犬剣士   作:zaq2

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零:お役御免と、相成り申した?

 朝日が昇り、王都の活気が置きだす前、宿泊している宿の庭にて自身の得物となる刀を振り上げ……

 

 下ろす。

 突きだしては、戻す。

 

 素早い所作ではなく、身体の動きを確かめる様に、ゆっくりと確実に、思い描いた奇跡をなぞる様に動作をさせる。

 

 いうなれば、"型"という奴である。

 

 朝一番というか、起きてからコレをやる事が日課となっている。

 

 数百年、いや、幾千年単位で行っている為に、今更な確認動作ではあるが、コイツをやらない事には何かとシコリが残る感じがあるというか……

 

 

「師父、これをどうぞ」

「おぉ、ありがとな」

 

 

 一通りの型稽古が終わると、水で冷やされたオシボリを渡される。

 

 渡してきたのは、偉丈夫のトンガリ耳をした男性。

 

 貫頭衣姿ではあり、身体の線がはっきりとわからないと、見た目というか中性的な顔からは「女」にみられるのだが、これでもれっきとした男である。

 

 

 本人に、そのことを指摘すると不機嫌になるので、言わないが仏であるが──

 

 

「今日で3週間目になります。本当に"コト"が起きるのでしょうか?」

 

 

 声色も、中性的な音であるために、さらに勘違いをする輩がいたな~と、会話内容とは違う思考に一瞬陥ったが、すぐに修正をしては。

 

 

「なぁに、起きなきゃ起きないでいいさ。ただ、追い込まれた鼠が、どう動くかはわからんがな」

「それは、そうでしょうが……」

 

 

 考えるそぶりをするトンガリ耳をよそに、顔から首回りまでをオシボリで拭う。

 少し、ひんやりとする程度に調整しているあたり、トンガリ耳らしいっちゃらしい代物であると感心する。

 

 

「そう深く考える必要もあるまい。儂が動くのは"コト"が起きてからなのは変わらん」

「それはそうですが……」

「雑念が多すぎるのも、良くはないぞ。どれ、少し相手をして「本当ですか!?師父!!」」

 

 

 こちらの会話にかぶせる様に、目をキラキラさせていた姿は、まるで"子供か!"と言いたくなるような表情である。

 

 声を上げない笑う表情になりながらも、空間から練習用にとしている木刀を取り出しては投げ渡す。

 

 それを受け取っては構えをしては向き合うが、こちらは鞘付きでいいかと思いながら何時でもどうぞ?と促す。

 

 

「では、胸をお借りします!師父!!」

「気負いすぎるなよ?」

 

 切りかかってくるトンガリ耳だが、直線的……に見せかけて囮動作を入れてくる。

 まぁ、そうだろうな。と、目で追うだけで先を読めるんだよなと、木刀を受け流していく。

 

 

 一合、二合、三合

 

 

 一般的なトンガリ耳ならば、弓術や精霊術に長けるのだが、こやつはなぜか剣術を切望した。

 本人の希望と"頼まれ"とで面倒を見ては数百年と立ってはいるが、実際に筋は悪くはない。

 

 

──"悪くはない"ではないな、ここまで鍛えれたのならば"最良"でいいだろう。

──及第点は超え、合格点でもある……

 

 

 ふと、過去の自分の様に、才能が無いなりに足掻き続けて身に着けた剣術()()()より、トンガリ耳の方が剣術をしていると認識できる。

 

 踏み込みから一撃と加えんとするのも解るが、万年も超える時間、刀を振り続け、幾百という相手と死合っていたからの経験則で対処しているに過ぎない。

 

 

──まぁ、こちらは経験から、相手が稚拙に見えてしまうが、さらに向上する余地は十二分ある……か

 

 

 そう関心しながらも、その剣を"後の後"で対応していく。

 

 宿の方から誰かが庭に出てくる気配を感じ取り、そろそろ終わらせるかとスキの様なしぐさを見せつけると、"重撃"と叫ぶトンガリ耳を他所に、その一撃を"誘導"する恰好で空ぶらせては首筋に手刀を軽く当てる。

 

 

「ま、こんなところか」

「まいり……ました……」

「ふむ、掛け声で気合を入れるというのは悪くはない。悪くはないが、それが手の内をさらけ出す、という愚直にまでの合図になってしまってるのは頂けんな」

「で、ですがそうしないと、"重撃"が……」

「それが未熟な証拠ってところじゃな。そういうのから脱却できることが、目標といったとこかの。現にホレ」

 

 

 と、無動作から先ほど撃とうとしていた"重撃"なる物を自然体から模倣しては軽く打ち込む。

 すると、地面が揺れては、一撃を加えた個所が陥没していた。

 

 

「とまぁ、こういう方法だな」

 

 

 その威力の結果を、トンガリ耳はまざまざとみせられ、驚くと思ったのだが

 

 

「はい、師父!!勉強になります!」

 

 

 と、これまた子供の羨望のまなざしの如く返してくる。

 まぁ、素直なのは良い事ではあるのだが、あまりにもこちらを妄信しすぎているのが……

 

 

「こらーーー!!お客さん!!!そういう事しちゃだめでしょ!!!」

「おっと……」

 

 

 と、宿の勝手口から怒鳴り込んでくるのは、この宿の元気なお嬢さんだ。

 

 

「お、おぉ……すまんすまん、少し教えを……とな」

「大変申し訳ありません。セティ嬢」

「い、いえ、そんな、ライラさんが分かってくれたなら、はい、それでいいです!!」

「おいおい……それでいいのか、お嬢さん」

 

 

 人族の彼女は、トンガリ耳にゾッコンであるのは誰が見てもわかる状況である。

 なにせ、人族の目が独特の意匠に変化している様に見受けてしまうぐらいなのだが……と、呆れていたらコチラに視線を投げつけてきた。怒りの表情で。

 

 

──戻しておくか

 

 

 凹んだ地面に軽く鞘を突いては、土術を発動しては凹んだ地面の地ならしを完了しておく。

 

 

──ふむ、これでよしと。

 

 

「直してくれたから良いものの、そこの犬のお爺ちゃん!わかりましたか?!」

「お、おぅよ・・・」

 

 

 と、まぁ、凹んだ地面を元に戻しても、この対応である。

 

 まぁ?

 元気な孫娘を見ていると思えば、カワイイものであるなと、ほほえましく見てしまっているのだが。

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

「それで師父。今日はどの様にされますか?」

「そうだな……ここまで動きが見えてこないと、もう終わったとみてはいいかもしれんな」

「私もそう思います。では、次の地へ向かうための旅支度とされてはいかがでしょうか?」

「うーむ、そうするか」

 

 

 そうして、次の地へ向かう計画を練り始めた時

 

 

「!!」

「やっとお出ましか」

 

 

 この首都に、歪な力が空気に混ざっては充填しているのを感じ取る。

 さしずめ、この首都の民を触媒にどうこうするという事であろうか。

 

 

「宿周辺と住民街は細工をしているので無事ですし、スラムの方は範囲外の為、影響は少なそうですが……」

「貴族街の方はワシ等では簡単には入れんからのぉ、仕方あるまいて……ま、警備が行き届いている場所でもあろうし、結界防御もありだし、しばらくは持つじゃろうて」

 

 

 そう、身分によって町の層が区切られているため、身分の保証がない自分らが容易く入りこむことはできていなかった。

 だが、彼らは彼らで、何かしらの対策は行っているはずである。

 現に、うっすらと結界陣が構築されている建屋も見受けられていたのだから。

 

 

「さてと、ワシ等の仕事といきますか」

「はい、師父」

 

 

 全身が隠れる様な外套を纏い、耳穴が空いている円の広い帽子を深々と被っては帯刀する。

 トンガリ耳は、軽装なマントを繕い、見た目魔導士風の恰好として落ち着く。

 

 

「ライラは、ここいら周辺の安全確保を強化しておけ。わしは、この状況の元を断ち切ってくるわ」

「わかりました」

「周辺の安全が確保が出来たならば……あとはいつものように臨機応変という事でよかろう」

「では、その様に」

「まかせた。では」

「お気をつけて」

 

 

 部屋の窓から飛び出すように王都の街の中へと身体を潜らせる。

 左目の眼帯を外しては、向かうべき場所を見極めては、屋根の上を軽業師の様に走り抜ける。

 

 

 

 目指すは、王都の中央にある、金突き堂がそびえたっている建物である。

 

 

 

     *     *     *

 

 

 眼下に起きている状況を簡潔にいえば、いま王都に異変を起こしている元凶になる相手と、それに向かい合うように、一つの小隊が向かい合っては、一触即発な状況となっていた。

 

 

──さてはて、どういった状況になるのやら

 

 

 と、天井の梁に腰を下ろしてやり取りを眺め見る。

 ここはどこかといえば、王都の中心にある大聖堂の中。

 

 

 屋上の金突き堂から降りていけば、たどり着いた広間にいたのは、物語でいうところの"悪"と"善"の戦いが始まろうとしているとでもいうべき状況であった。

 

 

──ふむ、まだ始まってはおらんが……さてはて、このまま状況が落ち着くか、悪化するか……

 

 

 気配を完全に殺して状況を傍観する。

 

 

 問答が終わったのか、戦闘に入る両者。

 人数が多いために一方的な展開になるかと思ったが、魔法障壁による防戦一方の集団。

 

 かたや、白い法衣を着ていた方は、光魔法にて隙なく攻撃を繰り出し、その障壁を崩さんとしている。

 

 

──あの魔法、人の身で御しきれるモノでもないが、放出して維持という感じか

 

 

 例えるなら、水の流れ先を決めて出しては止めるという恰好であるか。

 その放出する力の奔流を、光魔法として転換している「様に見せかけている」といった所である。

 

 もちろん、その方法が"良"という意味ではないが。

 次に、相対する集団の方を注意深く観察する。

 

 

──ふむ、剣士が何かを狙っている、か。なるほど、その威力ならば"届く"であろうな

 

 

 だが、あくまでも"届くだけ"である。

 

 現状では、その先へと至る事は不可だなと、ならば届かない障壁となる、力の元を探すかと左目の眼帯をズラしては再び力を酷使する。

 

 

 その目に浮彫にされる印から見える力の流れ。

 

 それが映し出すのは神力の流れ。

 

 白い法衣を着た物に繋がる、一つの太い管ともいえる物。

 その先は、床に向かいさらに地中へと下っている恰好に見えた。

 

 

──地下か……

 

 

 元凶となるモノが、どこから出ているかを確認したので、その身をその場から移動させては、調べることにする。

 

 

 地下に向かう道は見えている。

 

 

 道中の者たちには、気取られずに壁をすり抜けるかの様な素早い移動で、左目にしか移されない"力"を検知しては下へ下へと移動する。

 

 そうして、地下数階といったとこにて、一つの広い空間へと落ちていいった。

 

 

──地下墓地?にしては、広いが……

 

 

 壁にズラリとならぶ遺骨。

 それは規則ただしくもなかったり、ただしかったり、並び置かれた遺骨たち。

 その中央には物々しいくも柱に埋め込まれた、脈動している巨大な存在が張り付いていた。

 

 その周りには、不可視の力が、まるで繭を作るように纏われていた。

 

 

──なるほど、繭のお陰で感知ができなかったわけか……

 

 

 たまに、この世のコトワリから外れた形にするモノがある。

 

 その場合、"外"のコトワリになる場合となっては、こちらもハッキリと感知できなくなる。

 

 だが、今こうして"認知"したために、今世とのつながりができたため、此方のコトワリの上へと載った。

 

 

──"外神の欠片"か。たしかに、これなら"崇め"の対象として"集め"には十分すぎるが、さてはて、何を"持っている"のやら

 

 

 どの世でも、今世でも、人の思いや祈りは"神"の糧となり贄となる。

 それが外神にも見事にはまったわけでもあるのだろうが……

 

 ただ、それらの信仰を得ているモノは、"権能"とよばれる特殊な技能を持っている場合が多い。

 

 眉間にしわを寄せてはいろいろと考えてはみたが、まぁ、処分するのは"仕事"であるので行うだけ、と思考を切り替えては、得物を腰に再度携えなおす。

 

 

 

 

 呼吸を整える。

 

 身体を意識する。

 

 "血"の巡り、"魔"の巡り、"気"の巡り、"神"の巡りを整え……

 

 

 カチリと噛合い、世界が止まった瞬間

 

 

 

──"外神"斬り

 

 

 それは、一瞬であった。

 それは、一閃であった。

 それは、一擲であった。

 

 

 脈動するソレは、その動作をしながらもズルリとズレ落ちては滑落していく。

 ただし、柱には傷という傷は存在せず、ただ、憑き物が落ちた後だけが残っていた。

 

 

 だが、斬ったにも関わらず違和感を覚える。

 

 

「手ごたえはあった。あったが、斬った感触が無い……?」

 

 

 残心を残しつつも、居合刀を仕舞うが、やはり斬った感触が、数百年来の感触と異なるにに疑問があった。

 

 しかしながら、仕事は完全にこなすのが使命であるからと、再び左目の眼帯をズラす。

 

 

──管からの供給は潰えた。ならなぜ……?

 

 

 と、左右と視線を回した物を、上へと向けては気づく

 

 

──上に移動させたか!そもそも、こちらが偽物?

 

 

 斬るタイミングと同時なのか、はたまた刹那の遅れだったのか、外神の欠片の芯といえるものが、移動しているのを感知していた。

 

 

──"転位系"の権能持ちだったか?!

 

 

 そして、その移動先の一つ回答に気づいた時、慌てるかのように上へと急ぎ移動する。

 

 

 

──たしか、剣士のあの技、あれは"願い"の形だ。しかし、放つ相手はその"願い"を糧とする存在。つまり……糧と贄として……

 

 

 

    *    *    *

 

 

 

 聖堂の大広間に戻ってその視界に入ったのは、6対の白い翼を持つ大きな目玉が宙に浮いていた。

 

 

 相対していた剣士たちは、その全てが折れた剣を杖にしては、そして心が折れている様でもあった。

 

 

──この"神の力"に当てられたら、そうなるか……

──しかし、"魔"ではなく"天"の方になるとは……

──穢れよりも祈りと願いが強かったか?

 

 

 観察する間もなく、白い翼をもつソレは、大きく目を見開いては大きな不可解な音をだす。

 

 人によっては福音とも呼ばれるかもしれないが、正直に話せば、不快な音である。

 

 

──やはり、願いを糧とすると"天"の使いに関するモノが多いか

──これほどまでに強い後光波をだしてくるとはな

 

 

 衝撃波ともいえるもので周囲の調度品が飛ばされるが、こちらも壁に足をつけては飛び上がる。

 

 

 

──だが、"天"であろうとも、外神には違いはない。

──恨むなら"世界を渡らせた(アホゥ)"に恨んでくれよ

 

 

 大きく息を吸い込んでは、意識を声に載せるように

 

 

 ”ヴォン!!”

 

 

 と、大気が震えるほどの大きさで吠える。

 

 吠え声というものには、祓う力がある。

 

 今回ばかりは、外神の能力を"封じる"ため、この世の(ことわり)に囚わせるために吠える。

 

 

 そして、矢継ぎ早に

 

 呼吸を整え、

 身体を意識し、

 "血"の巡り、"魔"の巡り、"気"の巡り、"神"の巡りを整え……

 

 

──"天地"斬り

 

 

 "天"だけではなく"地"をも一緒に、この世の"全てを斬る"御業。

 その業からは、"この世"に存在を"とどめた相手"には逃れる統べはない。

 

 

 白き翼を持つ存在は、その目玉を横に二等分にする恰好になっては、"地"へとボタリと落ちていった。

 

 が、

 

 

 

──まだ、浅い?"核"が移動したな!

 

 

 

 またしても、手ごたえはあったのに、斬った感触が無い状況。

 

 これは、欠片がどこかに移動したともいえる。

 その答えに、地に落ちた片方の半身目玉から、すでに再生した新たな目玉が生まれてはギョロリとこちらへと視線を向けては、後光波ともいえる圧を放ってくる。

 

 

──ワシに神の力の威光は効かんよ!対性は、青天井なのでな!!

 

 

 ふんっ!と、圧を切り伏せる。

 

 

 さて、初っ端から一撃にのみだと博打すぎる。

 一撃にて確実に仕留めるための下準備が足りないか……

 

 

──なれば、まずは"数を打ちこむ"のみ!

 

 

 左目の眼帯も外し、腰を落としては抜き身の刀身を地つけるぐらいに低く水平に構える。

 

 

 

「さぁて、老骨が身、数撃ちにどこまで耐えてくれるやら」

 

 

 

 幾千年、外神との戦いの中にいたが、そろそろ身体に限界がき始めているのは重々承知。

 だが、この世の約定の元、愚直ではあろうが、己が役割を果たすのは道理が一つ。

 お勤めの最後になるかもしれんか、と、覚悟を決めるも、トンガリ耳の事が脳裏によぎる。

 

 

──弟子も戦える程には育ってはいる。あとは経験を積めば良いだけ、と。

 

 

 笑い顔になっては憂いを断ち切る。

 整えるのに、多少は時間がかかるが、覚悟はとうに決めてある。

 

 

 正面には、空に飛びあがることもできず、地にはいつくばっている翼を持つ目玉。

 身体は再生しきってはいるが、飛ぶことが"許され"ていないがために、地にてもがいている今が好機。

 

 

「逃がしゃしねぇよ……」

 

 

 視線が交わる。

 

 元の姿に戻った目玉から、光線が飛ばされるが、それは左目で見えている未来だ。

 刀身を低く構えたまま、身体を少しだけズラシては、幾十にもふりそそぐ光線の中へと一気に進む。

 

 縮地という歩法ではなく、瞬動を細分化して接近し、そして

 

 

 

──散切り"千花"

 

 

 

 無数の剣撃を叩き込む。

 いうなれば、千の花を咲かせる様に、一つの花は百の花びらを持たせる様に。

 

 

 ガッ!

 

 

 と、数百目に手に持つ得物に感触が伝わっては、刀が跳ね返される。

 

 

──なっ!?

 

 

 刃も砕け散るほどの反発でもあった。

 だが、これで確実に欠片を認識できた。

 

 威力の劣る数の技では切れないのは道理なのだから。

 

 

──そんな事は織り込み済み。

──存在さえ解れば、斬らずとも、貫くのみ!!

 

 

──略式"天地"突き

 

 

 得物の刀を手放しては、突き手にて欠片を貫く。

 

 

──今度ぁ、()ったな……

 

 

 その欠片を貫いた手のまま、翼のある目玉から無理やり抜き出す。

 それに伴い、目玉は光の粒子となっては消えていき、脈動する欠片だけが右腕に取り残され。

 

 

「疲れたわい」

 

 

 気を抜くことはせずに、素直にその状況がら残心をしつつも警戒を厳にする。

 

 

「グガッ……」

 

 

 急に起きる身体全身に痛みが走り、膝をつく。

 やはり、数撃ちは身体を酷使し、限界を超えていたと訴えてきていた。

 

 そして、そこでようやく気付く。

 "外神の欠片"だったものが、突き手を侵食するかの様に徐々に黒い空間へと変貌して、腕が飲み込まれているのを。

 

 

「転位の暴走?いや、呪いか……」

 

 

 死して呪いは強化される。

 ましては、相手は外神の類。

 呪いもそんじょそこらの紛い物とは比べようもない。

 

 大地が呪われたりするもんだが、最後に触れていた対象が、どうやらワシ自身かと笑ってしまう。

 少しづつ蝕んでくる黒い空間に対し、対神性が効いている感覚もないまま、肘部分まで消し去っていた。

 

 

「こりゃぁ、無理そうじゃな」

 

 

 長年、生き汚く過ごしていたが、アッサリと終わりは来るもんだろうとは思ってはいたが、なんというか、焦るというでもなく、納得してしまっている自分がいた。

 

 

──こういう幕引きも、ワシにとっては、悪かぁないか。

 

 

「師父!!」

 

 

 唐突に、声が聞こえてきたと思えば、血相を抱えたトンガリ耳が走ってきていた。

 

 

「おぉライラか。どうやら下手こいたみたいでな、ワシはこれでお仕舞らしいぞ。カッカッカッカ」

「な、何をおっしゃられているんですか!!いま、お助けします」

「無駄じゃ無駄、"死の呪い"は、今世でも数人しか解呪できまいて」

「で、ですが!!」

「ワシのお役という呪縛から、呪いで解放されるとはのぉ、皮肉なもんじゃて。カッカッカッカ」

「師父!!」

「お、おぉ、すまん」

 

 

 いつにもまして、真面目に怒り顔なのだが、瞳に涙も浮かべているトンガリ耳。

 まぁ、ワシはこれでお役御免となれると思っていたので、疲れたので丁度良い幕引きと割り切っていたが、トンガリ耳からしたら、そうでもなかったなと。

 

 そう思えばこそ、次代に渡すモノもあったなと思い返し、収納空間から一つのカバンを取り出しては放り投げる。

 

 

「ほれ、餞別だ。受け取っておけ」

「これは……受け取れません!」

 

 

 だが、それを受け取らずに、強く泣き崩れるトンガリ耳に対し、思う所が無いわけではないが、

 

 

「これも、運命じゃよ運命」

「そんな運命なんて、認めたくありません!」

 

 

 認めたくないのは解らんでもないが、誰かがこの世界の安寧を守る守護者とならねばならぬのも道理。

 

 

「ライラ!!」

「!?」

「次代に貴殿を推薦する。これより次代継承の儀とする。これ受けし者は、守護者として歩むものとす」

「……」

「そう、悲しい顔をするな。次に残せるなら、残さねばならぬ役割なり。次いでくれるか?」

「……はい」

 

 

 先ほど出した袋の中にある、一振りの剣を引き出し、トンガリ耳へと受け取る様に促す。

 ライラは、その差し出された剣を手に取る。

 

 ま、実を言えば、そういう束縛とかはワシだけだったが、この世界に多少なりとも愛着というものが無いわけでもない。

 なので、弟子に引き継がせるのも、まぁ、悪いことではなかろう。

 

 

 ただ、受け取った剣から、眩い光があふれ出ては収束していったのは、予想外だったが……

 

 

「師父、私はこれからどうすれば……」

 

「そうじゃな……経験を積んで、生き抗ってみろ。さすれば、境地を超えれるじゃろうて」

「経験を積んで、生き抗う……」

 

「おっと、そろそろ時間か、達者で……」

「し、師父!!」

 

 

 こんな中途半端な会話で、黒の侵食はおさまらず、腕から下半身から、反対の腕と、胸に頭へと進んでは、ワシを黒い粒子へと変えていった。

 

 

 

──ようやく、お役御免となれるか、次の生は、ノンビリと生きられる生であってほしいものぞ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思って、意識が途切れ……る事もなく

 

「ヘブァ?!」

 

 高い場所から地に落ちた感じで、地面に叩きつけられていた。

 

 

「イツッ……お役御免じゃぁ無かったのか?」

 

 

 周りを見渡すも、元は何かが建てられていた後ともいえる瓦礫が散らばる荒れた空間。

 時間で見れば、夜空の明かりによって、周囲がなんとなく見える状況。

 

 そんな中、ひとりポツンとすっ裸で座り込んでいる状況。

 先ほどまでの身体中の痛みはどこへやら、今の地面に叩きつけられた痛みのみを感じていた。

 

 

「さてはて、どうしたものやら……」

 

 

 収納空間から、煙管を取り出し、指の爪を弾いて火をつけては、一息つける。

 砂が混じっている様な吹きさす風に、その口にくわえて煙管から放たれた煙がゆれていた。

 

 

 

 空を眺めみるも、"見たこともない星座"たちが天空を覆っていたのだけは理解した。

 

 

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