刀と梅干とよっちゃんとわたし   作:眞山紗由美

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よっちゃんは、Pを誘い丘へ出かけます。
そこへは馬で行きますが、何とその馬、二人乗り!
よっちゃんのリードでの、二人乗りの甘~い一時・・・。


第5章 乗馬のお稽古 第2話 馬に乗って丘へ

刀と梅干とよっちゃんとわたし

 

第5章 乗馬のお稽古

 

 第2話 馬に乗って丘へ

 

よっちゃんは、背中に何か荷物のような物を、斜めがけにして、かるっている。その背中について行くと、厩舎(きゅうしゃ)に着いた。

もう、準備をしていたらしく、最も大きな馬が出されていた。

「これさ、軍馬なんだ、二人乗り用。戦場で、動けなくなった人を乗せて、帰るの」

「一頭で行くの?私、馬に乗って来たよ」何だか申し訳ない。

「はぐれたら困るでしょう?Pちゃん、行ったことのない所だと思うから。それに、時々訓練しないといけないから」

なるほど、()()という言葉に、納得。

なぜか、城門を出るまで、よっちゃんは、馬を引いて歩いた。

 

門番の(かた)

「行って参ります」と、頭を下げるよっちゃん。いつも、礼儀正しい。偉いなあ。

しばらく歩き、お城から離れた頃、おもむろに、よっちゃんが言う。

「Pちゃん、僕が先に乗るから、Pちゃんは後で僕の前に乗って、横向きにね。またがないんだよ。そうしないと、乗れないから」

(はかま)だから、またげるよ」

「いや、構造的に無理なんだよ」

何をどうしたらいいか分からなかったが、とりあえず、うんと、うなずく。

 

よっちゃんは、軽い動作で馬にまたがり、(あぶみ)に足をかけ直した。

「ほら、Pちゃん、ここ」自分の前の(くら)()いた部分をポンポンと、叩く。

狭っ!超狭っ!!そこに乗るの?座れるの?と、戸惑っていると

「馬に背を向けて、ちょっと跳んで」と、言われる。

ぴょんと、跳ぶと、そのまますくい上げられるようにして、乗せられる。

あっという間の出来事に、目を白黒させてしまう。よっちゃんが、こんなに力強かったなんて、知らなかった。

跳んだせいだ、ドキドキしている。

 

どこを持ったらいいか分からなくて、取り()えず鞍の前の方を(つか)んだので、馬が動く(たび)に、体がぐらぐらして、落ちそうになる。

「Pちゃん、僕の腰に手を回して」

えっ?そんな高級難度なことを、サラっと言う?

言ってるはしから、馬が走っているので、体がぐらぐら揺れる。

「しょうがないよ、馬のせい。どうしても揺れるからね。それにPちゃんがそこ、持ってると、僕、手綱(たづな)(さば)けないんだ」

『手綱が捌けない』そんな理由も、あったのか。

「ごめん、ごめん、要領分からなくて。じゃっ、失礼しま~す」と言って、おずおずと、よっちゃんの腰に腕を回す。

(はかま)を握るか、もう一方の手も回して組むとかすると、安定するよ。しょうがないよ、馬のせい。揺れるからね」

歩くと走るの間くらいの速さで、動いている。

「しょうがないよね。馬のせい、揺れるからね」よっちゃんの言ったことを、まんま反復する。

鼓動が(おさ)まらない。これも馬のせい。

回していた左手に右手を重ねて、指を組んだ。

それでも、体は揺れる。

「Pちゃん、手綱(たづな)(さば)きにくいから、僕にもたれてくれる?」

もう既に、体はこんなに近くて触れたり離れたりしているのに。

「捌きにくいんだね?しょうがないね」

「そうだよ、しょうがない。ごめんね」

ここまで言われたら、もう、もたれるしかない。

 

恐る恐る左耳を、よっちゃんの肩あたりに、くっつける。

よっちゃんは、右手を手綱から外し、私の体を包むようにしながら、自分の方へ寄せる。

「少し、力、抜いて」ちょっと低めの声で、小さく、(ささや)くように言う。

難しいな、難しいぞ。こ、こ、こうかな。肩の力を抜いてみる。

「ありがとう。馬を扱いやすくなった」

よっちゃんの鼓動が、聞こえる。私と同じくらい、トクトクいってる。

 

残暑の陽射(ひざ)しは厳しいはずなのに、まるで春の陽だまりの中にいるような心地良さに、心がふわふわしていた。

不思議、ホント不思議な人、よっちゃんって。落ち着くような、落ち着かないような、よっちゃんといると、そんな気持ちになる。

 

ポコポコと、馬は(ひづめ)の音を響かせ、進んでいく。

さっきより、歩みがゆっくりになっているような気がする。私が、慣れたせいかな。

「Pちゃん、いい香りがする」ふいに、よっちゃんは頭を下げ、胸元に鼻を近づける。

驚いて、両腕に力を入れてしまう。フフと、笑うよっちゃん。

“母様の匂い袋”、懐に入れてきて良かった、って、イヤイヤイヤイヤ、そうじゃなくて。

近っ!近っ!もう、そこじゃん、よっちゃんの顔!な、な、何か話さないと・・・。焦る。いつもは、考えることもなく、話が弾むのに、なぜか、今日は黙りがち。

 

馬の歩みは、ますますゆっくりになる。

 

焦った私は、どんでもないことを口走る。

「お見合い、どうなったの?」何で?何で、今この話題?しまったと思う間もなく。

「多分、駄目(だめ)だね」

えっ?断られたってこと?なんか、キュンとする。

「どうして・・・そんな」

「どうしてって…ハハ、Pちゃん、相手を倒せって合図くれたのに?」

倒せ?はっ?もしかして、ぐーパンチを、そう受け取った?あれは、あれは“ガンバレ”のつもりだったんだけど…。

「あれ見てさ、僕、頑張ろうって思ったんだ。自分の意志を、はっきり伝えないと、って。まあ、いきなりお見合いとか言われて、するかしないかの選択肢もなかったから、良くなかったんだけど」

「で、どんな話、したの?」

(いくさ)の世の中、いつ何時(なんどき)、どうなるか分からない。だから僕は、一粒の梅干を美味(おい)しいと思ったり、飾りのない着物を着たり、取り巻きも作らないで歩いていける人と一緒に居たいって、言ったんだ。そしたら、ぷいって、立ち上がって帰っちゃった。ハハハハハ」

 

う~ん、その言い方は・・・“あなたと正反対の人”って、いうことになるんじゃない?見た限り、そういうこと、出来る人って思えない、と言うか、まさか、見たことと反対を言った?ま、どっちも同じことか。そっか、だから帰っちゃったんだ。

「それが、よっちゃんの理想の人?」ちょっと声が小さくなる。

「うん、そうだよ」

あ、また、胸が痛い。

「そんな人、いるのかな・・・」ズキズキと痛みが続く。

「いるよ」即答。

いるんだ・・・あまりにも明快な答え。

ということは・・・?もしかして、もう見つけてる?えっ?そうなの?

あ~聞きたい聞きたい聞きたい確かめたい。

でも、待って、それって、それって、何のため?何のために確かめたいの?

何かが頭の中をぐるぐる回っている。

 

その時、馬がぐらっと揺れて、私はよっちゃんにぎゅうっとしがみついた。

鼻の奥がツンとする。

「おっぉ~、びっくりしたあー!」おっきな声を出して、ちょっとおどけて言ってみる。

良かった、気分が変わった。

頭の芯のあたりの“ぐるぐる”と、胸の奥の“どろどろ”が、どこかへ行った。

大きく溜息(ためいき)をつく。

耳元で、よっちゃんがフフフと(ささや)くように笑う声がした。




第5章 第3話 丘でランチ

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