──さてはて、どうしたものか
素っ裸の状態で紫煙をくゆらせ、少し整理をする。
"外神"がもつ権能の暴走、つまりは呪いによって違う世界へと飛ばされた。
というのが、普通に考えた道理というもの。
ただ、こちらとしてはお役御免となったものばかり思っていたのだが、実際には続いているというのだろうか?
そういえば、ある時から、危険予知というか、危機神託とでもいうか、そういう"直感めいた"のを強く感じる様になってはいたが、今、この状態ではその直感というのを感じない。
その為、現状の確認をしてみても、
呼吸もできれば、息苦しいという事もない。
何も考えずに火をつけたが、引火する様な物もない。
建物らしき残骸があちらこちらにあるため人の大きさでの文明はある。
ただ、黒く燃え残った木材と、建物らしき残骸があちらこちらにある点。
戦争でもあったのか、はたまた襲撃を受けるナニカが存在したのか……。
──ふぅむ……
──文明があるという事は、なんらかの信仰があったのだろう。
──案外、あの外神がいた世界かもしれんな。
いつかの"外神の呪い"を受けた左目も、いつもなら何かしらの"力の奔流"を映し出したりするのだが、そういったモノを映し出す事はしていなかった。
その時、"呪い封じ"のための眼帯が無い事に気付き、忘れないうちに収納空間にある予備の眼帯を括り付けて封じておく。
──わからん、わからんな。
──いつになっても神さまって奴の考えってのは、わからん。
──儂はお役御免となったのでは無いのかのぉ
こんどは深くゆっくりと全体に紫煙をゆらせようと、深く煙を吸い込んでみるも、
今度は強くせき込んでしまった。
──そういや、ライラの奴に止められて、しばらく吸ってなかったな
少し涙目になりながらも、数百年前からトンガリ耳の「健康には~」という言葉で、煙管を止められていたのを思い出す。
──隠れて吸おうモノなら、ニオイでバレて小言を言われたもんだ。
懐かしいと感じる思い出に、ククッと小さな笑いがこみあげてくる。
──あいつにゃ、悪い事をしたのだろうか。
そうして、ゆっくりと深く煙を吸い込む。
今度は、せき込むこともなく、久方ぶりの煙管を楽しんでは、思い出に懐かしむ。
一通り、落ち着かせたのち
──よし、考えるのはやめだ。
──どうせ何かがあるだろうし、明日から動けばいい、そうしよう
──今日はいろいろと、疲れたのでな‥‥‥
と、現状の確認だけと、今後の方針を明日にぶん投げては眠る事にした。
* * * * *
「ウガァツ」
久方ぶりの熟睡からの目覚めは最悪であった。
何かしらの悪夢でも見たような、そんな感覚が残っている状況であった。
どんな悪夢か?と思い返すも、思い出す事はなく、何だったのか?という疑問が呈されるが……
──気持ちを切り替えるか……
収納空間から、数打ちを取り出しては朝の型運動を行う。
先ほどまでの気分の悪さを払拭させるために、そして気持ちを切り替える行為として行う……そして残心。
一通りを終わらせ、水術によって軽く洗い流す。
風術により乾燥させ……ブルリッと身体が冷えるのを感じる。
──昨晩は気づかなんだが、身体の調子が良い?
先ほどの一通りの型を流してはいたが、動かす仕方が今まで以上に洗練されている様な、そんな感じを受け取っていた。
若返っている、という事でもなく、あちらこちらに老齢な証拠が残っているのだが、それでもなお、思い通りに動かしすぎていた。
──ふぅむ、わからん。
──わからん事尽くしだが、コレはコレで役得と思っておくか。
一通りの身体の確認が終わったのち、収納空間から再びモノを取り出す。
今度は衣類を取り出しては身に着けていく。
着物に袖を通し、腕には手甲、脚には脚絆に足袋と草鞋と、旅支度となる装飾にまとめ上げ、身体全体を覆う外套に身をくるむ。
一通りの身支度を終えたのち、数打ちの刀を腰に遍路杖(隠し刀)を携える。
──おっと、ワシのお気に入りと……
最後に、耳穴のあいた円周ツバの大きな帽子を被る。
これにて、旅支度の完成である。
そうして、廃墟となっている村の入り口らしき場所に立っては、道だった場所を見つけ、その先を眺め見る。
何もない荒野ともいえる先へと続いている。
──さてはて、この道はどこに続いているのやら
目的地も場所も何もかもが決まってはいない一人旅というのは、何百年ぶりになるのか?と思い返す。
──さぁて、「一人旅」と洒落こもうじゃありませんかね
そうして、道だった道へ、陽の光が背後から差し込む道へ、その第一歩を踏み出して歩きだした。