学生であり、課題や課外活動などに追われたこともあり、一月も更新しないまま放置してしまいました。
また、今話は難産であり、読みづらいところもあるかと思いますが、承知の上でお読みください。
「…アリー。本当に大丈夫なのか…?」
心配そうな表情を浮かべるフェイクが、背後からアリアネルの肩を抱きしめてきた。
「…フェイク。大丈夫だから。これは、私が自分で選んだことなのよ」
重い腕を力をかけて押す。それを受けてか、フェイクはアリアネルを解放し、菫青石の方を向く。
「アイオライト」
僅かに唸るような声でフェイクが言った。
「菫青石よ」
そっけなく菫青石が返す。
「意味は同じだろ。…もしも、アリーの身に何かあったらどうなるか、わかっているんだよな?」
「…それだけはしないと、約束するわ」
絶対に、と視線で念を押して菫青石は答えた。
「それで、『アリスゲーム』というのは一体なんなの?」
アリアネルは尋ねた。
「そもそも、『ローゼンメイデン』の話からしなければダメね…。私たち姉妹を作ったお父様…、人形師ローゼンにはかつて、娘がいたの。でも、ある日、その娘は亡くなってしまった…。悲しんだお父様は、自分の新たな娘、至高の少女アリスを作ることにした。そのアリスを目指して作られたのがローゼンメイデンシリーズ。
第一ドール水銀燈、第二ドール金糸雀、第三ドール翠星石、第四ドール蒼星石、第五ドール真紅、第六ドール雛苺、そして第七ドール雪華綺晶。でも…、その誰もアリスになることはできなかった…。だから、お父様は姉妹達を争わせ、彼女達の心臓にあたるローザミスティカ…と言っても形は結晶ね…、それの奪い合いに勝利したドールをアリスとすることに決めたの。それがかつてのアリスゲーム」
「かつて…。なら、今はそれは終わっているということ?」
「その通りよ、アリアネル。争いの結果、勝利したのは第五ドール真紅。ただ、彼女は戦いに勝利したというより、姉妹からローザミスティカを預かったようなものだったの。だから、アリスになった直後、お父様に全てのドールを復活させるよう希って、争いは一旦終了した。…けれど」
ふぅ、と一息ついてから菫青石は続ける。
「今度はアリスゲームに加わることのなかったローゼンメイデン達のもとで争いが起きたの。第八ドールから第三十ドールまでにね」
「また、奪い合いが?」
「いいえ。ローゼンメイデンは伝説のドール。だから数多の人形師たちがローゼンメイデンを目指して多くのドールを作ってきたの。彼女たちもアリスになるべく作られたと言うことね。普通のドールなら仮に私たちを襲っても、ローザミスティカに耐えきれず、自滅する。
ただ、先日、第二十九ドール橙姫、そして第二十一ドール桃華が襲われ、ローザミスティカを奪われてしまった。ローゼンメイデンではないけれど、ローザミスティカに耐えられるであろうドールが現れてしまった。だから橙姫と桃華を除く第八以降のドール達はマスターを持ち、その謎のドールと戦うことにしたの。私にはアリアネル。…そして、貴方も確かマスターになる筈よ。フェリックス・A・K・エドワーズ」
「…は?お、俺か?」
フェイクが目を見開いて尋ねる。
「アリアネルはほんの気まぐれでノクターンからの手紙に『巻きます』と返事した。貴方も身に覚えがないの?」
「…そう言えば…」
はっ、としたようにフェイクが目を見開く。
「この間、パソコンいじってたら、突然『巻きますか、巻きませんか(なお、このページを閉じるとコンピュータウイルスに感染します)』…なんてのが来て、それで…」
「巻きます、を選んだの?」
「ああ…」
「なら、この餓鬼の部屋に行ってみましょう。…もしかしたら、もう来ているかもしれないわ」
「がっ…!?俺は餓鬼じゃない!」
「フェイクは餓鬼じゃないわよ。まぁ、精神が私より幼いのは認めるけど」
「〜〜っ!もーいい。早く行くぞ!俺の部屋」
フェイクは逃げるように部屋から出ていく。アリアネルは菫青石を抱えてそれを追いかける。
「…、待って、フェイク。私、あなたほど速く走れない、っ…」
アリアネルが追いかけながら言うと、フェイクはアリアネルが菫青石を抱えているのと反対の腕を掴んだ。
「これで大丈夫だ」
「あ、待って…っ!」
左手で菫青石を抱え、反対の腕はぐいぐい引っ張られ、アリアネルは半ば引きずられるかのようにして、フェイクの家に入り、部屋まで引きずり込まれた。何度もつんのめったが、転ばなかった自身にアリアネルは心の中で拍手を送る。
「…これ…、なんだ?」
フェイクはアリアネルの手を離すとベッドの方を見て、そう呟いた。
そこには、アリアネルの元に来たものと同じ、黒い革製の鞄が置かれていた。
「やっぱり。そこにいるわ、私の姉妹が」
菫青石はまっすぐ鞄を見る。
「さあ、餓鬼。とっとと鞄を開けて。貴方のドールが待っているわよ」
無音の空間に、カチャリ、という金具が外れる音がした。やはり、キィ、と重い音がし、その後に一体のドールの姿を確認した。
「紫陽花…?」
「知っているの?菫青石」
「この子は第十六ドール、紫陽花。私の二番目の妹よ」
菫青石がそう紹介すると、フェイクが笑った。それも、バカにするような笑い方だ。
「なんの冗談を言っているんだ、アイオライト。体型的に君の方が幼じょ…、じゃなくて、少女属性だろ。君の方が妹じゃないのか?」
からから笑うフェイクを見て、菫青石はため息をつく。
「…はぁ…。こんなのが私のマスターの幼馴染で、私の妹のマスターだとか、本当に世も末ね」
「人形が世も末とか言うな!アリー、君、この人形のマスターなんだろ?どうにか言ってくれよ」
「残念ながら、私も庇えないわよ。菫青石への態度は、私やレイラへの扱いと百八十度違うんだもの」
可愛い、可愛いとこれまでに何度も言われ、悪いがもううんざりしている。
「ゔー。で、螺子を巻けばいいんだっけ?」
「…ええ」
ギィ、と重い音。そしてガチャガチャという開錠にも似た音。
そのうち、人形はフェイクの手元から離れ、ふうわりと宙に浮く。その後、ゆっくりと地上に戻り、時間をかけて目を開いた。
「少しお久しぶりね、菫青石」
菫青石はやや表情を緩めて話しかける。
「ご機嫌よう、紫陽花。まさか、貴女が私の近くに来るとは思わなかったわ。でも、親しくしてくれる貴女で嬉しいわ」
「安心して。月華は来ないわよ。あの子にマスターはいらないもの。そして初めまして、マスター。私はローゼンメイデン第十六ドール、紫陽花。貴方のお名前、教えてくださる?」
「フェリックス・A・K・エドワーズ。身分は学生。エドワーズ男爵の息子だ」
「おぼっちゃま、ね。…さて、菫青石がここにいるということは、すでに分かっているということかしら?単刀直入に言わせてもらうわ。私は貴方に…、フェリックスにマスターになって欲しいの」
紫陽花の言葉に少しも驚かず、フェイクは言った。まあ、想定されていたので驚くも何もないが。
「やはり、俺もだったのか…。受け入れるつもりだけど、これ嫌だって言ったら、どうなる?」
「どうしようかな?ま、内緒ね。貴方はマスターになってくれるのでしょう?」
「それは、…まぁ」
殺気を放つ人形(菫青石)に隣から睨まれたら、いやでも断れないだろう。
「では、フェリックス。私の指輪に誓いの口付けを」
そっと、触れるか触れないかくらいの口づけを落とす。フェイクは自分の左手薬指に指輪を確認すると、微笑む。
「お揃いだね、アリー。それも指輪だから意味深だね」
「開口一番に言うのがそれなの?まずは紫陽花に何か言うんじゃなくて?」
アリアネルが言うと、紫陽花がふふふ、と笑う。
「私はマスターが貴女といちゃついて…いえ、マスターが一方的に貴女にかまっていても、微笑ましく見守っているから、ご安心遊ばせ。そうでしょう、菫青石?」
「この餓鬼は気に食わないわ」
「ふふ、これからよろしくお願いしますね、お二人とも」
「ああ、よろしく」
「ええ、菫青石も、改めてよろしくね」
「こちらこそ、アリアネル」
こうして、少年少女と二体のドールの一味変わった夏が、訪れたのだった。