刀と梅干とよっちゃんとわたし   作:眞山紗由美

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昼食後、与七とPは丘で遊びます。
どんな遊びをするのでしょう。


第5章 乗馬のお稽古 第4話 丘で遊ぶ

刀と梅干とよっちゃんとわたし

 

第5章 乗馬のお稽古

 

 第4話 丘で遊ぶ

 

「Pちゃんに、見せたい所があるんだ」

美味しいお昼に、大満足。満腹のお腹をポンポコ叩いていると、おもむろによっちゃんに言われた。

促す(うなが)ようにすくっと立ち上がるので、一緒について行く。

 

丘を少し(くだ)ると、何とそこには一面のヒマワリ。

私の背丈ほどのヒマワリが、ざ~っと並んでいる。

誰かが植えたのか、自然とこうなったのか、とにかく、ぶわ~っと一面のヒマワリ。

みんな、お日様の方を向いている。

 

あまりにも見事な光景に嬉しくなり、

「かくれんぼ、しよっ」すかざず、私は提案。

笑顔で(うなず)くよっちゃん。

ジャンケンして、よっちゃんが負ける。私は、走って隠れる。よっちゃんの声が、少しずつ遠くなる。

「もうい~かい」

「もうい~よぉ~」息を殺してしゃがむ。

気配(けはい)を感じるのは、たやすいこと。でも、今は、それをしたくない。それは、戦う時にすればいいこと。今は、このひと時を楽しみたい。

足音が近づいてくる、ドキドキする。

と、遠ざかる。

初めは、「見つかりませんように」と、思っていたのに、だんだんと、「早く見つけてと」いう気持ちに変わっていく。よっちゃん、どこに行っちゃったの?一人取り残された不安感に我慢できずに立ち上がると、後ろからすっぽりと腕の中に包まれる。

「見~つけた!」

驚きと安心感で

「もうっ!」と言って、走り出してしまった。

凄い勢いで心臓がドキドキする。急に走ったりするからだ。

「よっちゃん、早く隠れてっ!数えるよ!」照れくささをごまかすために、叫ぶ。

「もうい~よぉ~」

その声を合図に、よっちゃんを探すが、見つからない。

「どこかな~?」キョロキョロする。

「上手に隠れてるね~」立ったり、しゃがんだり、飛び上がったり。

だんだん余裕がなくなり、寂しくもなってくる。

たまらず叫ぶ。

「もう降参~。出て来てぇ」振り返ったら、目の前によっちゃん。

「ここだよ」

びっくりして、気恥ずかしくて

「おどかさないで!」と、両腕の(ひじ)から先を、よっちゃんの体にぶつける。

「よっちゃん、隠れるの、上手(うま)すぎ!」

アハハと笑う、よっちゃん。気付くと両肩に手が置かれていた。

「もう一回する?」と、(いど)まれるように聞かれるので、

「今度こそ!」と、目に力を入れて答える。

余裕で微笑むよっちゃん。

「もうい~よ~」と言った後、「今度こそ絶対に動かないから」と心に誓い、しゃがむ。

でも、いくら()っても足音がしないから、やっぱりじれったくなって立ち上がる。ちらっと、よっちゃんが見えたから、(あわ)ててしゃがむ。そして、そのまま何歩か動く、息をひそめながら。

「どこに行くの?」よっちゃんの声が、上から降ってくる。

「もう~強すぎ~!よっちゃん、どうして分かるの?」ちょっと悔しさを(にじ)ませて立ち上がりながら言う。

「分かるよ」

「だから、どうして?」ちょっと不満。

「Pちゃんのことなら、何だか分かるんだ」

不思議な言い方に、ちょっとドキッとする。

「どういうこと?」感情を隠そうとして、口が(とが)る。

「だって、分かりやすいんだもん。Pちゃん、思ってること顔に出るでしょ?」

えっ?私ってそうなの?

「それに・・・」

「それに?」

「それに、僕が、Pちゃんのこと、分かりたいって思うから」

優しく笑うよっちゃん。何故だか、その笑顔が(まぶ)しく感じられて(うつむ)いてしまった。

 

「そうだ、Pちゃん、こっち来て」

手を引かれる。

そこを見た時、ハッと息を()んだ。

こちらには一面にホウセンカが、咲いている。

またまた美しい景色。

よっちゃんは、しゃがんで花びらを()み取る。

「手、出して」言われて、(そば)にしゃがむ。

花びらでもくれようとしているのかと思ったら、それを指先でつぶしながら、私の爪に()せる。爪に載せて、そっとそれを押さえる。

「痛くない?大丈夫?」

「全然」と言ったものの、よっちゃんのしていることが、分からない。

私の両手の爪、全部にし終わったよっちゃん。よっちゃんの指先、(だいだい)色に染まっている。

「この前ね、愛ちゃん、兄者(あにじゃ)のお嬢さん、がしてたのを見たんだ。見て。」

花びらをどかすと、爪が橙色に染まっていた。

「わぁ~きれ~い!」思わず空にかざして見る。でも、ハッとして、その手を()ろす。

「Pちゃん?」不安気な顔を私に向ける、よっちゃん。

「私ね、ずっと剣を握ってきたでしょ。だから、手が凄いんだよね。豆とタコだらけ。硬くてゴツゴツして、指はぶっとくて、節も太いし・・・」手をグーパーしたり、(てのひら)を見せたり返したりしながら、言う。

橙色の爪だけが、可愛い。でも、私の手には絶対、似合わない。

「それって、何か、困るの?」

えっ?意外な問いに言葉が詰まる。

「いや、それはないけど」

「じゃあ、いいじゃん。Pちゃんが、ずう~~っと努力してきたことでしょ。その手なんだから、僕はステキだと思うよ。それに、橙色は、Pちゃんによく似合う。この前出掛けた時の小袖も、とてもよく似合ってたし。その爪の色もよく似合ってて、可愛いよ」

“ステキ”ってなんてステキな言葉。それに、着物の色を覚えててくれたり、似合うとか、可愛いとか、嬉しすぎる。

気付くとよっちゃんは、私の手を開いて、その(てのひら)を自分の手でなでていた。

「いい手、ステキだよ」

じ~ん、感動する。

「ありがとう」言葉が詰まりそうだったが、(かろ)うじて答える。

 

クスノキの所へ戻る。

影が少し、長くなっている。終わりの時間が、近づいていることを示している。

竹筒を傾けて、最後の梅水(うめすい)を飲む。カラカラっと、梅が転がる。

「貸して」とよっちゃんは、私の竹筒を手に取り、中の梅を取り出したかと思ったら、私の口へ押し込む。

「すっぱ!」

私も、よっちゃんの竹筒を受け取り、中の梅をよっちゃんへ。

「すっぱ!」

そして、一緒に声を上げて笑う。いつもの、儀式のような二人のやり取り。

 

よっちゃんが、誰かを見つけているのか、見つけていないのか、もう、そんな事、どうでもいい。今が楽しい、それでいい。現実、遊んでくれるよっちゃん、それでいい。

 

帰り道、また、馬に揺られる。

「楽しかった。本当に楽しかった」何度も繰り返す。

その(たび)によっちゃんは

「うん、うん」と、言う。

 

すっかり慣れたこの体勢。私がよっちゃんを包み、よっちゃんは私を包む、互いに包み合うような体勢。

私達って、何だろう?兄妹みたい?違うよね。じゃ、友達?う~ん、微妙。それとも・・・。

イヤ、そんなことを考えてはいけない、いけない・・・。

 

言葉少なになった私に、よっちゃんが小さく声をかける。

「Pちゃん、疲れたでしょ。寝ていいよ。お稽古もして、歩いて、走って、疲れたよね」

えっ?

「目、閉じていいよ」

何故か、そうすることが最善(さいぜん)(さく)に思えてくる。

「うん、じゃあ、遠慮なく」

目を閉じて、大きく息を吐き、よっちゃんの胸にいっそう体を預ける。

カタコト揺れる馬。ポコポコ言う(ひづめ)の音が、だんだん遠ざかる。

 

「Pちゃん、Pちゃん、着いたよ」

よっちゃんの声にハッとする。

寝てた!寝てしまった!あれ~。よだれ、よだれ、大丈夫かな?

うろたえる私に、よっちゃんが落ち着いた声をかける。

「取り()えず、降りようか」

あぁ何てこと。パニクってるよ、私。

 

気付くと厩舎(きゅうしゃ)の方が、ニコニコと私達を迎えていた。

「おかえり」

するんと、滑り台のようにして、(くら)から降りる。

「ありがとうございました」と、深々と頭を下げる。

すっごく照れくさい。

馬には、左側から、首のあたりをポンポンとしながら

「ありがとう。ありがとう」と、ねぎらう。

 

よっちゃんも、馬をねぎらい、厩舎の方に引き渡す。深々と頭を下げる。

律儀(りちぎ)な人だ。

「楽しかったかい?こいつも幸せモンだ。幸せな二人、乗せてな」

“幸せな二人”?あ~人の目には、そう(うつ)るんだ。

 

ふと気付くと、薄桃(うすもも)色の夕焼けに包まれていた。

「よっちゃん、夕焼け!凄くきれい」

「本当だ。凄いね!」

空気ごと、この世界中、全て薄桃色に包まれている。

 

私は、物凄い幸福感にも包まれて両腕を広げる。それから頭上に上げ、橙色の爪をかざすようにする。

「今日の締めくくりに、最高だね」と言うと、よっちゃんも両腕を広げている。

「ありがとう、Pちゃん。最高の一日を僕にくれて」

「ううん、それは私の方だよ。ありがとう、よっちゃん」

よっちゃんの一言に(あお)られたのか、あまりの幸福感に胸が詰まる。

 

厩舎の方達にも、声をかける。

みんな声をあげ、思い思いの動作で、この薄桃色の夕焼けに包まれる。

この夕焼けが、生きとし生ける全てのものに届きますように。

そして、幸せがみんなのもとに、届けられますように。

 

そう、願わずにいられなかった、今日の終わり・・・。




次は、第6章 探偵のお稽古 第1話 事件発生 です。
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