刀と梅干とよっちゃんとわたし   作:眞山紗由美

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与七と二人で過ごす、夏の夜。
“友達”あるいは“稽古仲間”の関係の二人だが
とんでもない事件、発生!?


第4章 お泊りのお稽古 第3話 夏の夜

刀と梅干とよっちゃんとわたし

 

第4章 お泊りのお稽古

 

 第3話 夏の夜

 

お城でも、よく薪割(まきわ)りをしていると言うよっちゃん。

私が、衣服や手拭いなどの準備をしている間、もう火が着いていた。

「Pちゃん、先、入って。僕、熱めが好きだから、しっかり火を起こしたいんだ。だから、後で入るよ」

さらっと言われ、そうすることにした。

「よっちゃん、体洗う時、これ使って」

私は、小さな布袋(ぬのぶくろ)を渡した。

(ぬか)に乾かした花びらや実などを入れている。私の大好きな香り。

母様(かあさま)の香り”と、私は、勝手に呼んでいる。

ふわりと香る小袋を鼻に付けてよっちゃんは

「いい香り」と、微笑(ほほえ)んだ。

 

夏の夜、開け放した窓から風が部屋を抜けていく。

濡れていた髪も乾いた。

肌もさらっとなって、気持ちがいい。

 

髪を()ろしているよっちゃんは、違う人みたい。

風が吹いたり、顔の向きを変えたり、その加減で、はらりと髪が顔や肩にかかる。

叔父は頭を丸めているので、男の人の髪が揺れる様子など、初めて見る気がするせいか、何となく落ち着かない気分になる。

 

私は、道場の記録をつける。『日付、天気は晴れ、稽古無し』今日はこれだけ。

いつもは、誰がどうした、どのような稽古をした、どんな様子だったなど、細かく書いているので時間がかかってしまうが、今日は早々に終わってしまった。

よっちゃんは、本を読んでいる。

チラっと見ると、『新古今(こきん)和歌集』と書いている。

「和歌、好きなの?」と、おずおずと尋ねる。折角(せっかく)読んでるのに邪魔(じゃま)かなと、思ったから。

「うん、僕ね、連歌(れんが)が好きなんだ」

「連歌?」

よっちゃんの説明によると、何人かで、(かみ)の句と(しも)の句を分けて作っていくらしい。

「だから、言葉に敏感なんだ、私と違って・・・」

溜息(ためいき)が出る。

「平家物語は読んだよ。でも、和歌かあ・・・百人一首も和歌だっけ?」

よっちゃんは、目をキラキラさせて、教えてくれる。

「百人一首の『世の中は…』っていう歌、知ってるでしょ。『鎌倉右大臣(かまくらのうだいじん)』は、鎌倉幕府3代将軍の源実朝(みなもとのさねとも)のことなんだよ」

「へえ!そうだったんだ。お寺じゃ、そこまで教えてくれなかった。(すご)いね、よっちゃん。物知(ものし)りだね」

私が、平家物語を読んでいたことを踏まえて、教えてくれる。

賢いうえに優しい、よっちゃん。

「そう?ありがとう。じゃ、Pちゃんも和歌作ってみようよ」

五七五七七?だっけ?

取り()えず、思いついたことを言ってみる。

「『ああ悲しい お腹が空いて 目が覚める 短き夏の夜それなのに』どう?」

「さすが、Pちゃん。百人一首の『夏の夜は・・・』を踏まえたんだね。

悲しいことを悲しいって言わないで、景色(けしき)とか物の様子で表すといいよ。

連歌はね、前半と後半で分けるから、まず、Pちゃんが前半を考えてみて」

よっちゃんは、決してダメって人を否定しない。

まず認めて、その後、直す所を言ってくれる。

人としてスゴイ!ホント尊敬!

 

私が上の句を作ったものを、よっちゃんが手直しをし、下の句をつけた。

「ありがとう、よっちゃん。これ、私の生涯の最高傑作!」

大袈裟(おおげさ)だよ、Pちゃん。フフフ…そろそろ寝ようか」

 

よっちゃんは客間で寝るので、私の部屋のはす向かい。

「危ないから、外向きの窓は閉めとこう」ということで、私の部屋の入り口の襖は開けることにした。

叔父は、そんなこと全然気にしてくれたこともないのに。

良く気が付くな、よっちゃん。さすが、だ。

 

 

その夜、母の夢を見た。

 

いつもの恐い恐い夢。

母は、微笑んでくれているのに、こちらを向いたまま、どんどんどんどん、その姿が遠くなる。だから

「行かないで」と、呼び()ける。

手を伸ばす。手が届かない。

「待って、行かないで」手が握り返される。

母の体が近くなる。

(そば)に居て」引き寄せる。

温かさに、ふわりと包まれる。

「私を離さないで」

母の背中に手を回し、力をこめて抱きしめる。

「大好きなの、大好き。だから」母の(にお)い。

優しく頭を()でられる。安心感に包まれる。 

 

 

朝なのかな、意識が戻った感じ。

あぁ、母様(かあさま)だ。帰って来てくれたんだ。良かった。

母様の胸に顔を埋める。

思い切り息を吸い込み、母様の匂いで体を満たす。

嬉しい。

幸せ。

そして、ふるふると体を揺らし、体を寄せる。

温もりが心地良い。

 

えっ?

 

現実?

ここは、これは、現実世界?

(かす)かな違和感に、目を開ける。

胸、平ら。しかも体つき、ちょっとゴツゴツ硬い。

母様・・・じゃあ・・・ない・・・。

しっかりと抱きしめられていて身動きがとれないので、目だけ動かす。

よく見えないけど、もしかして・・・もしかして・・・。

 

いや、何、この状況?ちょっと待って。

何で?何で?いつの間に?

マズいぞ、覚えてない、何も覚えてない!

 

心臓が凄い勢いで動きだす。

 

もぞもぞと動いたせいか

「う、う~ん」と、その人が小さく声を出す。

間違いない!

この声は、よっちゃん!!

気付いた途端(とたん)に、はね起きていた。

やっぱりよっちゃん。一体全体、何が起きたのか?

「あ、Pちゃん、おはよ。早いね。もう起きたの?」

凄く冷静、よっちゃん。

「まだ、早いよ。もう少し、寝てなよ」

腕を引かれ、何故(なぜ)か、よっちゃんの腕の中。

イヤイヤイヤイヤ、違うよ、違う・・・?とか、ない?いや、あるけど、あ~パニック!

よっちゃんは、すやすや寝息を立て始めた。

 

やっぱり無理、と起き上がる。

よっちゃんは寝返りを打って、向こうを向く。

私は、前日に枕元に置いておいた衣服を持って、音を立てないように部屋を出た。




第4章 第4話 Pの生い立ち 
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