クララちゃんのお悩み相談回です
最近よく、体調を心配される。確かに精神面が安定しているとは言い難いけど、それでもちょっと大げさなくらい心配される。
「私でよければ相談に乗りますわよ?」
声フェチも心配なようで、何度か同じような言葉をかけてもらっている。
しかしここまで心配かけておいてだんまりというのも流石に不誠実すぎると思い、思い切って打ち明けてみることにした。
「実は思い悩んでいることがありまして……」
「そ、それは一体なんですの?」
そばにいたアタシちゃんも顔をのぞかせる。
「人生……」
「……はい?」
「人生について、考えていたのですわ」
二人が顔を見合わせる。予想とは少し違った答えだったらしい。
「じ、人生ですか……」
「思った以上に深い悩みでしたわね……」
うんうんと唸る二人に同調して僕も唸る。
「こう、進路的な?」
「もう将来について考えてるなんて……お、大人ですわ」
「しかしワタクシも迷っているのです。何のために生きればよいのかと」
「お、おお。それはなんというか、その」
「い、生きてるだけで偉い?」
「いやいや流石にそんなノリじゃないですよきっと」
どうやら二人も答えの出せていない問いらしい。年上に相談するべきだったか? これではかえって迷わせてしまう。
「ご、ごめんなさい! 変なこと言ってしまいましたよね……忘れてください」
「だ、ダメですわ!」
「ダメ!?」
強すぎる否定の言葉に思わずたじろいでしまう。
「そうですよ、将来への不安なんて誰もが持っているものです。アタシは不真面目だし、そんな真剣に悩んだことはないけど、でもその苦しい気持ちが変なんて絶対思いませんよ」
アタシちゃんも懸命に言葉をかけてくれる。やばいちょっと泣きそう。
「何の解決にもなりませんが、今を思いきり楽しむというのはどうでしょうか! ほら、未来とは今の積み重ねとも言いますから!」
「それは何のアニメの受け売りなんですか?」
「ええと……じゃなくて! とにかく楽しいことを見つけて不安なんて忘れちゃおう、なんて、あはは……流石にちょっと場違いでしょうか。そうやって不安から逃げる時間があってもいいと思うのですが……」
「まあクララさんのオタクをしてる時は楽しそうですもんね」
「そっそれは! ……否定はしませんけれど」
「しないんですね」
「当然、素晴らしいものを素晴らしいと思うことは何もおかしくありませんから。クララさんの美声はやはり世に広めるべき宝ですわ」
「本人を前によく言えますね」
楽しそうに笑う二人を見て、それもいいかもと少し思った。
「あははっ! そんなこと言ってくれるのは二人だけですわね」
それはそれとして急に早口になる声フェチにはいつも笑ってしまう。
「おーい、起きてます? クララさん行っちゃいましたよ?」
「笑顔……笑い声……女神……?」
「いつものですね」
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本日もヒナタの下で射撃訓練。普段はおっとりうっかりなヒナタも戦闘能力は折り紙付き。僕と同級生sが3人がかりで向かっていっても勝てないくらいには強かった。
「クララさんは筋がいいので、特に教えることなく成長していきますね」
なんて言うけど、彼女の教え方がいいからこうも早くコツを掴めているわけで。前世では人に頼ることなどほとんどなかった僕が、ハナコやヒナタ、サクラコなど様々な人間に助けられている事実に驚かされる。
「でもこれ、実戦ではもっと状況が混沌としていて上手くいかないことも多いんですわよね?」
「そうですね……相手は訓練用の的ではないですし、それに練習のような限られた戦況ではありませんからね。敵の増援、第3勢力の介入など様々なイレギュラーが発生するかもしれません」
「その場合は……?」
「状況に寄りますが……重要なのは冷静に戦況を確認できるところまで撤退して、味方の支援を待ったりすることでしょうか? とにかく、混沌とした状況に自分の身を置かないことが大切だと思います。もちろん、理想通りにいかない時もありますが……」
「なるほど」
耳の痛い話だ。死ぬ直前は戦争の地の真ん中にいた気がするし。そうだよね、それはそうだ。
「そういった戦況を生き抜くためのスキルはあまり学べる場所が多いわけではありませんが……実戦を重ねて経験を積むのが1番いいと思います」
「正義実現委員会の任務に同行するとかでしょうか?」
「そ、それは流石に……部活動ボランティアとはいえちょっと彼女たちは特別ですから」
「流石にですか」
「流石にですね」
流石にらしい。ぶっちゃけ正義実現委員会って何をしてる部活なのか知らないんだよね。仰々しい名前してるし、治安維持組織ってことは悪い人を取り締まるとか裏切り者を始末するとかそんな感じなのかな。
そういえばこの流れでヒナタにも聞いてみようかな。
「ところで、ヒナタさんは将来どうしたいですか?」
「えぇ!? え、えっと……どう、とは」
「……ワタクシ、今将来について悩んでいますの。この先どうなりたいのか、今何をすべきなのか。ワタクシにはそれがわからなくて……」
「た、大変な悩みですね……」
よく考えたら別にひとつしか年齢の違わない人にする相談じゃない気もするけど、年長者の知り合いなんていないし。
「私はまだまだ未熟なのであまり何も言えませんが、そうですね……目の前のことを一生懸命頑張っていれば自然に道が開ける、とかでしょうか? サクラコ様ならもう少し良いアドバイスが出来たのでしょうけど……」
なんか似たようなことを声フェチにも言われた気がする。今を生きろ的なね。うーん、そういうことなのかな。
「むむむむ……」
「むぅ……」
納得のいく答えが出せなかったことで唸るヒナタと、悩みが深まる僕。2人でむむむと唸っていると(おそらく)偶然通り掛かったサクラコに声をかけられた。
「御機嫌ようヒナタさん、クララさん」
「あ、御機嫌ようですわ」
「サクラコ様!」
にこやかな笑顔と共に挨拶をカマすサクラコ。今日もオーラが漂っている。
「今日も訓練ですか? 精が出ますね」
「はい。クララさんの成長がすごくて、既にシスターフッドの中でも優秀なくらい射撃の腕が良くなってるんです」
「そ、そんな、えへ、えへへへ」
「ふふ、それはいいことですね。ところで何やら困っていたようなので声をかけましたが、何かあったのですか?」
「あ、それは……」
ヒナタがサクラコに経緯を話す。するとサクラコはなるほど、と一言言うと目を瞑った。え、寝た?
「サクラコ様……?」
「さて、難しい話ですね。何せこの問いに明確に答えを出すことは出来ないのですから」
「そうなんですの?」
「ええ」
答えがない、と言われて気づいた。
生前の僕の世界では民は須らく王国のためにあるものだった。それは王宮に仕える者も、それどころか王族ですら例外ではない。能力によって将来が決められていき、国に貢献するべく将来が決められていく。魔術師の研究ですらそれはあくまで王国のためにあるものであり、たまたま研究に没頭する人間が利害の一致で幸せそうにしていただけに過ぎない。
それに比べてこの世界は自由すぎる。自分のために自分の人生を決めることなんてしてこなかった僕にはあまりにも広すぎる世界だったんだ。
「その答えを見つけるのはクララさん自身なのです。そして私たちがこのモラトリアムに他人と関わるのは、暗闇を照らす灯りを増やすため。私たちは互いに互いの暗闇を照らしながらそれぞれの道を見つけるのです」
あくまで持論ですが、とサクラコは最後に付け足した。ヒナタはそんなサクラコを目を輝かせて眺めている。なるほど、彼女が憧れる理由もわかるというものだ。
「まるで大人みたいですわ」
「ふふ、そんなことはありません。私も未熟な身ですから、こうやって皆さんと助け合いながら歩んでいくんですよ」
「ええ、ですから。2人とも、これからもよろしくお願いします」
「はいっ!」
「……はい!」
ハナコがサクラコの側にいるよう言っていたのは、こういった彼女の人間性を知っていたからなのかもしれない。
ちなみにハナコは損得の話しかしてません。