戦乱の裏側で   作:鞍馬エル

9 / 10
出来たのは出来たので投下します

クロムにはしっかりと曇ってもらいましょう
勿論ルキナにも


ややポンコツ感の強い本作のルフレですが、次回あたりでその辺を掘り下げる予定です


このルートでは総じて皆曇ります
あしからず


 イーリス大乱

イーリス聖王国

 

現在の王クロムやその妹であるリズ。そして2人の姉であり、先代の聖王であったエメリナ。その父クロムからすれば二代前の聖王

 

彼は大陸統一を掲げ、ペレジアに対して戦争を仕掛けた

イーリスにおける『聖戦』だ

 

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ペレジアには大規模な交易港があり、そこからヴァルム大陸や此方の大陸各地に物資を運ぶ事でかなりの収入を得ていた

 

当時のペレジア王は力の信奉者であり『力無き者は死ね』と言わんばかりの政策を推し進めていた

故に当時のペレジアは軍事力のみ(・・)を見れば聖王国軍を擁していたイーリスや東西の王でそれぞれ軍備を備えていたフェリアに比べても遜色ない程の規模を誇っていた

 

…まぁ、その分指揮官はまだ良いとしても兵卒クラスともなるとその辺のごろつきとさして変わらない者もそれなりにはいたのだが

とは言え、彼等の任務は国内における不穏分子の一掃だった。しかしながら強大な軍事力であったのは間違いなかったのも事実

 

 

故にイーリスとしてその軍事力に警戒するのはおかしな話でもない

 

だが、イーリスと比べても軍事力という一点において勝るペレジアとの戦争は自軍のみならず、イーリス国民の生活をも圧迫する事となった

 

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ペレジアとの戦争ともなれば、ペレジアとの交易は閉ざされてしまいフェリアもまた軍事力の行使(戦争)する事に躊躇いのないイーリスに対して大きな不安と不信感を抱く事になる

その為、あらゆる物資がイーリス国内において高騰し、イーリスの農村部からの徴収(・・)が行なわれる事となった

 

聖戦を主導している国王やイーリス軍からすれば当然かも知れないが、これに対してイーリスの文官達は猛反対した

 

「その様な事をしてしまえば、民は国を信じなくなる」

 

 

だが、ある意味で正論であったそれを時の聖王は受け入れる事なくこう言い放った

 

「それをどうにかするのがお前達の仕事であろう?」

 

これに同調したのがイーリス聖王国軍関係者や経済、産業担当の者達。つまり聖戦によって利益を得られる者達だった。それらの主張に対して

 

ふざけんな(クソ野郎どもが)

と彼等は大いに憤慨したとされる

 

 

…だが、物事は必ずしも上手くいくものではない

聖王親征による猛攻により当時のペレジア国王が戦場で斃れた。これによりイーリスの勝利は目前かと思われたが、それに待ったをかけた者がいた

 

 

後にペレジア国王の地位に就いたギャンレルである

彼は混乱する軍将兵達を一喝すると、即座に竜騎士団を活用して指揮系統の再編を行なうと戦勝ムードに沸いていたイーリス聖王国軍に対して迅速かつ苛烈な反撃を行なったのである

 

「王を殺されたとなっちゃ、こっちも退けないからなぁ!」

 

 

そして、ギャンレルと共にイーリス聖王国軍本陣に押し寄せたペレジア軍はイーリス聖王の喉元にその刃を突き立てたのである

その武功と今までの強引ともいえる結果をもってギャンレルはペレジア国王の地位に就いたのだった

 

予想外の反撃を受けたイーリス側は治療する為の司祭などを同行させていた為にイーリス軍は混乱状態にありながらも聖王と共に戦場を離脱した

 

 

だが、あまりの傷の深さに聖王がその権を振るう事は二度となく、聖王の長子であるエメリナが聖王として国王の座に就くこととなった

 

故にエメリナは聖王国軍の縮小とペレジアへの侵攻作戦の全停止を命じ、国内の問題に取り掛かったのである

 

 

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エメリナの先代の聖王の意思を無視するが如き軍縮に反発した騎士達はイーリスを離れたり、故郷へと失意のままに帰る事となった訳だ

 

 

…だが、エメリナに対して不満を持っていたのは何も騎士などの軍関係者だけではない

国民は元より、聖戦に賛同していた者や先王の暴政とすら言える状況で苦心しながらイーリスを守っていた文官達もエメリナに反発していたのである

 

娘であり、次期聖王となるであろうエメリナに対しては父である先王も甘かった

だからこそ、彼女が何らかの具体的な行動をしていたならば或いは聖戦は回避できたのではないか?

との不満がいつまでも彼等の中に残り続けたからであふ

 

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ペレジアに内応していたイーリスの重鎮がいたが、あの時点においては『イーリスが敗北する具体的な行動』は然程になかった

確かにペレジア側のものと思しき挑発行為はあったものの、だからとて

それが即座にイーリス滅亡や敗北につながるものでもなかっただろう

 

当時はまだフィレイン率いる天馬騎士団も健在であったし、クロム自警団もその規模を大きくしつつあったのだから

 

 

そして、今なおイーリスにいる者達は『邪竜ギムレー』の脅威どころか、その様な存在が復活するのかすら疑っている者も確かにいたのである。加えて自国の国王の妃となったのは素性も知れぬ者達(ルフレ)

 

しかも、先王であるエメリナが死んで僅かな期間しかイーリスに居らず直ぐに外征(ヴァルムとの決戦)に動いている

 

 

その姿にクロム達の父であり、イーリスの国力を減少させた王の姿が重なった者もそれなりの数居たのも事実だった

 

 

 

彼等は知らない『邪竜ギムレー』が人の(ことわり)から大きく外れた存在である事を

彼等は知らない。その存在が人の感情の機微を理解し、利用する事が出来る事を

クロムは知らなかった。自身を疑惑の目で見つめている者達が多くいる事に

 

 

故にそれは必然であった

 

 

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クロムらによる『反ギムレー教団連合軍』とでも言うべき組織の壊滅は驚き(怒り)の声をもってイーリスに届けられた

 

商人達の多くがイーリスから引き払おうとしている異常事態に気付いた者もいただろう

彼等の多くはそれに不安を覚えた

 

しかし、一部の者はこれを機にクロムの頂点とした体制を崩壊させようと目論んだのである

 

近年の聖王が戦狂い(先先代)理想家(エメリナ)国王としての自覚に欠ける当代(クロム)

と続いたとあってはイーリス聖王国に忠誠を捧げている者達にとっても我慢ならないところまで不満は高まっていたのだ

 

 

クロムとルフレの結婚に際して、それを心から祝福したのクロム自警団のメンバーだけ

殆どの者は

 

「過去も素性も分からぬ者をどうして王配にしようとされるのか?

理解に苦しむ」

と反発した

 

「恐れながらクロム様

お二人の結婚自体には反対致しませぬが、もう少し時期を考えられては如何かと存じまする」

とある人物はクロムに直言し、クロムに結婚の延期を求めている

 

 

…まぁ、既にルフレには2人の子が宿っていた為にそれは無理な話ではあったのだが

 

 

----

 

ペレジアとの聖戦に明け暮れた先先代。その方針を正反対に転換し、国内を取りまとめようとしたエメリナ

 

そしてエメリナの急死により急遽国王の地位に就かねばならなくなったクロム

しかし、彼はペレジアとの戦争後国内に手を入れたとは言え、さして地方の有力者達から信用されていなかったのだった

 

クロム自警団(治安維持の為の集団)を聖王エメリナの許可の元結成し、国内の治安安定に勤しんだともいえる彼の行動であるが

地方有力者達からすれば『私兵集団を集めて軍隊の真似事』をしている風にしか見えていなかったのである

 

加えて、先先代からエメリナにかけて『聖王』の権力行使が数多く行なわれていたのも彼等にとっては甚だ迷惑でしかなかった

勿論、ペレジアとの聖戦に行使した先先代と民の為に行使したエメリナでは天と地程の差があったのだが

 

…国民にとっては

 

----

 

エメリナによる大幅な軍縮とも言える聖王国軍の縮小は地方の有力者達にとって福音であり、また災いでもあった

国軍が減るということは自分達の兵力が王国においての価値を高める事と同義であり、それに伴って発言力や影響力も増すであろう事が予想できた。その意味では福音だろう

 

一方で、国軍の戦力低下により対外戦や国内における治安維持などの諸々の兵役を課せられる可能性が高まった

自分達の懐を痛ませたくない彼等にとって、これは決して好ましい事ではなかったと言えるだろう。そう言った意味においては災い

 

 

ましてや王族であっても確たる実績もない小娘(エメリナ)に対して形ばかり(・・・・)とは言えども頭を下げねばならない事も彼等にとって不愉快な事であった

 

 

だが、それすら上回る不愉快極まる事をした人物がいた

そうクロム自警団(自分達の権限を侵しかねない組織)を創り上げたクロムだった

 

彼等地方有力者達は己の領内で余所者に好き勝手されるのを何よりも嫌う

確かに彼等はイーリス聖王国に属する者達だ

だが、その実彼等からすればイーリス聖王家は都合の良い看板でしかなかったのである

 

『自分だけで背けば即座に滅ぼされる』

だから仕方なくイーリス聖王国の一員として働いているに過ぎない。その程度の意識でしかなかったのである

 

 

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そして突如として報されたクロム王の婚姻

それはまだ良い

 

少なくとも、伴侶と世継ぎすら作らぬままあの世に行った先代よりは遥かにマシなのだから

 

 

だが、彼等は一様に首を捻る事となった

 

「ルフレとは何者か?」

 

 

クロム自警団の軍師として活躍していた彼女であったが、その功績と存在について正確に把握していたのは仲間であるクロム自警団の者達や王都で彼女と関わった者達くらい

 

…つまり彼等の認識では

 

「クロム王がそこら辺の小娘を選んだ」

程度の認識であったのだ

 

当然彼等とて王配であるルフレの事を調べるだろう

そして知る

 

クロム王がその女を見初めてからそれなりの期間があった事や、既に子を宿している事を

 

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ソワレやスミア、ティアモならば壊滅状態にあるイーリス聖王国軍再建の象徴となろう

 

マリアベルやミリエルならばイーリス復興の一助となろう

 

オリヴィエであればフェリアの王パシーリオの紹介でもあるので、フェリアとの関係の進展も期待できる

 

…だが、ルフレにはその様なものがない

加えて記憶喪失の軍師などというものは古今東西聞いた事もないし、普通に考えればあり得ない存在だろう(某エレブの行き倒れ軍師は例外なのでスルー)

 

 

 

 

確かに聖王国における最高権力者は聖王だろう

だが、聖王国を曲がりなりにも支えている自分達に対して何の話もなくこの様な事が許されて良いのか?と

 

 

否である

王や王族のみで国が成り立つ訳ではない

 

武官、文官、王都の民

そして自分達の様な地方有力者や地方の民

それらの上に王は存在しているのだ

 

 

ある有力者は言った

 

「我等は王都からの指示を聞くだけの人形とでも言うつもりか!」

何をするにしても、組織である以上根回し(周りへの配慮)は必要だ。そして王配となるルフレとやらも彼等にとって今後仕えねばならなくなる者

 

…であれば、事前に話の一つでもするべきではないのか?

彼は王都にもそれなりの伝手があった為に連絡を入れたが、王国中枢においてすらこの話が出たのは突然だったというではないか

 

 

つまりクロム王は我等臣下の事などさして気にしてもいない

後のヴァルム大陸への出兵も合わせて彼等の王家に対する不満は王都の者達が予想するよりも遥かに大きなものとなっていった

 

 

そしてトドメが『反ギムレー教団連合』ともいえる者達と戦闘を行ない、連合を壊滅させた

という最悪の報せだった

 

ペレジアとの国境に近い地方有力者はギムレー教団がどの様なものかについてそれなりに知っていた

故にギャンレル王死亡の後にペレジア国王となったファウダーがギムレー教団における有力者である事を少しして知ったのである

 

ところが、そのペレジアの助力を受けてクロム王達はヴァルムへと侵攻して行った

勿論彼等はそれを王都に知らせる為の使者を出した

 

 

しかし、その使者が帰ってくる事はなかったのである

 

 

これはイーリス分断という暇つぶし(・・・・)を目論んでいたギムレーの操る屍兵によるものであった

 

『絆、ですか

…嗚呼クロム。なら貴方の好きなその絆を私の手で破壊し尽くしてあげましょう

……度し難い娘ですね。この期に及んでまだ意識の欠片を遺しているとは。まぁ良いでしょう余興くらいにはなるかも知れません』

 

ギムレーは忌々しそうにそう呟いたらしい

 

 

 

----

 

その時ギムレーにとってのそれは余興に過ぎなかった

手足となるギムレー教団軍があり、忠実な駒であるファウダーもいたのだから

 

 

だが、それらが失われた以上ギムレーにとっての優先すべき事は『クロム達をヴァルムへと向かわせない(再び神竜の巫女と会わせない)事』となった

 

故にギムレーは手段を選ばないし、選べない

 

『…さぁクロム

私の手の中で踊りなさい?踊り疲れた貴方を私が優しく壊してあげるから』

ギムレーは闇の中で愉しそうに笑った

 

 

 

----

 

「おい、クロム!」

 

「どうした!?」

先発隊を率いていたヴェイグが血相を変えてクロムの元にやって来た

 

「王都が、王都が燃えてやがる!」

 

「なんだと!?」

ヴェイグの言葉を聞いたクロムは驚愕する

何せギムレー教団の軍勢や屍兵は殆ど残っていない筈だ

 

そしてギャンレルの部下達が復讐戦を挑んでくるにしても自分達より先行するとは思えない

なら何処の軍が?

 

クロム達の中に戸惑いが生まれた

 

----

 

「これは」

 

「どういう事か分からないね」

ヴェイグと話し合い、王都の状況を確認する為に先行したソワレとソールは王都を見て戸惑いの声を出した

 

確かに王都の至る所に火の手が上がっている

…だがそれは何れもイーリス聖王国軍に属する所ばかりであった

 

そして何よりも異常なのが

 

「動揺している様子がない?」

そう、王都の民に動揺している様な様子が全く見られないのだ

 

だが火の手は上がっている

…いや、既に鎮火されている様だった。煙が立ち上っているだけ

 

「とにかく一度クロムの所に戻ろう」

 

「分かった」

ソワレとソールは危険を感じ、報告の為にクロム達の所へと引き返して行った

 

 

----

 

「カンノスルドイヤツラダ

…マァヨイ。カンゲイノジュンビヲススメルトシヨウ」

 

そんな2人を見つめていた影はそう呟くとイーリス城の方に歩いて行く

 

 

----

 

「…そう

あの人がいたのね」

 

「うむ。最期の最期まで己を貫いた」

 

「で、これが託された奴さ」

ミラの神樹にてバヌトゥとチェイニーは会頭から託されたものを神竜の巫女。チキに手渡した

人の世に積極的に関わる事を戒めているバヌトゥやチェイニーと同じくチキもまた余程の事が無ければ動く事はない

 

蒼炎は既にクロムに託しており、彼女自身かつての戦いの様に戦うつもりはない

邪竜ギムレーが復活したならば、また話は別だが

 

アカネイアにおいて、二度の戦乱が終わってしばらくの間は割と自由にマケドニアへと赴いていた

マルスの所には行けない。彼は『英雄王』と呼ばれる程に大陸中から注目されており、そこにチキ(神竜族の巫女)が行こうものなら要らぬ混乱を招きかねない

 

 

その点何処ぞの元商会長は既にその職を辞していたし、アリティアと違い比較的近いマケドニア

しかも、暇をしていた(チキ視点)のだから自分に構ってくれるだろうと考えそれなりの頻度で遊びに行っていた

 

2000年経った今でも、あの時の楽しかった記憶は温かい感情と共にチキの宝物の一つとして残されていたのである

 

そんな人物しか知らないチキの好物のレシピを『人嫌い』で知られているチェイニーに託した

それが彼である事に疑問を挟む余地はなかったといえよう

 

 

「おじさんは、なんて?」

 

「「らしく元気に」と言っておったのう」

 

「…そう」

おじさん

それは当時のチキなりに親愛の情を込めた唯一無二の呼び方であった

 

 

----

 

『おじさんまた来たよ』

 

『おじさん言うなっての

…はぁ、ラーマン神殿に居なくて良いのかお嬢?』

 

『居ても誰も居ないから

バヌトゥとチェイニーは忙しそうだし』

 

『だからってなぁ

…まぁ良いか。ゆっくりしてけ』

メディウスを倒したとはいっても、まだ地竜族の中には人を滅ぼさんとしている者が残っており、バヌトゥとチェイニーはそれらの対応に追われていた

 

その為バヌトゥはマケドニアの女王ミネルバに諸々の事情を説明し、チキが男の元に頻繁に通っても問題にならない様話をつけている

 

ファイアーエムブレム(神竜族の秘宝)が神竜族の手から離れた事により、長命種である神竜族の加齢が進む事となっていた。その対策として彼等の中では最も若いチキを暫く後に封印する事が実は決まっていたのである

 

「封印するのは避けられぬ

…ならばあの娘に少しでも優しい記憶を」

そういった意見により男の元へ度々遊びに行く話が通ったという背景があった

 

 

「…あの者は此処に来ると思いますか?」

 

「あり得る話じゃろうて

まぁアレ自身が来るとは思えぬ。恐らくは手足となっておる屍兵あたりが来るのではないかのう」

 

「此方から出向く事は流石に出来ないからね

どうしても受け身になるのは避けられないだろうさ」

チキの問いかけにバヌトゥとチェイニーは同じ答えを口にした

 

「老いたとはいえ、儂も火竜族の長老。此処の守りは任せてもらおうかの」

 

「幸いっていうのはなんだけど、アイツから預かってきたものもあるからね。早々負けやしないさ」

チェイニーは最期の別れの時の事を思い返す

 

 

----

 

「チェイニー」

 

「どうしたんだよ?」

 

「持ってけ」

会頭はそう言って、チェイニーに向けて袋を放り投げる

 

「っと

危ないなぁ。落としたらどうするのさ」

 

「その時はその時よ

餞別だ」

チェイニーの苦笑いでの非難に意も介さず会頭は口にした

 

「…薬?」

 

「ンンの協力で何とか間に合った『竜族向けの傷薬』だ

…お嬢を頼む」

 

「任せろ」

 

「任せた」

会頭の願いをチェイニーはしかと聞き届けたのである

 

 

 

----

 

アカネイア時代はまだ人と竜族が共生出来ていた時代だった。勿論竜族の多くがマムクートとして迫害されていたのであるが、それでも竜族という存在自体は広く認知されている

 

故に当時の傷薬などは『その双方』に効果のあるものであった

 

 

この時代において、竜石や獣石は売買されていたがどちらかと言えば『高価な装飾品』としての価値

本来の使用法ではない

 

バヌトゥやチェイニーが持っていた傷薬などはアカネイア時代から伝わる製法で製造されている貴重なもの

殆どの所で売られている傷薬などは彼等にとって効果の望めないものであった

 

 

それを知った会頭は何とか人員や予算を捻出してあの時代の物を再現しようとしたのである

言うまでもなく、会頭はンンに自身の事情を説明している

曰く

 

「何も言わずに手伝ってもらうのは気がひけるからな」

との事だった

 

 

----

 

はっきり言って余裕の無い中で作り上げたソレ

チェイニーにせよ、バヌトゥにせよ

勿論チキも彼の力を借りる事に躊躇いはなかった

 

そして、屍将率いる一団が大樹の頂上に辿り着いた事を知ると

 

「さて、征こうかの」

 

「あまり無理はしないで下さいよ?

アイツにどやされますから」

「大丈夫。私は独りじゃないし、おじさんもついているわ

…負けない。お兄ちゃん達の子孫が作り上げた世界を壊させるなんて許さないから」

チキ達はそう言って敵を迎え撃つ

 

数的に語るならば、僅か3人に対して敵方は30程

 

 

ギムレーからすればもっと動員したかったのだが、イーリスにも多少手を入れねばならなかった為にこの数としなければならなかった

 

 

言うまでもなく、圧倒的戦力不足である。ギムレー側が

 

 

 

『…くっ、やはりどうにもなりませんか

しかし、定期的に牽制用の戦力を送り続け相手の疲弊を待つ。それしか無い』

ギムレーの狙いは至極単純

大き過ぎる力を振るうチキ達であろうとも、竜石(力の源)が枯渇すればどうとでもなる

 

雑魚でも構わない。とにかく相手の戦闘回数を稼ぎ、竜石の消耗を待つ

 

 

それが現在ギムレーの取り得る最善手だった

 

 

 

…だが、ギムレーは知らない

 

チキ達を死して尚支えている男の存在を

 

 

「てめぇが死ぬとなったからといって、出来る事がないなんて寝言を言うつもりはないからな、俺には」

彼は親交のあった行商人(アンナ)に頼んでいた

 

「ミラの大樹に竜石を大量に持ち込んで欲しい」

 

勿論代金はかなり色をつけた上で支払い済みだ

 

 

故にアンナは大陸中を駆け回って、可能な限りの火竜石と神竜石を買い漁りミラの大樹へと届けていた

 

「モノを動かすのが私達商人の本懐

邪竜ギムレーだろうと何だろうと、私達のする事は変わらないわよ」

彼女はそう不敵に笑った

 

 

----

 

「いきなりやった事のねぇ事をやれと言われてすぐ適応出来る奴はそういねぇ

だからこそ、自身の領域で出来る事をこなして行くのが最善手

誰もが英雄にはなれないだろうさ

だが、英雄を支える事位はやってやれなくもない」

農民が作物を作り、狩人が獲物を狩りそれを彼等に供すれば彼等の血肉となろう

職人が武器などを打ち、それを商人らが彼等に安く提供すれば彼等の牙や鱗となろう

市民が些細な情報をもたらせば、それらを繋ぎ合わせる事で初めて見えてくるものもあるだろう

 

背伸びし続ける事は不可能だ

何れ負荷がかかり過ぎて壊れかねない

 

 

だが、いつもの生活の中でほんの少しだけ動き方を変える(手を伸ばす)

それだけで誰もが運命を変える一助となる事が出来る筈

 

武器をとって戦う事が出来る者は限られている。だが自分の出来る事を少しだけ増やす事は出来る

 

 

 

一人一人の輝きなど些細なものと、邪竜どもは嗤うだろう

そんな連中こそ真に嗤うべきだと会頭は言った

 

 

「歴史なんざ、一人一人の行動の積み重ねの結果だ

英雄王(マルス)勇者(アンリ)あの男(・・・)

誰しもが誰かを支え、誰かに支えられて道を歩いた

…俺達商人は自身で何かを生み出している訳ではない。それらを繋げる事で大きな流れを創り出す事は出来る

見せてやろう、邪竜ギムレーとその(ともがら)共。お前達が侮ったものの強さをな」

会頭がギムレーとの決戦に際して別働隊(決死隊)を預けられた時の言葉

 

 

農民は育む者

職人は作り出す者

民衆は語り継ぐ者

騎士は護る者

王は未来への道を指し示す者

我等商人は繋ぐ者

 

 

其の総てを以って邪竜とその一味を討ち果たさん

 

 

----

 

「クロムラガキタカ

デハセイダイニモテナシテヤルトシヨウ」

「何だこいつらは!?」

イーリスで

 

「…まだやれる事はあるわ

待ってなさい、会頭いえアルト。あんたの願いは私も手伝ったのよ

叶わないで済ませる訳ないじゃない」

ヴァルムの地で

 

「おじさんが切り拓こうとした未来

守ってみせる!」

ミラの大樹で

 

 

 

それぞれの想いが激突する

 

 

 

----

 

歩み続けた者達がいた

やがていつかは力尽きて斃れる運命(さだめ)

 

では彼等のした事は全て無駄だったのか?

 

 

…それは違う

彼等は道を拓いたのだ

 

その道をたくさんの者達が続けばやがてきちんとした道筋となる

 

 

遺したもの

残された(託された)想い(願い)は残り続けるだろう

 

 

 

明日(未来)を拓く為に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という訳で足元を崩してやろうとする健気(?)なギムレーと暗躍する不穏分子でした

生存競争ですからね、使えるものは何でも使いましょう
時代はエコですよ!ギムレー

セレナ達については次回くらいに出てくる
といいなぁ
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