その真相を探るべく、Pは、お城に潜入。
果たして犯人を捕まえることができるのか。
そして、それに、よっちゃんはどう絡むのか。
刀と梅干とよっちゃんとわたし
第6章 探偵のお稽古
第2話 犯人は?
さすが弥彦。食料置き場とは、良い所を選んでくれた。私は、作業卓の下にでも、
弥彦は
「もし、眠くなったら、目に当てるといいよ」と、何かの葉を数枚くれた。ハッカ、らしい。何から何まで凄いね、弥彦。本名、何て言うんだろう。聞いとけば良かった、いや、もし聞いて、不用意に呼んだら大変なことだ・・・アレコレ思う。
叔父には、今夜は友達の所に泊まりに行くと告げた。晩御飯も要らないと言うと
「じゃあ、久しぶりにご飯は1人前か。いつもは3人前作るから、加減を間違えないようにしないと」と、ぶつぶつ言っていた。私一人で2人前も食べていたのか。申し訳ない。ただ、ちょっと寂しそうに聞こえたのは気のせいかな?なぜか、にまっとしてしまった。
叔父のご飯も、美味しい。顔に似合わず、お
弥彦のご飯は、また、それと違って奥行きが感じられる。うっとりするくらい、本当に美味しかった。
満腹になり、やることもなく、真っ暗な中にいると眠くなってくる。葉を目に当てると、スーっとして眠気が飛んでいった。
弥彦は、炊事場で仕事をしている。水の音、何かをこする音、拭く音などが、ずーっとしている。働きもんだなぁ。
「おい、帰るぞ」かっきーの声。
「はぁい」おいおい、女の声じゃないか~。可愛いな、弥彦。私の野太い声とは大違い。恋仲なんだなあ、このやり取り。なぜか、幸せな気分になる。
しばらくすると、誰かの足音。
「可愛い子、可愛い子、私の可愛い子はどこかな?」
?謙信様?何しに?
「あった、あった、なるほど、いぶされて良い色だ」
何か“お宝”を拾って来て、
その後、さらに、しばらくすると、また、誰かの足音。
みんな結構、炊事場に来るんだな。
ガタ、ガタガタと、何か所か開けている。
「やっぱり、ありませんねえ・・・。さすが、弥彦。きちんと管理できています。前もって、頼んでおかないとダメですね」
あら、兼続様だったんだ。小腹でも
入口近くで鉢合わせしたのか
「つぐつぐ!」と兼続様の声。何か、やり取りをしている様子。
「お水、もらいに来ただけだけど・・・」と、つぶやく、つぐつぐこと甘粕景継様。また、あちこち棚の戸を開けている。
よっちゃん、どうしてるんだろう、ふと思う。そう思ったとたん、また、あの
痛い、胸の真ん中、ぎゅーっとする。久しぶりだな、くそーこんな時に。トントンと叩く。いててー、でも眠くならなくていいや、とあくまで前向きに考える。
その後は、静まり返ったまま。どこかで、虫の声がする。マツムシかな・・・。
もし、今日見つけられなかったら、また、明日頑張ろう!思いを強くする。
何となく空気が重く感じられる。そろそろ
と、
来た!気配がする。明らかに忍んでいる。何とラッキー、一日目で来るとは。
そうか!毎日少しずつ、手を変え品を変えと、やってるのか。それで、原因が見つけられなかったのだ。
私は、弥彦から借りた
門では、持ち物と身体の検査をされるので、木刀は持ち込めなかったのだ。
この気配の消し方は
カタッコトッ
この音が止んだ時、仕掛けている時だ。
私は、戸板に手をかける。
今だ!
暗闇に慣れた目には、月光の射す炊事場は、昼間のように明るかった。しゃがみ込んだ、丸い背中が見える。すりこ木を、左手に持ち替え、今まさに、みそツボに入れようとしている右手をひねり上げる。何かが、ポトリと床に落ちる。同時に、
「うっ」と、唸り声を上げる。すりこ木を
「動くな」小さく、低く言う。
「動くと鼓動が止まる」
その時、なじんだ声がした。
「誰?何?Pちゃん?!」よっちゃんの声。走り寄って来る。
「よっちゃん!手ぬぐい貸して!」
よっちゃんの
「よっちゃん、脚、押さえて」
私が封じているので、動ける状態ではないが、念のために頼む。
騒ぎを察し、見回り番がやって来る。
「こいつです!お城のみんなを、
「新人・・・」
いつか、よっちゃんが道場に連れて来て、稽古をつけた新人だった。
「Pちゃん」背後で、脚を押さえているよっちゃんが、小さい声で私を呼ぶ。
「Pちゃんが、そいつの口に入れたの・・・」
何か、言い
「入れたの、僕の、僕の・・・下着」
は~~?
何?
白い布が、新人の口から続いている。夢中で、気付かなかった。思わず、振り向きかけたら
「見ないで!」と、叫ばれた。
「見ないで。恥ずかしい」震えている、よっちゃんの声。
申し訳なさと動揺で、体中が熱くなる。
「おや、
明るくなった炊事場。頬を染めた、見回り番の方々。
意味が分からない。
皆さんは、ニヤニヤと笑いを抑えられない様子。
え~?みんな、おかしくない?何?この反応。私達、勇敢にも、格闘したんだよ。何で、みんな、笑ってるの・・・??
「か、か、
よっちゃんの方には体を向けないようにしていたが、ちらっと見ると、真っ赤な顔をして、もじもじしている。
やらかした、本当にやらかした。
バタバタと足音を立てて、やって来た、つぐつぐ様。
「わっ、本当に逢引きだったんだ!」
もう~違うってば~!!
なんでそうなるのよぉ~!!!
「そ、それはそうと、よっちゃん、どうしてここに来たの?」
逢引きじゃないことを証明するための、反論の材料を集める。
「
ほら!ほら、ほら!やっぱり違うじゃん!逢引きじゃないでしょ!って、聞いてた?今の?って・・・
もう、誰も、いない・・・。
「Pちゃん、もういいよ、こっち向いても。寝間着、整えたから」そう言うよっちゃん。
私は、一歩近づいて
「ごめんね」と、言う。
よっちゃんは一生懸命笑顔を作ったが、胸元まで真っ赤にしていた。
「Pちゃん、ありがとう。お疲れ様、お見事でした。さすが、だね」
こんなカオスの状況で、誰も言ってくれなかった、でも、最も言ってほしかった言葉を言ってくれた人。傷ついているのに、私が傷つけたのに。もう、泣きそう。
「ちょっと、着替えてくる。Pちゃんも、何か聞かれると思うから、ちょっと待っててね、ここでいいから」
よっちゃんは、女の子とかがよくするように、膝をくっつけてしゃがみ、下着の残骸を拾った。
その後、
よっちゃんは、部屋の前で待っていた。そして、しょげたように言う。
「誰も、信じてくれないんだ」
えっ?どういうこと?
部屋に入ると、謙信様はじめ、重鎮が居並んでいる。
よっちゃんは、私の隣、少し離れて座る。頭を下げ、まずは忍び込んだことを詫びる。弥彦に迷惑がかかるといけないので『門番の目を盗んで』と言った。
謙信様も、クスクス笑っておられる。
ここで、すかさず兼続様から、捕らえた新人のことを聞かされた。
どこかの雇われではなく、単独犯らしいこと。家臣達の健康を損ね、上杉軍全体の戦力を弱体化させようとしていたこと。その情報を売ろうと考えていたこと。
怪しいなあ~、あの身のこなしは雇われの忍だと思うが。
すかさず謙信様。
「本人がそう言うから・・・。それに、若いし、やり直しはきくからね」
凄っ!普通、こういう状況なら、拷問して自白させる。自白しないなら、極刑でさらし首にされるのに。お考えがあってのことなのだろう。器が大きいというか、人間というものを大切にしているというか、こちらの想像を超える人格者だ。
そして、クククと笑いながら、言葉を続けた。
「よっちゃんも、スミに置けない。フフフ・・・。ただ、逢引きもこんな形で役に立ったんだから、何よりですよ。フフフ」
「違うんです!」私は、力説した、事の成り行きを、私の一方的な失敗を。
「本当なんです!逢引きなんかじゃありません!」
だが、つぐつぐ様がすかさず言う。
「見回り番さんも言ってたし、俺もちらっと見た。与七、ぽろっと、いや、寝間着、はだけていたし、あられもない
あからさまな、そこまで言わなくても。
「それは、私が悪くて。手ぬぐいと思って・・・。さっきも、言いましたよね!!」
みんな、ニマニマ笑っている。
兼続様も、真っ赤な顔をして
隣のよっちゃんを見ると、赤い顔をして、首を振っている。
「何にせよ、Pさん、ありがとうございました。怪我の功名とは言え、あなたの手腕には、頭が下がります」と、謙信様が
もったいないお言葉。しかし、『怪我の功名』は、いらない。
私達は、揃って部屋を出る。襖を閉めた途端、中の人達が笑い出した。
二人、うつむき加減で、とぼとぼ歩きだす。
「よっちゃん・・・」言いかけたら、止められた。
「もういいよ、Pちゃん」
優しい声。
「それより、疲れたでしょ。送っていくよ」
「よっちゃんも疲れてるのに、悪いよ」
溜息が出る。いや、溜息しか出ない。
「良かれと思ってやったことで、結局よっちゃんに迷惑、かけてしまった。相談するとかすれば良かった。ごめんね」自分が悔しくて、情けなくて仕方ない。
よっちゃんは、明るく言う。
「新人だったっていうのは、驚いたね。だからあの時、新人に初めて稽古つけてくれた時、Pちゃん、フリしてるって、新人の動きにこだわってたんだね。違和感に気付くなんて、凄いよ、Pちゃん」
いつも、どんな時も、
徹夜明け、犯人確保、誤解解けず・・・と言うより、あらぬ疑いをかけられる。
あれこれ重なって、ハイテンションだったせいか、よっちゃんの言葉に涙がこぼれる。
「Pちゃん、ありがとう」よっちゃんは、優しく抱き寄せて、頭をなでてくれる。
「ありがとう」何度も、何度も繰り返しながら。
涙が、よっちゃんの着物にしみていく。
第6章 第3話 事件の後に