どれくらいの時が経っただろうか、まるで永劫とも言えるような長い時間の中……いや、多分1分も経ってないだろうけれど。
「……なるほど、エイプリルフールというやつですわね?」
「もう5月になりますよ」
なるほど。
「……ドッキリ大成功というやつですわね?」
「違いますわ」
なるほど。
「……………………ほ、本当に? ハナコさんが?」
「信じられないかもしれませんが、本当のことです。私もこの目で見ましたから。……ああいえ、現場をという意味ではなく」
「…………そう、ですか」
なるほど。
なるほどなるほどなるほど。
「ク、クララさん?」
「ふふ、ふふふふふふ……! ええ、ええ、わかりました。きっとこれは事件というやつですわね!?」
「はい!? え、ええ、まあ……事件といえば事件でしょうけれど」
「そうとわかればすぐに調査ですわね。ワタクシが真犯人を捕まえてみせますわ!」
「何を!?」
珍しく狼狽えている声フェチ。何か変なこと言ったかな?
「お待ちになってください! きっとクララさんには酷な話でしょうけど、全て真実なんです!」
「真実はいつもひとつ、ということですわね? わかってます。ハナコさんを陥れた黒幕はワタクシが必ずや突き止めてみせますわ!」
「あ、う……くっ! いえ、しかし……」
「吉報をお待ちください! それでは!」
そうと決まれば即行動! 名探偵クララがこの事件の真相を解き明かしてみせる!
「行ってしまいました…………」
ポツンと残された声フェチは、肩を落として俯いた。
「私は……弱いッ!!!!」
どうせすぐ戻ってくるよ。
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まずはやはり本人から話を聞くところから始まる。お決まりのパターンだね、私はやってないということを本人から聞いて探偵が解決に向けて動き出す。映画も見たし間違いないムーブメントだ。
「そういえば何処にいるか知らない……」
早速雲行きが怪しい。正義実現委員会に拘束されっぱなしなんてことはないと思いたいけど……いや一応行ってみよう。正義実現委員会の人の証言も必要かもしれないし。
そんなわけでやってきたんだけれど、なんだか人が少ない。訓練中かな? 一応受付っぽい子はいるけど。
「こんにちは」
「こんにちは。ええと、シスターフッドの方ですね? どういったご用件でしょうか」
「はい、こちらに浦和ハナコさんという方はいらっしゃいますか?」
「浦和……? か、確認してみますね」
お待ちください、と言うと受付の子は奥に走っていった。
しばらくすると受付の子が戻ってきた。その表情はとてつもなく気まずそう。
「ええと、その……」
「ハナコさんはいましたか?」
「その、はい。ですがその、今は面会が出来ないと言いますか……」
「め、面会!?」
扱いが囚人のソレになってしまっている。いや、そのハナコを救うために今ここにいる訳だから……少しの間我慢しててね。
「こほん、失礼しました。それで、ハナコさんは今どういう状況で?」
「多分、関係者の方ですよね? うーん、言い辛いんですけど……一言で言えば罪を認めていますね。どういった内容の処分になるかはわかりませんが、基本的に受け入れるつもりのようです」
「ふむふむ…………え、は?」
なんか今おかしくなかった?
「どうかされましたか?」
「あ、いえ、すみません……その、ハナコさんは罪を認めているんですか?」
「はい、そうですけど」
「え、そ、そうなんですか……」
どういうこと? つまりハナコは罪を認めていて、つまりハナコは深夜にとんでもない姿で徘徊していたということで、つまり……。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。少しその、混乱というか……あ、あの! ハナコさんに会わせていただくこととかは……」
「先程も言いましたが、面会拒否ということでして……その、ごめんなさい」
「あ、ああ! ですよね! そうでしたね! あ、あはは……」
あれ? なんで僕ここに来たんだっけ?
ああそうだ、ハナコを助けるために……でも、ハナコは助かる気がないわけだから……。
「じゃ、じゃあワタクシはこれで……」
そこからの記憶は定かではないけど、気づいたら僕は教室にいた。
そうだ、声フェチを置いてきちゃった。謝らないと……あと、それから……。
いやいやいや! ちょっと気持ちが追いついてなかったけど、よく考えたら別にそんなおかしなことじゃない気がしてきた!
だってちょっと薄着で夜の校内を徘徊してただけでしょ? いやまあちょっと変だけど、それでもそんな重い罪じゃなくない? ほら、別に誰かに危害を加えたわけじゃないし。そういう趣味があるとは思ってなかったけど、それでハナコの人間性が揺らぐわけじゃない……うん、ないし!
うん、別に何もおかしくない。どうせちょっと注意されて終わりだろうし、次会った時もいつも通り接したらいい。なんだ、名探偵なんて最初から必要なかったんだ。
よかった、ちょっと泣きそうだったけど、これで安心して声フェチに謝りに行けるね。
大聖堂の奥の奥、シスターフッド以外立ち入り禁止の部室の数々は、結局のところ派閥争いのせいであまり使われていない。代わりに大きな部屋がいくつかたまり場のようになっているわけだけど。
「あ、いた! ……あれ、サクラコ様?」
声フェチと話していたのはサクラコだった。ふたりはこちらに気づくと軽く手を振ってきた。
「おかえりなさい、クララさん」
「ただいまですわ。サクラコ様も、こんにちは」
「ごきげんよう、クララさん。それで、ハナコさんの様子はどうでした?」
なるほど、声フェチがサクラコに相談したのか。そりゃ勝手に飛び出していったら心配もされるよね。
「ハナコさんは罪を認めているようです。ですが、ワタクシはハナコさんにそんな趣味があったとしても、変わらず彼女を尊敬していますわ」
「それは……ええ、大変良い事だとは思いますが、しかし、ふむ……」
サクラコは困ったような表情をしていた。まあシスターだし、そういうのはちょっとダメなのかもね。
そんなことを呑気に考えていた僕に、衝撃の真実が告げられる。
「ハナコさんはやはり、トリニティを去るおつもりなのですね……」
「……え?」
なんて? ……いや、なんで?
「ど、どういうことですの?」
「彼女はわざと目をつけられるようなことをして、退学処分になろうとしているのです。その目的は断定することが出来ませんが、しかし……」
「どうして退学なんて、だって、そんなことしたら……」
この世界での学校という存在は大きい。そこに所属していないというだけでどれだけ大変な目に遭うかなんて、それこそハナコが教えてくれたことだ。
サクラコは僕に向き直ると真剣な眼差しで口を開いた。
「クララさん、折り入ってお願いがあります。どうかハナコさんから真相を聞き出し、そして彼女の退学を止めてください。貴方なら……いえ、貴方にしか出来ないことなのです」
「で、でもどうやって?」
「……補習授業部」
ポツリとサクラコが呟く。
「ティーパーティが新しく作る部活があります。その名も補習授業部です。きっとハナコさんはそこに配属されるはずです」
「補習授業部、ですか……」
「ええ、その目的はおそらく危険人物の排除でしょう。ハナコさんは今、トリニティのトップであるティーパーティから目をつけられている状態でしょうから」
「クララさん、貴方には『先生』の補佐という名目でマリーさんと共に補習授業部にボランティアをしに行ってもらいます」
「センセイ?」
「はい。先生は補習授業の顧問となるお方で、私たちの手にもあまり情報がない人です。ですが連邦生徒会に関係のある人物であることは間違いないので、危険人物ではありません」
「そ、それでその、センセイのお手伝いをしながら補習授業部にいるハナコさんの退学を阻止すると、そういうことですか?」
「その認識で間違いありません。クララさん、どうか貴方の友達を、貴方自身の手で救ってください。私は……彼女にあまりにも酷いことをしてしまいましたから」
後半の呟きは聞こえなかったが、しかし断るつもりなんて最初からない。それに僕も真実を知りたい。どうしてハナコは何も言わずに消えようとしているんだろう。……僕に相談もないなんて。
「詳しい話は後日致します。私達もできる限り情報を集めますので」
「わかりました。そういえば、ティーパーティと言えばこの学校のトップなんですよね? どうしてサクラコ様がそんな情報を知っているんですの?」
「それは……シスターフッドにも独自の情報網はたくさんありますから」
そう言うとサクラコは声フェチをちらりと見た。
声フェチの方を見ると、彼女は僕に少し笑いかけてウインクをした。