鬼火纏   作:ゾエア

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交差する大禍の極み

 

 

「俺は手を出さんぞ虎杖 オマエが『黒閃』をキメるまでな!!」

 

 

新たな増援は東堂と虎杖の二人。パンダが伏黒と真希を抱えて戦線を離脱するなか、東堂は虎杖の()()を邪魔しない方針であるようだった。

 

 

「──先輩。」「…好きに動け。」

 

 

少し動きを妨害された程度で味方が負傷した。出力を上げても腕一本落とせない。響に溜まったフラストレーションは呪力と変わって渦巻いていた。その噴き出す怒りを解放することなく、全身に流して留める。呪力を乱さず静かに圧縮するその精度は不抜のものであった。

 

 

さて…どう来る?

 

 

水面への強打。水飛沫が二人を覆い隠す。先に飛び出したのは響であった。鬼火の爆風は背中を押し出し、枝の刺突は梔子色の髪をかするだけに終わる。三連の蹴りが呪霊の左半身を叩いた。鈍い音が響く。

 

 

速い だが先程の威力はない

 

 

続いて振りかぶった右拳の異質な呪力を感じた呪霊は咄嗟に術式での防御を選択した。生えた樹木の太い幹に赤黒い拳が刺さり──貫く。呪霊の腕をひび割れさせながら吹っ飛ばした。

 

 

警戒すべきは その色の打撃だけですね

 

「──虎杖。」

 

 

既に構えられた虎杖の右腕。迸る呪力は全力の打撃とともに。

 

 

──迂途先輩の呪力操作は完璧だった。闘志と裏腹に静かな呪力は感情で振れることがない理想の術師!見せてもらった姿。打撃で呪霊はここに来る。雑念は振り払え!──

 

 

「黒閃」は打撃との誤差百万分の一秒以内に呪力が衝突することで生じる現象である。威力は平均で通常の2.5乗。「黒閃」を経験した者とそうでない者とでは、呪力の核心への距離に明確な差がある。

 

響による手本。怒りを静かに留めて呪力を篭めたその打撃は虎杖の目に焼き付いた。何事にも上達を目指すならば観察する眼が重要である。虎杖の素質は貪欲にその巧技を掴もうとしていた。

材料は揃っている。

 

打撃との誤差百万分の一秒以内に呪力が衝突した瞬間、空間は歪み呪力は黒く光る。

 

 

 

『黒閃』

 

 

 

な…!!」「成ったな」

 

 

 

 

砕け散った呪霊の右腕はすぐに再生を始めた。黒閃を決めたことによって術師として進化を遂げた虎杖。それを尻目に響は呪霊の変貌を眺めた。

 

 

どうやら貴方達には 多少本気を出した方がよさそうだ

 

 

布に包まれた左腕を解放していた。左肩には大きな蕾らしきものが生えている。

 

 

「ッ!!」

 

 

大質量の樹木が三人を襲う。伸び続けた幹は上空まで彼等を運び、さらに攻撃の手を緩めない。手から放たれた種弾。それを避けた響は声を張り上げた。

 

 

「種は呪力で受けるな!!」「先刻(さっき)のか!!」

 

 

攻め手は三人。響は剣を振るい肉を削ぎ、東堂と虎杖が打撃で翻弄する。呪霊の次の手は顕現させた巨大な樹木を消すことによる足場の強奪。実物を呪力で操作するのではなく、樹木全ては呪力によって形作られたものであった。三人は重力に従い落ちていく。

 

 

「──舐めんなッ」

 

 

爆発による加速は落下中の攻撃を容易に躱して反撃を可能にした。すれ違いざまの一閃。その手応えは硬質なものであった。さらに急制動でもう一度肉薄する。

 

 

空中でも騒がしいですね

 

「すりおろす!!」

 

 

飛んでくる種弾が体に突き刺さった。こちらがふるった剣は受け止めてきた腕へ刃を沈ませる。お互いの血が空中に舞う。

着地と同時に東堂と虎杖のコンビが攻め入る。息のあった打撃は呪霊を防御に専念させた。

 

 

こちらの打撃も厄介だ

 

 

重い打撃が腕に打ち付けられている。地面から生やした樹木で対応しようにも──

 

 

『鬼怨斬』

 

 

斜めに振り上げられた衝撃波が幹をへし折った。呪霊は距離を取り、大量に黒い種の詰まった花を開かせた。黒いそれは口を開いてナハナハと独特な鳴き声を上げている。

大量の種弾が三人を襲う前に響は剣を構え──

 

 

 

「!?」「─ッ」

 

 

 

拍手の音。

呪霊と響の位置が入れ替わっていた。突然の移動に戸惑いながら至近距離にある花の根元を断ち切った。切り倒された花から種弾は地面へと音立てて撃ち込まれる。

 

 

「東堂。今のが…」

 

「あぁ。術式を解禁した!!」

 

 

東堂の術式は手を叩くことで発動する。位置替えは単純故に強力な武器であった。

 

 

不義遊戯(ブギウギ)だ!!相手が慣れる前に仕留めるぞ!!」

 

 

手数の差と位置替えは呪霊に効果的であった。拍手の音が連続する。

 

 

これは この手数の差は… 抜け出せない!!

 

 

畳み掛ける虎杖の打撃。黒閃を決めたことによる一時的なゾーン状態はさらなる黒い火花への呼び水となった。

 

 

『黒閃』

 

 

三発の打撃全てが呪力を黒く光らせた。ますます調子が上がる虎杖に対して、呪霊も不義遊戯に対応し始める。

 

 

──あの打撃を三連続!今警戒すべきは宿儺の器!これ以上調子に乗らせては──

 

 

 

 

 

運ばれていった伏黒からの情報。川底にある特級呪具。虎杖に注意が向くことで生じる隙に圧縮された呪力──

 

 

拍手の音。

 

 

術師も呪霊も位置は変わらない。ただ──響の手元にあった黒い剣は()()()へと変わっている。赤黒い呪力は棍の先端へと集約された。

 

特級呪具 「游雲」による突き。空気を貫く音がした。

 

 

 

『怨・螺旋突き』!!

 

 

 

〜〜ッ!!

 

 

顔に生えた木は根元から折られていた。しかし游雲による攻撃を与えても呪霊はまだ息があった。

 

 

「いくらなんでも頑丈過ぎる…!」

 

 

 

呪霊は体勢を立て直すと掌印を組んだ。今までの術式行使ではほとんど省略されていた手順。これが意味することは──

 

 

領域展開 『朶頤光海(だいこうかい)

 

「──土壇場だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陰鬱とした森林は日差しを遮り、その領域内を暗く印象づける。生得領域の展開には膨大な呪力と高い結界術の技量が必要である。領域は術式の必中効果と環境要因による術者の能力向上を与える。領域内の標的は必中と化した術式と術者を相手どらなければならない。そのため領域内の三人は各々が決死の覚悟で動いた。

 

 

領域に術式を付与するまでの猶予。一瞬の空白のうちに東堂は簡易領域を展開する。九十九由基直伝のそれは領域を中和することで術式の必中効果を防ぐことができる。しかし相手の領域との出力差は著しく、そう長く保つものではない。

 

 

虎杖(ブラザー)!!範囲から出るな!!」

 

「──迂途先輩は!!」

 

 

領域展開時にそばにいた虎杖は簡易領域内に入っていた。範囲から外に出れば必中効果の対象になる。呪霊を挟んで向こうに見える響は簡易領域を展開していない。つまり、術式による攻撃を避けることができない。

 

 

まずは貴方からです

 

 

呪霊は領域の押し合いと並行して術式を行使する。対象を一つに絞り、枝の刺突と樹木の衝突が連続的に響を襲う。

 

 

響は構えと共に全身を呪力で覆った。五条先生から教わったうちの一つ。それは必中の術式が触れた瞬間、自動的に呪力を解放することでカウンターを行う御三家秘伝の領域対策。

 

 

秘伝『落花の情』

 

 

爆ぜる呪力による自動カウンターは、触れた術式に対して解放──すなわち爆発で応えた。

爆音が次々に響く。呪霊は攻撃に種弾も加えている。それは呪力を食べて根を伸ばし──

 

 

「やっぱりか。」

 

 

皮膚を貫く。自動的なプログラムは弾く相手を選ばず、黒い種に対しても栄養を提供してしまう。解放の度に成長していく種は纏う呪力に根をのばし、カウンターと術式の拮抗を崩した。

 

 

「…チィ!」

 

 

徐々に植物に蝕まれていく。東堂の簡易領域も出力差で剥がされていき、中和範囲が狭まっていた。響の次は二人に矛先が向くだろう。打開の手を模索するしかない。

 

 

──この種がキツイ!!落花の情は解けないがこのままだとジリ貧!何か手は!!こいつの術式は植物。花…種…枝…──

 

 

言語を解する特級呪霊、花御が用いる生得術式は全て呪力によって具現・顕現されている。故に戦闘の中で解除すれば足場の樹木を一瞬で消すことができた。実物を操作している訳ではないためだ。術式で具現化した花も種も枝も全ては呪力で形成されている。そして花御自身も呪霊も、全て呪力で形作られている。

 

 

()()()()()()()()()術式。呪霊しか食べてこなかったが、対象は呪霊だけか?それとも…」

 

 

まとわりつく種を無造作に掴んだ。ナハナハと鳴くそれは自身の未来を予想出来ていない。響はそれを口に放り込み咀嚼する。その種は──()()()()()()()()()()

 

 

「はっはっはっ ムカつくがいい味だ!!」

 

 

出力を引き上げる。植え付けられた黒い種を引き抜いては口に放り込み、さらに呪力へと変換していく。呪力で形作られたもの。それこそが響の術式対象であった。そのため術式効果によって具現化されたその種を対象に術式を行使できた。

 

 

「種だけ食ってあとは弾く。そして領域を維持する余裕を奪う。やってやるよ…!」

 

それを維持しながらできるとでも?

 

 

游雲を構えた。端の棍を振り回し呪霊へと迫る。途中で打ち付ける植物の雨は呪力で吹き飛ばし、根を伸ばした黒種は引き抜いて口へ運ぶ。忙しない動きと呪力操作は高い精度を保っている。既に疲弊していた呪霊だったが、応戦する他なかった。

 

 

『怨薙』

 

 

込められた呪力の解放。それと同時に振り払うことで正面を扇状に薙ぎ払った。防御した呪霊の腕は抉れている。

 

呪霊は術式を行使する。雨のように打ち付ける樹木や枝の攻撃を全て黒い種弾へと変更した。食事する暇がないほど大量の種を植えればいいだけだ。放った種弾が殺到するなか、響は落花の情を解除した。

 

 

呪力を解いた!?ではそこを貫くだけ──」

 

 

黒種を体に埋め込まれながらも、響は既に振りかぶっている。

 

特級呪具「游雲」には術式効果が付与されていない。その威力は振るう者の膂力に左右される。呪力を流して扱うことも当然セオリーではあるが、単純な破壊力は特級に相応しいものだ。黒い種の成長を止めるため呪力を扱わずに振るわれたそれだったが、手負いの呪霊には十分であった。

 

 

「ッラァ!!」『!!!

 

 

腕で防御してなお首元にめり込んだ游雲。流れるように続けて突きが胴体に刺さった。棍は体を貫通し、硬質な腹に風穴を開けた。

 

 

…どうやらこれまでのようです

 

 

領域が崩壊する。

 

 

 

 

領域の解除と死にかけの呪霊。響は種を大量に植え付けられている。全て引き抜かなければ術式行使すらままならない。

 

 

「東堂!!」「あぁ!!」

 

 

返事とともに拍手が響く。位置替えの対象は響と虎杖だった。厄介な領域は消え失せた。あとは眼前の呪霊に拳をぶち込む!

 

 

 

呪霊が最期に見たものは黒い火花の開花であった。

 

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