刀と梅干とよっちゃんとわたし   作:眞山紗由美

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お城に蔓延するハヤリ病。
その真相を探るべく、Pは、お城に潜入。
果たして犯人を捕まえることができるのか。
そして、それに、よっちゃんはどう絡むのか。


第6章 探偵のお稽古 第2話 犯人は?

刀と梅干とよっちゃんとわたし

 

第6章 探偵のお稽古

 

 第2話 犯人は?

 

さすが弥彦。食料置き場とは、良い所を選んでくれた。私は、作業卓の下にでも、(もぐ)り込もうと思っていたので、弥彦の機転に感心させられた。

弥彦は夕餉(ゆうげ)の代わりにと、形と大きさが揃った三角のおむすび3つと煮物と煮魚、それに冷ましたお茶を入れた竹筒まで、差し入れてくれた。優しい気遣いが心に()みる。有難く頂く。

「もし、眠くなったら、目に当てるといいよ」と、何かの葉を数枚くれた。ハッカ、らしい。何から何まで凄いね、弥彦。本名、何て言うんだろう。聞いとけば良かった、いや、もし聞いて、不用意に呼んだら大変なことだ・・・アレコレ思う。

 

叔父には、今夜は友達の所に泊まりに行くと告げた。晩御飯も要らないと言うと

「じゃあ、久しぶりにご飯は1人前か。いつもは3人前作るから、加減を間違えないようにしないと」と、ぶつぶつ言っていた。私一人で2人前も食べていたのか。申し訳ない。ただ、ちょっと寂しそうに聞こえたのは気のせいかな?なぜか、にまっとしてしまった。

叔父のご飯も、美味しい。顔に似合わず、お出汁(だし)をしっかり効かせるなどした繊細な味だ。

弥彦のご飯は、また、それと違って奥行きが感じられる。うっとりするくらい、本当に美味しかった。

 

満腹になり、やることもなく、真っ暗な中にいると眠くなってくる。葉を目に当てると、スーっとして眠気が飛んでいった。

 

弥彦は、炊事場で仕事をしている。水の音、何かをこする音、拭く音などが、ずーっとしている。働きもんだなぁ。

「おい、帰るぞ」かっきーの声。

「はぁい」おいおい、女の声じゃないか~。可愛いな、弥彦。私の野太い声とは大違い。恋仲なんだなあ、このやり取り。なぜか、幸せな気分になる。

 

しばらくすると、誰かの足音。

「可愛い子、可愛い子、私の可愛い子はどこかな?」

?謙信様?何しに?

「あった、あった、なるほど、いぶされて良い色だ」

何か“お宝”を拾って来て、(かまど)の灰の中にでも入れていたのだろう。兼続様に見つからなくて良かったですね。

 

その後、さらに、しばらくすると、また、誰かの足音。

みんな結構、炊事場に来るんだな。

ガタ、ガタガタと、何か所か開けている。

「やっぱり、ありませんねえ・・・。さすが、弥彦。きちんと管理できています。前もって、頼んでおかないとダメですね」

あら、兼続様だったんだ。小腹でも()かれたのかな。

 

入口近くで鉢合わせしたのか

「つぐつぐ!」と兼続様の声。何か、やり取りをしている様子。

「お水、もらいに来ただけだけど・・・」と、つぶやく、つぐつぐこと甘粕景継様。また、あちこち棚の戸を開けている。

 

可笑(おか)しくて、吹き出しそうになるのをこらえる。

 

よっちゃん、どうしてるんだろう、ふと思う。そう思ったとたん、また、あの(やまい)に襲われる。

痛い、胸の真ん中、ぎゅーっとする。久しぶりだな、くそーこんな時に。トントンと叩く。いててー、でも眠くならなくていいや、とあくまで前向きに考える。

 

その後は、静まり返ったまま。どこかで、虫の声がする。マツムシかな・・・。

もし、今日見つけられなかったら、また、明日頑張ろう!思いを強くする。

 

何となく空気が重く感じられる。そろそろ(うし)三つか。

と、

来た!気配がする。明らかに忍んでいる。何とラッキー、一日目で来るとは。

そうか!毎日少しずつ、手を変え品を変えと、やってるのか。それで、原因が見つけられなかったのだ。

私は、弥彦から借りた()()()()を、右手に握る。

門では、持ち物と身体の検査をされるので、木刀は持ち込めなかったのだ。

 

この気配の消し方は(しのび)だ。しかし、何かを探しているようで、どうしても物音が立っている。

カタッコトッ

この音が止んだ時、仕掛けている時だ。

私は、戸板に手をかける。

 

今だ!

 

暗闇に慣れた目には、月光の射す炊事場は、昼間のように明るかった。しゃがみ込んだ、丸い背中が見える。すりこ木を、左手に持ち替え、今まさに、みそツボに入れようとしている右手をひねり上げる。何かが、ポトリと床に落ちる。同時に、(はかま)の左ひざで、背中の真ん中を押し動きを封じる。相手は

「うっ」と、唸り声を上げる。すりこ木を(けい)動脈に当てる。

「動くな」小さく、低く言う。

「動くと鼓動が止まる」

その時、なじんだ声がした。

「誰?何?Pちゃん?!」よっちゃんの声。走り寄って来る。

「よっちゃん!手ぬぐい貸して!」

よっちゃんの(ふところ)に、右手をぐっと差し込み、手に触った布を引っ張り、押さえた者の口に押し込む。

「よっちゃん、脚、押さえて」

私が封じているので、動ける状態ではないが、念のために頼む。

 

騒ぎを察し、見回り番がやって来る。

「こいつです!お城のみんなを、(ひど)い目に()わせていたのは!」大きな声で番人に告げる。番人が、提灯(ちょうちん)を差し出す。

「新人・・・」

いつか、よっちゃんが道場に連れて来て、稽古をつけた新人だった。

 

「Pちゃん」背後で、脚を押さえているよっちゃんが、小さい声で私を呼ぶ。

「Pちゃんが、そいつの口に入れたの・・・」

何か、言い(よど)んでいる。

「入れたの、僕の、僕の・・・下着」

は~~?

何?

 

白い布が、新人の口から続いている。夢中で、気付かなかった。思わず、振り向きかけたら

「見ないで!」と、叫ばれた。

「見ないで。恥ずかしい」震えている、よっちゃんの声。

申し訳なさと動揺で、体中が熱くなる。

 

助太刀(すけだち)が何人も来たので、私は、布を引き裂いた。確かに新人の口からは、(ひも)が出ている。

「おや、逢引(あいび)きでしたか?」

明るくなった炊事場。頬を染めた、見回り番の方々。

意味が分からない。

皆さんは、ニヤニヤと笑いを抑えられない様子。

 

え~?みんな、おかしくない?何?この反応。私達、勇敢にも、格闘したんだよ。何で、みんな、笑ってるの・・・??

 

(かたわ)らには、引きちぎられた、いや、私が引き裂いた白いきれ。やはり、下着・・・か・・・。

 

「か、か、間者(かんじゃ)はすぐに毒を飲んで自害するから。それ、させないためには、口に何か、噛ませないといけないのね」必死で、言い訳する。早口で、声も大きくなる。

よっちゃんの方には体を向けないようにしていたが、ちらっと見ると、真っ赤な顔をして、もじもじしている。

やらかした、本当にやらかした。

バタバタと足音を立てて、やって来た、つぐつぐ様。

「わっ、本当に逢引きだったんだ!」

もう~違うってば~!!

なんでそうなるのよぉ~!!!

 

「そ、それはそうと、よっちゃん、どうしてここに来たの?」

逢引きじゃないことを証明するための、反論の材料を集める。

(かわや)に起きたんだ。そしたらさ、誰かが歩いているのが見えたの。でも、歩く先が、部屋じゃなかった。何かコソコソした感じもしたし、変だなあと思って、こっそりついて来たんだ。すると、Pちゃんが、ガバって押さえて」

ほら!ほら、ほら!やっぱり違うじゃん!逢引きじゃないでしょ!って、聞いてた?今の?って・・・

もう、誰も、いない・・・。

 

「Pちゃん、もういいよ、こっち向いても。寝間着、整えたから」そう言うよっちゃん。

私は、一歩近づいて

「ごめんね」と、言う。

よっちゃんは一生懸命笑顔を作ったが、胸元まで真っ赤にしていた。

「Pちゃん、ありがとう。お疲れ様、お見事でした。さすが、だね」

こんなカオスの状況で、誰も言ってくれなかった、でも、最も言ってほしかった言葉を言ってくれた人。傷ついているのに、私が傷つけたのに。もう、泣きそう。

 

「ちょっと、着替えてくる。Pちゃんも、何か聞かれると思うから、ちょっと待っててね、ここでいいから」

よっちゃんは、女の子とかがよくするように、膝をくっつけてしゃがみ、下着の残骸を拾った。

 

その後、詮議(せんぎ)があり、私が呼ばれたのは、空が白み始めた頃だった。

 

よっちゃんは、部屋の前で待っていた。そして、しょげたように言う。

「誰も、信じてくれないんだ」

えっ?どういうこと?

 

部屋に入ると、謙信様はじめ、重鎮が居並んでいる。

よっちゃんは、私の隣、少し離れて座る。頭を下げ、まずは忍び込んだことを詫びる。弥彦に迷惑がかかるといけないので『門番の目を盗んで』と言った。

謙信様も、クスクス笑っておられる。

 

ここで、すかさず兼続様から、捕らえた新人のことを聞かされた。

どこかの雇われではなく、単独犯らしいこと。家臣達の健康を損ね、上杉軍全体の戦力を弱体化させようとしていたこと。その情報を売ろうと考えていたこと。

 

怪しいなあ~、あの身のこなしは雇われの忍だと思うが。

すかさず謙信様。

「本人がそう言うから・・・。それに、若いし、やり直しはきくからね」

凄っ!普通、こういう状況なら、拷問して自白させる。自白しないなら、極刑でさらし首にされるのに。お考えがあってのことなのだろう。器が大きいというか、人間というものを大切にしているというか、こちらの想像を超える人格者だ。

 

そして、クククと笑いながら、言葉を続けた。

「よっちゃんも、スミに置けない。フフフ・・・。ただ、逢引きもこんな形で役に立ったんだから、何よりですよ。フフフ」

「違うんです!」私は、力説した、事の成り行きを、私の一方的な失敗を。

「本当なんです!逢引きなんかじゃありません!」

だが、つぐつぐ様がすかさず言う。

「見回り番さんも言ってたし、俺もちらっと見た。与七、ぽろっと、いや、寝間着、はだけていたし、あられもない恰好(かっこう)してた」

あからさまな、そこまで言わなくても。

「それは、私が悪くて。手ぬぐいと思って・・・。さっきも、言いましたよね!!」

みんな、ニマニマ笑っている。

兼続様も、真っ赤な顔をして(うつむ)いているが、どうやら笑いをこらえているよう。

隣のよっちゃんを見ると、赤い顔をして、首を振っている。

 

「何にせよ、Pさん、ありがとうございました。怪我の功名とは言え、あなたの手腕には、頭が下がります」と、謙信様が(しめ)てくださった。

もったいないお言葉。しかし、『怪我の功名』は、いらない。

 

私達は、揃って部屋を出る。襖を閉めた途端、中の人達が笑い出した。

二人、うつむき加減で、とぼとぼ歩きだす。

「よっちゃん・・・」言いかけたら、止められた。

「もういいよ、Pちゃん」

優しい声。

「それより、疲れたでしょ。送っていくよ」

「よっちゃんも疲れてるのに、悪いよ」

溜息が出る。いや、溜息しか出ない。

「良かれと思ってやったことで、結局よっちゃんに迷惑、かけてしまった。相談するとかすれば良かった。ごめんね」自分が悔しくて、情けなくて仕方ない。

 

よっちゃんは、明るく言う。

「新人だったっていうのは、驚いたね。だからあの時、新人に初めて稽古つけてくれた時、Pちゃん、フリしてるって、新人の動きにこだわってたんだね。違和感に気付くなんて、凄いよ、Pちゃん」

いつも、どんな時も、(いた)わる言葉をかけてくれる。どれだけ凄い人なんだろう。心を揺さぶられて仕方がない。

 

徹夜明け、犯人確保、誤解解けず・・・と言うより、あらぬ疑いをかけられる。

 

あれこれ重なって、ハイテンションだったせいか、よっちゃんの言葉に涙がこぼれる。

「Pちゃん、ありがとう」よっちゃんは、優しく抱き寄せて、頭をなでてくれる。

「ありがとう」何度も、何度も繰り返しながら。

涙が、よっちゃんの着物にしみていく。




第6章 第3話 事件の後に
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