刀と梅干とよっちゃんとわたし   作:眞山紗由美

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叔父が画策していた、よっちゃんのお見合い。
Pは、お見合い相手を廊下の向こうに見つけます。

その様子は?


乗馬のお稽古
第5章 乗馬のお稽古 第1話 よっちゃんがお見合いをした


刀と梅干とよっちゃんとわたし

 

第5章 乗馬のお稽古

 

 第1話 よっちゃんがお見合いをした

 

お盆近くのお城の稽古日。

謙信様の(はか)らいで、お盆休みを取る家臣も多く、鍛錬場はいつもより人が少なかった。

よっちゃんは、稽古に来ていない。「珍しいな、お盆休み、取っているのかな?」と思っていたら、来客らしく、急にお城の中がバタバタし始めた。

休憩となり、廊下に出ると、向こうの廊下を豪華な一群が歩いている。

老中ぽい人や、女中(がしら)風な人に囲まれて、ひときわ美しい人がいた。薄桃色の打掛(うちかけ)をなびかせて、すべるように歩いている。明るい赤色の小袖には、金銀の花の刺繍(ししゅう)(ほどこ)されており、顔の白さを引き立てていた。(かんば)しい香りが、風に運ばれてきた。

 

ほ~と見ていると、家臣の一人が教えてくれる。

「よっちゃん、お見合いらしいですよ」

へっ?お見合い?てことは?け、け、け、結婚?!

「そうなんですねえ~」ヘラヘラ笑いながら、まるで礼をするように上半身を折り、大袈裟(おおげさ)なリアクションをしてしまう。

 

よっちゃんが、結婚…。そう言えば、叔父が何か画策(かくさく)してた、アレか。よっちゃん、お嫁さん、もらうんだ。何だか呆然(ぼうぜん)としてしまう。その途端(とたん)に胸の中心が、ズキッと痛んだ。思わず「痛っ!」と声を上げてしまうくらい。軽くトントンと叩いてみた。

あ、よっちゃん、兼続様に手を引かれている。ちらっとこっちを見て、目が合ったから、(こぶし)を作り前へ突き出した。「ガンバレ」って。

よっちゃんは、大きく(うなず)き、私がしたのと同じように、拳を作り前へ突き出す。

そして、奥へ消えて行った。

 

「先生~、後半、いきましょう~」場内から呼ばれ、私は稽古に戻る。

 

稽古に参加している人数が少なかったため、密度の濃い稽古になった。しかも、この暑さ。半時程(※約1時間)で終えた。

皆さんと挨拶して、廊下へ。

場内が暑かったせいか、涼しく感じる。もう、汗だく。

 

おやっ?さっきのお姫様だ。足早に、さっきとは反対の方へ向かっている。帰っているのかな?まだ、あれから半時くらいしか()ってないよ。それに綺麗(きれい)なお顔が、斜め上を向いて。もしかして、怒ってる?周りの人達も、バタバタ走りながら、お姫様に声をかけてる。何て言ってるのか分からないけど。あんまりいい感じじゃあないな・・・。

 

「あんた達、いいの?こんなんで」

いつの間にか、かっきーが寝転(ねころ)がっている。

“達”?達って、誰達のこと?私は、今、一人だけど?もしかしたら、私が姫様達を見ていたことを言ってるのかな?何か勘違いされるのは嫌だし、はっきりさせたいと思ったから、思い切って聞いた。

「よっちゃんのお見合いのことですか?」

また、胸の中心がズキッとする。イテテと押さえる様子にかっきーは

「ふう~ん、なるほどね。医者でも治らないヤツだ」と、ニマリと笑う。そして目を閉じると、すぐに寝息を立て始めた。

クールなイケメン、カッコ良すぎ。

 

向こうの廊下では、まだ騒ぎが続いていて兼続様が老中のような方に、しきりに頭を下げている。

あっ、よっちゃん見っけ!兼続様の後ろに小さくなって隠れてる。

『あんた達、いいの?こんなんで』なぜか、かっきーの言葉が耳の奥でこだまする。

 

春日山城は高い所にあるのに、井戸水に事欠かない。“そういう仕掛け”で作っているという井戸のお陰だそうだ。

稽古が終わって着替える頃、弥彦がいつも手桶にこの水を汲んで持って来てくれる。本当に良く気が付いて優しい子。

私は、そこに“母様の香り”として作っている小袋を()ける。そうすると、水に香りがつく。この水で体を拭くと、身も心もさっぱりして、(よみが)る感じがする。

 

そうだ、と思い弥彦に打ち明けた。

「ねえ、ここがズキッとすることがあるんだけど」

胸の(まさ)に谷間に、拳を作ってその場所を示す。

「かっきーはね、医者でも治らないヤツって言ってた」

納得のいかない顔をしている私に、弥彦は

「いつ、どんな時になるの?」と尋ねる。

 

私がここに稽古に来て、最初に水を汲んで来てくれた時に、弥彦に「何で男身なりなの?」と“(あば)いて”から、二人きりの時はガールズトークになる。

 

「よく分かんないんだよね」

「いつ、どこで、ううん、()()のことでそうなってると思うよ。例えば、記録を取るとかして、客観的に考えてみたら?“誰か”が、ポイントよ」

弥彦は(こぼ)れるような()みを浮かべて言ってくれた。

 

「誰・・・か・・・。人間関係のストレスかなあ・・・」

 

襖を大きく開け

「弥彦、ありがとう!」と、送り出す。

 

あっ、よっちゃん。

弥彦と入れ違いに、よっちゃんが来る。

「弥彦と仲いいの?」

へっ?あ~、女同志だからね、とか言えないので口ごもりながら、答える。

「水桶、持って来てくれるの」

「いつも?」

「うん、いつも」

「着替えとか、手伝ってもらってるの?」

やけに、突っ込んで聞くなあ。

「ハハハ、子どもじゃあるまいし。持って来て、置いたらどっか行って、しばらくしてまた来て、持って行ってくれる」

「そっ!」やっと笑うよっちゃん。

 

「ね、この後、出かけない?謙信様、みんなに暇をくださったんだ」

別に、用事は無い。

「いいよ」

「じゃ、行こ!」

心なしか、よっちゃんが上機嫌に思える。

もしかして、お見合いが上手くいったのかな?

 

うっ、また胸が痛い。




第5章 第2話 馬に乗って丘へ
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