戦乱の裏側で   作:鞍馬エル

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 内乱

「申し上げます、クロム王子らが帰国したと!」

 

「…そうか

だが既に遅い。遅いのだ」

クロム達が反ギムレー教団連合との戦いを終えて帰国した報告を受けた人物はそう嘆いた

 

 

聖王であるクロム不在のイーリス

先先代によるペレジアとの聖戦。先代聖王であるエメリナによる統治

この2つは方向としてまるで真逆なものであり、それ故にイーリス国民は元よりイーリスに仕えている騎士や文官達、貴族達すら振り回される事となってしまう

 

聖王国騎士団所属の多くの騎士や兵士は軍縮により、イーリス王国軍に居場所を失った

先先代の頃に内政に秀でていた者や、内政を重視すべきと考えていた者はイーリス中枢から弾かれ、エメリナの代においては重用される事となった訳である

 

…が、一度イーリス聖王家からその様な扱いを受けた彼等は決して安易に聖王家を信じようとしなくなっていた

 

「今は確かにエメリナ様による平和が良しとされているだろう。が、余りにも今のイーリス王国軍は無力に過ぎる」

過大な軍事力を持つのが良いとは殆どのイーリス王国に仕える文官達は思っていない

 

が、王都付近の治安維持程度の働きしか期待できないフィレインの騎士団だけでペレジアやフェリアとの関係がどうにかなると彼等は全く思っていなかった

ペレジアは間違いなく先先代による聖戦に対する憎悪や怨恨などを持っているだろう。それによるイーリス侵攻を起こさない為にもペレジアが躊躇う程度の軍事力を有さねばならない。自国のルールや思想に理解を求めるのであれば、少なくとも今の時代なら力は必要なのだから

 

それでもエメリナによる平和重視の政策は聖戦により疲弊したイーリス国民からは消極的支持を集めはした

そして、国内がある程度安定したとみた商人達はイーリス国内での活動を再開。イーリス経済は少しずつだが、確かに上向いてきた

 

 

…と考えるのは王都付近に住んでいる者達だけだろう

王都付近における生産能力はたかが知れている。イーリス聖王国を支えている生産拠点は王国東部や南部、そして西部に多く存在していた

 

ペレジアとの聖戦により、当時の聖王により聖王国騎士団が動員され予備兵力として各地の諸侯軍を動員された

この時点で各地の兵力は当然の様に減少。その結果イーリス各地において賊徒の跳梁跋扈を許す事となる

加えて当時の聖王は各地の諸侯に対して不満を持っていた為に、諸侯が戦死した場合、跡継ぎが成人していない領地は全て召し上げた。つまり王国直轄領とした訳だ。聖王からすれば、事あるごとに口を挟んできたり異を唱える彼等は邪魔でしかなかった為の措置であった

当然諸侯は反発するが、戦時中であり騎士団の増員を進めていた王国軍に諸侯が敵うはずもなく彼等は忍従を選択せざるを得なかったのである

 

更に食糧などの臨時徴用も聖王は行なっており、結果として地方の負担は留まる事を知らなかった

そこまでしておいての敗戦。そして聖王戦死による代替わりだ

 

 

彼等からすれば、決して無視できる被害ではなかったのだ。特にペレジア(仮想敵国)と接していない、東部や南部の諸侯にとっては

 

北方ならばフェリアと

西方ならばペレジアと

それぞれ接する為にある程度の、しかし受けた被害を補填するには余りにも足りない、補償はあった

 

 

しかしながら、それらの脅威のない東部と南部の諸侯に対する補填の話は終ぞ聖王国から出る事はなかったのである

 

故に彼等は新体制を敷いたエメリナ(新しき聖王)に対して不満を持つ事となった

 

 

聖王国軍の解体という大凡正気を疑うが如き事を行なったエメリナ

それに対する彼等の感想はと言えば

 

「正気か?」

と言ったものから

 

「ならば我等の影響力は上がる。であれば、そこまで悪い話ではないだろう」

など様々だった。が、彼等に共通する事が一つだけある

 

イーリス王家頼るに足るか?

という疑念

 

 

彼等地方諸侯からすれば、対外戦争をしようとさして興味はない

自分達諸侯に被害が及ばねば、という前提条件があるが

 

 

 

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新たな聖王エメリナの元、先代聖王の聖戦により疲弊したイーリス国内はゆっくりではあるが着実に再生しつつあった

…というのは、(労働力)(経済力)を潤沢に有している王都などの極一部に住む者達から見たイーリスである

 

聖戦において最前線に立たざるを得なかった西部諸侯。彼等は自前の戦力は元より、労働力である領民や統治すべき領地にすら多大なダメージを受けた

聖王戦死に伴う混乱により、ペレジア軍は一転攻勢をかけている

 

ペレジア国内に踏み込んでの聖戦であったが、ペレジア側からすればそれをそのまま放置する選択肢などあろう筈もない

最低(・・)でもペレジア国内からの排除

 

イーリスの動き如何ではイーリスへの逆侵攻すら企図されていたのだ

ペレジアにおいて国王の座に就いた新王ギャンレルはペレジア国内からのイーリス軍排除を第一とし、国内経済などの立て直しを第二の喫緊の課題とした

その中で一部戦線においてイーリス国内への逆侵攻に成功していた部隊もあったが、それらについてペレジアへの撤兵を行なっている

 

曰く

 

「俺達の国に踏み込まれた時あれだけヤバい事になったんだ

アイツらがそうならねぇと言い切れるか?」

との事

 

 

イーリス国内からペレジア軍が撤退したのは喜ばしい事であろう。少なくとも、ペレジア側も戦争の継続を望んでいないと見えたのだから

 

が、実際ペレジア軍によって領地を一時的とはいえ奪われた諸侯からすれば「ふざけるな!」と言ったところであろう

攻める時には強制的に動員しておきながら、占領された領土回復に王都の連中は消極的に過ぎたのだから

 

エメリナからすれば、突然の先代聖王の死で混乱の極みにあったイーリス国内の取りまとめや泥沼と化しているペレジアとの聖戦について優先しなければならないのは間違いではない

ペレジア側に対して当時何度となく、交渉の使者を派遣していたがその全てに対して新王ギャンレルは交渉自体を拒否していた

度重なる聖戦という名の軍事行動により、イーリス聖王国の財政状況は控え目に言って危機的な状況であり、イーリス王家の有していた財産の大半はこの一時の狂騒により失われている

 

下手をすると、自分の代でイーリス聖王国は滅亡する可能性すらあったのだ

エメリナ自身、自分がどうなろうともそれは仕方のない事だと割り切っている。だが、大切な家族にまで手がかかるというのは決して受け入れ難い事でもある

故に彼女は必死でこの危機的状況の改善に取り組んだのだ

 

 

此処で問題だったのが、イーリス王都にいる者達と地方諸侯達との温度差。王都にいる者達は『王国再建』を第一とし、地方諸侯からの陳情についてはそもそも女王(エメリナ)の元に届けようとしなかった

 

ある意味ではイーリス聖王国の存続を最優先する英断であり、別の捉え方をするのであれば地方諸侯を切り捨てるが如き行ないであろう

が、元より地方諸侯は王家に忠誠を誓っていないと思われる様な行動を度々起こしている。その為一部の者達は「地方諸侯を失脚させ、地方を王国直轄領にすべきではないか?」との意見を交わしていた

 

 

何せ地方都市からの食糧買い付けや兵の動員に伴う調整など、それなりの負担になっていたのだから

元々地方諸侯は軍事的拠点などを預かる軍団長であった

 

遠く離れたユグドラルやこの大陸においてもかつては国内でありながら、幾つかの軍事拠点()を持つのは至極当然の事

フェリアやペレジアの後に成立したイーリスであれば尚のこと

 

 

 

 

 

 

しかし、城砦などの管理のみを任せるのであれば補給などに支障が出かねないとして周辺の集落などの統治権も与える事とした

結果、一個の勢力として小規模ながらに完結してしまい、それがいつの間に世襲となり地方諸侯として定着したという背景がある

 

あくまでも軍の一員としての城主ではなく、独立性の高い諸侯と化したのだ

 

-----

 

ユグドラルにおいてはアグスティ王家を頂点とした『アグストリア諸侯連合』というものが存在した

アグスティ王家に対してノディオン、ハイライン、アンフォニー、マッキリーにマディノと言った各国家が従う事によりその体制を維持していた

 

が、この体制は中央つまり王家に対する確かな忠誠を持たねば維持できるものではない

事実アグストリア諸侯連合は名君と謳われた賢王イムカの死後、次代の国王シャガールの代に滅亡している

 

 

無論当時ユグドラル大陸にて国家を滅亡させていたグランベル王国の侵攻あっての事であろうが、滅んだ原因の一つとしてアグストリア諸侯の足並みが揃わなかった事もまたあっただろう

 

 

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先代聖王エメリナの統治は危機的な状況にあったイーリス聖王国の立て直しにこそ成功した。イーリス聖王国軍というものの大規模な縮小あれど

 

と思っているのは中央(王都)で働いている者達くらいである

 

辺境の出身であるドニや絶望の未来からこの時代に来たセレナが嫌々ながらに一時的に従わねばならなかった男ネルソンの所にいたホランド

彼等が何故頭に鍋と言う奇抜な格好をしていたのか?

 

 

イーリス王都以外の地では屍兵や山賊、盗賊等が多くイーリス聖王国軍はそれに対処しきれていなかったからである

無論地方諸侯達も可能な限り自領の安定に動いていたが、少し頭の回る者ならば諸侯の領地の境目やそれなりの規模の勢力を持つ事により討伐を回避していた

 

 

王都に対して地方諸侯は聖戦による打撃を受けながらも税を納めねばならない。が、それに対する見返りというものは殆どなく、挙げ句『クロム自警団』という諸侯からすれば不満しかないものを許していた

 

「根本的な解決にならぬだろうに」

 

彼等からすれば、クロム自警団は確かにそれなりの戦力であったがあくまでも『それなり』程度

下手に女王の弟であるクロムが動いた事により、彼等に助けられた地域はさておき、救援の間に合わなかった地域に住む領民達からは

 

「何で俺たちは助けてくれなかったんだ!!」

と言う不満が高まる事となった

 

勿論諸侯は諸侯で自分達の領域に好き勝手に手を出される事もあった為に不満を高めている

 

 

それでも彼等は思惑こそ様々であったが、イーリスの一員として己が所領や国を護られねばならないと思い定めていた

 

 

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ペレジア王ギャンレルを討ったと聞いた時に彼等が思ったのは

 

「次のペレジア王がどの様な人物であろうか?」

と言ったものだった

まぁ、その時は誤報であったのだがペレジアは先の聖戦による被害から立ち直りつつありはしたものの、国民感情はやはりイーリスに対して敵意を持つ者が多かった

ギャンレルのした事については是々非々あるが、少なくともイーリスとペレジアによる全面戦争ではなく、部分的な戦闘に収めた事は並の手腕で出来るものではない。そう彼等は感じていた

 

そして、新たにペレジア王となったファウダー

ギャンレル王の臣下にその様な者がいたと彼等は知らなかったが故に彼等諸侯は様々な伝手を使いファウダーの素性を調べさせる事としたのは当然といえるだろう

 

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そして大陸に侵攻してきたヴァルムとの本格的な武力衝突が始まった頃になって、彼等はファウダーが『ギムレー教団』のトップである事を知った

 

それだけであれば、そこまで問題とする事はない

そう大部分の者達は判断したし、クロム達に知らせるまでも無く把握しているものと考えた

 

…ところが、である

ペレジアとの国境に位置する西部諸侯のとある人物が古い記録を見つけた事により、雲行きが怪しくなった

 

『邪竜ギムレー』

ギムレー教団とはこの忌まわしき存在の復活を目論む組織であると

そして今なおそれを強力に推し進めている事を彼等は汁

 

 

となれば、イーリスにとって相入れる存在ではないのだ。ギムレー教団は

 

それを王都に知らせる為に使者を走らせ、彼等は一刻も早いヴァルム大陸からのクロム達の帰還を待ち望んだ

 

 

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ペレジアにおいて亡くなったと思われていたペレジア前国王ギャンレルを中心とした『反ギムレー連合』とも言える組織とファウダー率いるギムレー教団との戦闘が勃発

 

彼等もギムレー教団に対する危険性を理解した為に直接的な支援こそ出来なかったが、資金や食糧支援などを行なう事でギムレー教団打倒を目指した

当時、国王であるクロムが未だにヴァルムから帰還していなかった為、イーリスの立場はペレジア現国王ファウダー寄りとされている

 

それは地方の復興に商人達の協力を必要としていた彼等にとって、好ましくない事であった

だが忌まわしき存在である邪竜復活阻止はクロムとて最優先にするだろうと考え、動いていたのである

 

 

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ところが、ヴァルムから帰還したクロム達は一度イーリス本国に戻る事なく何故かファウダー達を攻撃していた『反ギムレー連合』の本陣を強襲。ギャンレル以下基幹部隊を倒してしまった

 

この一戦により『イーリス王国は邪竜復活を目論んでいる』と判断されるのは仕方のない事である

 

その後、イーリス国内で活動していた商人達は挙ってヴァルム大陸への進出(避難)を開始

当然であるが、食糧など様々な物資のやり取りをしていた彼等の喪失は王都よりも未だに復興のなされていなかった地方諸侯に致命的なダメージを与える事となる

 

友好国であるフェリアだったが、東西の王がクロム達に協力していた事もあり、『反国王派』ともいえる勢力が急速に勢力を拡大

不自然なほど(・・・・・・)武器や物資の整っていた彼等による反乱はフェリア国内の混乱を引き起こす事となり、とてもではないがイーリスへの支援など見込めない状況に陥っていた

 

この様な危機的状況にありながらも、クロム不在の王都の動きは鈍く彼等は選択を迫られる事になる

 

『邪竜の手先となるか?クロム達に叛逆してでも大陸を守るか?』

 

 

そして彼等は後者を選んだ

それだけの事

 

 

----

 

既に王都は制圧しており、クロム達に従っていた者達は牢に繋いでいる。…流石に幼子であるルキナ王女については世話役の侍女等も含めて幽閉という形にしていた

 

「我等がすべきは破壊ではない。邪竜復活阻止なのだ」

とは地方諸侯の取りまとめをしている人物の談

 

彼自身聖戦において、先代当主である父や世継ぎであった筈の兄達を喪っている。イーリス聖王国の在り方について誰が不満を持っているか?と聞かれたならば、恐らく多くの者が彼の名を挙げるだろう

怒りもある、憎しみだって持っている

 

が、だからといってイーリス聖王国や王家を滅ぼしてしまえとは考えない

愛着云々の話ではなく、実利の問題からだ

 

 

仮にイーリス聖王国を、今の王家を滅ぼしたとなればその先に待つのはいつ終わるのかすら分からぬ果てない混乱だろう

ともすれば、ペレジアとの戦いの前にイーリス国内での争乱が起きる可能性は決して低くない

 

権力争いをするな

とは言わない。が、優先順位くらいは理解して貰わねば困るのだ

 

彼はペレジア方面に領地を持つ西部諸侯の一人であり、王家に不満を持っている者が多く存在している地域の閥に属している

故にこそ、彼が支持されている部分もあった

 

 

既に商会の多くが引き払ったイーリス国内では混乱が続いており、残った商人はこの好機を逃すまいとかなり高値で食糧や物資を売りつけている

商会に属さぬ自由の身

そう言えば聞こえは良いだろうが、結局のところ野心が強過ぎる。とかあまりにも阿漕な商売をするが故に商会側に加入を断られている者が殆どだ

 

短期的な利益に拘るあまり、トラブルになる事も多いのが今イーリスに残っている商人である

 

しかも、売る時に暴利を貪ろうとするだけでなく、仕入れにおいても必要以上に安く買い叩こうとする為に彼等の仕入れ先はいつも変わる

当然安定した量など望むべくもなく、大商いは出来るはずもなかった

 

 

現在王都や王城を制圧した諸侯軍は王城に蓄えられていた食糧を困窮している王都の民に配っている。故に王都の民は彼等に対して反発する事はなかった

 

が、諸侯軍に参加している地方諸侯の多くからすれば困窮していると言っても地方より遥かにマシな状況にすら堪えられない王都の民に対して内心不満を募らせていたりもする

 

地方の困窮は死に繋がりかねないものなのに対して、王都のそれはまだ生死レベルではなかったのだから

 

 

だが、先代聖王の頃に享受出来ていた『日常』

それはクロム等の『反ギムレー連合』との戦闘によりまるで潮が引くかの様に大手商会等がイーリスやフェリアに見切りをつけた事で容易く崩れ去った

鍛治師や一部の屋台などは平常営業していたものの、大手商会の関係する場所は軒並み店を畳む事を選んだ為である

加えて大手程ではないにせよ、大手と取り引きを行う事により安定的な商売を行なっていた者達はこの唯ならぬ動きを見て迅速に動いた

 

 

結果残ったのは資本力や在庫に乏しい商店や暴利を求めて王都に来た連中だ

 

 

これでもイーリス王国がまだ的確に対応出来ていたなら致命傷であっても挽回は出来ただろう

 

が、国政を担う者達は国王であるクロムが居ないと何の判断一つ出来ない者達ばかり

まぁそれもそうだろう

 

ペレジアに亡命を決め、ペレジア軍によって始末された人物がいたが彼くらいであったのだから

聖王のいない時に処罰を恐れる事なく判断できたのは

 

 

結果王都はおろかイーリス国内から撤退する商会をイーリス王国は押しとどめる事叶わず、イーリス王都において不穏な空気が漂う事となった訳だ

 

彼等地方諸侯は王国のやり方に対して叛意を求めるべく王都へと兵を進めた

問題にしかならぬ事ではあるが、元より参陣した諸侯達は処罰を覚悟している

 

『国の危急存亡の時に動かずして、何が貴族か!何が諸侯か!』

彼等は一様に現在の状況がイーリス聖王国の危機的状況である事を理解していた。であればこそ、早急な対策や対応を求めねばならない

 

 

…はっきり言えば、国外での行動が多い現在の聖王であるクロムを彼等は既に主君と認めていない

ヴァルムから帰還したのであれば、まず第一に詳しい情報や状況確認の為何を置いてもイーリスへと戻るべき。その上で行動したのであればこの様な状況になっている訳がない

 

加えて言えば、フェリアとは友好関係を何とか構築したとはいえどもペレジアはつい少し前まで剣を交えていた相手。しかもペレジア国内において現国王ファウダーに従う者はさして多くない始末

求心力も指導力もない国王など、お飾りにしかならない。ところが、そのファウダーを操っている者がいるにしては余りにもペレジアの混乱が収束する気配もなかった

そこに死亡したと言われていた前国王ギャンレルがペレジア軍を中心とした軍団などを纏めている

 

確かにヴァルムへの出兵においてペレジア側の軍船等が提供される事がなければヴァルム大陸へ向かうのは不可能だった

しかしながら、である

ヴァルム大陸への出兵に際して聖王であるクロム自身が軍を率いる理由など何処にもない。寧ろ前聖王エメリナの死による混乱から未だイーリス全土は回復していなかった事を考えれば時期尚早とすらいえる

 

 

彼等地方諸侯が王都に着いた時、王都には不穏な空気が蔓延していた。一部の有力者の中には普段通り(・・・・)の生活が困難である事にストレスを感じており、ともすれば傭兵などを使って何らかの行動を起こさんとしていた予兆すら見られた

諸侯軍は速やかに王都の秩序を安定させると共に、王城側に対して事態の説明と早期の解決を求める。それが成った暁には地方諸侯を勝手に率いて王都まで寄せた事に対する罪を償う、そうも知らせている

 

天馬騎士団フィレイン戦死後、再建の目処の立っていないイーリス騎士団ではあるが、それでも戦力として多少の数は存在していた

…本来、フレデリクやソワレ、ソール或いはスミアかティアモの内の誰か一人がイーリスに残って騎士団再建を進めるべきであったと思うのだが

 

統制が完全に取れていない騎士団であったが故にその抵抗がどの程度になるか?すら予想しづらかった

 

 

----

 

ある見習い騎士は王都に攻め寄せてきた諸侯軍に抵抗する為に自身の判断で仲間と共に王都内、しかも商店などの建ち並ぶエリアで即席の防御陣地を構築。頑迷に抵抗した

 

勿論騎士(聖王国を護る人間)としては間違った判断ではないだろう

…問題はタイミングが余りにも悪過ぎた。という事である

 

「邪竜ギムレーが復活したらこの大陸での商いは出来なくなるだろう

まぁ、それまでの混乱の中で商人が生き残れるかすら分からんが」

とは今は亡き会頭の言葉だった

 

 

まだ一部の商人はイーリス王都に留まっていた。今後どうするか迷いながらも荷支度をしている所もあったのだが、自分達を顧みない防衛戦をするイーリス騎士を見て

 

「これはいかんな」

との判断を下す

 

 

そもそも王都付近に諸侯軍が到着しているとはいえ、本格的な攻勢をかける(王都に無駄な被害を出そうとする)予兆はない

イーリス国内で物資が不足しつつある現状、その選択はイーリスという国を滅ぼしかねないのだから

 

……まぁこの国を去る自分達にはもう関係の無い話だが

 

----

 

商人は去り、王都に住む住民は戦火に巻き込まれたく無いと家に籠り、残っていたイーリスの騎士達はまるで統制の欠いた状態で挑みかかってきた

 

流石に攻撃されたとあってはそれを放置する訳にもいかず、彼等を残らず捕らえる事となってしまう

 

しかしそれは王城にいる者達からすれば、明確な反逆行為と見えてしまった

事此処に至っては諸侯軍を反逆者として処する他なし

 

そう判断を下した者達は残存する騎士達を諸侯軍制圧の為に出陣させると共に帰国しているであろうクロム王等に急使を送った

 

 

 

 

----

 

統制を引き締める諸侯側

しかし、王家の存在意義すら問われかねない現状に不平不満を持つ諸侯の中には「今こそ間違った王家を正すべき」との主張をする者が少なくない数存在しており、その様な諸侯に対して武器や物資が提供(・・・・・・・・)されていた

 

そして、その時は訪れる

 

 

----

 

王都付近に陣を構える諸侯軍

その中の幾つかは密かに王都に向けて密かに動き出した

 

彼等は諸侯の中でも先先代や先代聖王エメリナのやり方に振り回された者達であり、王家に対する不満と不信が殊更強い者達であった

 

 

「こ、これで良いのだな?

間違いなく我々がイーリスを統べられると言うのだな?」

 

「…何度も言わせるな。我等がいる限り諸侯軍であろうがクロム自警団であろうがさしたる脅威となる事はない」

陣幕の中で諸侯の1人はフードを被った人物に確認を取っていた。どうにもこのやり取りは何度も行われているらしく、フードの人物の声には隠しきれない苛立ちが見え隠れしているが

 

「そ、そうか!

では私がイーリスの国王になれるのだな」

 

「…そういう事だ」

 

(ふ、愚かな事だ。全てはあのお方の掌の上だと言うのに良くそれで脳天気に喜べる

まぁその方が都合が良いのだがな)

 

内心未だ腹の決まらない小心者にフードの人物は顔を歪めると

 

(軍隊ならば目の前の敵を倒せば良い

…が、国王がそれではな。しかも軍師であり王妃もその歪さに気付かぬでは)

と内心クロム達を嗤う

 

王都付近に集結している諸侯の多くは今のイーリスの在り方に不満や疑問を抱いている

例え諸侯側から攻撃されたとしても、それにクロム側が反撃すれば

 

(誰しもが理性的に動ける訳でもないのだよ。そして動き出した群衆を止める術は無いに等しい

さて、どうする?)

 

さぞ面白い光景が見られる事になるとフードの人物は口元を邪悪に歪ませた

 

 

----

 

クロム達は諸侯軍と丁度王都を中心に真反対に到着すると、速やかに王城に戻った

 

「街が」

 

リズは悲しそうな声を上げる

イーリス王都の所々から白煙や黒煙が立ち昇り、商会や商店に露店の店先は荒らされている

 

しかし、クロム達が王都に到着する少し前に王都から未だイーリスに残っていた商人達は脱出していた

 

 

もうかつてのイーリスの活況が戻る事はない

 

 

----

 

 

「クロム陛下!」

 

「…すまん、皆苦労をかけたな」

クロムとその妻であり軍師であるルフレは玉座の間に戻ると数少ない文官達が2人を迎えた

 

「…色々と申し上げたい事があります

が、今は諸侯軍との話し合いをすべきかと」

 

クロム不在に王都をまとめ上げていた人物は苦悶の表情を浮かべながらそう提案する

 

「諸侯達の要求はなんだ?」

クロムとしてもイーリスの混乱を放置して再度ヴァルムに向かうのは得策でないと判断

目の前の混乱を鎮めない事にはどうにもならないとルフレやフレデリク達と話し合った上で結論を出している

 

「…」

言えるはずもない

彼等諸侯は混乱の続くイーリスを放置して他所の大陸にまで遠征した挙句、倒すべき相手すら間違えたクロムの退位を求めているのだから

 

無論諸侯達も愚かではない。直接口にした事はないが、彼等の態度が雄弁に語っている

 

「我等は確かに臣下であろう

が、仰ぐべき主君が道を違えたならばそれを正すのも我等の責務」

 

諸侯軍の有力者の1人はそう言い放ったものだ

 

 

 

「…そうか」

クロムは相手の沈黙からある程度の事情を察する事が出来た

 

 

そもそも父である先先代の聖王や先代の聖王である姉エメリナと違い、自分が国王となったのはあくまでも状況が状況だったからに過ぎない。

 

自分なりにやってきたつもりではあるが、さりとてやはり自分が国王(人の上に立つ者)として相応しくないとも思っている

だが、今イーリスで王位継承権を持つのは妹のリズと妻ルフレとの間に生まれた娘ルキナだけ

 

妹にこの様な状況のイーリスを丸投げしようとはクロムも思ってはいない

 

(ギムレーをどうにかしてからの話になるか)

平時ならば、寧ろ武力で解決する事の多い自分よりもリズの方が良いのかも知れない

そうクロムは考える

 

 

…だが、そこまで状況は優しくも甘くもなかった

 

「陛下、大変です

兵の一部が諸侯軍に!」

 

「なんだと!」 

 

 

----

 

 

「イーリス王国軍から攻撃を受けたと?」

 

「はい」

 

「応戦するしかあるまい」

 

「…やむを得ない、か」

 

「戦狂いめが!」

 

 

 

 

 

 

 

そして、勝者のいない戦いの幕は上がる

 

 

 

 

 

 

 




という訳でイーリス内乱始まるよー





チキ、バヌトゥ、チェイニー「負けるか!」

ギムレー「時間稼ぎしなきゃ」
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