鬼火纏   作:ゾエア

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烈禍襲来:終わりなき迷路/樹海

 

 

姉妹校交流会とは二日間の競い合いで仲間と己を知ることを目的とした恒例行事である。東京校と京都校の学生同士で、殺し以外なんでもありの呪術合戦。前回勝者校である東京で開催されることとなり、てっきり京都へ向かうものだと思っていた釘崎は叫んでいた。

 

「勝ってんじゃねーよ!!」

 

「去年は憂太が人数合わせで行ってたからな。圧勝だったらしいぞ。ついでに響も伸しちまった。」

 

「あ。伸されたバカが来たぞ。」

 

 

パンダに並ぶ上背に梔子色の髪色。首や腕に見える樹状の火傷跡と右目に走る傷が激戦の結果を物語っている。十字槍を肩にかけ、不気味に凪いだ呪力を纏いながらその男は到着した。左眼は紫色に光を放ちながら初対面の一年を覗いている。

 

 

「これ土産。京都のヤツにはないからこっそり食べろよ。」

 

 

伏黒の手に土産袋を渡して合流した。土産はバター餅であった。五条先生=甘い物という安易な発想の末のチョイスである。京都校の分まで買うほど気は利いていなかった。

 

 

「おまたー!!」

 

 

学生達が集まるなか、遅れてきた五条は台車に大きな箱を乗せ走ってきた。不気味なハイテンションである。海外出張のお土産を配り終わると、箱から飛び出したのは死んだ筈の虎杖であった。

 

「故人の虎杖悠仁君でぇーっす!!」

 

五条悟の用意した復活サプライズは東京校の一年生達には不評であった。釘崎は涙ぐみながら蹴りを入れた。虎杖は罪悪感からか遺影の仮装を甘んじて受け入れる。

 

 

交流会一日目 団体戦は呪霊討伐を競い合うレースとなる。区画内に放たれた二級呪霊を先に祓ったチームの勝利。日没までに終わらなければ、他に放たれる三級呪霊の討伐数が多い方に軍配が上がる。

 

夜蛾学長は、目隠しをした問題教師にコブラツイストを決めながら説明を終えた。ギリギリと締められている被害者も無下限を解き、甘んじて受け入れているようだった。

 

 

 

東京チームのミーティングに宛てがわれた一室では作戦の見直しが行われていた。といっても合流した新顔、虎杖の得意は殴る蹴るといったもの。伏黒の証言からステゴロの強さは保証されたため、東堂に対する足止めとして起用されることになっていった。

 

 

「迂途先輩は?」「んー?」

 

 

虎杖は柱にしがみつくパンダの背中を眺めていた響に話しかけた。初対面の先輩達の中でもとりわけ傷だらけな人は、役割をふられていない。その割には十字槍の刀身を布で覆って準備万端だった。

 

 

「一人で呪霊探してるわ。術師とやるのはパス。」「作戦行動取れねぇもんな。」「しゃけしゃけ」「なー。」

 

 

二年生が囃し立てる。全国を飛び回る三年生はボンクラ扱いされて何ともないようだった。パンダの背中をわしゃわしゃと槍で掻き撫でている。

 

 

「アホぬかせ。二級呪霊ソッコーで祓って終わりだ。要は勝ちゃいいんだろ。」

「一人で目的の呪霊探せますか?チーム組んだ方が効率的でしょう。」

 

 

伏黒は何度か顔を合わせているが、ここまで怪我をした姿を見ていない。呪霊討伐なら、索敵が得意なメンツと一緒の方が合理的だと。だが──

 

 

「ウチと京都チームの中間地点。そこまで一直線にダッシュだ。あとは向こうから寄ってくるだろ。」

 

 

 

 

 

 

 

「それでは姉妹校交流会 スタァートォ!!!」

 

 

長身の背部に圧縮された呪力が四つ。槍を前方に構えて姿勢は低く。赤紫に輝く鬼火は開始の合図とともに爆ぜた。爆風は響を前方へと押し出す。急加速した鬼火の塊は木々を薙ぎ倒しながらあっという間に見えなくなった。

 

 

「えぇ…何あれ…」

 

「響の呪力だ。アレに合わせるのはムリだろ。早めに呪霊見つけないとな。」

 

 

森の奥へと消えていった先輩に対して少し怯えながらも、索敵を開始する。木にぶら下がった三級呪霊を見つけた玉犬は鳴き声を上げて知らせた。

 

 

「先輩ストップ!!」

 

「いよぉーし!!まとめて かかってこい!!」

 

 

飛び出してきた東堂に気づいた伏黒が声を張る。虎杖が東堂の顔面に膝蹴りを入れた瞬間、真希の合図で二手に別れた。化け物東堂を相手に足止めしなければならない。それでも虎杖はやるからには勝つ気であった。

 

 

 

連続して上がる土煙は森の半ば程でとまった。響の手には三級呪霊の肉片がある。道すがらに突進の余波で弱ったその呪霊にかぶりついていた。

 

 

「うーむ。駄菓子って感じだな。」

 

 

最後の一片を口に放り込んで辺りを見回す。呪霊はじっとしている訳ではない。この辺りに放たれたと予想はついても、すぐに見つけることは──

 

 

「?」

 

 

落ち武者のような長髪と長い舌を出した呪霊がいた。明らかに二級より強く見える。数々の呪霊を食べ比べした響の勘がそう告げていた。手違いか何かだろうと結論づけて、やけに大人しい呪霊の味見をするために槍を構えた。

 

 

あら 一人ですか」「…これも手違いか?」

 

 

シルエットは大男のそれだった。眼窩からは枝が伸びている。白い肌に黒い紋様が走っており、左手は布で隠されている。出したその声は日本語ですらなかったが、何故か意味は理解出来た。濃ゆい呪いの気配は暫く感じていない極上のものであった。

 

呪力放出によって穂先の布を吹き飛ばす。剥き出しの刃が鈍く光を返した。迸る呪力は鬼火となって全身から立ち上り、漏れ出たそれは瞬時に制御される。一見穏やかに呪力を纏う姿は、完璧な操作によって圧縮された鬼火の解放を待っているだけであった。丁寧に十字槍へ流された呪力は刃先を赤黒く染めていく。合図は必要なかった。

 

 

 

怨薙(うらみなぎ)

 

 

 

 

 

 

「なっ なんだこれは!!」

 

 

伏黒と加茂の声は巨大な樹木の発生とそれを薙ぎ倒す爆炎によってかき消された。森から飛び出した二つの大きな人影。槍から赤黒い呪力を振りまく男と白い人型呪霊が争っている。呪いの気配は明らかに特級呪霊のものだ。矛先は二人にも向けられた。打ち付ける根を避けながら距離を取る。

 

 

 

「なかなか硬いな!出力も桁違いだ!!」

 

「迂途先輩。以前五条先生を襲った特級呪霊だと思います。報告と風姿が近い。」

 

「高専内に呪霊か。帳は誰の仕業だ?」

 

「恐らく組んでる呪詛師です。とにかく五条先生に連絡を──」

 

 

一瞬で接近した呪霊は携帯電話を弾き飛ばし、連絡手段を断ってきた。すぐに二人が呪霊から離れる。響の槍が構えられたためだった。

 

 

『螺旋突き』

 

 

呪力解放による衝撃は呪霊を吹っ飛ばしたが、刃先は頭を捉えきれていない。受け止めた腕に傷がつく。

 

 

『苅祓』!!

 

 

血の刃も鵺による連撃も効果が見られない。呪霊は高硬度を保ち、余裕そうに佇んで声を発した。

 

 

やめなさい 愚かな児等よ

 

私はただこの星を 守りたい──」

 

 

『地裂斬』

 

 

十字槍が地面を撫でる。赤黒い呪力の解放とともに地を裂く爆撃波が到達した。防御する右腕の表皮を削り、仰け反った頭の枝は爆発の衝撃で砕けている。

 

 

──あなたは自然を愛していないのでしょうね」「共存は無理だな!!」

 

 

 

ばら撒かれた木の鞠。球体から生える尖った枝は複数に向けた攻撃だった。呪力を帯びた薙ぎ払いによって対応するも、容赦なく他の生徒へ枝が伸びる。

 

 

「帳の外へ!!合流を目指します!!」

 

 

返事は打ち付けた刃による音だった。響の火力は申し分ないが敵は広範囲の攻撃も可能だ。さばききれない攻撃のしわ寄せは当然訪れる。

 

 

「──これで二本目だ!!」

 

 

呪力を纏わせ続け半ば呪具化した槍も、柄の耐久性には限界があった。折れて短くなった獲物を持ち直すが、リーチを失った槍使いは味方のカバーに間に合わない。すかさず攻めるため呪霊は大質量の巨木を伸ばした。

 

 

『鬼怨斬』!!

 

 

切り倒した幹の裏には呪霊は居ない。既に拳は獲物の頬をとらえていた。打撃によって叩きつけられる加茂の姿。

 

 

「加茂さん!!生きてますか!!」

 

 

伏黒は意識を失った加茂を庇いつつ後退する。均衡が崩れた場合、瓦解は一瞬だ。

 

既に響は攻め手を変え、体術と短槍による制圧にシフトした。ここで仕留めなければ味方がもたない。そう考え打撃を打ち込んでいく。

 

 

そのナマクラでは私は斬れませんよ

 

 

背後から真希の奇襲。しかしそれは完全に読まれたうえ刀まで折られることになる。砕けた破片が地に落ちる前に赤黒い拳が頭部に叩き込まれた。

 

 

〜ッ!!

 

 

森へと吹き飛ばされる白い体。すぐさま鬼火が後を追った。伏黒は特級呪具 『游雲』を取り出し真希へと渡している。

 

 

「イイのが入ったろ!!」「あなたの拳の方がよっぽど強い

 

 

 

顔の樹木はすぐに再生した。クリーンヒットした手応えは一級なら屠れる威力だと思ったが、余程丈夫に出来ているらしい。

 

 

追いついたのは狼男じみた玉犬「渾」。爪は硬質な腕に弾かれるが、真希の振りかぶった游雲が首に入る。

 

伏黒が響に手渡したのは黒い剣であった。呪力を馴染ませ、刃を赤く染める。短槍を投擲すると同時に逆手に持った呪具を振り上げた。

 

 

『鬼怨斬』!!

 

それは既に見た

 

 

火力を上げた縦振りの衝撃波は呪霊の腕によって防がれた。ちぎれかけた上腕が揺れている。

 

 

手負いの腕を落とすため真希は狙いをつけた。游雲による打撃。防ぎきれずに限界を迎えた呪霊の腕が中を舞う。その腕から──黒い種の散弾が飛び散った。

 

 

「チィ!!」

 

 

響は剣で受けきれずに数発腕で受け止めた。しかし植え付けられたその芽は()()が大好物である。体に纏った呪力とその塊である鬼火へ瞬く間に根を張っていく。

 

 

「!!」

 

 

攻撃の手が止まった隙を呪霊は見逃さなかった。心臓を狙った一突きを真希は肩で受ける。すぐに枝をへし折るが、肩の負傷は三節棍を扱う技のキレを落とした。呪霊のさらなる枝突きに対して反応が遅れ、樹木が真希の首を締め上げる。

 

 

「真希さ──ッ!」

 

術師というのはことのほか 情に厚いのですね 仲間が傷つくたび 隙が生じる

 

 

伏黒へ撃ち込まれた芽は術の使用に従って根を深く張っていく。カバーに走る玉犬も形を崩し解除され、彼の呪力量は底をついていた。

 

 

──まだだ…呪力を振り絞れ!!腹が裂けても!!俺が一番背負っていない!!俺が先に倒れるなんてことは許されねぇんだよ!!だから──

 

 

──鬼火に張られた根が吹き飛ばされた。爆ぜる呪力。注がれたそれは芽の限界を超えて噴き出し、さらに迸っていく。植え付けられた芽を無理やり引きちぎり、その怨みは呪力へと変わる。

 

 

「まだ一口も食ってねぇぞ…!」

 

 

 

 

「恵 私らの仕事は終わった 選手交代だ」

 

 

水面に走る衝撃。二人の男が着地した。

 

 

「──いけるか!?虎杖(マイフレンド)!!」

 

「応!!」

 

 

 

 

 

 

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