刀と梅干とよっちゃんとわたし   作:眞山紗由美

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叔父が不在の為、よっちゃんが「用心棒」として泊まりに来ることに。
叔父の一言で、何となくよっちゃんを意識してしまったPだが・・・。



お泊りのお稽古
第4章 お泊りのお稽古 第1話 よっちゃん用心棒を拝命


二日間道場を閉め、稽古も休みになった。叔父が招かれて、出稽古(でげいこ)に行くことになったからだ。

「用心棒を雇った」と、言い残し朝早く出立した。

用心棒?何だ?よく分からず、忘れかけていた頃、よっちゃんがやって来た。

「僕ね、用心棒、頼まれたんだ」

そう言えば前日・・・。

 

夕餉(ゆうげ)後、道場の記録を叔父と一緒につけていた時のこと、何故(なぜ)かよっちゃんのことが話題になった。

叔父は、よっちゃんを評する。

『ちょっと弱そうに見えるが、芯のある強い男』・・・知ってる。

『真面目で、忠義に厚い』・・・そうそう。

『ああ見えて、頭が良くて物知り』・・・ああ見えてって、ヒドくない?

『見た目も良い。可愛らしい』・・・まあ、好みはあるだろうけど可愛い顔、してるよね。

「よっちゃん、いい人いないのか?Pは、よっちゃんとよく話をしているみたいじゃないか。聞いてないのか?」

さあ?と首を(かし)げるわたし。何故(なぜ)かドキドキして、ソワソワと落ち着かない気持ちになる。

よっちゃんに好きな人がいるかなんて、そんなこと、考えたこともなかったから。

「実は、よっちゃんに見合いをさせてやろうという話があるんでな。今度の出稽古には、そのことの打ち合わせも入っているんだ。だから、断りきれなかったんだ。

女一人、置いていくのは心配だけど、用心棒を(やと)ったから安心しろ。」

「大丈夫、ありがとう。叔父さん、私が強いこと、知っているのに。ははは。安心して行って」と、答えた。

よっちゃん、お見合いするんだ。ということは、結婚するんだ。周囲も、それを望んでる・・・。

突然、胸の真ん中がぎゅっと痛くなった。何の痛みだ、コレ?ちょっと怖くなるくらいの痛み。どこかでぶつけた覚えもないし、変な物食べた覚えもない。

不安と戸惑(とまど)いが、胸一杯に広がった。

 

「先生、僕なら大丈夫だろうって」

色んな意味で微妙だ。

いや、深くは考えまい。

「ありがとう、よっちゃん。忙しいのにごめんね。お城はいいの?」

兄者(あにじゃ)(※直江兼続)から、今日明日と二日、お休みをもらった」

二日も?ますます申し訳なくなる。

 

よっちゃんは、叔父から話を聞いていたようで、色々と支度(したく)をしていた。

それに、何年も道場に通っているので、私よりも主屋(おもや)の収納のあれこれも心得ていて、びっくりするやら情けなくなるやら。

てきぱきと事を運ぶよっちゃん。(すご)い、感心する、出来る男だ。

「ん?どうしたの?」

気付いたら、じっと見ていたようだ。

「あ~、夕餉(ゆうげ)、どうしようかなと思って」誤魔化(ごまか)す。

いかん、体を動かそう。あらぬ事を考えそうだ。

ご飯作ろう、ご飯。

まだ、牛の刻(※正午頃)なのに夕餉を作り始めた。

 

気合いを入れて作り始めたが、半時(※約1時間)もしないうちに、よっちゃんが台所に駆け込んで来た。

「大丈夫?」

台所には、黒い煙が立ち込め、焦げた匂いが充満している。恐らく、この匂いと煙で、尋常(じんじょう)ならざる様子を察知(さっち)して、来てくれたのだろう。

私は、咳き込みながら窓を開けていた。

 

「ダイジョバナイみたい」

ゲホゲホ言いながら、袖を振ってあおぐ。

よっちゃんは、主原因のお釜を目ざとく見つけ、洗い場へ移し水を入れる。シュ~、ジュッ!!と凄い音がし、白い煙が上がる。

溜息(ためいき)をついてよっちゃんを見ると、鼻にも()っぺたにも、何か黒い物がついていた。

何かの変装のような顔に、思わず吹き出す。

「プッ!よっちゃん、顔が大変」

ふと顔を上げ、私を見たよっちゃんも即座(そくざ)()き出す。

「プッ!Pちゃんも、顔が大変」

二人とも黒く、隈取(くまどり)でもしているような顔になっていたようだ。また、ゲラゲラと笑いが止まらない。

 

水加減も火加減も間違えたらしく、釜は真っ黒。多分米粒だろう、内側に張り付き炭化している。

魚の干物は、(かまど)に落として燃やしてしまったため、(おびただ)しく黒煙が上がったようだ。

「Pちゃん、近くの小料理屋さんに行くように言われてるから、先生に。心配しないで」

優しい・・・よっちゃん。

は~、叔父はお見通しだった。こうなること。

 

自慢じゃないが、私は未だかつてご飯をちゃんと炊けたことがない。

叔父の所に来た時も、初日にやらかして、お釜をダメにしてしまった。

それ以来、叔父が食事作りは全部している。

 

よっちゃんエピソードが、出来た。

叔父に報告しなくちゃ、お嫁さん探しのための新情報と思ったら、うっと、また、胸が痛んだ。

 

自分の体の変化にたじろぎ、胸をドンドン、頭をポコポコと叩いてしまう。

「Pちゃん、大丈夫?」真顔でよっちゃんが(のぞ)き込む。

「頭、痛いの?どこかで打った?それとも煙吸って痛いの?」

すっと、手を伸ばしてきて、指先が胸元に触れるか触れないかの感じになってしまった。

思わず、体がビクッとなる。丁度(ちょうど)(えり)の合わせの部分。触られた感触はないけれど、動揺(どうよう)(おさ)えられない。

「大丈夫!うん!きっと、多分、いや絶対、あ~・・・かも・・・」

意味不明なことを(つぶや)きながら

「顔、洗う」と、言い捨て、井戸端(いどばた)へ走った。

 

手桶(ておけ)の水面に映る顔は、恐ろしい程、オカシイ。この顔、ずっと見られていたのかと思うと、恥かしさが込み上げる。

何度もジャブジャブ水をかけ、こすった。

顔から水が(したた)る。

しまった、手拭(てぬぐ)いを持って来るのを忘れた。

そこへ、ついと、手拭いが差し出される。

よっちゃんは、どこかで洗って、(すで)にきれいになっている。

「ありがとう」

「あ~びしょびしょ」眉を下げながら微笑(ほほえ)むよっちゃん。

袖も胸元も膝も裾も地面も、そこら中、水浸し。

「でも、夏だから、すぐ乾くよ。大丈夫。」

どこまでも優しいよっちゃん。

 

優し気な笑顔を見ていると、聞いてみたいアノことが(よみがえ)る。

「よ、よっちゃん、好き、好きな・・・」人っているの、と言おうとしたが、口からは違う言葉が出ていた。

「ものって、何?あ、ば、晩御飯、何食べる?」

「僕はまだ、大丈夫だよ。Pちゃん、お腹()いた?もしかして、お昼、食べてないの?」

だった、そうだった。

深く(うなず)く。

 




第4章 第2話 よっちゃんとお出かけ
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