刀と梅干とよっちゃんとわたし   作:眞山紗由美

6 / 17
よっちゃんこと樋口与七と一緒にお出かけすることになったP。
二人で、甘味屋に言ったり晩御飯を食べに行ったり。
そんな中、Pは、会う人にトンチンカンな受け答えをしてしまいます。
そんなPに、与七は・・・。

二人と、二人を取り巻く様子をお楽しみください。


第4章 お泊りのお稽古 第2話 よっちゃんとお出かけ

刀と梅干とよっちゃんとわたし

 

第4章 お泊りのお稽古

 

 第2話 よっちゃんとお出かけ

 

黒袴(くろばかま)に白の道着(どうぎ)のよっちゃんを見慣れているせいか、小袖姿(こそですがた)が新鮮だ。袴も肩衣(かたい)も着ていないせいか、不思議と大人びて見える。

私は、明るい(だいだい)色の小袖。

よっちゃんは、深めの緑色。

何となく、二人、取り合わせがいいかなと、気分がアガる。

 

よっちゃんに連れられて、甘味屋(かんみや)さんへ行く。“ウワサの新店”らしい。

お店は大繁盛(はんじょう)。客層は、若い人からお年寄りまで、そして、一人の人も居れば、何人かでというように、幅広い。店の外にも席が用意されていたせいか、それほど待たずに、座ることができた。

 

よっちゃんは、何か、お店の人に伝える。

少しすると、抹茶茶碗(まっちゃちゃわん)(はこ)ばれて来た。フワフワした白い物が上にかかっている。(いぶか)()に思いながらも、お茶碗を(てのひら)()せ、傾ける。一口含み、ゴクリと飲み(くだ)すと、(やさ)しく冷たい甘味(あまみ)と抹茶の香りが口一杯に広がる。

「おっいしいっ!」思わず、大きな声が出る。

「でしょ!?」ちょっと得意気(とくいげ)な満面の()み。

いいなあ、この笑顔。

 

「Pちゃん、ココ、付いてるよ」

言われると同時に、よっちゃんの右手の人差し指が、私の鼻に伸ばされ、何かをくるりと(から)め取られる。

あっと思う間もなく、よっちゃんはそれをペロリ。フフフと笑う。

超恥ずかしい。

よっちゃんにも、同じ物が来る。

よっちゃんのお鼻にも付くかなと、凝視(ぎょうし)していたが、上手に飲んでいた。

残念、お返しできなくて。

 

あべかわ餅、きな粉餅、串団子が運ばれて来る。

「ほら、これも食べて。全部食べていいから」

わっ!嬉しい!凄く美味しそう!

いやいや、こんなに無理でしょ~と思っていたが、串団子は1本、よっちゃんにあげて、後は全部、私が食べてしまった。

 

「Pちゃん、食べっぷりがいいから、見てて気持ちいいよね」

これって、()められてる?

てへっと照れていると、よっちゃんは、お勘定(かんじょう)()ませてしまった。

「僕が誘ったから」と払わせてくれない。

「叔父さんから、お金、預かってるから」と言っても

「じゃ、この次ね」と受け取ってくれない。

困ったな、悪いよね。私の方が圧倒的に食べてるのに。

ん?“この次”って、言ったよね。“この次”って…。

あ、イヤ、社交辞令(しゃこうじれい)か。

そうそう、お城勤めだもん。そういう受け答えは身に付いていて、自然に出てくるんだ…など、考えが頭をよぎる。

 

私達は、甘味屋を後にし、歩き始める。

私は、生まれて初めて体験した抹茶の飲み物に、いたく感動してしまった。

どれほどの感動だったか、そのことを詳しく、よっちゃんに熱弁してしまったため、(おの)ずと二人の歩みはゆっくりとなった。

 

「恋仲の人に聞いたんだ」

えっ?恋仲~?って・・・よっちゃんの?

「家臣のムラさんがね、行ったんだって」

あ、あ~そういう意味ね。何だか、気持ちがジェットコースター。

 

ん?ということは、よっちゃん、事前リサーチ?

「前から叔父さんに、頼まれてたの?今日の私の(ばん)のこと」

「番?ハハハ。Pちゃん、犬じゃないんだから、番とか可笑(おか)しい。用心棒でしょ」

よっちゃんは、ひとしきり大笑いする。

なんか、ウケて嬉しい。

「そうそう、5,6日前の稽古の時にね」

そこから休みを取り、甘味屋をリサーチし…。

何て優しいんだろう。

 

その後、私達は神社へ寄ったり、広場で休憩したり、商店を(のぞ)いたりして、時を過ごした。

小さな路地(ろじ)に差し掛かった。

路地は全体が(かげ)になり、涼しい風が通り抜けていて、気分が良いせいか素直(すなお)な感情が言葉になる。

「よっちゃんと居ると、しゃべっている時も楽しいけど、黙っている時も楽しい。」

よっちゃんは、小さく何度も(うなず)

「うんうんうん、そうそう、僕も」と、キュートな笑顔を向けてくる。

 

同い年?いや、2、3上かな。年下だったりして…。

気にしなくても良いことが、頭をもたげる。

で、聞いていた。

「よっちゃん、歳、いくつ?元服(げんぷく)してるよね」

よっちゃんは、笑いながら教えてくれた。

「私の1つ上だ」

「Pちゃん、若く見えるね」よっちゃんは、目を丸くして、私をまじまじと見た。

“若い”…って。

「まさか、子どもと思ってた?」

「イヤ、それはないよ。あんなに剣が強くて怖い子なんていないよぉ」

「怖い?」思わず、ジロリと見る。

「あ、ごめん、いや、スキが無いと言うか、えっと、()(かく)、強いから…。うん、強いんだ、兎に角ね、そういう意味」

頬を染めながら、言い訳する。

「言われ慣れてるから、気にしないよ」ボソっと口にする。

ますますうろたえる、よっちゃん。

ちょっと、からかってしまった…。

 

路地を抜け、商店街に入る。

金物屋のおじさんと会い、軽く頭を下げると、声をかけられる。

「よっ、Pちゃん!」

「こんにちは、おじさん」

「おや?その人は?()()()かい?」

「うん、そう。よく分かったね」おじさんに、手を振る。

 

あれ?よっちゃん、どうして向こう向いてるの?

「それにしても、あのおじさん、よく分かったよね。私が、お(もち)4つ、串団子2本、食べた事」

よっちゃんが、怪訝(けげん)な顔をして振り向く。

「あんなに食べて、()()()だったこと」

よっちゃんは、また、顔を()らし、何かぶつぶつ言っている。

 

時は、七つを過ぎて七つ半くらい(※午後5時頃)か、小料理屋の前に差し掛かった。少し早いけど、食べて行こうということになった。

店に入ると客はまばら。

恰幅(かっぷく)のいい女主人が声をかけてくる。

「あら、Pちゃん、いらっしゃい。久しぶりだね。あれ?お()れさん?」

「おばちゃん、こんにちは。うん、私、()()()なんだ」

女主人が、()頓狂(とんきょう)な声を上げる。

「へえ~こりゃまた驚いた。一体、いつの間にだい?」

「さっき。甘味屋さん行って」

女主人は、ニコニコ笑いながら、お茶を置いていった。

よっちゃんは、頭を(かか)えている。

日に焼けたのかな、顔が真っ赤。

 

「ここね、美味(おい)しいんだよ。珍しいもんもあるし・・・」

私は、品書きの説明を、頼まれてもないのに、次々にする。

女主人を呼んで、注文する。

「私は天ぷら。よっちゃんは…今日の定食だったよね」

珍しく口数が少ない。

「はい、分かった。それにしてもPちゃん、(すみ)に置けないねえ。フフ、握ってるのは刀だけかと思ったら、男のモンも握ってたんだ」ニヤニヤしながら言う。

「うん、しっかり握ってるよ」と、答えると同時に、お客がぞろぞろと入って来たので、女主人はそちらに対応する。

 

よっちゃんは、卓の上に伏せている。

私は、恐る恐る声をかける。

「よっちゃん、具合でも悪くなった?」

よっちゃんは、そのまま動かない。

「帰る?帰ろっか?」

「いや、大丈夫」

よっちゃんは、伏せたまま答える。

 

ご飯がきた。

よっちゃは、相変わらず真っ赤っか。

「日に焼けたみたいだね」と、声をかけるが、よっちゃんは無言で食べていた。

「天ぷら美味しいよ。一つ、あげようか」と、言っても知らん顔。

茄子(なす)のお味噌汁(みそしる)、美味しいね」と、言っても知らん顔。

散歩しすぎて、くたびれたのかな?

 

叔父さんから預かっているから払うと言うのに、またしてもよっちゃんが支払いをする。

「Pちゃん、頑張(がんば)んなよ」

女主人が私の肩を()みながら、よっちゃんをチラチラ見ながら、言う。

「うん、しっかり握るよ」

よっちゃんは、スタスタと店の外へ出る。

 

()は落ちたが、まだ外は明るい。

遠く、お寺の鐘が聞こえてくる。

私が木刀を握り込む仕草(しぐさ)を繰り返していると、よっちゃんが、ちょっと恥ずかしそうに、そして不機嫌(ふきげん)そうに言った。

「Pちゃん、その手、()めて」

何で?と思ったが、その時ふと頭に浮かんだ事があったので、話した。

「それにしても、おばちゃん、剣術(けんじゅつ)に男も女もないって、まだ分かってなかったね」

よっちゃんが足を止めて私を見る。

「ほら、おばちゃん、木刀とか真剣とかをさ、男が扱うモンって、言ってたじゃない?」

私は、木刀を握り込む仕草(しぐさ)を繰り返した。

「だからっ、Pちゃん、その手、止めて」

えっ?と思う間もなく、よっちゃんは大きな溜息(ためいき)をつきながら、その場にしゃがみ込む。

「Pちゃん、いい?聞いて」

よっちゃんは、地面だけを見ながら、指で文字を書き始める。

私も、(そば)にしゃがみ込む。

「『逢瀬』、おおせ、恋仲の二人が、あちこち出歩くこと。

『旺盛』、おおせい、“食欲”をつけて“食欲旺盛”。

おじさんが言ってたのは、コッチ」

『逢瀬』と書いた所を、指でトントンと叩く。

「Pちゃんは、こっちと勘違いしてない?」

“食欲旺盛”を丸く囲む。

お~!確かにそうだ、びっくり!

 

この雰囲気(ふんいき)、流れでいくと、女主人の話も、何か勘違(かんちが)いか行き違いがあったのか?

 

「じゃ、おばちゃんは?おばちゃんの方は?私、何か勘違いしたんだよね」

よっちゃんは、すっくと立ち上がるので、私も立ち上がる。

「ね、よっちゃん、私、どんな間違いをしたの?」

答えを知りたくて、()め寄る。

 

「あのね・・・」よっちゃんは、口元に手を当て、軽く咳払いをして大きく息を吸い込んだ。

それをゆっくり吐いて、ゆっくり話し始める。

「おばちゃんが言ったのは、“男のモン”。

 Pちゃんが考えたのは、“男が扱うモン”」

 

しばし、沈黙が流れる。

よっちゃんは、あらぬ方向を見ている。

私は、目を4,5回(しばた)かせた。

「で、どう違うの?」

よっちゃんは、ガックしといった感じで、肩を落とした。

「Pちゃん、これ以上は僕の口からは言えないよ」

またしても沈黙。

 

「そうだ!誤解、解かなきゃ」

走り出そうとしたら、手首を(つか)まれ、引き()められる。

「Pちゃん、いいよ、今度にしよう。今度会った時、説明する、で十分。それより、帰ってお風呂に入ろう?」

それもそうだ、()いては事を仕損(しそん)じる、だからね。

納得した。

 

二人、家路に()く。




第4章 第3話 夏の夜
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。