刀と梅干とよっちゃんとわたし   作:眞山紗由美

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よっちゃんが道場に連れて来た、お城勤めの”新人”さん。稽古をつけてもつけても、改善されない。それどころか、よっちゃんとも・・・。


新人さんとお稽古
第3章 新人さんとお稽古


刀と梅干とよっちゃんとわたし

 

第3章 新人さんとお稽古

 

私が、お城へ行って稽古(けいこ)をつけるようになって、幾日(いくにち)か過ぎた頃、よっちゃんが、一人の男の人を道場に連れて来た。朝の稽古後、時間を見計(みはか)らって来た感じ。さすが、よっちゃん。配慮(はいりょ)のデキる人。

「3日前からお城(づと)めになった、新人さん」紹介するよっちゃん。

「よろしくお願い致します」深々と頭を下げる、新人さん。

「こちらこそよろしくお願い致します」と、にこやかに(こた)える。笑顔、大事だから。特に、初対面の人にはね。

歳は、私と同じくらいか、下かも。背は、よっちゃんと私の間くらい。細身で、姿勢が良い。立ち姿からすると、筋肉もしっかりついているような感じで、体はできているように思う。眼差(まなざ)しの鋭さが、印象的(いんしょうてき)だ。

 

しっかりしていそうなのに、でも、なんで?と思っていると、よっちゃんが理由を教えてくれた。

「腕は悪くないと思うんだけど、何かが悪いの。僕じゃ、そこが良く分からなくて」

素質(そしつ)はいいということか?お城(づと)めに採用されるくらいだから、それなりにできるってことだよね。

(いぶか)()に、相手をする。

 

剣には、性格がでる。

のんびりなのかせっかちなのか、気性(きしょう)が荒いのか気が小さいのか。

だが、この男は何だ?

打ち込めば、きちんと受ける。が、その瞬間木刀の角度をわずかばかり、変える。

()ぎれば、するっとよける。が、次の瞬間、体のバランスを(くず)す。

 

できない、ということではない。知らない訳でもない。むしろ、知っている。

でも、何だろう、“フリ”をしている感じがする。何のフリ?何のために?

 

一旦(いったん)()めて、姿勢や体の持って行き方の確認に入る。

木刀を握る手に、私の手を添えてみる。

握り方は正しい。入るべき所に、力が入っている。どこか何某(なにがし)かの流派(りゅうは)で、きちんと直されたような感じがする。

肩の向き、腰のひねり、確認すればする程、混乱してくる。この人は、ちゃんと、訓練を受けている。指導されている。印象が、確信へと変わっていく。その証拠に、筋肉の付き方が(ととの)っている。自己流に鍛錬(たんれん)(かさね)ねていると、ある部分の筋肉が肥大(ひだい)してくるが、それがないのだ。では、なぜ、それを“発揮(はっき)”しようとしない?なぜ、わざわざできない自分を演じている?

 

“フリ”をしている?なぜ?何のために?

疑問の言葉が、頭の中をぐるぐる回るだけで、答えが出ない。

 

「ね、Pちゃん、そろそろいいんじゃない?」よっちゃん、何か気付いた?声がいつもより高い、というか、甲高(かんだか)い。

「うん、もう少し・・・」私は、自分で答えを見つけたい。

 

「Pちゃん、もう半時(はんとき)(※約1時間)()ったよ」

「あ、うん。・・・そう」どこが悪い?どうしたら直せる?それが、分からない。(あせ)る。こんなことは、初めてだ。

 

よっちゃんの顔も、だんだん(けわ)しくなっている。

珍しい、よっちゃんがこんな顔するなんて。

というか、初めて見た。

 

「はいっ!終わり!もう時間!もう、一時(いっとき)(※約2時間)も経った」よっちゃんが、新人さんと私の間に割って入る。

えっ?ちょっと待って。直すべきところが、分かりそうで、分からない。だから、直せそうで直せない。良くなったところがないなら、指導したとは言えない。これでは、指導者として失格だ。

「もう少し」と、言いかけた時、その言葉に(かぶ)せるように、よっちゃんが大きな声で言う。

「新人さん!先にお城に帰ってくれる?」

新人さんは、礼儀正しく、私に深々と頭を下げ、お礼の言葉を言った。

そして、この場を提供してくれたと、よっちゃんにも、深々と頭を下げた。

いい人そう、なのに、なんでかな?

 

「ありがとう、Pちゃん」静かに言うよっちゃん。

でも、何でよそ向いて言うの?いつものよっちゃんらしくない。目線ぐらい合わせてよ。お礼言うのに、それ、ないんじゃない?何だか、ムッとしてしまう。

「時間制限があるなら、先に言ってもらいたかったな」ちょっと、言葉にトゲがある。でも、(おさ)えられない。だって、ちゃんと教えることができなかったから。

「先に言うも何も、こんなに長くなるなんて思わなかったから」今度はこっち向いたけど、私の顔は見ない。

「ごめんね、役に立てなくて」もう、ケンカ腰。気まずいので、詳しく説明しようと言葉を続ける。

 

「気になるなあ、あの人。いい人そうなのに。何でだろう」よっちゃんの顔を、チラチラ(うかが)い見ながら言う。今日はなぜか、言いたいことや気持ちが通じない。

「気になる?いい人?」よっちゃんの声が低くなる。

説明したら分かってくれるかな?

「体もできてる、体の持って行き方や足の(はこ)びも心得(こころえ)ている。だけど・・・」

「体ができてるって、Pちゃん、いっぱい(さわ)ってたよね」

そんな、大きな声で言わないで。何だか、(おこ)られてるみたいな気になるじゃない。

「手、握って、指とか(から)ませて。顔とか、こ~んな近くまで行ってたの、僕見たし」自分の手を、私の鼻先間近(まぢか)に持って来る。語気(ごき)が荒いように思うのは、気のせい?

「腰まで、触ってたよ、何回も・・・」

えっ?よっちゃん、何が言いたいの?

「気になるんだ、新人のこと」顔を斜めに向けて、横目で私を見ながら話すよっちゃん。

何?私、なんか変なこと言った?さっきまでのイライラが、一転不安に変わる。

「あ、うん、でも、よっちゃんも気になるって・・・」何故(なぜ)か、言い(よど)む。

 

「僕っわぁっ・・・何かが悪いってっ、言ったよっ!」

明らかに不機嫌(ふきげん)、いや、(おこ)ってる?

「気になるんだよね。好きなタイプなの?一目(ひとめ)()れとかっ?」

は?よっちゃん、何言ってんの?そんな意味じゃないけど・・・。もう、こっちも向いてくれない。

 

この言い方、もしや・・・。

 

(けん)の腕なら、よっちゃんの方が、ず~っと上だよ。よっちゃんは、トップクラスじゃん」満面(まんめん)()みで、よっちゃんを()める。

()()って、何?じゃ、他のことはダメなの?僕」

 

また、怒らせた。

こっちじゃないのか、よっちゃんに引っかかってるのって。

あ~ん、分かんないよぉ~。

途方(とほう)()れて、もう、(つぶや)くしかなかった。

「何か、ヘンなの、フリしてるみたいで」

 

気まずいまま、よっちゃんは、お城に帰って行った。

多分、多分だけど、よっちゃんのことだから、私が言ったことは分かっていると思う。明日になって、顔を合わせた時点で、何もなかったようになってるだろう。『誤解させてごめんね、私、言い方が悪かったよね』とか何とか言えば、大丈夫(だいじょうぶ)な気がする。一緒(いっしょ)稽古(けいこ)しよう。それで(すべ)て解決!と、もやもやを、溜息(ためいき)で吐き出した。

 

後日談

さて、(あん)ずるより()むがやすし、ってこのこと。

翌日の稽古の時、よっちゃんは()け寄って来て、声をかけてくれた。

「この間は、ありがとう」って。

「僕、態度悪かったよね。お腹()いてたのかな」だって。

拍子(ひょうし)()け。

私は、あんなに心配したのに。

なんか、笑っちゃった。




第4章 第1話へ続く。
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