一般男子ゲヘナ風紀委員の奮闘日記   作:Ringseiran

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四話 ”邂逅”

鳴り止まぬ銃声と怒号、後ろから狂ったかのように追いかけて来るスケバン達、どれだけ走っても抜けられそうにない路地裏。

 

一人のゲヘナ生徒が、トリニティ生徒を抱えて走っていた。

 

他でもない、カリヤだ。

 

「チッ、まだ追って来てるな……って危な!」

 

休む暇など与えられず、一瞬でも足を止めれば被弾する。そんな弾丸の雨を道を迂回することで回避しつつ、ここは何処だろうと思考する。正規ルートからは随分前に外れてしまった。それからは縦横無尽に走っている。後少しでブラックマーケットは抜けられるのか、それとも奥深くに進んでいるのか、それさえももう分からない。

 

対してあちらはマイホーム、土地勘があるのだろう。何度も回り込まれては危うく捕まりそうになる。

 

「ヒフミさん、通信障害は復活した?」

「いえ……残念ながら…こんな事今まで無かったのに……」

 

最後の希望であるスマホのマップも、ここが連邦生徒会の手の届かない場所だからか、随分前から機能していない。

 

「うう……ごめんなさいカリヤさん…私が油断したばっかりに…」

 

先程からカリヤの小脇に抱えられているヒフミが、自分の不甲斐なさを嘆き出す。

 

「いやいやあれはどうしょうもないでしょ、目があっただけで脅迫の上に誘拐宣言とか、どうしろって言うんだか」

 

目が合うだけで絡んで来るスケバンなど、キヴォトス中何処にでもいる。だが、厄介だったのはその後だ。

 

あのスケバン達、初めは難癖つけてだる絡みしてきただけだった。しかしヒフミがトリニティ生徒だと気づくやいなや、逆恨みと言わんばかりに目の色変えて攻撃してきたのだ。

 

挙句の果てにはカリヤとヒフミを誘拐して、身代金をマンモス校二校に要求してやると意気込み出した。

 

最初は交戦していたカリヤだが、多勢に無勢では埒が明かないと判断し、今は逃亡に切り替えている。

 

だが、それが悪手だった。

 

「クソッ…地の利はあっちにあったか…しかもこんな時に限って通信障害かよ」

「不運は続きますね…」

 

走っても走っても裏路地。

そろそろ見飽きた景色に、カリヤは嫌気が刺してくる。それに、そろそろ息もきれてきた。せめて大通りに出られれば、ヒフミを隠してカリヤが一人で暴れられるが、どこまでも続いているのは細道だ。

 

「あの…私、やっぱり自分で走りましょうか?」

「大丈夫!こっちの方が早いから!」

「はい…すいません…」

 

日頃から戦闘で気絶した後輩を何人も背負って戦線から離脱しているカリヤにとって、ヒフミ一人抱えて逃げる事なんて朝飯前だ。なんならヒフミと一緒に走るより彼が抱えて走った方が早い。

女の子の重さはA4用紙一枚分とはカリヤの談である。

 

とはいえ流石に何分も走っていれば息もきれる。

 

そろそろ大通りに出たいと考え始めていると……

 

「あ!カリヤさん!通信障害回復しました!!」

「ナイスタイミング……!案内よろしくヒフミさん!」

「任せて下さい!!」

 

噂をすれば何とやら、噂はしてないにしてもありがたい事だった。ようやく運が回ってきたかとカリヤは安堵する。

 

しかし、そう上手く事が回らないのが現実である。

 

「あそこを右折です!そうすれば大通りに…出ら、れ……」

「一歩、遅れたか…」

 

いつの間に周り混んでいたのか、決して少なくないスケバン達が前方を塞ぐ。

 

まさに絶対絶命。

カリヤに抱えられながら、顔を青ざめ絶望するヒフミ。それでもカリヤは、何の問題も無いとヒフミの頭を撫でて、笑ってみせた。

 

「諦めないでヒフミさん、俺を信じてしっかり歯食いしばってな」

 

傍から見ればまるで腰に抱えた太鼓を撫でているような動作だ。それでもカリヤの行動は、例え痩せ我慢であっても、ヒフミを無条件で安心させた。

 

どうして、何の根拠もない言葉を信じられたのか、

 

何故、こんなにも安心するのか、

 

今のヒフミにそれは分からない。

 

しかし、後に彼女は語る。

 

きっとそれは、

 

彼が一度

 

自分を助けてくれたからだと、

 

 

「行っくぞおぉ!!!」

 

今カリヤに出せる、全力疾走。

ただ勢いと力に任せた無策の突進か、否、天使カリヤはそんな無謀な選択はしない。常に模索し、最善を目指す。

 

狙うは一か八かの立体機動(パルクール)

 

それは、かつてカリヤを撒いたゲヘナ生徒が見せた逃走技術。

見よう見まねのぶっつけ本番。

 

しかしカリヤは、失敗の想定などしない。

 

故に、奇跡は起こった。

 

一度目の跳躍はスケバンの頭に向ける。

 

そのまま勢いを殺さず二度目の跳躍。

 

そして、カリヤとヒフミは宙を舞った。

 

「私を踏み台にした!?」

 

頭で跳躍されたスケバンは驚きつつも、人二人分の重さに耐えられず転んでしまう。そしてドミノ倒しのように倒れていくスケバン達。

 

まさに棚からぼたもち。

 

その隙を見て、カリヤとヒフミは大通りへ出た。

 

「危ねー!!ナイス俺!凄い俺!どうにかなった!やってみるもんだなー!!」

「い、今、一体何が…?」

 

自分を自分で賞賛するカリヤと、起こったことに脳の処理が追いつかないヒフミ。二人とも反応は違えど何とか窮地は脱することが出来た。

 

「よし!あの様子なら少しの間追ってこない、今のうちにできるだけ距離を…」

「待てー!!!」

 

一難去ってまた一難。他の通路から追ってきたスケバンがすぐに二人を捕捉し、捕まえんと迫り来る。

 

「マジかよ…!」

 

早くも第二ラウンド開始のゴングがカリヤの脳内に鳴り響く。

 

だが、そこで感じた違和感。

 

僅かに、足から感じる痛み。少し体制が崩れる。

 

「カリヤさん!もしかして捻挫を…!」

 

体を運ばれていたヒフミはその感覚を敏感に感じ取り、急いでカリヤから降りる。

 

「肩貸します!動けますか!?」

「悪い…」

 

ヒフミに肩を貸してもらい、威嚇射撃をしつつ距離を取るカリヤ。

 

跳躍が成功して暫くはアドレナリンのおかけで痛みは感じなかったが、それが終われば残っているのは苦痛だけだ。

 

「流石に調子に乗りすぎたか…」

 

上手くやったと思っていたが、そう簡単ではないようだとカリヤは落胆する。

 

最早逃走は不可能だろう。

 

それでも、時間稼ぎ程度ならやれる筈だ。

 

風紀委員支給のライフルに、新しく買ったバヨネットを付ける。

 

「ヒフミさん、ここを1キロくらい走り続ければ、ブラックマーケットを抜けられる」

「え?」

「ここはどうにか時間稼ぐから、人数増える前に早く逃げて」

「い、嫌です!カリヤさんを置いては行けません!」

「ダメ、このままじゃ共倒れになる。ヒフミさん一人でも逃げ切れば助けを呼べるかもしれない」

「でも…」

 

カリヤは分かっている。トリニティ生徒であるヒフミに、こんな事を言うのは酷だと……

 

いくら心優しいヒフミでも、その周りの人間まで無償でゲヘナ生徒を助ける程優しい人などそうそう居ない。ワルキューレに頼んでも、連邦生徒会の管理が行き届いていないブラックマーケットに、易々と出勤してくれるとは限らないだろう。

 

だからここで別れると言うことは、実質的な決別。

 

我ながらなんとテンプレな展開だと、カリヤは内心苦笑する。

 

しかしこれくらいしか、今の自分には出来ない。

 

なんともまあ情けない事か、苦手な癖にトリニティ生徒を助け、その結果余計にアコ先輩やヒナ委員長に迷惑をかける事になりそうだ。

 

イオリやチナツには、怒られるかもしれない。

 

また仕事を増やしてしまう。

 

無理をさせてしまう。

 

それだけが、どうしようもなく悲しかった。

 

「いいから……周れ右してさっさっと走れ!!」

「ひっ…」

 

ネガティブな思考に連動するように口調も荒々しいなる。だが、それでヒフミが逃げてくれるなら、カリヤはもっと声を荒らげる。

 

「何してんだ!!早く逃げ「…嫌です!!」…は…?」

 

カリヤはその瞬間、信じられない光景を目にした。

 

「私も、御一緒します!!」

 

トリニティ生徒が、ゲヘナ生徒を庇って戦っている。

 

見捨てもせず、盾にもしない。

 

自分の怪我を顧みず、恐怖を前にして尚逃げようとしない。

 

そんなトリニティ生徒が、カリヤの前に立っていた。

 

阿慈谷ヒフミが、立っていた。

 

そんな彼女見て、どうして逃げろと言えるだろう。

 

言える筈がない。

 

それがカリヤには、どうしようもなく嬉しかった。

 

 

 

それは奇跡(邪道)、本来は交わらぬ者同士の邂逅。

 

 

 

しかしそれは、確かにここにある。

 

 

 

そして……

 

 

 

「もう大丈夫、よく頑張ったね、後は任せて」

 

 

 

奇跡(邪道)があるなら、運命(王道)も、きっとここにはあるのだろう。




日記はおやすみ
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