不思議な背中だった。
「もう大丈夫、よくがんばったね、後は任せて」
俺とヒフミさんを庇う様にして掛けられた言葉。
銃声や怒号が飛び交う中で透き通りはっきりと聴こえたそれは、ほんの一瞬ここが戦場だと言う事を忘れさせた。
その男性の頭上にはヘイローが無かった。
それどころか、銃の一丁さえ装備している様には見えない。ただタブレットを一つ抱えているだけだ。だが不思議と、銃弾は一発も被弾していない。
俺より少し高いであろう身長の男性は、堂々と俺達の前に立っていた。
彼が何者かは分からない。
しかし、現状は手詰まり。
今最も欲しいのは、
━━━━━━━━━━━━━第三者の介入。
「敵は約40人!今攻撃してきてるのはその半分!まだまだ路地から増援が来る!」
彼が何者であるかはこの際問題ではない。
こちらに友好的なら助けてもらわない手は無いだろう。
「ん、了解」
「!」
更なる増援。
おそらくあの男性の仲間だろう。何処の学校だろうか、同じ制服を着た四人の生徒が参戦してくれる。願ってもない助っ人だ。
今すぐにでも彼女達にハグしたい気分だが、状況的にも社会的にも不味いからやめておく。
四人の生徒に前衛を任せて、ヒフミさんに肩を借りながら遮蔽物がある方へ後退する。
一瞬男性の顔が見えた。その瞳は、真っ直ぐ敵を睨んでいた。
俺達が怪我をしていたのを見たからか、初対面だと言うのに、俺達の為に怒っていた。
少し驚いたのも束の間、男性の指揮の元戦闘が始まる。
ヒフミさんと身を隠した俺は、日記を開いた。
☆
【⠀△月★日 (火)】
やらかした。
ヒフミさんと帰宅途中スケバンに目をつけられた。
正義実現委員会や風紀委員に恨みがあるらしい。散々追いかけ回された挙句足を捻挫して捕まりかけた。一生の不覚だ。
たまたま通りかかった通行人が助けてくれなかったら今頃二人揃って監禁されていただろう。その上身代金目的の人質として利用されるなんて冗談じゃない。あれ以上アコ先輩と委員長に迷惑をかける訳にはいなかない。
少し疲れた。足も痛い。早く帰ってチナツに治療して貰いたい。
こんな事になるなら、撤退など考えず多少怪我してでも無理やり戦闘を継続していれば良かった。ヒフミさんだって少しの被弾くらい多めに.........
ダメだ
先輩達に迷惑をかけたくないのは、あくまで俺の都合だ。それを理由にしてヒフミさんを顧みないなんてことは許されない。任務成功の為に他の被害を無視していたら一生治安は良くならない。それはゲヘナで風紀委員をしている限り、忘れちゃいけないことの筈だ。
疲労か怪我の痛みのせいか判断力が鈍って考えが極端になっている気がする。
一度冷静になって、素数でも書いてみよう。
2、3、5、7、11、13、17……
☆
「……カ……さん…、カ…ヤさん…、カリヤさん、大丈夫ですか?」
「………あ、ご、ごめんヒフミさんどうかした?」
日記を書く手を止めヒフミさんに意識を移す。
自分が思っていたよりも集中していたらしい。なかなか呼び掛けても応えなかった俺を見て、ヒフミさんは少し心配そうにこちらを覗いていた。
「えっと…すごく険しい顔で何か書いていたので、大丈夫かなと…」
「ああ、これ?」
少し不審そうに日記帳を見ていたヒフミさんに、ただの日記だよと表紙を見せる。するとヒフミさんは、何故こんな時にと不思議そうな顔をした。
理由を話そうとして、言葉に詰まる。
何故俺は、日記をつけているのだろう。
先輩に貰ったから。いや、それは日記をつけ始めた理由だ。今現在、ここが戦場にも関わらず呑気に日記をつけている理由にはならない。
自分でも疑問に思い。日記帳を見つめる。
一週間前にアコ先輩から貰って以降、ずっとつけ続けている。飽き性で三日坊主の俺を見かねて、わざわざ買ってプレゼントしてくれた日記帳だ。弾丸で穴でも空けられたら先輩に申し訳なくて合わせる顔がなくなる。
戦闘に何度も巻き込まれたのにも関わらず、傷一つ着いていない表紙。内ポケットに大事にしまっていたかいがあった。
思い返してみればこの一週間、面倒くさがりもせずに日記をつけていた。いつもの俺なら一週間も持たず、ほんの数日で止めていただろう。
不思議にこそ感じても、不快には感じない。
日記をつけ初めて気付けた事もあった。
それは、先輩達の苦労。今まで全く気付いていなかった訳では無い。しかしいざ体験した事をそのまま文字に起こしてみると、改めて実感する事や疑問に思う事があった。
あの二人は無理し過ぎなんだ。
毎晩夜遅くまで残業をして、時には徹夜で学校に残っていることもある。風紀委員会は、あの二人に頼り過ぎていた。
どんなに優秀で学生離れした二人でも、疲労は溜まるし病気にもなる。限界が来てからでは遅いのだ。
誰かが変えなければならない。
そこまで考え、やっと気付いた。
俺はこの気持ちを忘れてはいけない。だから、書き続けているんだ。二人の苦労を忘れないよう。
少しでも俺が彼女達の助けになれるように。
「あの⋯⋯」
ヒフミさんが心配そうにまた俺を見つめる。
また長く思考にふけってしまった。ごめんごめんと話を続ける。
「これは⋯俺が風紀委員をやっていくために、どうしても必要なんだ。もっと強くなって風紀委員として活躍出来る様になる為の物って感じかな・・・でもまあ、流石に戦場で書く物じゃないか」
ヒフミさんの疑問もごもっともだ。どんな理由があっても、日記は戦場で書くものじゃない。
少し反省して、懐にしまう。
手持ち無沙汰になると、話していたから忘れていた足の痛みを思い出す。包帯の一つでも持ってこればよかったと後悔するが、初めての単独任務でそこまで気が回らなかったのだからしょうがない。次からは必ず応急処置キットを持ってこようと、足をさすりながら心に決める。
そんな俺の様子に気付いたのか、ヒフミさんがバックを下ろし何か探し始めた。
しばらくして彼女は、その特徴的なバックからメディカルポーチを取り出した。
「さっき怪我してましたよね?足出してください、治療します。と言っても冷やして固定するくらいしかできませんけど⋯」
そう言ってヒフミさんは、申し訳なさそうに冷却スプレーと包帯を用意する。
「そんな⋯!十分だ!」
メディカルポーチを使わせて貰えるだけでもありがたいのに、わざわざ治療して貰えるのだ。正直包帯を自分で巻くのが苦手な俺にとって、ありがたい事この上ない。
ヒフミさんが俺の足に優しく触れる。少しドキッとするが、これはきっと冷却スプレーが冷たいからだ。そういう事にしておこう。
「器用だね」
包帯を巻くヒフミさんを見て素直な感想を口にする。
「これくらい普通ですよ」
「そんな事ないよ。俺はこんな綺麗に包帯巻けない」
巻き終わるのを見届けて、ありがとうと感謝を伝える。まさかゲヘナ生徒である俺がトリニティ生徒からこんな風に治療をしてもらえる日が来るとは思ってもいなかった。
「感謝しないといけないのは私の方です。何度も助けてもらったんですから、これくらいしないと割に合いません⋯!」
今度はヒフミさんからありがとうと言われる。俺がした事なんて道案内と抱えて逃げた程度だ。正直その場の流れでした事ばかりで、もしかしたらもっと良い方法があったかもしれない。
それどころか、俺がいなかったらヒフミさんが絡まれる事も無かったかもしれない。
この腕章が目立っていたせいでこんな事になったのかもしれない。
そう考えると、感謝を受け取っていいのか迷ってしまう。
しかしヒフミさんは俺にありがとうと言ってくれた。文句一つ言わずに俺がいたから助かったのだと言っていくれた。それでも感謝を受け取らない程、俺はひねくれてなどいない。
だから今回は、素直に受け取る事にした。
「ああ、どういたしまして」
天使 カリヤ(あまつか かりや)
ゲヘナ学園2年生
部活 風紀委員会
年齢 16歳
誕生日 8月30日
身長 173cm
趣味 ペット動画鑑賞、日記
容姿 若干青みがかった黒髪、瞳の色は薄い青。幸薄だが整った顔立ちをしている。
使用武器 ゲヘナ風紀委員支給のライフル
基本情報
ゲヘナ学園所属、自称一般風紀委員。
真面目な性格である為多くの風紀委員から信頼されている。戦闘技術も折り紙つきで下手をすればイオリよりも強いかもしれないと風紀委員達の間では噂されていが本人は否定している。一方飽き性な所があり仕事関係以外の事はあまり長く続かない。銃撃戦が長続きすると焦れったくなり銃撃を付けて近接戦闘を始める癖がある。
元ネタというか裏話
ゲヘナ生徒の元ネタはゲヘナと言うだけあり悪魔です。具体的にはソロモン72柱の悪魔と言われていますね。例えばヒナ委員長の元ネタはソロモン72柱第一位のバエルです。
それに便乗して主人公にも何か元ネタを付けようと思い色々考えた結果、ソロモン72柱第8位バルバトスが元ネタとなっています。
バルバトスの別名は力天使や主天使です。そこから貰って苗字を天使(あまつか)。そしてバルバトスは狩人の姿で現れると言われているので、狩人(かりや)という感じです。
誕生日もバルバトスに関連した数字になっています。
他にも考えている事はありますが、確定していないので今回はこの辺で。
P.S.もし原作にバルバトスが元ネタの生徒がいたらごめんなさい。その時は主人公の同席を許して…