戦乱の裏側で   作:鞍馬エル

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男には野望があった

荒廃したペレジアを復興させること
その為にどれだけ汚い事もやった

だからこそ許せない事がある


舞台から叩き落とされた?
ならばもう一度這い上がるだけ



 意地

ヴァルム帝国の侵攻艦隊を撃破したクロム達は敵地であるヴァルム大陸に降り立ち、そこで反帝国のレジスタンスの一員であるソンシン出身の剣士サイリを助ける

 

サイリは言う

「先ずは竜の巫女様とお会いすべき」

 

なお、この場にいない会頭がその発言を聞くと

 

「…あー、それどっちだ?

お嬢か?あのクソ女か?」

と顔を盛大に引き攣らせながら訊ねた事だろう

 

 

当然いないのでそんな事はないのだが

 

 

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さて、それなりの時間をかけてヴァルム大陸に上陸した以上、気軽に『マップ移動』などでイーリス側に戻れるはずもない

 

 

ファウダーは自身の腹心であるダークペガサスのインバースと一部の屍兵をヴァルム大陸に派遣する

全てはギムレー(彼等の神)復活の為に

 

 

しかし、これは悪手であった

元より混乱を求めているファウダーらギムレー教団は苦しみに喘ぐペレジア国内など構う必要もない

 

それ故に己を国王と僭称(・・)したファウダーやギムレー教団よりも目に見える形でペレジアを豊かにした実績のあるギャンレルを国民が支持するのは至極当然の事だった

 

 

ギャンレルは国内にある隠し砦に駐留する部隊に命を下す

 

ペレジア(俺達の国)を取り戻せ」

隠し砦というペレジアの秘中の秘の守備を任されていた者達は目立つ軍事行動を控えた

 

「最初から腹や顔を切りつけりゃどんなバカでも気付く

やるなら端から順番に、相手にその脅威を測らせる事なく切り捨てろ」

とはギャンレルの訓示

ある意味で泥臭い戦い方を熟知しているギャンレルらしい物言いに、ペレジア軍の兵士達は獰猛な笑みを浮かべていた

 

隠し砦というだけあって、そこに駐留している者達のペレジアやギャンレルに対する忠誠は疑いようのない程に強固なものだ

加えて補給に難渋しそうなものだったが、会頭は今までの利益全てをこの一大戦闘に注ぎ込む事とし、なんとアニケドマ商会の解散を決定。従業員達には当面の生活の出来るだけの退職金を払い、この戦闘にギャンレル側の人間として参戦する意思を示した

 

元より彼の商会は身寄りの無い者達や明日をも知れぬ傭兵達を集めていた組織が核であった為に離脱する者はなく、ギャンレル側の戦力として薄い魔道士や回避能力に優れる暗殺者(アサシン)なども参加する事となった

 

目的は先ずペレジア国民の生活と命を守る事

叶うならばギムレー教団の手駒であろう屍兵やそれを統率する屍将の撃破も狙う

特にイーリスやフェリア国境付近にある隠し砦には竜騎士を多数配備しており、彼等は思う存分高い戦意のままに屍兵を蹴散らす事となった

商人仲間であるアンナを通じて会頭は傷薬や食料の確保に奔走

 

砂漠の奥深くにある祭壇付近に本拠を持つファウダーでは事態の掌握に時間を要する事となってしまう。

本来すぐに気付ける存在もいたが、なにぶんかの存在はまだ力を取り出している最中であり、あまり動けない状況にあった

 

 

更に会頭の殺意は留まるところを知らず、各地の商人や商会からドラゴンキラーや遠距離魔法に遠距離回復の出来る杖まで集めていた

特に凶悪なのが、会頭とその秘書の組み合わせであり、会頭は

 

「久々に、やるか」

と意気揚々と敵の大軍の中に突っ込む無法ぶり

なお、彼の得物(武器)は闇魔法リザイアであり、これは相手の生命力を吸収する魔法

 

…つまり、そう言う事だ

更に秘書は高レベルのアサシンであり、会頭より用意されたキルソード4本を頼みに敵を捕殺し続ける

高い技量を持つアサシンの必殺の一撃は確実な死を相手に届ける

 

更に会頭直率の部隊は高レベルの魔道士や弓兵が多い

それらはクラスチェンジアイテムをやはりアンナや他の商会から手に入れた会頭は惜しみなく使う事により、戦力としての価値は跳ね上がる。元々ペレジア出身の者もそれなりの数が会頭の元にいた事もあり、彼等は隠し砦の部隊との連携により大きな戦果を叩き出す

 

ギムレー教団の末端部隊の中には気づいた者もいたが、祖国を好き勝手に荒らされていた事に怒りを隠そうともしない者達との間には埋め難い士気の差があった

 

 

会頭は嗤う

 

「竜の脅威を知らぬものよ。神の気まぐれの残酷さを知らぬものよ。その濁った(まなこ)で何を見る?その穢れた手で何を守る?己が力を過信せしものよ。せめて救いを与えよう」

 

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かつて王族の尽くが殺された王家があった

唯一の生き残りである姫はそれでもと生き延びる事を選んだ

 

高潔なる騎士と麗しき竜騎士はその姫を逃し

気高き狼は姫を護らんと命を賭けた

そこに蒼き若獅子来たりて時は動く

 

邪なる者達を倒し、遂にその姫は王家を再興せし

 

 

あの時代に吟遊詩人達が好んで使った物語である

 

 

会頭からすればとんだ馬鹿な話でしかない

高潔な騎士とは誰の事だ?

 

彼が知っているのは自国の方針に異を唱えながらも、騎士として高い名声と声望があってなお己が信念とやらの為に世界を揺らがせた変節漢。その男は後に祖国の王子と王女の為に、愛する女の為に戦ったと言えば聞こえは良いが素顔を隠して戦った

 

高潔?

嗚呼そうだろうよ?

己が信念という名の欲望に対しては常に誠実だった

 

 

彼は知っている

己が想いが姫に届く事は無いと薄々勘付いていながら、それでも姫を助けるべく滅んだはずの大国を立て直した気高く、そして不器用な狼の事を

 

 

 

----

 

「…どうしても駄目なのかい?」

 

「残念ではありますが、王子と王女の誠実さに疑う余地はありませぬ。されど、その後見となる男に全くの信用が出来ぬのです、マルス殿」

 

「…しかし、彼にも事情があったのはご存知ではありませぬかな?」

 

「無論承知しておりますともジェイガン殿

なれど、我等商人とてルールがございますので」

 

「ルール、ですか?」

 

「左様にございますな、シーダ様

アカネイアにより荒廃した各地の再建は理解できます

それ抜きでは到底大陸の安定など望むべくもない事も」

 

「…でもそれが出来ない理由がある、ということかな?」

マルスの問いに

 

「商人は信用がなければ取引出来ませぬ

彼の国は規模に比して大き過ぎる騎士団、軍事力を持っておりました。それ自体は責める謂れもありませぬが、商人からすれば危ういのです」

 

「…武力や権力を背景にした恫喝、ですな」

 

「はい。我等商人も自前の戦力を有している者も確かにおります

が、それはあくまでも賊徒に対するものであってそれ以上のものでは有りませぬ

少なくとも2度の大戦(おおいくさ)にて大陸各地は疲弊しました

商人とてそれは同じなのです。吟遊詩人共が吟じるそれが商人達の彼の国やあの者を支持する者達に対する大きな不信と反発に繋がってあるのです。私も説得してはみましたが、色良い返事を貰えたところはありませんでしたな」

 

「僕達が購入して、それを彼方に回すというのはどうだろうか?」

 

「それはおススメ出来ません。仮にそれが露見した場合、アリティアに対する商取引にも支障が出る可能性は高うございますからな

勿論、他の国でも同じですが」

 

「…しかし、ロレンス将軍との約束もある

なんとか出来ないだろうか?」

 

「私としましては、かの者をグルニアから追放する他にないとしか言えませぬ

…まぁ、グルニアの騎士団の生き残りどもがそれを受け入れるとも思えませぬが」

 

「…しかしおかしな話ではありませんかな?

そうであるならば、マケドニアのミネルバ殿とてその様な扱いを受けても不思議ではないと思えますが?」

ジェイガンの疑問に

 

「彼の国の負の部分は全てミシェイル国王陛下が持っていかれましたからな

更にメディウス復活の為の生贄として妹姫のマリア様が囚われていたのもあるでしょう。更に言えば、彼方は私の影響力が強い地域。多少の不満は強引に捩じ伏せる事も出来まする」

 

「だ、大丈夫なのですか?それは」

 

「…まぁ私の仕事は既に終わっておりますし、後はマルス殿達と今後の話合いを終えてのんびりと隠居する事になりますので」

 

「一線を退かれるのか?」

 

「『戦える商人』は必要であっても、『強過ぎる商人』は必要ありませぬからな

面倒な事になる前に退くのも大事と思っておりますよ」

事実として彼はマルス達がメディウス復活阻止の為に地底へと侵攻した際、別働隊の一員として闇の部族や地竜と交戦している

本人は

 

「嗜み程度のもの」

と言っていたが、悪魔の斧(デビル・アクス)を装備していた敵や並の兵ではどうしようもない地竜を相手どって生還している時点で尋常な者ではない事は明らかだ

別働隊に参加していたアベルやカイン達からも

 

「あの御仁、我流だとは思いますが敵に回したくありませんね」

 

「がむしゃらに突っ込むかと思えば退く所はキチンと抑えていました。恐らくそれなりに場数を踏んでいるかと」

との報告をジェイガンやマルスは受けている

 

そんな人物がアカネイア女王ニーナの解放に一役買っている上に、最大の功労者であるマルス達とも近しいとなれば、要らぬ疑いを持たれかねない

 

「出る杭は打たれるもの

打たれる前に引っ込むのが最善でしょう」

元々彼の財は賊徒から奪って成したもの

ならばそれを手放したところでそこまでの痛みはない

 

彼にとっての最大目標である『起きるであろう2つの戦争を生き延びる』というものは達成されたのだから

 

 

たとえどれだけ高潔な人間であろうと、気高き人間であろうとも

人間である以上、精神の揺らぎは必ず起きる

 

そこを突かれてしまえば脆弱な人間の精神が抗う事など不可能

 

 

そしてひとたび現れてしまえばその暴威を止める事などほぼ不可能だ

故にこそ『神は崇拝するものであって、顕現を望むものではない』

 

極論すればファウダーや狂信者共だけで完結するのであれば放置しても問題ない

だが、竜というものは基本的に『人を見下し、弄ぶ』

 

 

その脅威を

恐ろしさのなんたるかを知らない者にそれを許す訳にはいかないのだ

 

 

 

----

 

「…どういう事?

ねぇノワール、シンシア。私が知っている限りこんな大規模な戦闘、しかもギムレー教団相手のなんて知らないんだけど

アンタ達知ってる?」

 

「し、知りませんね

聞いた事もないですよ」

 

「私もないかなぁ」

 

セレナは対ギムレー教団とも言える動きをしているギャンレル達の部隊に加わっている

ギャンレルとの面識はないが、彼に従っている会頭と呼ばれる人物に彼女達は助けられた

そして

 

「ファウダーとギムレー教団を潰す。少なくとも竜としての名誉をまもってやるべきだろうからな」

後半の意味はよくわからなかったが、少なくともギムレー復活を阻止する為のことである事だけは理解出来た

それ故にセレナ達は協力を申し出たのである

 

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そもそもこちらの人間ではない彼女達だ

此方に来た当初は良いように利用されてしまい、結果としてこの時代に来た目的を果たす事が出来ていないどころか目処すら立っていないのが実情だ

無論最上はクロム王子達に合流する事だろうが、聞けばヴァルムに向かった後

いつ合流出来るか分からない中で無為に時間を過ごすのは無駄でしかない

 

この時代の者達のほとんどは時間が残されていない事を知らないのだから

 

 

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「…脆いな」

ギャンレルは不満そうに呟く

仮にも国王を名乗っている者に従い、邪竜の復活を目論んでいる連中だ

 

もっと歯応えのある者達だと思っていたのだが

戦意も明らかに低い

 

 

というのもギムレー教団の中にもかなり意識の差があり、『邪竜ギムレー復活は喜ばしいが、自分達はその後どうなる?』と考える者や(イーリスの言うところの)聖戦により家族や親しい者達を喪ったが故に(偶像)に縋らねばならない者。貧しさや苦しさからの逃避として宗教を選んだ者など様々

 

そして『邪竜ギムレー復活』にそこまで意欲的でなかった者達の中には自分達と共に何故か(・・・)敵とあたる屍兵の存在に嫌悪感を示す者もいたのである

 

 

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ある意味では苦しみの原因の一つである屍兵

それを平然と利用するかの様な作戦を採る教団上層部に対して不信感を強める事にそれは繋がった

 

加えて相手は既に崩壊したと(勝手に)思っていたペレジア軍

当初は敗残兵の集まりかと思っていたが、指揮統制が確立されており戦意も高い

それ故に疑問を持つ者も出始める

 

(ギャンレル)は生きているのではないか?

 

 

更に相手方の指揮官は

 

「怯むな!

奴等を倒さねばペレジアのみならず、この大陸に住まう者達全てが危険に晒されるのだ!」

とも言っていた

 

加えて

 

「竜の脅威を知らぬものよ。神の気まぐれの残酷さを知らぬものよ。その濁った(まなこ)で何を見る?その穢れた手で何を守る?己が力を過信せしものよ。せめて救いを与えよう」

そんな言葉も聞こえてくるに及んで彼等はようやく自分達がしている事。それが恐ろしい事ではないか?と認識する様になった

 

如何に力量に優れようと、数が(まさ)っていたとしても、戦意(戦う意思)が挫けてしまえばそれは軍集団としておしまいである

 

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古来より、数の劣っている者達が数に勝る者達を打ち倒す事があるのは劣る者達が死に場所と定めたからという理由だけではないだろう

 

勝つ側からすれば

「この戦闘は勝つんだ。だから無理する必要もないし、ましてや死ぬ必要なんてないだろう」

と言った自己保身に走る者達が多いのも理由ではないだろうか?

 

生に対する執着心は時として戦意を高める要因となりながらも、また別の時は敗北の要因ともなり得る

 

 

方や悪名を背負いながらもペレジア()の為に戦い抜いたギャンレル

方や己が野望の為ならば、汚い手も平然と行ない目的遂行に邁進するファウダー

 

同じ様に見えるが、ギャンレルとファウダーには大き過ぎる違いがある。ギャンレルは必要とあれば己の手を汚す事も厭わない

ファウダーは誰かの手を汚す事に躊躇いはない

 

 

事実として教団にいたファウダーの妻は自身の子供と共に教団(ファウダー)から逃げている

決してファウダーの組織運営能力は盤石ではないのだろう

 

 

「ファウダーよぉ

ギムレー(天上)ばかり見上げ過ぎて足元がお留守みたいだなぁ」

ギャンレルは獰猛に笑った

 

 

 

----

 

「何だと!ペレジアがギャンレルに攻められている!?」

 

ヴァルム大陸にて神竜族チキと出会い、炎の台座を完成させなければならない事を聞いたクロム達は覇王ヴァルハルト率いるヴァルム軍と激戦を繰り広げていた

その最中クロム達にとって衝撃的な報せが届いたのである

 

「生きていたのか」

 

「思惑はさておき、ペレジアが我々に力を貸してくれたのは事実です

放置する訳にはいかないかと」

フレデリクはそう意見する

 

だが

「…待ってくださいお父様

ペレジアのギャンレル王が生きていた。そう言われるのですか?」

未来を知るが故にそれ(未来知識)に縛られているルキナはそれを信じる事が出来なかった

 

「屍兵がいるのですから、死体を操る方法があるのかもしれません

もう少し詳しく調べるべきではありませんか?クロム」

クロムの最も頼りになる(愛する)軍師(女性)ルフレは軽率な判断をしない様に諫める

 

「ルフレさん

お言葉ではありますが、仮にギャンレル王が生きていた場合だとまた我々に攻撃を仕掛けてくる可能性があるのではありませんか?」

とフレデリク

 

「私の知る歴史ではあの戦闘でギャンレル王は亡くなっています

これはギムレー教団の自作自演の可能性もあるのではないでしょうか?」

とはルキナ

 

「フレデリクさんとルキナさんの言う事も分かります

ですが、正確な判断をする為には正確な情報が必要です

それにこれからペレジアに帰還したとなると間違いなくヴァルム軍が勢力を盛り返すでしょう。神竜族のチキ様が言っていた様に先ずは宝玉を集めて台座を完成させるべきではないでしょうか?」

とルフレが

 

それぞれ主張する

 

 

そしてクロムはルフレの意見を良しとして採用

ヴァルムとの戦闘を継続する事を選ぶと共に詳しい情報を求めた

 

 

なお、先代女王エメリナが死んでから既に一年以上経つが未だにイーリス国内の文官達はクロムの事を身内ではクロム王子(・・)と呼んでいた

彼等は決して理想主義に傾倒していたエメリナを支持しているクロムの事を歓迎していなかったのであるが、それをクロム達が思い知るのはもう少し後の話となる

 




実はルキナの中でルフレに対する疑惑や疑念は強まるばかりでまっっったく信用していません

ギャンレルは元々ファウダー達との戦いは『ペレジアの内乱』と見ているのでイーリスやフェリアには何の働きかけもしていません
一応イーリスやフェリアからするとギャンレルは『死者』なので
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