エタったと思った?
私はそう思った!
なお珍しく前後編。
そして後編はまたいつか。
「大きな都市だねー」
「ええ。とても活気がありますわ」
旅を初めてもう一年くらいだろう。
旅立った正確な日付は覚えてはいないけど、だいたいそれくらいであるとボク達は予想をしている。
ここ数か月で一気に同行者が増えたこともあるし、今までの様に気ままに旅をする事は出来なくなるだろう。
だから今日は、初心に戻る為にアリアと一緒に街を見て歩く事にした。
「ま、此処は物流の拠点だしね。大きく人が集まるのも頷ける」
「『元』港町、らしいですわね」
「
前にも話した通り、ボクらが知る海は塩の大地。
『フネ』と呼ばれる大型の水上用移動乗り物がこの街からも出ていたと言われても、実感がわかない。
そして、フネと聞くと『船』が連想される。
元々は同じ意味合いだったのかもしれないけれど、今では別の乗り物しか想像できない。
「っと、フネで思い出したけど、此処からは船は出てないんだね」
「まあ、出す意味も有りませんわ。地図を見ればわかる通り、南に広がる海には、何も大陸らしきモノは見当たりませんし、船が出てもこの三角みたいに尖っている大陸が邪魔で大回りですわ」
「出せそうな方向は西回りだけど…………ボク達が北方向だしね」
ついでに、大きな移動手段にはなるけど、その分お金もかかるから結局は無理そう。
言ってみたけど、暫くはまた陸路になりそうだ。
「それで、レティ。貴女としては、どういった道のりでここから先を進みたいと考えていますの?」
ボクがこれからの事を考え始めたのを察したのか、レティもどうするのかと聞いてくる。
まだ決めきれていないボクとしては、予定となる考えを述べるだけにする。
「ん……大まかに、三つ、いや四つかな」
「まあ、三つの意味は大体解りますわ。一つはこの三角の半島に沿って南に、今まで通り海沿いの道へと進む事。もう一つは東へ真っ直ぐ。最後に…………北へ山越えでしょう?」
「そう、そしてその四つ目の意見としては、山越えじゃなくて山を迂回。北西に進むっていうちょっと戻る道のりになるけど、北の山脈を越えていくよりは楽だね」
どのルートであっても道はある。
最後のルートは遠回りになることもあって、進む人も来る人も少なそうではある。
けれど、他の三つは確実に進んでいける。
此処は物流拠点と言われているけれど、適した場所だからそう言う街になった訳で、旅人にとっては出発地点としても休憩地点としても優秀な土地だ。
「決めかねると言った顔をしていますわ。今までの貴女なら、多少面倒くさくても割と安全な海沿いルートですけれど…………」
「そうだねー。なーんか、北の山越えルートを考えてるんだよね、ボク」
「ふふ。やはり貴女はリーダーですわ。そう言うところが昔から大好きですわ」
「うー……うるさいなー…………」
どうやら、アリアにはボクが薄々と考えていることすら筒抜けの様で。
全く、これだから勘の良い幼馴染は嫌いだよ。
そんな事を考えているのすら見抜かれそうで、ボクは苦し紛れにレティを置いて早歩きで街を周る事にするのだった。
・・・・・・
「――――っとぉ! 嬢ちゃんたち、買い物上手だねえ!」
値切って値切って、値切りまくった。
店主が威勢よく言っているが、原価ギリギリの所まで持ち込んでヤケクソになっていると見て良いだろうね。
ボクだけなら兎も角、野生の勘と商人としての勘でどんどん攻めるアリアと一緒なんだから。
「まあでも、良し悪し含めてこれだけ買い取ったんだから、感謝してもらっても良いんじゃないかな?」
「そうですわ。儲けは出るように値切りましたわ」
「嘘じゃねえから恐ろしいぜ……ったく。所で、あんた等旅人、いや冒険者だろ? 武器とかその辺は買わなくていいのか?」
「今のところ要りませんわ。この娘、錬金術師ですし、仲間には優秀な鍛冶師も居りますの」
「何だ……嬢ちゃん錬金術師だったのか。言ってくれりゃとっておきの品を見せたのによ」
「くふふ。見たからと言って、果たしてボクが買うかな?」
「まあ、先ずは説明が先だ」
そうして目の前に、袋に入った黒色の粉が置かれた。
ここは青果店であったはずなのだけれど、それはどう見ても野菜、ましてや果物には見えず、もしかすれば黒胡椒みたいな調味料に見える品物だ。
だけど、現実は斜め上におかしかったようだ。
「黒色火薬……どうだい?」
「……………………店主、錬金術師を一体なんだと思ってるんだい?」
青果店でまさか火薬を目にすることがあるとは想像もしなかった。
確かに、黒色火薬などという時代遅れな代物を有効活用できるのは錬金術師くらいでありそうだけれども、幾らなんでも突拍子がないだろう。
「しかもこれ、湿気ってるね」
「おう、つまり爆発しない黒色火薬だが、錬金術師ならコレでも有効活用できるだろう?」
「料理人に対して、腐っている所は使わないようにして料理しろって言ってるような物だね、ソレ。その程度の代物だから、値段を提示してくれないかい?」
「レティ、ちょっと待ちなさいな……店主さん、その火薬、どこで手に入れましたの?」
あえてボクがツッコミを入れなかった事に対して、アリアは入れていく様だ。
だけど、結構ソレは重要な事だったみたい。
「この街の到る所に存在している。と言ったら、嬢ちゃんたちなら意味も解るかい?」
「――――――遺跡」
成程、遺跡から発掘された代物がこの店主の家にはあるという事みたいだ。
そして、その遺跡はこの街の中にある……黄昏以前の代物ではなさそうだけど。
黄昏以降、文明が衰退した後にもう一度歴史をなぞり始めた人類が作った黒色火薬、といった所かな。
「つまり、その火薬を買えばボク達に有力な遺跡の場所を提供してくれるって事? だったら、ボクが錬金術師である意味は?」
「在庫処分だ。見ての通りここは青果店、こんな危険なもの、万が一にも爆発したらやってられねえぜ。俺が知ってる目ぼしい遺跡も教えるからよ、コレも一緒に買い取ってはくれねえか?」
詰まる所、処分も兼ねた丁度良い相手だったという事らしい。
まあ、安く買い叩いた分もある事だから、余ったお金で買えるだけ買っておこうと、またアリアと結託して値切り交渉を行うことにした。
というか、本当に黒色火薬は要らなかったみたいで、大樽二つ分という青果以上に量が多い量を渡され、流石にアリアも重そうに運ぶ羽目になった。
・・・・・・
「アンタねえ……もう少し考えてモノ買ってきなさいよ。アンタはともかく、私たちの使い道が無いじゃない」
「まあ、在庫処分を一掃する代わりに、未踏破の遺跡について教えて貰えたんだからいいじゃん?」
どうやら、この街は黄昏以前に栄えた街の上に作られた場所であるらしい。
嘗ては見上げるほど高い建物が存在していたとか、黄昏と共に消えていった技術である古代の機械等が時々発掘されるとか、そういう話。
だから今でも一攫千金を狙う冒険家は遺跡に潜り、複雑怪奇な地下を探検するのだとか。
勿論、帰って来ない人も多いっていう、とんだ物流拠点である。
「それに、大岩とかが塞いでるなら火薬で爆破できるし、割と一石二鳥だよ」
「……その火薬、使えるの?」
「くふふ。使えるようにする」
丁度良く拠点で留守番をしていたライラに錬金セット一式を用意してもらい、大釜の中に湿気った火薬を放り込み、魔力を込めてかき混ぜる。
今回は割と単純な状態だったから、すぐに錬金も終了した。
「ほら、黒色火薬と水に分離した。これで火薬の方は直ぐにでも使えるし、水だって飲むことも出来るよ」
「錬金術師って、
「くふふ。魔法学っていう大本が一緒の、分化した体系じゃないか、魔力を扱うモノは全て。だから相互に関係しあってるのさ」
今のポーションだって、
というか、考えて作っているとはいえ、ただの食材を使った料理に能力上昇効果があるとか、ライラも錬金術に一歩踏み込んでいる気がしてならない。
「わかった様なわからない様な……まあいいわ。それで、その火薬どうするの? 普通に使えるようになったって事は、もし静電気でもあったら爆発するのよね?」
「……………………爆発しないようにさっさと加工しちゃおうか」
この後、考えなしに錬金するなとツッコミが入ることになった。
どうするのかと聞かれたから実践しただけじゃないか…………。
仕方がないので、もう一度ライラに鍋を準備してもらい、ぐるぐるとかき混ぜることにする。
別のものに
という感じに錬金をしていたら、調べ物に出かけていたアリアが戻ってきた。
「中央広場で旅芸人の方が芸を行っていましたわ」
「これだけ大きな都市なら、そういった人もいるだろうね…………で?」
ボクの記憶が正しければ、教えて貰った遺跡の場所を下見してくると言って出かけて行った筈である。
手に買い食いしたのであろう何かの紙袋を持って帰ってきたアリアに対して、完成したばかりの爆弾を構えるボクは悪くないだろう。
「お、お待ちなさい! ちゃんと場所を見つけてきましたわ! コレは、その…………そう、労働に対する正当な報酬というやつですわ!」
「……………………アリア、帰ってきた時の第一声には気を付けようね。それで、未踏破の遺跡の場所は?」
「この街の教会ですわ。
「エクレシアの管理下じゃないか。リンクに入れて貰うように頼むの?」
「普通ならそれが一番楽ですわ。カタコンベに潜り込んで、その先に無理やり進んでいくのも可能といえば可能ですが…………まあ、今回は依頼として遺跡調査の事は話されましたわ」
「依頼?」
偶然遺跡の位置を知っただなのに、そんな依頼だなんてうまい話なんてあるのかってアリアに聞いたみたけれど、どうやら教会側にはボク達に受けて貰うのが割と都合が良かったみたいだ。
「どうやら、遺跡が見つかったのは地下墓地を拡張しようとした時らしいですの」
「あー……解ったわソレ。いくら死者が弔われてから埋葬されてるとは言っても、その先の遺跡の『連中』は別って事ね」
「なるほど、遺跡に住み着いている魔物の影響で、下手をしたら地下墓地の遺体まで魔物に成りかねないんだね」
教会側としては、いくら封印が出来ているとは言っても死者の力が強くなりすぎて万が一に破られてしまうかもしれないという事。
そんな折、エクレシアの本部神官がこの街に来た事で、また共にしている仲間の実力も保証できるとリンクが言った事から、正式な依頼としてこちらに伝えたらしい。
「錬金術師に関してはどうなのさ?」
この話を聞いていたのはリンクとアリアだ。
正式な依頼と言う事はエクレシアでの禁忌とされる錬金術師であるボクの事はどうなるのかというのが正直な感想。
2人とも、嘘をついてまで依頼を受ける性格じゃないし。
「名より実を取るそうですわ。現状、被害らしい被害は出ていませんが、それ故にエクレシア本部に報告しても人員が来ることは叶わず、かといってその辺の冒険者に頼むのも安心は出来ないとの事、ですわ」
「まあ、あくどい冒険者って依頼から逃げたりするしね。その点で言えば、ある意味ではリンクに監視されている身だし、リンクには頑張ってボクらの事を上に報告してもらわないといけないしねー」
ボク達にとっても、受ける意味は十分にある依頼だった。
というか、受けておいた方が得である部類の依頼だから、早速という事で正式に依頼を受けに行く必要がある。
どれくらい遺跡調査に時間がかかるかは分からないけれど、本来の滞在時間より伸びるのは確実だという事だね。
・・・・・・
「コレはコレは……貴女がリンク様を乗せたキャラバンのリーダーである、レティシア様でございますな?」
「うん。正式に依頼を受けさせて貰うと思ってね」
老司祭様とボクとで握手をしている。
宿屋には書置きを残してきたので、暫くしておけば準備も整うだろう。
「それにしても、地方都市や村の司祭様って、大体の人が錬金術師に割と寛容だけれど、いいの?」
「ホッホッホ。錬金術師による被害など受けてはおりませんからな、色眼鏡で見ることが難しいのです」
「くふふ。立派な心掛けで」
「……………………所で、お話は変わりますがレティシア殿。貴殿等の遺跡調査に、一人程ご同行の許可を頂けませぬか?」
「うん? 教会の人? ボクは別に良いけど」
「いえ、我々はリンク様も居りますし、貴女方を信頼することに決めております。教会の関係者ではありません。どこかから、話を聞きつけた旅芸人が同行の許可を申し出たのです」
既にそこまで信頼されているのには驚いたけれど、旅芸人を同行させるという話にも驚いた。
連れていくのは会ってみないとわからないという顔をしていたら、老司祭様がこの場にその旅芸人を連れてきてくれた。
「『初めまして。私が紹介にあたりました旅芸人にございます』」
「初めまして……一癖も二癖もありそうな人だね」
「『ホッホッホ。お褒めに預かり光栄にございます』」
ツッコミ所が満載な人物が連れてこられたから、どんな判断でこの人物を紹介してくるんだと司祭様を見る。
まあ、きっと押し切られたんだろうと、すごく申し訳なさそうな顔でこちらを見てくる司祭様で納得する。
そんな彼、いや彼女かもしれない人物は、本当にツッコミ所が多い。
服装こそ、ライラが普段着ている様な衣装だから、ライラの同郷かもしれないけれど、手や足など、見える部分は褐色の肌。
顔には表情を一切読み取ることが出来ない仮面があり、唯一見える口から紡ぎだされた声は先ほどの司祭様と全く同じと言っても差支えない声だった。
詰まる所何が言いたいのかというと、無茶苦茶怪しいって事だね。
「……………………アリア?」
「すっごく、怪しい。ですわ」
アリアまで同じ意見となると、本格的に関わらない方が良さそうな人物である。
野生じみた勘は、本当に信じられるものだから。
それでも、司祭様がボク達へと頼んできたのだから、話くらいは聞いておくべきともいえる。
「それで、君。名前と職業は?」
「『失礼したね。私の……まず、芸名だけど、芸名は【アメンホテプ53世】と言うよ、宜しくね」
「…………芸は声真似? あと、ボクの一人称『ボク』だから」
「『これは失礼したよ』」
一瞬にして声がボクのソレと同じになる。
確かに特技としては凄い部類になるんだろうけど、こんなので旅を続けれるほどのお金を稼げるのかな?
「『それで、ボクの名前はナラト=アモン・ゴールド。職業旅芸人…………ものまね士をしながら世界各地を渡り歩いているのさ……一応女性だよ』」
「
「あら、割と侮れませんわよレティ。この方がどこまでものまねする事が可能なのかは解りませんが、真似る事で技術を盗み自分のモノに出来るのならば、一人旅だって可能ですわ」
「『そうそう、そういう事。幸いにもボクは多少魔力もあるから、魔物とか呼ばれてる連中の行動だって真似することが出来るさ』」
「ふーん、割と便利そうだねソレ。所で、ボクは錬金術師なんだけど、ソレも真似する事可能?」
「『錬金………………いや、ちょっと無理だね。アレは本人の才能による所が大きい。何でもかんでも魔力で再現ってのは、無理かな』」
実に意外、錬金術の再現は無理らしい。
アレは技術の一つだと思うんだけど、ナラトが言うには才能が必要だって。
まあ、簡単にできるなら一応は便利な能力なんだから、誰もが使えても不思議じゃないんだろうけど。
「さてと。最後に聞いていい? 何でこの遺跡に潜りたいのさ」
「『それを語るととっても長い事になるから端折って話すけど、このナラト=アモン・ゴールドには、見つけなければいけないお宝があるのさ』」
「お宝?」
「『そう。10センチ大の宝石なんだけどね。ソレを探し求める事がボク達の悲願なのさ。芸名でもあるアメンホテプ53世ってのは、各地に散らばったボク達の合言葉の一つみたいなモノ』」
「その宝石がこの遺跡の奥に眠ってるとか?」
「『それは解らないね、ボクは別に万能じゃないんだから。だけど、黄昏で失われた宝石が今まで見つかっていないのも事実だし、可能性があるとしたらこうやって未踏破の遺跡の中に眠っている可能性に賭ける事だね』」
「その話を聞いた上で、その宝石の所有権を我々が主張したらどうするつもりですの? これでも私たちは冒険者、有体に言えば金目の物なら売り払いますわ」
「―――――――別に? どうもしない。我々はその宝石を見つける事に長い年月をかけてきただけだ。ソレが人の手に存在しているのであれば、都合が良いと言う理由もあるが」
アリアの質問に対し、誰の声でもない声が聞こえてきた。
不思議な話であるのだけれど、ボクにはその初めて聞いた声がナラト本来の声なのであろうと思えた。
「どうもしないなら、別に連れて行っても良いんじゃないかな?」
「レティがそう言うのならば構いませんわ。私たちだって寄せ集めキャラバンなのですし、冒険に一人増えようが何も問題ないですわ」
「『…………それはありがたいね』」
そして全員揃い6人、ナラトを入れて7人となったボク達は、地下墓地へと向かうことになった。
ナラト=アモン・ゴールド(アメンホテプ53世)
役割:ものまね士/物理学者
何だろうねこの娘。
一応、珍しく名前に全部意味あるキャラではあるんだけど、こう穿ち過ぎてたぶん元ネタが一番分かりにくいんじゃないかと思ってる。
コンセプトは…………なんだろう。
褐色の王族(?)
トリックスター(?)