戦乱の裏側で   作:鞍馬エル

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より良い明日を望みましょう


でも、その明日が万人に来るとは限らないし、それが貴方にとって望ましいものであるかはまた別の話


 望まぬ明日

「っ!何が起きた!?」

ペレジア軍の残党との戦闘が終わったと安堵していたクロム達だったが、妙な事に今更ながらに気がついた

 

「屍兵、だと?」

ペレジア残党が交戦していたのはファウダー率いる者達だけではなく、屍兵もだったと言う事が今更ながらに判明したのだから

 

 

クロムやルキナ達はギャンレルやペレジア残党と屍兵を操っている者達は繋がっている

そう考えていた

 

「まさか、そうだったんですか」

ルフレは今更ながらに自分達のした致命的ともいえるミスに気が付き、顔を青く(動揺)する

 

「どういう事だ、ルフレ」

クロムは当然ルフレにその真意を訊ねる。勿論今更なのかもしれないが

 

 

「アンタ達が!

殺した人達は守ろうとしてたのよ!ペレジアを、世界を!」

捕虜として本陣に連れてこられたセレナは涙ながらに叫ぶ

 

「言葉を尽くしても分かり合えない事なんざ幾らでもある

理不尽だと泣き喚いてもどうにもならない事もあるだろう

…だが、忘れるな。お前さん達のしようとした事は自然の摂理から反していても決して揺らいではならない事なんだ」

 

「いいか、小娘ども

俺達の生き死なんざどうでも良い。大切なのはギムレーが復活しない事とした場合、なんとか出来るだけの状況を作り出す事だ」

セレナ達と別れる前、会頭とギャンレルはそう言っていた。更に

 

 

「ナーガからの慈悲かねぇ

くそったれとは思わなくもないが、コレを持っていけ

お嬢なら、この意味を理解してくれるだろうさ

…理解してくれるよな?バヌトゥ殿、チェイニー?」

 

「ほっほ

大丈夫じゃろう。お主の事はマルス王くらいには覚えているからの」

 

「なんだかんだでチキ様を甘やかしたアンタを忘れるほど薄情じゃないって事くらいわかってるだろ?」

セレナに会頭はある物を託していた

それを渡すべき人がわからなかったが、今思い返せばキチンと答えは示されていたのだ

 

 

「なんで死んじゃったのよ」

 

「ううっ、おじさん達」

 

「…」

 

「妙な人でしたが、本当に優しかったのです」

 

 

思い返す事で悲しみがまた彼女達をうちのめす

 

 

 

そんな中でも屍兵達はクロム達に襲いかかってくる

状況が余りにも不透明。加えてルキナ達の友人である彼女達はファウダー達こそ倒すべき敵と断じている

 

これではどうにもならない上に、余りにも被害が大き過ぎた

 

 

 

その為、彼等は一時イーリスへと撤退する

 

 

----

 

しかし、おかしな話である

本来ならば宝玉を手に入れる絶好の機会

ファウダー達は何をしていたかというと

 

「…」

 

『まさか、たかがヒト如きにここ迄やられるとは思いませんでしたよ』

 

神殿内という空間内での爆発物による衝撃波やその破片は直撃を受けたファウダーの身体をズタズタに引き裂き、会頭と秘書の身体もまた再生不能な程の損壊を与える事となった

それでも高位の魔道士であるファウダーであれば障壁を張る事で致命傷を避ける事が出来た

 

筈だった

 

それを防いだのは会頭の呪術の込められた短剣。会頭自身の最期の置き土産

 

会頭のアカネイア時代の二つ名は『毒蛇』

狙った獲物はその命が尽きるまで締め続けるという悪辣さから来た渾名

 

ファウダーの身体に彼は自身の魔力を少しだけ流し込んだのである。己とファウダーを貫いた短剣を媒介にして

その結果、ほんの僅かだがファウダーの魔力操作にブレが生じた。その僅かなもの

だがファウダーの命を奪うにはあまりにも充分な隙

 

まさに猛毒であったといえよう

 

 

更にファウダーの元へと駆けつける信者達に対しても爆発はその牙を剥き、神殿内で満足に動ける者は殆どいなかった

何せ会頭達と別れた騎士達もまた会頭からの餞として、それ等を持っており彼等はそれを適当に配置していたのだから

 

トドメに会頭と秘書もまた誘爆出来る間隔(・・・・・・・)でそれ等をばら撒いていた。しかもご丁寧に自身の魔力が無くなれば程なくして起爆するという状態で

 

その為、神殿内にいたギムレー教徒の全てが少なからぬ傷を負っているという大惨事になっていたのである

 

その為、己の手駒が殆ど奪われたという事実にギムレーは余裕など持てる筈もなかった

 

 

『まだ力は完全に戻っていませんが、それでもあの者達を倒すには充分。予定とは違いますが構わないでしょう』

ギムレーは神殿から出ようとするが

 

「何処に行くのさ、邪竜ギムレー?」

 

『残念じゃがお主は此処で指を咥えて待っておるのじゃな』

 

『…なに?』

とは言え、自身の力を取り戻す絶好の機会である事は間違いない

加えて自身の最大の脅威(ファルシオン)は未だその真の力を発揮する事も叶わない

 

手駒(ファウダー等)を失ったとしても、元より屍兵はギムレーの意のままに動く忠実な駒

ならばと忌々しい者達をこの機会に一掃すべく神殿から動こうとした

 

ところが、そこに巨大な影と小さ過ぎる影がギムレーに声をかけてきたのだ

 

 

『儂等はヒトの世に介入する事を是とせぬ

故に必要とあったとしても、全力は出さぬ…出してはならぬのじゃ

だが、メディウスやそれに連なる地竜族はその禁を破った』

 

『メディウス?地竜族?

お前はいったい?』

ギムレーにとっても忘れられないある意味では絶対的強者であったメディウス(地竜族の長)

先の人間といい、何故それを知っているかの様に語る者達がまだ生きているのか?

 

「こそこそ逃げ回って生き延びて、俺達が地上から姿を消してから自身を『邪竜』とした訳だ

…実に滑稽だよ、アンタはさ」

小さな影はギムレーをせせら笑う

 

 

『貴様等は何者だ』

ギムレーは敵意と殺意を滲ませながら問う

 

「は、ん

忘れたって言うなら思い出させるだけさ」

小さな影は不敵に笑うと

 

『俺の名はチェイニー

神竜族の端にいる気まぐれ屋さ』

その身を真の姿へと変じさせる

 

『儂の名はバヌトゥ

ナーガ様にお仕えせし、今は神竜族の長をお支えする火竜族の長老よ』

バヌトゥは闇の中で、その双眸を光らせた

 

『我等は誓った

己が種族の誇りにかけて、気高く生きた我等が友の為。一度のみその牙を振るう事を』

 

『覚悟しな、ギムレー

友の願いだ、殺しやしない。が、俺たちの無念(怒り)は受けてもらおうか?』

誰が知る事のない竜による戦闘が始まった

 

 

----

 

『爺さん、どうやら無事離脱したみたいだ』

 

『…ふむ。なればこれ以上の長居は無用かの

チェイニー、退くぞ』

 

『あいよー』

 

『に、逃すと思っているのか?』

一時間ほどの間、チェイニーとバヌトゥはギムレー相手にのらりくらりと時間稼ぎの為の戦闘を行なった

 

倒せなくはないが、それは自分達の役目ではない

あの気丈な娘や弱々しくとも、己の芯は曲げぬ少女。朗らかでありながら他人の痛みを何よりも厭う娘に自身を枠に当て嵌めて、常に他者の評価を気にせねばならなかった彼等にとっての後継者

 

 

彼女達の生きる目的そのものといえるものを彼等が横からかっ攫うのは違うと2人は考えていた

 

無論旧き友を殺したのは許したくない

だが、彼等は既に舞台から降りた者なのだ

 

 

この舞台に上がれるのはクロム達に協力しているノノと彼等が育てたといえるンン

そして、神樹の上にいる彼女だけ

 

故に彼等はあっさりと退くのだ

 

『ま、待ちなさい

逃すと思っているのですか!』

ギムレーは自身を翻弄した2人を制止しようとするが

 

『邪魔』

 

『残念じゃがのう

お主の生死には興味がないのでな』

 

チェイニーとバヌトゥの同時ブレス攻撃によりギムレーは更に軽くない傷を負う事となった

 

 

 

『逃げられた

…くっ、火竜族と別の神竜族がまだ居たとは思いませんでした』

ギムレーは悔しそうに1人ごちる

 

『…これではまだ動けませんか

忌々しい』

屍兵は動かせる

だが、これでは手が足りない可能性が出てきた

 

『…いえ、まだ使える手駒候補がいましたね

余りに小物すぎて使う気にもなりませんでしたが、贅沢は言えませんか』

闇の中で邪竜は動き続ける

 

その復活を果たす、その日まで

 

 

----

 

「異界の門?なんだそれは」

 

「詳しく説明するつもりはないわ

使うか、使わないか?それだけを決めてちょうだい」

ペレジアの神殿付近から離脱したクロム達はイーリス王都へ帰還中、行商人アンナに再会した

 

だが、その態度は余りにも素っ気ないもの

 

「…失礼ながら、クロム様に対してその態度は如何なものかと」

 

「知らないわよ。せっかくあそこまでお膳立てされていたのにそれをぶち壊した人達の事なんて」

 

「ぶち壊した、ですか?」

フレデリクの言葉にもアンナは不愉快そうに反論する。その言葉にルフレは自分の想像が間違っていなかったのだと確信した

 

…出来れば当たって欲しくない類のものであったが

 

「会頭とギャンレル王が持ちうる全ての戦力と人脈を駆使して行なった『ギムレー教団の壊滅』それを台無しにした気分はどうかしら?

はっきり言わせてもらうけど、今後イーリスにマトモな商会が入る事はないでしょうね」

会頭は自身と繋がりのあった商会長などに連絡を取り、『邪竜ギムレーの復活』がどれだけ脅威となるのかを喧伝した

それにより各地の商人や有力者は挙ってギャンレルに協力したのである。謂わばあれはてイーリス大陸平穏の為の大戦(おおいくさ)だった

 

其の首魁であるギャンレルを奇襲にて葬ったクロム達に対する心情は控え目に言って最悪などという表現ですら生温い

イーリス王国内で商売をしている幾つかの商会は既に本拠や資産をフェリアに移している

とはいえ、クロム達に協力しているフェリアにいつまでも留まる理由も彼等にはない。近いうちに彼等はヴァルム大陸へとその活動拠点を移す事になるだろう

 

勿論、ギャンレルが死に、ギムレー教団が音頭を取るペレジアに協力しようとする破滅主義者はいない

この状況下でイーリスに肩入れするという事は『商人の輪』から外れるという事

 

如何に巨大な商会であったとしても、その商会単独では意味を為さない。商人同士や職人などとの繋がりがあって始めて意味を持つのだから

 

「しかし」

 

「しかしも何もないわよ

持てる戦力の殆どを費やしたのがあの作戦

後はイーリスだけでどうにかするしかないわよ」

アンナは会頭と多少面識があり、その知識や技術などは大いに参考に出来る部分があると思っていた

男女の仲に然程意味を見出していない彼女ですら

 

「うーん、ありかなしかと聞かれると

あり寄りのなし、かしらね」

と悩む程であった

 

更に彼は各地に教育機関を作るべく奔走していた。知識の独占が公然と罷り通っているこの世界においては画期的なもの

ペレジアにおいて試験的な運用が始まる直前に起きたのがギャンレル王の死。まぁこれは結果として偽報だったのだが

 

「戦いだけで治められる時代なんざ、力を持たない者達からすれば悪夢でしかない

戦争はあくまでの政治の延長線にあり、それが目的となっては本末転倒だろうよ

戦争を仕掛けました。敵国の首都を陥落させました。でもそこの統治はしません

なんて阿呆な話が通ったなら、後に残るのは死体や怨嗟の声だけ

…それでどうやって平和になるんだろうな?」

 

かつてアンナは会頭と話をしたとき、会頭は心底理解出来ぬと言い捨てた

故にこそマルス王に対して彼は心底敬服していたのだ

アリティアの領土を然程に増やす事なく、それでも大陸の混乱を見事に鎮めたその手腕を

 

「成り上がるのを否定するつもりはない

生まれついて上にいる者ってのは下の景色が見えない者が多い

水は常に流し続けなきゃ腐るんだ。一度腐ってしまったらそれを除くのは手間と時間がかかる

腐らせない方法を模索すべきなんだよ」

そう言った先進的考え方に賛同する者達の多くはギャンレルや会頭と共にあの世へと旅立った

 

 

数少ない投降兵達もクロム達への協力を申し出る者は絶無

皆無ではない。絶無なのだ

 

「ギムレー教団と戦う?

ふざけんなよ!なら何で邪魔しやがった!!」

 

「残念ですが、信じられませんな

事前に我らが王は『打倒ギムレー教団』を掲げていたはず。それを妨害しておきながら同じ事を為そうとするなぞとてもではありませんが信用出来ませんな」

 

と言った具合だった

 

更に

 

「ギムレー復活は阻止するわ

でもアンタ達との付き合いもそこまで。私達は勝手にやるわよ」

 

「わ、私もセレナさん達と行きます

恩人の人達に合わせる顔がありませんから」

 

「私もかなぁ

ごめんね」

 

「ンンもそうですね

もう同じ道は歩けませんよ」

セレナ達はルキナ達と袂を分かつ決断をする

 

「確かに歴史ではそうだったのかも知れない

けど、元々歴史にアタシたちは居なかったし、そもそもあれだけ無茶の出来る会頭のおじさんが何一つ痕跡を残さないなんてないと思うわ」

 

「別の歴史、という事ですね」

 

「あんまりアンタのいう事に同意したくないけど、そうね」

セレナはクロム王子の妻であり、イーリスの軍師であるルフレがどうにも信用ならない人物だと思えてならなかった

 

 

というか、ギャンレルの元で聞いた『ギムレー教徒が好んで着る服』によく似ていると思えた事もあるが、軍師という役割にも関わらず情報の精査すらしないのだから

結果論ではあるが

 

----

 

「ちっ、情報が少ねぇな」

 

「今しばらくの猶予を貰えれば、と思いますが

…そこまで時間的猶予がある訳でもありませぬからな」

あの人達は最後までそれを怠る事はなかった

 

「単純に人手が足りねぇのと」

 

「手前の失態でしたな

少しは諜報部隊を残すべきだったかと」

 

「はん

後出しなんざ幾らでも出来る

歴史家とやらの分析がどれだけ役に立つってんだ

…知ってる事と知らねぇ事の区別すらつかねぇ阿呆みたいな事を言うつもりなんぞありゃしねぇよ」

ギャンレルのおじさんはそう言って会頭さんを叱咤した

…いいえ、あれは激励だったのだろう

 

「いいか小娘もよく聞いておけ

歴史家や識者とやらが御大層に語るもんの大半はその時代やその瞬間に他の場所で何があったのかが分かっている奴の視点だ

神でもねぇ唯の一個人にそんな超然的な視点が持てる訳あるかよ

歴史を識っている?だからどうした?

その時代で生きていた連中一人一人の想いや願いまでそいつらは理解している訳ねぇ」

 

「俺もあの女(エメリナ)すら完全に理解出来てなかったそれを、未来から見た奴等が本当に理解出来んのか?」

 

「忘れんな

そいつらの本当の試練はその寄る辺(未来での知識)とやらが通じると当たり前に思った時から始まるんだからな」

 

 

人は暗がりを恐れたが故に火を手に入れた

それにより、ゆっくりではあるが歩み続ける事が出来る

 

未来知識とやらを持っている者は言ってしまえば、その辺の地図を持っているからと火を灯す事なく暗がりをそのまま歩いている様なもの

確かに地図が正しければそれも良いだろう

だが、一度でもその地図に対する不安が芽生えてしまえばその者は何を頼りに暗がりを進むのだろうか?

賢明な者ならば戻る事を考えよう

 

だが、時間とは一方向に流れ続ける川のようなもの。いや戻れないという意味ならば落ちる滝なのかも知れない

堰止めればどこかに必ず負荷がかかる

さりとて戻る事は叶わない

 

----

 

 

人が失敗を恐れるのは『取り返しがつかないから』なのだ

故にこそ、目の前の事に全力で取り組むだろう。後悔しない為に

 

 

が、やり直しが効くとなれば果たして人はどれだけの者が全てに対して全力で取り組もうか?

『またやり直せば良い』

『次は上手くやる』

『今回は失敗した。なら別の方法を試す』

 

そう言った緩み(・・)が出てきてしまうのは人のサガではなかろうか?

 

時間の流れとは本来巻き戻る事はなく、悲劇も英雄譚も日常も分け隔てなく押し流す

 

 

セレナ達とて、ルキナ達と同じ様な状況になれば同じ選択をしただろう立場が違えば

思想が違えば

タイミングが違えば

 

判断はまた変わるもの

それもまた人なのだから

 

 

----

 

クロム達は悩んだ

ルキナを始めとした所謂『未来組』といえる者達の中でセレナ達のそれは非常に高いもの

 

強行軍を続けていたクロム達もそれなりの練度であると思っているが、何せセレナ達は一個の商会長の全面的な支援の元で鍛錬や実戦経験を重ねたのだ

これ以上ない戦力と言えるだろう

 

だが、控え目に言っても彼女達の此方への心象は最悪

しかし、自分達の知らない情報を持っているのも明白

 

 

クロム達はそれを考えていると彼等の元に急報が飛び込んできた

 

「反乱だと!?」

 

戦乱はまだ終わらない

 

 

 

 

 




未来知識に基づいて行動した結果、未来が変わる


そうルキナは言っていた

運命は変わったのです(なお方向性)
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