刀と梅干とよっちゃんとわたし   作:眞山紗由美

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ハヤリ病を仕掛けた犯人逮捕の後・・・



第6章 探偵のお稽古 第3話 事件の後に

刀と梅干とよっちゃんとわたし

 

第6章 探偵のお稽古

 

 第3話 事件の後に

 

翌稽古日前、お城のほぼ全員が大広間に集められた。もちろん私も。

兼続様が、事件の概要を話し始める。『食中毒やハヤリ(やまい)のような病気が蔓延(まんえん)していたのは、家臣を(いつわ)って潜入していた間者(かんじゃ)(はか)ったことだったということ。その間者は捕らえられ、追放となった。みんなは、安心して暮らすように』といったことを、一人一人の目を見ながら語った。

そして、最後に謙信様が、よく通る声で次のことを話し始めた。『Pが、犯人を逮捕したこと、よっちゃんも協力したこと』が、告げられ、

「今回のことで皆がお互いを信頼し合い、解決に向けて動けたことは、私の誇りです。ややもすれば、疑心暗鬼になっても仕方がない状況で、それがなかったことは皆の器の大きさ、心の清らかさがあってのことだと、本当に感謝しています。そして、積極的に動いたPさん、与七。二人が逢引き中だったという話もありますが、無粋(ぶすい)なことは止めましょう。ありがとう、よくやってくれましたね」

いやいやいやいや、謙信様、逢引きは否定しましょうよ。ほんっとに、真実ではないのですから。

皆様は、一斉に振り向き、私に頭を下げてくれる。

 

鍛錬場へ行くと、私の周りを囲むようにして、皆々様方が、次々にねぎらってくれた。

「どんな風に、取り押さえたのですか?」

「なぜ、怪しいと思ったのですか?」などと、質問責めにあう。

それは、よっちゃんも同様で

「どういう気配(けはい)をおかしいと思ったから、ついて行ったんですか」

「あの新人に、目をつけていたんですか」などと聞かれていた。

私は答えながら、度々に、逢引き説を否定する。

 

「逢引き説も残しとけば…」かっきーが、くっくっくっと笑いながら、廊下へ出て行く。いいねえ~イケメン、かっきー。何を言っても、何をしてもサマになる。しかし、この逢引き説否定は譲れない。

「P師匠は、私らの誇りです」

「これからも、びしびし稽古をつけてください」

「一生ついていきます」

などと、身に余る言葉を贈られ、温かい気持になる。

よっちゃんも、勇敢さをみんなに(たた)えられていた。

 

春日山城の方々は、みんな明るくて温かくて優しい。

城主の人柄の賜物(たまもの)だ。

 

稽古が終わるが、水を持って来たのは弥彦ではなかった。炊事場の調味料など、総ざらいしているから、忙しいのだろう。邪魔しても悪いとは思ったが、話したいことがあったので、炊事場へ行く。

 

弥彦は一人で、豆を()っていた。

 

「や~ひこっ」呼び掛ける。

「P!」(まぶ)しいほどの笑顔を向けてくる。

(すで)に、炊事場はきれいに整えられていた。

「落ち着いた?大変だったね。弥彦のおかげ、本当に、色々とありがとう」

「ううん、こちらこそありがとう。Pこそ、お疲れ様。大活躍だったんだってね。こっちは、入れ替えだけだったから、大したことないよ」明るく言う。

「ココが疑われたんじゃない?調べられるとか、しなかった?」顔を(のぞ)き込みながら、心配で仕方なかったことを尋ねた。

「まあね、それなりに調べられはしたけど・・・」少し顔が曇る。

「やっぱり大変だったよね。キツイこと、ホントよく乗り越えたよ。影家さんも、助けてくれた・・・」

「そっ!」何て可愛い、甘い笑顔。

「でしょうね。あの方、クールに見えるけど、熱いハートの持ち主だもの」

二人の絆は、益々・・・ってとこか。

「弥彦は、芯が強いから、乗り越えられたんだよね。さすがだよ。私だったら、ブチ切れて辞めてたな」

「ふふ、Pったら。ここの方達、みんな人が良いの。謙信様のお陰だよね。だから、まあ、悩んだこともあったけど、そんなにキツイこと、なかったよ。ホント!」

「それは、弥彦の人徳だよ!勿論(もちろん)、謙信様のお人柄による、経営方針みたいなのも大きいだろうけど、信頼を得ている弥彦そのものの力と思うよ」

弥彦は、はにかむような笑顔を浮かべる。

「で?新作のお料理?」

詮議(せんぎ)の中でさ、お夜食探しに、ココに来たって、何人かおっしゃってて・・・」

そうそう、二人、何かごそごそしてた。

「だったら、何か軽いもん、痛まなくてちょっと小腹満たすもん、作ろうかなって・・・」

凄っ、えらすぎ!いつも人の為、人のことを考えている。

「これ?」と、大豆の煎ったのをつまむ。ポリポリして美味しい。そして、ふんわりと甘い。

「大豆に、軽くきな粉かけてみた。どう?」

「いいね!凄く美味しい!さすがだね!」言いつつ、うんうんと(うなず)く。

 

そうだそうだと、メインの用事を切り出す。

「これなんだけど・・・」

弥彦の前に帳面を、置く。

「ほら、私、ココ痛くなるじゃない?弥彦が、記録取ったらって言ってくれたから、書き出したんだ。」

時々、胸の真ん中がズキッと痛む。その原因を探るため、弥彦のアドバイス通り、痛んだ時の状況を(しる)してきたのだ。

 

弥彦は、ペラペラと、めくっている。みるみる笑顔が、()き起こる。

「分かったでしょ、原因、ていうか、原因となってる人」

「うん、よっちゃん、よねぇ・・・でもね」

そう言うと、弥彦は不思議そうな顔をする。

「よっちゃん、なんだけど、なんでよっちゃん?そこが分かんない。別にストレス感じる相手じゃないし・・・」

「あんた、バカ?」

お、珍しい。弥彦、お怒り?なんで?

弥彦は、大きく大きく溜息(ためいき)をつく。そして、しばし沈黙。目は、空を見ている。

 

「Pさ、好きな人って誰よ?」

「弥彦」即答。

「あ、あ~あっと…ありがとうね。えっと、この人のこと思うと、切な~い、う~んと分かんないか。そ、大事~大切~って思う人、誰?」

「母様!亡くなった母様」またしても、即答。

「そうなんだ、ごめんね。こんなこと聞いて。その母様を思う時みたいな、ふわ~とした気持ちをもつ人って、いるでしょ?」

ふわ~とした気持ち・・・?よく分からない。首をひねる。

「話してると、心地いいとか、もう少し一緒にいたい、とか思う人、いない?」

 

しばし、考える・・・フリ。本当は、考えなくても一番に頭に浮かんでいた人がいたが、何となく照れくさくて答えを遅らせたかったからだ。

「・・・よっちゃん?」

「そっ!それっ!そのよっちゃんがぁ、Pのぉ、ココんとこにぃ・・・」

弥彦が、右手を私の胸の真ん中に押し当てる。

 

「Pちゃん!?」突然、よっちゃんの大きな声。

「ウワサをすれば、何とかだね。じゃ・・・」小声で(つぶや)くと、弥彦はよっちゃんに軽く頭を下げて、スタコラと、どこかへ行った。

 

「どうしたの?Pちゃん?」

よっちゃん、凄く怖い顔してる。

「ココが痛くてね」

胸の真ん中を示す。よっちゃんが、近づいて来る。

なんか迫力が凄くて、後ずさりしてしまう。

「で、弥彦が触ってたの?」

「触ってたっていうか、ココねって、確認?」

よっちゃんに詰め寄られて、作業卓の端まで後ずさった。

 

「ここ?」

よっちゃんが、手を広げて置く。そして、小さく円を描くように動かす。

「う、うん」

「痛いの?」

「時々」誤魔化すような感じで、笑顔を作る。

よっちゃんの描く円が、少しずつ大きくなっていく。なぜか左手は、私の腰辺りに来て、私を支えるような格好に。

 

優しく、柔らかく動く、よっちゃんの手。力が入ったり、抜かれたり。胸全体を時に包み、時に離れ。

頬が上気してくるのが、分かる。目のすぐ(そば)に、よっちゃんの(あご)がある。

「今は?痛い?」

何だか甘い、よっちゃんの声。

動きを止めない手。大きく(ゆる)やかに動く。じわっと体が、熱くなってくる。

「ううん」

息が上がる。なぜ?動いてもないのに、鼓動(こどう)がドクドクと、どんどん速くなる。

「具合が悪くて困ってるなら、僕に言って」

よっちゃん、少し声が(かす)れてる。息が耳にかかる。

動き続ける、よっちゃんの手。強く弱く、押さえられたり離されたり。

「よっちゃん?」

「Pちゃん?」

目と目が合う。

よっちゃんの目、潤んでる。

よっちゃんの息も上がってる?

 

なんか、目、開けてられない。

足の力が、いや、体中の力が抜けそう。

 

その時

 

「与七!」

バタバタという足音と、つぐつぐ様の叫ぶような声。

よっちゃんの手が止まる。

「軍議があるって。今、みんなを集めてるとこ」

よっちゃんは、つぐつぐ様の方へ顔だけ向け、答える。

「分かった!」しっかりと、大きな声。

そして私に、とろけるような甘く優しい微笑みを向ける。

「Pちゃん、医者に行きなよ」

温かく、柔らかい声でそう言って、何事もなかったかのように、よっちゃんは、小走りで去って行った。

 

私は、はあ~と大きく息を吐くとともに、両手を卓に突いた。

「軍議・・・か、戦だな。戦が始まる」

(いま)だ余韻の残る体を持て余しながらつぶやいた。

呼吸も鼓動も、なかなか(おさ)まらなかった。




第7章 戦へのお稽古
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