錬金術士は働きたくない!   作:天枷美春

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忙しいんや、ss書いてる暇あらへん(白目)


4話

カンカンと言う小気味良い音が響いている。

それはリンクが皆の武器を叩いて強化している音。

馬車の中で。

モスが引っ張る大型荷車(キャラバン)が、大型荷車改(キャラバン・かい)へと生まれ変わった事で、詰めなかった荷物も積めるようになった。

例えば、皆の共同スペースとなる場所は一回り大きくなっただけでなく、ボクとアリアだけのスペースと言う形で二階が建築されたり、ティポットの菜園用の施設、ライラの書斎、勿論ボク専用の錬金スペースだってある。

リンクも途中までは一緒に行くと言う事になり、キャラバンを大改造するついでに自分の商売道具の一つである高炉まで設置されている。

もう一度言う、馬車の中で。

 

 

「流石に煩かったですわ」

 

「まあでも、昼だし良いじゃない」

 

「ふふ、私も夜この音を出すのは忍びないです」

 

 

魔力結晶を使用して、武器の威力の底上げをしてもらった。

と言っても、骨の大剣とか木の杖とか、M61ヴァルカン5mmガトリング砲と言ったボク達の武器の後ろに精々『改』と付いた程度である。

本格的に強化をしたいなら、武器に合った素材を見つける必要があるらしい。

出来る様になった事は、武器に属性を乗せて攻撃が出来る様になった事。

遠距離主体のボクとかには其処まで関係のない話だけど、アリアとかは魔法使いの力を借りて剣を振るう事だって可能になった。

ボクが作って居る研磨鉄粉の属性版だと、リンクが言っていた。

同じ様な要領で属性を込めれるアクセサリーを作ってくれた。

言っても魔力結晶を削って磨いて、ブレスレットにしただけなんだけど、魔法のブーストに使えるから十分強力である。

尤も、使い切りだから切り札に出来そうなのはライラとティポットくらいだけど。

 

 

「しかし、煩いのはこれで終わりです。全員分の武器は叩き終わりましたし」

 

「防具とかはどうするの?」

 

「皆さん軽装ですし、此方は縫います」

 

「かじしとは、なんでもやる、のだな…………」

 

「自惚れている訳ではありませんが、信仰深い鍛冶師程度では、エクレシアの神官になる事は出来ませんから」

 

 

そんな神官様をボク達は良いように使っている訳だけど、大丈夫なんだろうか。

取りあえず、リンクは同行者と言うよりはお客さんと言う形だし、余り無茶はしてもらわない方向で話は決めてある。

本人の実力が高ければ高いほど、無茶が無茶じゃ無くなるのはご愛嬌、でもそれは一芸特化が集まりだしたこのキャラバンでは案外普通の事なのかもしれないね。

 

 

「鍛冶師なのに仕立ても大工も行うは何でなのよ」

 

「武器を打つ事とクギを打つ事、防具を作る事と服飾を行う事に対して違いはないですから」

 

「…………結構違う気がするわ」

 

「そうですか?」

 

 

まあ、本人が同じだと納得しているから、良いんじゃないかなと聞きながら思う。

ボクだって錬金術士の傍ら薬師の真似事だってするし、ライラだって料理を作って居るように見えて魔法の触媒を作って居たりする事もあるし。

………………間違えて食べたけど美味しかった。

 

 

「私の事は取りあえず置いといてですね、皆さんはどの様な防具(ふく)を必要としていますか?」

 

「防御力優先、かな? ボクとアリアは【遺跡】とかに潜る事もあるし、とにかく頑丈さ優先で服とかは作ってもらってるんだけど」

 

 

どれほど困難な道のりを乗り越え、お宝を手に入れて脱出しても、壊滅的な格好をしていれば感動も半減してしまうだろう。

と言うか実際にあった、恥ずかしかった。

他の冒険者に見られくて良かったのが幸いで、その日からボクとアリアは服は何よりも頑丈さを優先する事にしている。

 

 

「ああ、頑丈さは必要ですね。私も時々、素材を取りに行くために近くの遺跡に潜ったりする事が多いので解ります」

 

「そうねー。私は普段ダンジョンいかないけど、アンタ達と一緒なら潜る事になるし、頑丈な服なら良いかも?」

 

「そもそもだ、わたしは、なにもなしでも、いいのだぞ」

 

「いくら妖精は自由だからって、止めておいた方が良いと思うよ、裸は」

 

 

確かに、背中の羽が上手く扱えなくなるから服は邪魔なのだろう。

だけどだからと言って裸で行動されると困る。

妖精って割と自然に近い存在で、動物よりは魔物に近い存在だから、裸で大丈夫なのは解るんだけど、そのまま放置しておいたら主にボク達がとても白い目で見られることに成るのは間違いないしね。

 

 

「その辺りは考えて作るので大丈夫ですよ。材料は少なめで済みますし」

 

「それなら、たのむぞ」

 

「どの程度頑丈にします? もう少し材料を揃えれば、魔法耐性を持つ服が作れますけど」

 

「ん、材料にもよるかな?」

 

 

作れる材料ならボクが作れば良い。

が、残念な事に遺跡でしか見られないような物が必要になる事が説明で分かった。

魔力耐性がある服は結構役立つし、どうしたものだろうか。

そんな事を考えながら、皆にどうするかを聞いてみたけれど、満場一致で遺跡に潜ることに成るのだった。

遺跡に潜るのに防具が必要で、防具を作るのに遺跡に潜る必要があるのは、何か変な因果な気がする。

 

 

 

 

・・・・・・

「入りたいって思った時に遺跡ってあるから、有難いよねー」

 

「元々海岸沿いは村も遺跡も多いですわ。黄昏より以前には、人が居ない場所など無かったと古書にも書かれていますし」

 

 

そう、基本的に遺跡とはかつての町の名残。

人が住むことを放棄した建造物の中で、長い時間を耐え形を今に残す物が遺跡と呼ばれているだけの話。

古ければ古いほど、黄昏以前を知る資料が眠っていたりする事があるけれど、其処まで古い遺跡なんて誰かに探索されているだろうし、ボク達は学者でも何でもないので態々探したいとも思わない。

 

 

「私は遺跡に入るの初めてだけど、何か気を付けておいた方が良い事ってある訳?」

 

「魔物とかに気をつければ良いと思うよ。嘗ては居住区だったことが多いから、トラップとかなんて滅多に無いし」

 

「…………その割には、今から入ろうとしてる所は、大変そうに見えるんだけど?」

 

 

リンクが忙しそうに治療を施している。

治療を受けているのは先に遺跡を散策したと思われている冒険者たち数名。

リーダーらしき人物を除いて全員が毒や麻痺と言った状態異常に体が侵されていて、明らかに中で何かがあったと解る。

しかし、そんな事は置いといても、まさか散策する前から回復役の魔力が消費されるなんて思わなかった。

 

 

「ア、アンタ等……礼を言う、助かった!」

 

 

まあ、助けを求めて泣きついてきた冒険者のリーダーが居るし、普段なら金銭を要求する所だけれど、今回は別の形で報酬を貰おう。

 

 

「礼なんか要らないから、情報頂戴。中で何があったのさ?」

 

「――――――解らねえ! 魔法で生命探知を行っても何一つ引っかからない、安全な遺跡だと思ったのによ!? 気づけば一人一人毒で狩られていったんだよ!!」

 

「んー……【幽霊】にでもやられた? そう言うのが住み着いている可能性は十分に考えれる訳だし」

 

「物理的な一撃を喰らっていますわ。首筋に一突き、小さな針で刺されたような傷跡がありますの」

 

「序に、毒物も自然性由来の物と、魔力性の物が混在しています。片方だけならば早く終わるのですが、混在しているとなると些か手間取ります」

 

 

正直な話、ボクの薬を使わないで済むなら楽で良かったのだけれど、そうも言ってられない状況の様だ。

仕方がなく、備蓄してあった二種類のポーションを振り掛ける。

本来は一人一本が適正量だけれど、今はリンクが治療の魔法を使っているから相乗効果でこれ一本で十分だろう。

実際に、それで効果もあったみたいだ。

 

 

「自然性の毒は【レッドポーション】、魔力性の毒、つまり【呪い】は、魔素中毒と同じ様な症状だからブラックポーションで治る。リンクの魔法を後押しさせて貰ったよ…………でも、複数人治せるとは言っても、やっぱり情報料として使うのは勿体無かったかなー?」

 

「あまり欲に走らない所は私としては好ましい所です」

 

「ふふん。神官様がそう言うなら、そう言う事にしておこう……で、結構話はそれたねアリア。物理的な一撃って言うと、やっぱり人か何かなの?」

 

「人は居ないわ。アンタ達の会話が気になったから、この遺跡全体に生命探知の魔法をかけてみたけど、一切反応は無しよ。そこの冒険者の魔法が未熟って訳でも無いみたい」

 

「魔物も?」

 

「そう、魔物もよ」

 

 

幽霊でも無く、しかし生命体でも無い。

と言うか誰も居ない事が明言されているのであれば、後は下手なトラップに引っかかった事くらいしか無い気がするけど。

それも違うらしい。

何せ、リーダーさんは声を聞いたと言っているのだ。

そう言う情報はもっと早く言えっての。

 

 

「生命体で無い、声がある。魔導人形(ゴーレム)の類でもいるのかな?」

 

「考えにくいわね。私の……って言うか、生命探知の魔法って、魔力反応含めて探す事が出来る訳だし」

 

「実際には罠を踏んだだけでは無いですの? 声は、後付けで録音装置の中に入れておけば良いですし」

 

「………………そう、言われれば、そうなのかも知れねえ。俺達、ってか俺が聞いたのは『帰れ』ってのと『出ていけ』の2パターンだけだったからな。無視してたら、電の様な音と光がして、俺意外が倒れてたって訳だ」

 

 

だからもっとそう言う情報は早く言えと……。

色々と突っ込みどころは多いのだが、罠と言う事でリーダーさんもそれで納得したし、罠に気を付けて進もうと言う方針になった。

だけどまあ、一応念を入れた陣形で進んでいくのも悪くは無さそうだ。

 

 

「よし、ではボク達はアリアを中心とした陣形を組もう。左右にボクとライラ、前にリンクで後ろにティポット!」

 

「…………その陣形は、中央の人物を守る為に使われる物ではありませんか?」

 

「普通はね」

 

 

そう、普通は中央を守る為に一番体力が低い人物……大抵はボク辺りを置いておくのが一番なんだろうけど、今回はこれで良い。

アリア以外訳が分からないと言った顔をしているが、寧ろアリアが意味を解っているのならば問題ない。

治療が終わった冒険者達に別れを告げてボク達は遺跡へと入る。

 

 

「んー…………本当に静かな遺跡だね此処」

 

「言ったじゃない。生命反応は何もないって」

 

 

生命体が活動をしている痕跡は見られない。

正面入り口を抜けると広いホールに出たけど、やっぱり遺跡内は静寂に満ちている。

だけど、違和感がある。

 

 

「綺麗すぎますわ。遺跡とは、殆どが廃墟ですのに、なぜ此処まで整理されていますの?」

 

 

アリアが言うとおり綺麗すぎる。

放置されていれば埃も積もるはずだし、壁や床にヒビだって入っているのが普通。

だと言うのに、此処は寂れてはいても、痛んではいない。

そう、何かがあると、ボク達に疑問が湧いてきた時だった。

 

 

『――――――帰レ』

 

「嘘…………生命探知に引っかかってないわよ?」

 

「機械音声ですわ。人が話す音とは、少しばかり違いますもの」

 

「………………良く解るねえ」

 

 

正直、ボクには普通の声にしか聞こえなかったのだけれど。

まあアリアが言うんならそうなんだろう。

警告音が聞こえたと言う事は、何かこの先にある……もしくは今この場に何かが起こると言う事だから皆が気を引き締めている。

 

 

「取りあえず、ガードアップをかけておきましょう」

 

「ええ、ではかけ終わり次第進みますわ」

 

『止まレ』

 

「くふふ、止まれと言われて止まるなら、誰も此処に入らないって」

 

 

機械音声を無視する形。

これは前に入った冒険者たちと同じ形で進んでいる。

この後に電の様な音、そして光が来るらしい。

だけど、ボク達が予想していた事とは実際は違った。

 

 

「ならば、我が一撃を喰らって帰レ」

 

「!」

 

 

機械音声が、ボクの言葉に反応をした。

そして、後は先刻の冒険者たちと同じ感想になる。

電の如き轟音と共に、光が見えた。

 

 

「――――――ま、届かせるわけにはまいりませんわ」

 

「防いだカ」

 

「正面から堂々と奇襲とは、流石に人を舐めすぎていますわ」

 

 

初めに狙われたのはリンク。

見えない速さで、それこそ本当に閃光が見える速さで、一撃を喰らわせようとしていたみたいだけど、アリアは後一歩で届く一撃の間に剣を差し込んでいた。

と言うか、ボクは見えなかったんだけど、アリアには見えていたみたいで。

人として成長の仕方を間違えたんじゃないかな、アリアって。

 

 

「面白イ。一撃で壊滅しなかったパーティは初めてダ」

 

「一撃で壊滅しない様に組んだ陣形ですわ。私を守れる位置に皆が居ると言う事は、逆に私が皆を守れる位置に居ると言う事ですの」

 

「盗人にしては、中々に考えている様だナ。良い、次も楽しみにしているゾ」

 

「逃がしませんわ! レティ、アレを何とかしてから行きますから先に行ってなさい!」

 

「いや、攻撃に反応できるの君だけだから、どっかに行かれると…………聞こうよ、ボクの話」

 

 

離脱していく襲撃者をアリアは追いかけていく。

絶対に逃がさない自信があるのだろうけど、流石に前衛をリンクだけにするのは止めて欲しかったな。

 

 

「全く、先刻のが何体も居たらどうするんだよ」

 

「それについては大丈夫でしょう。先程のは【機械人形(オートマタ)】と呼ばれる黄昏以前の代物ですし」

 

「おーとまた? ひと、ではないのか?」

 

「幸い、間近で確認できましたから…………機械音声と、目が硝子である事。後は生命体ではない事を考えれば、考えれるのはそれくらいですね」

 

「ゴーレムとは違う訳?」

 

「ええ、その辺の物に魔力を入れて動かす事とは、また違う技術ですね……と、言いますか、旧時代の遺産と呼ばれる程度には謎の存在ですよ。私もエクレシアの資料で一度読んだだけで、まさか本当に動いている物をみるとは思いませんでした」

 

 

リンクも説明し始めたけど、エクレシアと言う地には、この時代の宗教が始まった場所にして、総本山であるのだけれど、それだけの場所では無い。

門を開き、どんな種族であろうが学ぶ気概があるならば招き入れる学園を初めとして、様々な施設が集合している。

そして、世界に存在している旧時代の遺産を収集する部門もあるらしい。

此方は歴史に何が起こったのかを解明すると共に、黄昏以前の生活を再び取り戻そうとする目的で運営されているそう。

尤も、時代が開きすぎていて研究が全然進まない部門らしいけれど。

 

 

「全ての叡智を集わせようとしてる割には、冒険者や錬金術士(ボク等)には割と厳しい所だよね」

 

「そうですね。冒険者の方々は何となく解ります。遺跡を破壊して攻略したと言う者や、略奪を行う者。後は私怨も交じっているのでしょうが、横取りされた遺産を高く売りつけようとする者が原因でしょう……錬金術士の方に関しては、私程度ではどうも………………」

 

 

何故か錬金術士と職業を指定してまで否定に走られている現状が解らない。

錬金術士なんて、余程の天才と呼ばれる人物でも無い限り、影響を及ぼさない。

前に一度その辺でであった司祭職の人に話を聞いてみたけど、神の教えに反すると言う尤もらしい理由しか解らなかった。

まあ、ボクは錬金術士で冒険者だから、二重の意味でアウトの可能性が高いけど。

 

 

「――――おっと、扉。罠はありそう?」

 

「無いわね。序に、鍵の様な代物も無し、普通に入れるわよ」

 

「………………遺跡って言っても、所詮は民家だねぇ」

 

「『元』をつけなさいよ。その言い方だとただの泥棒にしか聞こえないじゃない」

 

「くふふ、やってる事は変わらないさ。今回は、人じゃない住人が居る元民家に押し入っての強盗だね」

 

「私、引き返したくなってきたのですが……」

 

 

くふふ、もう遅い。

まあ、エクレシアの教義に合わせれば、押し込み強盗(いせきたんさく)は推奨されている事なので問題ない筈、リンク的にも。

そんな事を考えながら扉を開けてみると、機械で埋め尽くされた部屋だった。

 

 

「これは………………ボクには全く価値が解らないね」

 

 

多分、アリアがこの場に居たとしても、価値は解らないだろう。

…………価値がありそうなものを勘で当てる可能性はあるけど。

そんな機械が並ぶ部屋であった。

つまりは、外れ部屋。

 

 

「しぜんと、あいはんしすぎている。いますぐに、しょくぶつで、おおいたいくらいだ」

 

「コレが旧時代の人間が生きた証らしいし、仕方ないわよ」

 

「んー…………それでも、何か探さない、と……?」

 

 

液体に包まれた巨大なガラス管の中に、ソレは浮いていた。

先刻、ボク達を襲ってきた機械人形と、全く同じ形の物だ。

 

 

「リンク、1体だけじゃなかったの?」

 

「動いては居ませんので、何も問題ありません…………取りあえず、旧時代の遺産に違いないでしょうから、歴史的な発見とも言えるのですが」

 

「発見をしても、解明に繋がらなければただのコレクターアイテムになるだけだね。此処に書かれている文字すら読めないんじゃ…………辛うじて、数字の『0』は読めるね」

 

「――――『ZERO』ではなイ。『O(オー)』と、読むのダ」

 

 

そんな言葉が、耳元で聞こえた。

気づいた時には、ボクは床に組み敷かれていた。

余りの速さに、誰もが反応できずにいる。

こういう時場面は何度かあったであろうリンクでさえ。

やっぱりアリアと別れたのは失策だったと、今此処に居ない幼馴染を恨む。

 

 

「動くナ。少々手荒な真似になるゾ?」

 

「何時の間に…………ってかアリアは? 後痛い!」

 

「煩い女だナ……あの女は撒いタ。この場所は私の補給の場で、戻ってきた時に運よく、いや運悪くお前たちが居ただけダ。後、痛くするつもりは無かっタ。あの女の仲間だからな、かなり鍛えられてるものだと思ったガ」

 

「あんな人の枠超えた様な存在と、ボクを一緒にするなっての! 大体、このキャラバン最弱だってのに!」

 

「…………その様だナ。筋肉の付き方、立ち回りから推察できル」

 

 

そう言って少し押さえつける力を弱めてくれた。

だからと言って、抜け出す事が出来る程ボクは実力がある訳でない。

精々もぞもぞと体を動かして邪魔してやるくらいだ。

 

 

「動くなと言っていル。締め落とすゾ」

 

「…………こっちに注意を向けてたら、皆が倒してくれないかなーって?」

 

「何を言っていル。お前程度、抱えたまま全員を昏倒させれル」

 

「恐ろしい機械だね、全く」

 

「お前らの様な存在が、侵入しなければ私も働く事などなイ」

 

 

溜息を吐いている。

機械なのに割と仕草が人間に近い。

そう言った所も含めて、機械人形は旧時代の遺産と呼ばれているのかな?

 

 

「そう言えば、働くって、何で働いてるの?」

 

「……………………目の前に居るのは、私の元になった人間ダ。名前は知らされていなイ。故に私達の型番にO(オリジン)をつけ、エクレール=MOと呼んで居ル」

 

「ああ、人間なんだ…………人、間?」

 

 

機械の生産施設では無かったけど、知らされた真実は俄かには信じられない。

一体、目の前の少女は何時からこの装置の中に居るのだろう。

満たされている水も、きっと普通の水じゃ無い筈、目の前の信じられない技術は、成程確かに旧時代の遺産とも言える。

 

 

「彼女が目覚めるまで守ル。それが私、エクレール=M7に主より課せられた命令ダ」

 

「………………ろぼっとよ、このにんげんは、いきているのか?」

 

「生きていル。尤も、食事その他は全て、この装置で管理しているがナ」

 

「信じられないわね。此処が遺跡って呼ばれるようになってから、何年たってると思って居るのよ」

 

「与り知らぬことダ。私の仕事は、侵入者の排除。そして、彼女の体調管理を行う事だけダ」

 

 

その主人に言いつけられた護衛対象の彼女が何年目覚めていないのか知らないけど、ずっと命令を守っている事を考える随分と主人想いの機械だと思う。

そう言った部分では人間らしくない。

 

 

「んー…………ま、こんな所で良いかな。面白い話も聞けたし、ティポット」

 

「うむ」

 

「貴様ら、何をするつもり――――――ガ」

 

 

何かには気づいて、ボクを絞め落とそうとしたけど、流石に遅い。

と言うか、絞め落とすべきはボクじゃ無くてティポットだったね、ご愁傷様

 

 

「これ、ハ。何ダ! 何故植物ガ!!」

 

「企業秘密、かな?」

 

 

勿論、ティポットの魔法で生やしただけだけど。

媒介はボクが付けてた魔力結晶ブレスレット。

一回限りの魔力ブーストで、爆発的に生えた植物でしばりつけただけ。

まあ、彼女相手には一回しか使えなさそうな裏ワザかな。

 

 

「じゃあみんな、逃げるよ!」

 

「何、倒さないの? あれだけやられて?」

 

「別に、ボクは怪我も何もしてないしね。後、彼女にはお仕事(・・・)がある。此処で壊すのは可哀想だよ」

 

「お前、ラ! 待て、逃がさン! 数発、殴ル!!」

 

 

とか何とか。

植物はまだまだ成長し続けているので、抜け出すには至ってないけど、怒って居るのは良く解る。

だからさっさとこの部屋から退散していくのが一番。

部屋から出る時に、ドアの所を更にティポットの植物で塞いで、リンクとライラの2人がかりの強化を行ったのは、やりすぎかも知れないけど。

 

 

「それで、出口とは正反対の方向に逃げている訳ですが?」

 

「流石に何も盗らずに出ていくのは冒険者として名折れだよ。それに、数発殴られる程度で済むなら問題ないさ」

 

 

元々、この遺跡には素材を探して入って来たんだし、アイテムを使った以上何か持って帰らないと勿体ない。

まあ、その辺の機材を持って帰るのも良いかも知れないけど、今欲しいのは防具の素材だしね。

どうせ捕まる時は一瞬なので奥へ奥へと走っていくと、突き当りの扉の前には何故かアリアが居た。

しかも割と荷物を抱えている。

 

 

「――――――――あら、やっと合流出来ましたわ」

 

「アリア!」

 

 

感動の再開だ。

ボクはアリアに駆け寄り――――――ほっぺたを思いきり引っ張る。

 

 

いふぁい(痛い)ですわ!」

 

「君が何とかするって言ったから任せたのに、ボク等思いっきり遭遇したよ!!」

 

「あ、あら。それは申し訳ないですわ………………直線ではあちらの方が速くて、振り切られましたの」

 

「もう、相手のスペックが解ってないのに勝手に行動しない事。それで、その荷物何?」

 

「久々に楽しめそうな相手でしたのに…………………………この荷物は、レティに合流する前に、適当に部屋を漁って見つけた物ですわ」

 

 

そう言ってアリアが見せてくれたのは、何やら古い言葉で書かれている本、美しい細工が施された調度品、そして女性物の服だった。

服は、水中の彼女の物だろう。

かなり良い素材だから、材料まで分解してリンクに頼めば、良い防具になりそう。

だけど、これを持っている所を見られたら、先刻の機械人形にどこまで追いかけられるか解らない代物だね。

まあ、アリアには追々話す事にして、突き当りの扉に入ろう。

他の部屋はアリアが漁ったっぽいし。

 

 

「それで、最後の扉の中はっと…………書斎?」

 

「書斎より、目の前の骨に注目しなさいよ、骨に」

 

 

解ってるとも、あえてスルーしたわけだし。

書斎らしき場所に入ると、椅子にもたれ掛かかっている骨が嫌でも目に入る。

肉等は無く、かなり長い年月放置されてきた事が解る。

行き倒れとかは、旅の途中で良くある話だけど、家の中で骨と服だけしか残っていないと言うのは結構異様な光景だと思う。

 

 

「この様子では葬儀での祝福などされていない筈ですが、アンデッドにはなっていませんね」

 

「あの機械人形が、侵入者を拒み続けたから、悪霊も入って来れなかったのは容易に想像がつくけど。逆に、拒み続けたから、発見が遅れた感じ?」

 

「主も私も、誰も発見してくれなどとは、頼んでいないガ?」

 

 

デジャヴである。

と言っても、今度はボクの耳元で声が聞こえた訳でも無く、ボクが組み敷かれていた訳でも無い。

ボク達の背後から、普通に声がかけられただけである。

 

 

「ご主人……この骨が?」

 

「そうダ。その骨が我々エクレール=Mシリーズの開発者ダ。既に死んで久しイ」

 

「死んで久しい…………雇い主が死んでも命令を遂行するのは人形の鏡だね」

 

「いヤ。死んだら命令は解除されル。そして主は、死んでなど居なかっタ」

 

「?」

 

「そこに居るのは紛れも無く私の主ダ。私は、主の死を知らなかっタ。主は死んでいないものだト…………認識していたかっタ」

 

 

ボク達の横を通り過ぎ、既に骨となっている主人の所へと歩く。

機械音声なのに感情がこもっている。

だから、尚更悲しそうに聞こえる声で、機械人形は歩く。

 

 

「しかし、侵入者が主を見つけてしまえば、言うだろウ。これは『死体だ』ト。そうなれば、私に下された命令はすべてなくなル。だから私は侵入者を拒んできタ…………私は、命令が遂行できなくなるのが嫌だったのではなイ。既に居ない主との繋がりが消えるが、嫌だったのだヨ」

 

 

椅子にもたれ掛り眠る主を優しく抱きしめると、砂の様に細かくなり崩れた。

限りなく長い時間、形を保っていたのが奇跡だったのだ。

風が吹いても同じように壊れる事は解っている。

それでも、まるで、互いに役目は終わりだと言わんばかりに崩れていった。

 

 

「長い間、世話になったし、世話をしたナ。主…………………………さて、お前ラ。責任を取って貰うゾ」

 

「…………責任の取り方によるね」

 

「簡単ダ……いやその前ニ。お前たちのリーダーは誰ダ?」

 

「うん? ボクだけど――――――――――」

 

「一発殴らせ、ロ!」

 

 

今度はボクにも見えた。

見えたと言っても、踏み込んだ瞬間だけである。

この遺跡の材質じゃないと、砕きかねない程強く蹴りだしていたのが、轟音の真相。

今回は最初と違い、様々な所へと飛び跳ねている。

時々彼女らしき姿が、光の線となって見えるだけ。

その光も、二重三重と重なる程速い。

後は同じ、ボク達には反応する事が出来ない速さ。

そう、同じ、初めと全く。

 

 

「言ったでしょう、正面から堂々と奇襲とは、人を舐めすぎていますわ、と」

 

 

それでもアリアは、ボクを一撃から守ってくれた。

最後は天上を足場として、ボクの頭へと拳を振り下ろしていたようだ。

解っていたかのように、アリアは剣をボクの頭の上に翳していた。

 

 

「邪魔をするナ。私がこれから先を歩むためにも、原因を一発殴らねば気がすまン」

 

「いや、うーん。ボクも一発程度なら良いけど…………」

 

「あの速さと質量で殴られて居たら、貴女死んでいましたわ」

 

「手加減! 手加減して一発なら良いよ!!」

 

 

アリア曰く、止めなかったら腐った果物の様に破裂してたらしい。

同じ様な速さであっても、小さな針を刺していた時とは訳が違うようだ。

 

 

「手加減、カ。アレでも十分に手加減をしたつもりであったガ。人とは脆イ……ん、そう言えば昔見た映像で、女同士が喧嘩していた時は、拳で無かったナ。私もソレに習おうカ」

 

「ッ……!?」

 

 

何が起こったのか解らなかった。

一瞬意識が飛びかけた事と、後から来る痛みから、ボクは平手打ち(ビンタ)された事がぼんやりと理解できた。

随分手加減されたんだろうけど、まあ見えない事には変わらない。

 

 

「まだ殴りたい、お前には恨みがあル。まだ叫びたい、主を返せト……だが、そんな無様に立ち止まる訳にもいかなイ。これで、お相子とすル」

 

「痛た…………もう終わり? 帰って良い?」

 

「しばし待て、新しい主ヨ。私を置いて行くにしろ、連れて行くにしろ、先ずは命令(オーダー)を寄越セ」

 

「あ、新しい、主!?」

 

「そうダ。私はたった先刻主が不在となっタ。そして、入れ替わる様にお前たちが来タ。このチームのリーダーはお前。不在となった主の代わりとするならば、リーダー格しかあるまイ」

 

「え、ええー…………」

 

 

ボクを引っ叩いて、恨みもあるとか言ってたけど、ボクならそんなの主にしたくないと思うんだけどな。

まさかとは思うけど、これでお相子と言った時点で、彼女は主への感情と、ボクへの感情を処理したんだろうか、機械的に。

主が死んでいないと認識を書き換える程度には、器用な娘だから、そんな事はしていないと思うけど、実際ボクで良いんだろうか。

 

 

「ハハ、困った顔をしているナ。良い、私に取りあえず今までの雑務を命令しロ。そして放置しておいてくれれば良イ。オリジンが目覚めるまで待ツ。ソレが私に唯一残った、主との約束だからナ。後は私を放置しておいてくれれば良イ」

 

 

うん、やっぱり。

この娘は感情を処理しきれてなんかいない。

ましてや、機械的に処理するなんて、もっとできそうにないみたいだ。

このままだと動けないって言うんなら、元ご主人さんには悪いけど、ボクが命令を下すしかないのかな。

 

 

「解った。命令を下すよ――――――――」

 

 

 

 

・・・・・・

「本当に、良かったんですの?」

 

「ま、仕方ないね。あの場に居るよりはずっと良いさ。殆ど同じ仕事だし」

 

「確かに、やっている事は変わらんナ。遺跡の用心棒から、キャラバンの用心棒に変わっただけダ」

 

 

結局の所、エクレールにはボク達についてきてもらう事にした。

勿論、オリジンのお嬢さんも一緒に。

機械一式を詰め込めむと、流石に手狭になるけど、此方にはリンクが居る。

更に改造してもらった。

流石に、旧時代クラスの遺跡だった事、そして遺跡破壊をしている事でとても悩んでいたけれど、最終的には鍛冶師としての彼女が勝利した。

 

 

「しかし、何故私を連れだしタ?」

 

「レティもちゃんと考えているのですわ。あの遺跡は、辺境と言う事もありますが、攻略されていなかったからこそ、人が少なかったのですわ」

 

「…………逆ではないのカ?」

 

「逆じゃないんだね、コレが。この時代、皆生きていく事に必死だからね。態々死の危険がある遺跡に一番乗りで攻略しようなんて人、少ないのさ」

 

 

そう言った意味では、気絶させて送り返していただけのあの遺跡は、挑戦しやすかった部類に入るけど。

だけど、それだけの話。

自分の実力に合わない遺跡だって理解すれば、人は寄り付かなくなる。

 

 

「それで、攻略されるト?」

 

「危険は排除されたと考えて、二番手以降がわらわら来るよ。そんな中、彼女を守るのと今、どっちが良い?」

 

「ハ。成程、思い出の地くらい、静かにさせて貰いたいものだがナ」

 

「くふふ、大丈夫大丈夫。めぼしい物全部こっちに詰め込んだし。価値が無い遺跡だってわかれば、何れは静かになるよ」

 

「――――――成程」

 

 

そう言って3人で笑う。

色々と想い出を詰め込んだ結果かなり大荷物になって、少しだけ重く感じているモスに牽かれ、キャラバンは道を進んでいく。

 




人物紹介

エクレール=M7
種族:機械人形(オートマタ)(ロボット)
役割:学者/暗殺者
彼女は学者です。ええ、学者です。
初登場ssで、学者らしさが全然出てこなかったけど、仕方ないよね。
一撃必殺モードだったし。
彼女の学者における役割ってのは、何か難しそうな物が出てきたら。
M7「これは……○○カ。まさか現存していたとハ……!」
誰か「知っているのか、エクレール!?」
って言う役割。名前もエクレールだし。
まあ、学者って言うより識者? 広○苑?

Mはメシエと呼んでください。
M7……メシエセブン…………セイクリッド……うっ、頭が!
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