鬼火纏   作:ゾエア

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戦慄く神解

 

「音量上げろ!!メインディッシュだ!!」

 

 

廃屋から爆音が鳴り響いた。煙の中から飛び出した三つの影。異形の呪霊と、スピーカーもなしに音楽を流す男。そして赤紫の鬼火を纏った男だ。

 

 

異形は凄まじい力で殴られたように頬を凹ませていた。帳の外へ呪霊が飛び出す前に男は軌道を修正する。空中で炸裂させた呪力は体を反対側へ──すなわち廃屋の方向へと押し戻した。その勢いのまま呪霊に蹴りを叩き込む。

 

 

鈍い音がした。続いて着地した二人は異形へとトドメを刺すために着弾地点に向かう。

 

 

「なんだよメインディッシュて。さっさと祓うぞ。」

 

「うるせぇ。食わなきゃやってられねぇだろ。呪霊消えてたら秤のせいだからな。」

 

 

いつもの呪霊討伐。ヒートアップした秤に釣られて響もアガっていた。呪力は赤紫色に染まり、纏った拳と爆発の威力を高めている。空中で鬼火を起爆させ、その爆風を利用した高速移動などは通常の任務において不必要であった。

 

 

「──まだ息があったな。仕留めといてくれ。」

 

 

音楽がなりやむとともに術式効果が終わった。同級生の秤は手をヒラヒラさせてトドメを任せる。特徴的な眉毛と強面は戦闘後の緊張を緩めて、彼は帳の外へと出ていった。豪運の持ち主にしては珍しく、数万負けたと言っていたためか、機嫌は良くなさそうだった。

 

 

響はようやくメインディッシュにありつけるようだ。手元に十字槍がないため、仕方なく素手で解体を始める。ボロボロの呪霊が痙攣しながら抵抗するが、それも虚しく終わる。異形の悲鳴が帳に響いていた。

 

 

 

「響ちゃんさぁ。あんまり人前で食べなくなったよね。なんかあった?」

 

 

一通り味わった後、廃屋から出てきた──星綺羅羅は響に指摘した。星型の瞳と口元に付けた四つのピアスが派手な印象を与える。

昔の任務では呪霊をそのまま齧っていた響が、ここ最近隠れて食べるようになったその理由を聞き出そうとしていた。

 

 

「気にせず取り込んでると心配するらしいから。もっと美味しそうに食べればいいのか色々試してんの。そんなに変かー?」

 

 

持ってきてもらった槍を受け取り、礼を言った響は帳を解いた。先に出た秤は負けを取り返しに店へ行ったようだった。仕方なく二人は補助監督の元へ向かう。

 

 

「変だけど、周り気にする必要ないじゃん。食べたいから祓うんでしょ?それでいいんだよきっと。」

 

そのパンクなチョーカーとピアスが説得力を高めた。周りの目とかを気にせずに、綺羅羅は同級生の術式を個性として捉えていた。彼が美味しそうに食べるならそのままでいいことだと。

 

 

「確かに。味見もつまみ食いもした方が楽しいしな。じゃんじゃん食っちまおう!」

 

 

呪霊を大量に相手する機会などそう多くない。呪術師として、術式を活用するうえで必要ならばやむを得ないだろう。開き直った響は呪霊の捕食に精を出すことに決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「東京京都に千の呪いを放つ──百鬼夜行…!」

 

 

呪詛師夏油傑が予告した呪術テロ。12月24日日没と同時に引き起こされたそれは、高専の術師を駆り出す事態になっていた。現場二箇所のうち、新宿の一角で開戦を待っている術師連中の中で一際異彩──鬼火によって文字通り紫色に彩られている──を放つ男がいた。

 

 

立ち上る呪力。四肢と背中、口から紫の火をゆらめかせたその男は集まる呪霊達を品定めしていた。周りの術師達の視線もお構いなしに、練り上げる呪力の渦を十字槍に纏わせていく。

 

 

特級過呪怨霊 祈本里香の宿主である乙骨憂太の編入は響に衝撃をもたらした。先日の姉妹校交流会で現れた里香の()()をしようとした際の手痛い反撃。五条先生からのマジトーン説教。それらは響の精神を削っていた。

 

夏油傑が布告した百鬼夜行も響の術式の前では食べ放題ビュッフェスタイルである。乙骨に取り憑いた特級呪霊は食べられない。その事実を受け止めた響は、この百鬼夜行で呪いを祓って食べまくる気力に満ち溢れていた。

 

 

 

『螺旋突き』!!

 

 

道路幅いっぱいの巨大な呪霊に風穴が空いた。前方に伸びた鬼火の渦柱は人型呪霊複数を巻き込み消し飛ばしている。

 

 

鬼火の塊となった響が呪霊の体内へ飛び込む。体の内側からは炸裂音と槍の穂先が飛び出し続け、ついには巨体が弾け飛んだ。

 

 

「まだまだ…!」

 

 

紫の血にまみれてモツを咥えた響は飢えた修羅だった。次の獲物に視線を向けている。

 

背中で炸裂させた呪力による加速。構えた槍にその速度による運動エネルギーを上乗せして呪霊を貫き、薙いだ刃で呪霊を食べやすい形に裂いた。

手も使わずにかぶりつきそのまま食いちぎる。呪霊の肉を呪力へと変え、すぐにまた鬼火が立ち上り始めた。

 

 

 

「七海さんの言ってた迂途ってあれかぁ。呪霊食べてるよ…」

 

 

七海を慕う二級術師 猪野琢真は遠くで呪霊の群れに飛び込む響の姿に畏怖の視線を向けていた。

尊敬する一級術師の七海さんが語る迂途響。その実力はどんなものかと思い、対抗心を軽く燃やしていたがそれもすぐに引っ込んだ。呪力消費の採算度外視で戦い続ける姿は鬼火というより鬼そのもの。余程呪霊に怨みがあるのだろうと勝手に結論付けた。

 

 

「七海さんは京都だし。俺の活躍見てほしかったなぁー。」

 

 

愚痴りながらも覆面を被り術式で呪霊を屠っていく。未だ二級ながらも百鬼夜行に駆り出される確かな実力が彼にはあった。昇級推薦を受けるなら七海さんから貰いたいというこだわりのため、未だ二級術師に留まっているのだった。

 

 

 

 

突然の浮遊感。

アスファルトがめくれ上がり、鉄骨や電柱が引き付けられていく。強烈な磁場を発生させたその呪霊は空中を泳ぐように進んでいる。

夏油傑の放った特級呪霊の一体だった。全身は山吹色を呈しており、時折放たれる電撃がビルの外壁を焼いている。下肢に比べて大きな腕には雷を帯びた袋を有していた。腹は醜く膨らみ、脈動に合わせて蠢いている。咽頭顎という特徴的な二重の歯列はおぞましいものだった。

 

 

「大物だ!!」

 

 

地上から放たれた二発の螺旋突き。二本の鬼火柱は引き寄せられた鉄くずによって防がれた。

 

敵を認識した呪霊は口から雷弾を飛ばす。さらに手元の袋からは紫電の光線が放たれ、地表に幾つもの溝を作り出した。

 

 

周囲の被害を気にすることなく身をかわし、浮遊した瓦礫を足場に呪霊本体へ迫る。槍を構え、爆風による突進を選択。

 

空を泳ぐ呪霊の右手を穿った。だが──

 

 

「いっでぇ!!」

 

 

雷撃は呪力によるガードを貫通し、響の体を焦がしていた。呪体に帯びた雷は触れる相手を自動的に焼いた。

 

呪霊は呻く敵に慈悲を与えない。

 

 

「マジか!!」

 

 

打ち込まれる瓦礫群。咄嗟に柄でガードするも、続く雷撃は地面すれすれから上に向けて放たれた。

 

 

雷鳴と共に()()()()()()稲妻は空中の響に直撃した。雷そのものを防御することは不可能。体中に電流が走った。筋肉は痙攣を起こし、全身を硬直させる。

 

 

「────ッ!!」

 

 

 

受け身も取れないまま、落下地点に電柱が三本突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響は狩りし過ぎ。」「ん?」

 

 

正座する響の前で五条は穏やかな声色で語り始めた。既に説教は終わったはずだった。里香への攻撃はやめて、祓う手法は乙骨による解呪であることは理解している。ぶん殴られた顔は家入さんに既に診せている。

 

 

「術式のせいかな。食べる呪霊はいっつも格下。呪力特性も相まって火力が出るから、なまじゴリ押しでなんとかなっちゃってるねー。」

 

 

「雑魚狩りし過ぎってこと?任務ってだいたいそんなもんじゃないの。」

 

 

下から覗き込む響。話が長くなりそうな気配を感じた。五条先生の声のトーンはまだ一定だ。こういう時はしっかり聞いておいた方がいい。

 

 

「任務が悪いんじゃないんだよ。いずれ格上に出会うんだ。手も足も出ない時があるかもね。」

 

 

「もっと頑張れってことか。修行か?修行だな!?」

 

 

正座のままジャブを打つ。五条は構わず続けた。

 

 

「里香に向かった時もさ。術式のおかげで増える呪力──漫然と使ってちゃ意味ないよ。」

 

「漫然と?」「そう。」

 

爆ぜる呪力は結構扱えていると思っていた。どんな相手にも通用すると。それがまだ漫然…?

 

「核心に迫ればわかるかもね。君の呪力はまだそんなもんじゃないだろ。それじゃあ秤に勝てないよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

呪霊達に下された命令は鏖殺。

術師を片付けた呪霊の次の狙いは──仮設の救護場所だ。手負いの術師達が多くいるだろう。

 

定まった目的へ目を向けた山吹色の体は違和感を覚えた。

 

 

視界の端、三本の電柱で出来た術師の墓標。そこに立ち上っていた紫色の残滓が、赤紫へ、さらに赫く、赤黒く──

 

 

 

 






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