
「なにをいう、まだこどもとてあまやかすな。もすはいつかおおぞらまでてにするぞ。りくかいくうをすべる、おうじゃとなろう」
「いや、それは法螺吹きすぎでしょ」
「うむ。りくのおう、くらいにはなるかもな」
時々予言者風に訳の分からない事を言うが、当たった試はない。
大体、まだまだ子供だっていうのに、陸の王に成る事すら何年かかる事やら。
「ぶもー!」
「む。こやつもまだまだ、よりょくはあるそうだ。いちど、さいえんもかんがえてみてくれ」
「はいはい」
「そろそろ次の村に到着ですわ。レティは、売るものと買う物を確りと確認しておいてくださいな」
「はいはいー」
村の入り口につく、けど何かがおかしい。
道は村まで続いているから、ここは多分正式な村の入り口なのだろう。
けど、入り口付近には見張りらしき人物が居ない。
其れほどまでに不用心が出来る程安全な村ならば良いのだが、そうではなさそうだ。
村の中を覗いて見ても、人っ子一人居ない、滅びた様な村だった。
「事件の香りね。戦える準備はした?」
「とーぜん。閑散としてるから、何処から襲ってきても可笑しくないしね」
「………………人は居るみたいですわ。非常に弱々しいですが、それぞれの家の中から、気配が確りとしていますもの。一番活発な気配は、教会から、ですわ」
「ならば、いくしかないな、きょうかいに」
その教会の前までたどり着いた後、念には念を入れて、アルフライラとティポットの二人に風の魔法を使って開けて貰う。
扉が開いても何も無かったので、結果的には杞憂であった。
「ようこそ、いらっしゃいました。私が、この教会の司祭代理を務めています、リンク・ストリックです」
教会の中には、司祭が本を読んでいる所であった。
この際代理である事が気にならないくらい、彼女は特徴的な耳をしていた。
「エルフ?」
「はい。珍しいですか、エルフの司祭は?」
「エルフの方は、初めて見ましたわ。それよりも、この村はどうなっていますの?」
「見ての通り、いえ、見ていないかも知れませんが、この村は正体不明の病に侵されております」
「見てませんわ、誰も。ですが、村中に人が一人も居ない訳は、解りましたわ」
とても面倒な状況の村にたどり着いてしまったと思ったのはボクだけでは無い様だ。
しかし、この問題を解決しない事には、補給も儘成らないのであろうと言う事は想像にも難くない事だろう。
「ひとつきこう。なぜおまえは、そのやまいに、おかされていない?」
「此処に赴任して、まだ早い事もあると思います。前任の司祭様より、この村の異常を知らせる手紙が、私達司祭が所属する【エクレシア】に届いたのがひと月前。そこから早馬にて移動して……と、言った所です」
「随分と長い病気だね」
「いいえ、本来はもっと短い筈です。我々司祭が日々の【祈り】で、病魔の進行を抑えているのです」
祈りとは、比喩表現でも何でもない。
エクレシアの神官たちは、皆が一定以上の治療魔術を行えるエリート集団。
つまり、目の前の司祭は、小さいとは言っても村全体を治療できる程の実力者である事が解った、そして村に蔓延する病気とやらが、強い部類である事も。
それでも、本人がその病気にかからないのは不思議な話なのだけれど。
「前司祭殿は、何と?」
「それも解りません。私と交代するなり倒れ、目覚めていませんので」
「八方ふさがりじゃない。代金置いていくから、適当に補給して進んだ方が安全ね」
「この土地の物は、全部感染していると考えても良いと思うけどね。本当に、何で司祭様は感染しないのやら」
「…………私、元々鍛冶師なんです。時々、自作の魔除けとかを作って居るので、それが可能性としてはありますね」
そう言って自らが鍛えたのであろう武器や装飾品を取り出す。
鉄が材料と思われる無骨な大鎚と、それに反するかのようにきめ細やかな細工が施された装飾品が出される。
ボク自身は細工が凄いと思う程度であったが、アリアが両方に反応したので、武器も装飾品もかなり良い代物だと言う事が解った。
「その装飾品、村の人に近づけたら駄目なの?」
「全然効果がありませんでした」
「そりゃそうよ、毒を防ぐお守りがあったとして、毒になってからお守りを付けても遅いのと同じよ。にしても、アンタ凄いわね、武器は……アンタ専用のだから兎も角、装飾品は十分に効力を発揮してるわ」
「その力を見込まれて、エクレシアに呼ばれた様なものですから」
「そのエクレシアは、何故一人だけを派遣するに止めたのです。貴女の様な司祭様が複数いれば、作業の分担も楽ではありませんの?」
「慢性的な人員不足は、この時代は何処でも同じですから」
「世知辛いねー…………」
かといって、このままでは村も全滅してしまうだろう。
それどころか、立ち寄る旅人に感染して大陸全土に広がってしまう可能性すらある。
個々にそれなりに出来る面子が揃ったのだから、此処で解決しておくべきだと皆に言う事にした。
「取りあえず、治療薬作るかなー。司祭様、緊急事態だし勝手に使いたいんだけど、【アイスプラント】……いや【ホワイトハーブ】はこの村にあるかい?」
「ホワイトハーブですか、食材を扱っている店にあると思いますが」
「良いね。じゃあ案内して欲しいんだけど。その前に、ティポットとアルフライラは井戸の水を採取して。素手では触れない様に」
「解った」
「りょうかいだ」
「レティ、私は何をすれば宜しくて?」
「…………ボクの釜持ってきて」
案内は司祭様だけでも構わないし、かと言って採取は素手でやるなと言っても絶対に言う事を聞かないだろう。
だったら適当な力仕事を任せるに限る。
そんな考えが伝わってしまったのか納得がいかないような顔をしていたが、ボクの行動開始の声と共にバラバラに行動し始めたので、後は与り知らぬ事である。
「ホワイトハーブは、塩の代わりによく使われる食材と聞いていますが、それを何に使うのです?」
「ん、ああ。まだボク達自己紹介してなかったね。レティシア・ソルイルナ、錬金術士さ。つまりは、そう言う事」
「成程。教会の教えとしては、神が定めた形を壊す者。故に異端となっていますが、今この場に置いては何も関係の無い事ですね」
「おや、意外といけるクチ?」
「私も鍛冶師ですから。インゴットを叩いて作り変えるのが好きなんです」
割と寛容な人で助かった、のかな。
それとも、神の教えとやら関係なしに村の人を救いたいだけなのかもしれない。
そんな事を考えて居ると食料品店に到着した。
司祭様は普通に中に入り、当然であるかのようにアイスプラントを持ってきた。
罪悪感が全然無さそうに行動しているので、大人しそうな見た目とは裏腹に、大胆なのかもしれないね。
武器も巨大なハンマーだし。
「これだけあればよろしいですか?」
「十分すぎるね。後は釜を――――――」
「持ってきましたわ!」
「ん、次は空の瓶をあるだけ持ってきて」
アリアがお湯がたっぷりと入った釜を担いできた。
どうやら途中でアルフライラにお湯を入れて貰ったらしい。
之で楽になったと、次の指示をアリアに出しておく。
用事を伝えたらボクも早速火をつける。
最近なんだかんだで錬金術を使う機会が多かったので、技術も上がったし、比例して一日の消費魔力量が多くなるから、伴って魔力量も少しずつ上がっている。
お蔭でアルフライラ程ではないけど、強火でお湯を沸かせれるくらいまで出来る様になってしまった。
「んじゃ、やろうか。全部ぶち込んで……と」
後は何時ものように釜をかき混ぜるだけ。
今回は、錬金補助剤は使わない。
アイスプラントに備わっている力を抽出するイメージで魔力を通し、釜をかき混ぜ続けるのだ。
つまり、やって居る事はトウガラシの元素を取り出した時と同じ。
取り出す対象が元素か潜在能力かの違いである。
失敗する道理は無い、いつも通りに色が変化するまでかき混ぜ続けるだけだ。
「出来た。【ブラックポーション】」
「…………ホワイトハーブ、でしたよね?」
「この世界では良くある話さ」
「――――――瓶を持ってきましたわ!」
「うん、休んで……いや、瓶に詰めるの手伝って」
薬となるポーションは出来たが、まだまだやらなければいけない事がある。
採取が終わった二人が帰って来るまでに、鍋を空にしておかなければいけない。
だからさっさと瓶に詰めてしまおう。
「みず、くんできたぞ」
「鍋の中に入れて。ついでにアルフライラー?」
「解ってるわ、煮立たせればいいんでしょ」
「うん、今回は沸騰させながらやるから、ボクがかき混ぜれる程度の炎でお願い」
ひとつ、病気の原因にあたりをつけてみた。
水だ、井戸が汚染されているのではないだろうかと。
ひと月近く良くなる気配が無い病気と成れば、飲食物に原因が来ている可能性がある。
それらが汚染されていれば、自然に直るわけもない。
だから今から行う錬金は、不純物と水とを分離させるようにかき混ぜる。
沸騰させてからやらないのは、水溶性の毒であった場合、蒸発して空気中に散布されない様にするため。
最終的に出来上がったのは、紫色の結晶だった。
「完成」
「【魔素結晶】じゃない。たったこれだけの水に、結晶化出来る程の量が入ってたわけ?」
「魔素って何ですの?」
「簡単に言えば自然物以外の魔力よ。魔力は世界に存在するすべての物に宿ってるって言う話でね、それを使って魔法を唱えたりするんだけど、まあそれは置いといて、その魔力が濃かったりすると有害なのよ」
「まりょくには、それぞれはちょうがある。もつものによってちがう、ゆえに、たしゃのまりょくはうけいれづらい。ほんらいは、そのていどのはなし、なのだが」
「偶に居るのよ。自身の魔力を扱い切れず、放出し続けるのが。ソレが魔素中毒の症状を他人に引き起こさせたりするの」
扱い切れない魔力は自分にとって毒である。
放出する事で死なない様に本能が調節するそうだ。
しかし、そんな状態になっている生物自身も魔素中毒であり、生きている限り魔素をばら撒くとアルフライラは話した。
ボクの予想はそれなりに当たって居た様で、そして井戸水が汚染されていると言う事は、この井戸の源流となる場所が汚染されていると言う事である。
「さて、原因も解ったし、問題解決に行こうか。司祭様、この井戸は何処の水が流れ込んできているんだい?」
「出来れば、案内したいのですが、私がこの村から離れるとその魔素中毒の進行が進んでしまうのでは?」
「それも含めて、問題解決さ」
ブラックポーションを魔素結晶へとおもむろにぶちまける。
シュウシュウと言う音が聞こえてきたのだが、それが聞こえなくなる頃には無色透明な結晶へと変化しているのであった。
「中和完了。これで自然由来の、指向性のない【無色の魔力結晶】になったね。これでもう無害、同じように二、三本ブラックポーションを飲ませれば、完全治療となるから」
「ッ……! 解りました、直ぐに皆さんに飲ませてきます!」
持てるだけのポーションを持ち、司祭様は走っていく。
慌てる必要は無いが、のんびりとする理由もない。
残っているポーションも手分けして村人へと配る事にするのであった。
直ぐに食事が出来る様にと、植わっている野菜や井戸水に振り掛けるのも忘れない様にしないとね。
・・・・・・
「助かりました、錬金術士の少女さん」
「いえいえ、此方の司祭……代理様が材料を使わせてくれたから、話が早く進んだだけさ」
目覚めていなかった為、そもそも自力でポーションを飲める状態では無い司祭様だったが、五本ほど無理やり司祭代理様に飲まされたらしい。
他の村人より消費した量が多かったが、それだけ重篤な状態であったのかと、間に合ってよかったとボクは胸をなでおろす。
そんな司祭様であるが、無理やり起き上がって原因の排除に向かおうとするボク等を見送りに来てくれていた。
「司祭様が復帰なされましたので、私はもう代理である必要はありませんね。レティシアさん、どうか私の事はリンクと呼び捨てで構いません」
「了解。まあ、司祭様に司祭代理様に、こんがらかりそうだし、呼ばせて貰うよ」
「それでリンク殿、本当に貴女まで原因排除へ向かうのですか?」
「はい、司祭様。十日間、彼女たちが来るまで何も出来ずにおりました。せめて、私も手伝いたいのです」
巨大なハンマーを掲げながら言う姿は、神官職に就いている者には見えない。
一応、エクレシアの教えでは殺生は禁じられていると聞いていたけど、明らかにこの武器だと叩き潰す事しか出来無さそうだ。
これはリンクの性格によるものなのだろうか、でも司祭様も咎めようとしていないから地方に来ると黙認される部分もあるのかもしれない。
そんな事を考えながら、ボクらは司祭様へ別れを告げ、水源へとキャラバンを動かす。
「水源までは遠いの?」
「人の足で、半日と言った所です。キャラバンならば、引いている動物にもよりますが…………すみません、この種類のぞうは見たことがありません」
「大丈夫、人の足で半日なら、モスにかかれば一時間もかからずにつくよ」
そう言った頃には、もう村が小さくなっていた。
モスをそれなりに早く走らせているため、キャラバンの進みが非常に早い。
不慣れなアルフライラやリンクは倒れない様に必死で捕まっている。
逆に、同じく不慣れでもティポットはノリノリでモスの頭の上で指揮を執っている。
「所で、その湖って、魔素中毒にかかりそうな生物とかって住んでるの?」
「…………司祭様が仰るには、古くから蟹の魔物が主であったと言っていました」
「カニ、ねえ」
淡水の湖に生息する蟹の魔物と言えば【岩蟹】とか言う、甲羅を岩で武装したのが居た事を思い出す。
けど、あの蟹は別に暴走させるほど魔力を持っていない蟹であり、刺激さえしなければ安全であったはず、何かが起きているのだろうか。
揺れでバランスが崩れ、あまり考えもまとまらないので、急に作業をし始めたアリアを見てみると、林檎の原木で何かを作って居た。
「アリア、何作りだしたの?」
「蟹釣りの餌ですわ」
「………………なんで、蟹釣り?」
「原因とされる湖の主は、蟹なのでしょう? その主に変異が起こったのか、それとも主を倒して別の原因がその湖を汚染したのか、どちらかですわ。どうせ水の中に入るのは危険なのですから、蟹が主のままである事を予想して、釣り上げるのが一番ですわ。それを行う上で、程よい香りを発する林檎の原木は、適していますのよ」
巨大な蟹を想定している様だ。
確かに、岩蟹であるなら長い年月で巨大に成長しても可笑しくは無いけど。
無いけど、そんなロープと原木を加工しただけの釣り具で、本当に釣れるのかは疑問な所に思える。
「そんな事やるより、爆弾とか、私達の魔法で気絶させれば良いんじゃない?」
「そうだぞ、」
「駄目ですわ。エクレシア本部の方が居る前で、禁止されている漁は出来ませんわ。たとえ、許可が頂けたとしても、本部への報告に、怪しまれるべき点を残すのは我々旅人としては、避けたい所ですの」
アリアの言っている事は正しい。
影響力の強い団体であるエクレシアを敵に回すのは得策では無い。
だけど、だからと言って原因であるかも知れない蟹を釣り上げて対処したとか書かれても、怪しまれるだけじゃないのかと思ってしまう。
ほら、リンクも結構困った顔をしている。
まあしかし、結局は成る様にしかならないだろうと溜息を吐いたところで、その問題が予測される湖が見えてきた。
「あー……原因解りやすいね」
「ほら、やっぱり蟹が原因ですわ」
其処まで広くない湖のど真ん中に巨大な水晶の島の様なものがあった。
色は紫色、つまり魔素結晶である。
沈んでいて詳しくは解らないのだが、薄らと岩蟹らしき特徴も見える、背負っている形になるのか。
アリアの言う様に本当に蟹であったし、結晶を作り上げるくらい重度の魔素中毒に陥っている事を考えても、この周囲は大丈夫なのかと頭が痛い。
取りあえず刺激をしない様にキャラバンを此処で止め、湖畔まで歩いて行く。
「あのかには、
「かと言って、アレを何とかするために湖に入ったら、私たち一発で中毒者側ね」
「ですから、釣り上げると言っていますわ」
そう言って魔素結晶に向かって思い切り原木を放り投げた。
普段から馬鹿力なだけあって、水晶に命中させている。
50mくらいある様に見えたんだけど?
「ほら、かかりましたわ!」
中毒に汚染されていても食欲はあるのか、はたまた本能なのかは解らないが、原木に喰らいついている。
此処から下手をすると湖に引き込まれるけど、どうするのかと見ていると、アリアのお嬢様らしくない掛け声と共に、巨大な蟹が、空を飛んでいた。
何この娘、おかしい。
「釣り上げましたわ」
「んな事良いから離れるよ!?」
このままではボク達が潰される。
轟音が響いて地面に叩きつけられた蟹をはさみこむ様に、ボクとリンク、それ以外と言う形に分断された。
若しくは挟撃している、とも言える、のかな?
「足ですわ! 幾ら魔物と言えど姿形は蟹! 足の半分を折れば動けなくなりますわ!」
全員に伝わる様にアリアが叫んでいる。
でも、世の中には尻尾を斬ったら二足歩行を行い始める蠍の魔物とか居るらしいから、余り油断はできないよアリア。
「しかし、困ったね。大鎚じゃボクを守って動くのは難しそうだよね」
「このような経験は、結構ありますから」
「ふえ…………おおー!?」
【アタックアップ】、【ガードアップ】、【マジックアップ】が矢継ぎ早に唱えられた。
エクレシアの神官が得意とするのは回復魔法と、補助魔法と聞いている。
それであったとしても此処までの高速詠唱は、エルフと言う魔法に慣れ親しんだ種族の力もあるのだとボクは思う。
反対側から魔法使い二人が
「なんか、司祭、いや神官か、ソレより
「…………残念ですが、利き手に盾を持ちより多くを守る技術はないです。どちらかと言うと、両手持ちのこの鎚で粉砕する方が私に合っています」
そう言って此方に振り下ろされた岩蟹の手に合わせてハンマーを振りぬいていた。
纏っていた岩を、甲羅ごと打ち砕いた事に、リンク自身も驚いていたが、どうやら負けじとアルフライラも
「攻撃力半減だね」
「ええ、足を狙わずとも倒せそうです」
「まあでも、足があると湖に逃げ込むかも知れないから、弱る前に破壊しておくのが一番だろうね…………っと!」
「何を投げたのです?」
「今のボクには、使い道が無さそうな石ころ、かな――――――ティポット! 岩蟹の真下に無色の魔力結晶投げ込んだから、種に使って!!」
「りょうかいした」
指向性が無い只の魔力の塊と言う事は、誰かに導かれればその色に染まると言う事。
ティポットの魔法はある程度生命力を消費させなければ直接植物は生やせない。
別に、大地から直接生やして良いけれど、それは大地の生命力を奪っている事に他ならず、長い目で見た場合続けて植物を育てる事には不向きとなる。
だからボクは、その生命力の代わりの素材を放り込んだ。
しかも、無色の魔力結晶はボクが錬金術で作り出したアイテム故に、使われる魔法に干渉する事だって可能になる。
ティポットの詠唱が終わった時、何時もの様な植物の木では無く、巨大な槍が背中の魔素結晶ごと貫いていた。
声なき蟹は、そのまま崩れ落ちる。
ボク達の、勝利だ。
「これで、あの村は救われました、めでたしめでたし。なーんて上手く行くわけ無いっての、現実舐めんなっての」
「この一帯の浄化、魔素汚染された岩蟹の処理、やる事は沢山ありますわ」
「私も、エクレシアに何と報告をするべきか。錬金術士に、高濃度魔素結晶。そして当然、事の顛末も」
「そ、それは何とかしてもらわないと困るかなー、本当に」
「この分だと、背中の魔素結晶を浄化するだけでどれだけかかるやら。放置出来ないし」
「厳重に管理しながら放置するのも一番何だけどね。こういうの浄化できるのって、現状では
あるだけのブラックポーションを振り掛けても何とか出来そうにない。
ティポットの魔法で木を生やしたところで汚染された木が生えるだけ。
しかも、この量からすれば先日のソレを上回る規模の木でだ。
地道に魔力結晶を削っては浄化と言う作業しか方法は無さそうで、どれだけこの地域に足止めさせられるのだろうか。
「ぶもー?」
「ああ、モス……ごめんね、もう戦闘は終わったけど、ちょっとこの地域汚染されてるから近づいちゃ駄目だよ?」
騒音が聞こえなくなったからとモスがキャラバンを引っ張って此処まで来ていた。
下手をすれば魔素中毒になる可能性もあるので、近づいて欲しくないボクであったが、何か予想以上にこの子は生物として優れている様であった。
「モス、危ない……って」
「何か食べているようですわ」
「魔素を、食べてる?」
「ぶもー!」
近づくなと言っているのに近づいて行くのを止めようとしたのだが、今回は珍しく言う事を聞きそうに無かった。
そして魔素結晶の前に止まり、紫色の煙を吸い取り始める。
連動して少しずつ魔素結晶の紫が薄くなってきているので、アリアの言う様に本当に魔素を食べているのであろう。
「モ、モス、食べても美味しくないよ? ほら、いつも通り干し草一杯あげるから」
「あきらめろ、どうみてもおいしそうに、たべている」
「だけど! モスが魔素中毒になったらどうするのさ!?」
「ならんだろう。むしろ、せいちょうするために、ひつようなしょくじ、みたいだぞ?」
一番冷静なのはティポットの様だ。
ボクとしては魔素自体が危険だと思っているから、取り込んだモスが中毒になってしまうのではないかと心配なのだが。
でも、ティポットの言う通り、魔素を食べる量に合わせて体が大きくなっていく。
ついでに、角も巨大になり、皮膚も硬化して鱗状になった。
「……………………動物だろうが魔物だろうが、魔素を好んで食べる存在なんて聞いたことが無いんだけど?」
「魔族とか?」
「魔族は人型と言われています。そして、モスさんは禍々しい雰囲気はありませんので、魔に属するものでは無い気がします」
「エクレシアの神官さんが言うなら大丈夫だよね」
「大丈夫ですけど、報告する内容が更に困ります」
それはボク達も似た様な物で、モスとかに関して色々と調べなければならなくなった。
まあしかし、それ以外に起きている問題はモスが解決してくれたので、高濃度の魔力結晶になった物をキャラバンに詰め込んで村に帰る事を決めた。
・・・・・・
「村人は、すっかり元気になったみたいだねー」
「ええ。貴女の残した薬が、皆をお救い下さいました」
村に戻ると、司祭様が出迎えてくれた。
村人も完全に回復したようで、元気に動いている。
病気明けなんだから、もっとゆっくりさせれば良いと司祭様に言ってみた。
司祭様も同じことを村人に伝えたそうなのだけど、村を正常に運営する為にもこれ以上休んでいる暇はないと押し切られたらしい。
だから、雑貨屋だろうが宿屋だろうが平常運転しているらしい。
「まあ、村が機能してるなら旅立つ準備でもするかなー」
「随分と滞在は短いのですね」
「ボクにはこれと言った旅の目的は無いけど。他のみんなは旅する理由ってのもあるみたいだから、ゆっくりはしてられないのさ」
「成程。旅人の方にも、色々あるのですね。ならば、準備は私も手伝いましょう」
本当、この村の神官職の人たちは割と寛容的だ。
エクレシアから離れている事も関係しているのか、それともどこも其処まで厳しくないのか、何にせよ旅人的には有難い話だ。
「私も手伝いましょう」
「…………リンク殿。貴女は貴女で
「あ、私こちらの方々について行くことに決めました」
「それボクは初耳だけど!?」
何か着いてくる事が本人の中では決まっていた。
初めて会った時は大人しそうな人かと思ったけど、物凄く自由奔放な神官だ。
「本部に戻ると、この事件を説明する必要が出てきます。報告書として作り上げて、錬金術士の名を出しても良い反応は得られません。ならば、適当な日数を共にし、問題無しと報告することが、結果的に貴女方の手助けになります」
「…………エクレシア本部までは、流石に行かないよ?」
「ええ、一番近い所で降ろして頂ければ良いです」
どうやら本気で着いてくる様だ。
旅の護衛が増える事は嬉しいのだが、もうそろそろ乗るスペースが無くなる気がする。
「と言う事なので、キャラバンを改造しても良いですか?」
「改造…………ああ、鍛冶師だもんね」
「はい。長居はしないとの事なので、一日で仕上げます」
と言うか、設計図はもう既にできているらしく、見せてくれた。
帰りのキャラバンの中で書き上げたとの事で、その辺りから乗る気満々だった事にはボクも司祭様も苦笑してしまった。
今までのモスならば結構な重労働になる図面だったが、中型の魔獣と言っても良いサイズまで姿も能力も進化した今ならば問題が無いと思う。
そして、本気で一日で仕上げるつもりらしく、ボク達が旅の用意をしている間、ずっと鉄を叩く音や鋸で木を切る音が響いていた。
人物紹介
リンク・ストリック
種族:エルフ
役割:鍛冶師/神官
エルフ耳でリンクだって!? 博士、お許しください!! 『エアアア!!』とか叫びません。
初期コンセプトから其処まで変わらなかった人。
メイスを持つ神官は多いけど、ハンマー持つ神官は少ないかなぁ……と。