刀と梅干とよっちゃんとわたし   作:眞山紗由美

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お城に呼ばれたP。城主上杉謙信はじめ、主要人物と対面。その後、鍛錬場にて示範試合を行うことに。何と相手はかの、かっきーこと「柿崎影家」。さて、その顛末は?


お城でドキドキ初稽古
第1話 初登城そしてかっきーと初稽古


私が叔父の所に来てから3日後、お城に挨拶に行くことになった。失礼にあたらないようにと、小袖(こそで)打掛(うちかけ)も選んでいると、叔父に止められる。なるべく地味な物で、袴も穿()いて行くように言われる。

 

女人(にょにん)禁制の城だからな」

何と、そんな所だったのかと、驚いた。

 

当日、謁見(えっけん)の広間へと案内されると、よっちゃんが居た。

 

今日の朝稽古で会うのは2度目だったのに

「よっちゃんって呼んで。Pちゃんて呼んでいいよね。それと、タメ口でね」と、にこやかに念押しされた。面倒くさかったので、つい「いいよ」と言ってしまった。

よっちゃんは、子犬や子猫といった小動物を彷彿(ほうふつ)とさせる親しみやすさというか、可愛らしさというか、そういったものがある。大人の男性相手に失礼かもしれないが、()に角、そんな感じの人だから、つい私も了承してしまったのだろう。

 

よっちゃんは、笑顔で手を振ってくれるので、私も手を振ると、叔父にたしなめられた。

 

どうやら、よっちゃんが座っている辺りにはお城の重鎮(じゅうちん)が座っているようだ。

えっ?その中によっちゃん?

やっぱりよっちゃん、偉い人だったんだ。今までの接し方を振り返って、ちょっとまずかった?大丈夫?と、少し不安になる。

 

上杉謙信様がいらした。頭を下げる。

「ごめんね、お待たせしたね」

顔を上げると、驚きの声を上げられた。

「これは、また、可愛らしい女の子でしたか!」

「可愛らしくはないですが、女です」何か?

頭を下げ、答えるとよっちゃんが噴き出す様子が伺えた。

 

「師範がお見えになると言うことでしたので」直江兼続様が言葉を(にご)す。

あ、この方がかの有名な「愛」の(かぶと)の方か。ぼーっと見ていると、謙信様が言葉をついだ。

「いいじゃない。折角(せっかく)来て頂いたんだから」

“師範”ということで、私にお城勤務の方々に稽古をつけさせようと考えたようだった。

 

叔父は、剣の道では、名を輝かせた達人である。その叔父の道場での“師範”ということで、イカツイ男の人をイメージしてしまったのだろう。

 

「戦場に、女、男は関係ありません。かの巴御前も戦場に(おもむ)き、武功を上げておられます」

私は、多少イラつきながら、はっきりと告げた。

 

「えっ?Pちゃん、(いくさ)に出る気なの?」

「これまで、何度も出ております。(あるじ)様、そして民を守るため、今日(こんにち)まで鍛錬を続けて参りました」

よっちゃんが、眉根(まゆね)を寄せて顔を曇らせている様子が、目の端に映る。

 

謙信様の柔らかい声が響く。

「では、お願いしますね」

“殿の英断”てヤツだ。兼続様も甘粕景継様も驚きの様子が(にじ)んでいる。

 

私は、稽古着に着替えた。

よっちゃんは待っていてくれて、鍛錬場へと案内してくれた。

 

大きな声が聞こえてくる。一歩、鍛錬上に踏み込む。

「くさっ!」思わず鼻を押さえる。

よっちゃんがフフフと笑う。

「男臭いでしょ。道場と違って、おじさん達だもんね」

 

兼続様が皆を制し、私を紹介してくださる。まず、叔父。

「お久しぶりです」もう何度も来ているんだな。みんなと顔馴染(かおなじ)みのよう。そして私。

「ぱら流師範Pと申します」

途端(とたん)にザワつく。女に稽古をつけてもらいたくないのだろう。そんな雰囲気が見て取れる。

 

そこへ影継様に連れられて、欠伸(あくび)をしながら男が入って来た。後ろに、男身なりの子を従えている。

「あっ、かっきー~」よっちゃんが、ニコニコ笑顔で迎える。

チラとこちらに向けた男の目を見た時、背筋が凍った。何という殺気・・・。

 

「柿崎影家、かっきーだよ。そして小姓(こしょう)の弥彦」よっちゃんが紹介してくれる。

「小姓?」

「うん、かっきーのね」

女人禁制の城に男装束(しょうぞく)の女が居た。何か、事情があるのか?それにしても、こいつらの目は節穴か?明らかに女の子、しかも可愛い。ちょっと色気もある。柿崎は気付いているな。そして二人とも・・・。

ムフフ、これは面白いぞ。

 

私は、自分のせいで場の空気が悪くなっていることも忘れ、ニマニマしながら、神棚へ参り、準備運動、そして持参した自分の木刀を取り出し、素振りを始めた。

場のどよめきは、増していた。何に対して反応しているのか、気にはなったが、どうでもいい。体を作るのが先だ。

 

一区切りしたところを見計(みはか)らって、兼続様がお声をかけてくださる。

「まずは、お手合わせを。示範(しはん)試合、ということで。えっと、相手は・・・」

タイミング良く、柿崎様が立ち上がる。

「では、かっきーと」

 

りょーかい。柿崎様は何か(つぶや)いたが、聞き取れなかった。

待てよ、柿崎、柿崎って・・・あの、柿崎、よね。泣く子もビビる、戦場の猛獣。私の記憶では、今の()(もと)、5本の指に入る剣豪だ。

 

「柿崎様にお相手して頂けるなど、光栄です」これは本心。

なぜか、身震いする。武者震いか・・・。

「それでは、よろしくお願い致します」

静かにそう言うと、かっきーはにやりと笑う。斜めがちな顔の向き、そこから(うれ)いが(こぼ)れる。

すんげーいい男。こんな場でなければ、恋に落ちそう。

 

礼をし、蹲踞(そんきょ)。立ち上がり、合図を待つ。いざ、構えると、また空気が変わった。冷たい光を放つ目は、その瞳の奥の奥の奥の方で、炎を宿していた。

 

だが剣に対する思いが、私のそれとは明らかに違う。私は剣に、生きる道を見出した。ということは、かっきーは、死ぬ道を見出した・・・そのように感じた。

 

かっきーには、呼吸さえも見とれない。そう、この剣の達人の男は、刀を構えながら既に死の世界にいるのだ。ならば、命をぶつけるのみ。

「始め!」兼続様の声が響く。

 

切先(きっさき)を払い、打ち込む。ひる返し、避ける所へ一歩早く(なぎ)るが、木刀で受けて返される。まるで、私の動きを(あらかじ)め読まれているような動きだ。私は相手の動きを読んで動いているはずなのに。無力感を覚えるほどだった。

 

上下左右、角度、位置を変えながら連打するも、打ち返されたり、避けられたり。本気なのか、遊ばれているのか・・・。いや、冷静になれ、勝機は必ずある。

かっきーの息が見えてきた。待った甲斐(かい)があった、勝負はここからだ、と思ったその時

 

「Pちゃん!頑張れっ!あっ、かっきーも」

よっちゃんの声が場内に響く。

 

かっきーの向かって右の脇腹の空気が()れた。だが、これはダメだ、ここで打ち込んではと、自分を止めようとするが、本能的に体が動いてしまう。身を(かが)め、踏み込み、全力で(なぎ)ろうとした木刀を全力で抑える。かっきーは避けたが、一歩よろめいた。

 

「そこまで」

兼続様が止める。

しまった、つい、体が動いてしまった。あそこで踏み込んだのは卑怯(ひきょう)だと、(あわ)てて叫ぶ。

「いや、待ってください!今のは」

勝負無しを求める私の声を、かっきーの抑揚(よくよう)のない声が制する。

「オレの負け、あんた、つえーな」

 

気付けば、四半時(※約30分)の試合だった。

 

謙信様にお声かけ、頂く。

「お見事でしたよ。かっきー相手にあそこまで戦えた人を、私は知りませんよ」

恐縮して、はっと、頭を下げるのが精いっぱい。

 

よっちゃんは、かっきーに走り寄り、しきりに頭を下げている。そこへ謙信様が後ろからかっきーの肩に手をかける。

「かっきー、お疲れ様。いいものを見せてもらったよ」

かっきーは、(ほほ)を染めた。えっえ~?かっきー、照れてる?

そうか、謙信様が大好きなんだね。そして、よっちゃんのことも。意外に素直な人。かっきーって、上手く感情に(ふた)をしているけれど、感情を殺している訳ではなかったのだ。

ほっこりとした思いに包まれながら、私は汗を拭った。

 




第2章第2話へ続く
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