少し早く来すぎたのか、未だにヒフミ以外の補習授業部の生徒は見られない。まあこの子が部長らしいし、先生も準備で忙しいし、早く来るに越したことはないんだろうけど。
「えっと、クララちゃん? 私の顔に何かついてますか?」
「いえ、別に。ただ、そうですわね……ワタクシ達、仲良くなれそうですわねって、そう思っただけですわ」
「!! はい! 私も早くクララちゃんと仲良くなりたいです!」
ヒフミの笑顔が眩しい。うんうん、素直ないい子だしすぐに仲良くなれそう。それになんと言っても目に優しい体をしてる。
そうだよね、やっぱシスターフッドのみんながおかしいだけで普通こんなもんだよね。いや身長の割に確かに僕は小さい方だけど、まあそれを差し引いてもそんなに小さすぎるわけじゃないというか、ていうかそもそも胸の大きさで人間的な優劣を判断するのは愚か極まりないし所詮は脂肪の塊だし別に何も羨ましくないっていうかじゃあ何、僕がそんなに貧相な体をしてるって言いたいわけ? は?
「"ク、クララ? どうしたの?"」
「いえ、世界平和について考えていただけですわ」
「"そんな顔に見えなかったけど!?"」
やはり世界を平和にするには貧富の格差を是正するしかない。そう感じられるひと時だった。
そんなことを考えると今度はヒフミがジロジロと僕の顔を見ていることに気づいた。僕の顔になにかついてる? なんて聞いてみようかと思った時にヒフミが慌てて口を開く。
「そ、そういえばクララちゃんの顔、どこかで見たことあるなーって思ってたんです! 去年同じクラスだった……わけではないですよね?」
「んー、多分ヒフミさんとは違うクラスだったと思いますけど……」
如何せん、クラスメイトの顔なんて半分も覚えてないんだよねこれが。ヒフミってあんま目立つタイプじゃなさそうだし、もしかして覚えてないだけかもと思いつつ。後で同じクラスだったと発覚したら気まずいなぁって。いや向こうも忘れてたってことになるしおあいこか。
「ボランティアなどで顔合わせの機会があったのでは?」
「あ、あはは……私、そういうのに参加したことなくて……」
うーん、じゃあますます謎だ。いや別にボランティアに参加してないのは悪いことじゃないから、ヒフミもそんなにバツの悪そうな顔しなくても。
「まあすれ違ったことがあったかもしれませんわね、うん」
「そ、そうですね! 1度見たら忘れなそうな……あ! そうです! こ、これ! これクララちゃんですよね?」
突然大声を出しスマホを取りだすヒフミ。なになに何ですの。
「ほら、一時期SNSですごい流行ったやつです! これ踊ってるのってクララちゃんじゃないんですか?」
「あ、あー……これは、ええ、まあ、ワタクシではあるんですけども……」
ひょこっと顔を出したマリーが後ろから覗く。
「確かにこれはクララさんですね……。流石に見間違いじゃないでしょうし」
「そっくりさんの可能性もありませんこと?」
「いやあ、流石にクララちゃんの見た目は間違えなそうですけど……」
「"こんな綺麗で可愛い子は目立つよね"」
「先生!?」
準備はどうした準備は!
「はい、1年生の中でもクララさんは結構人気ですから」
「"そんな気がするよ"」
「クララちゃん、私のクラスでも話をしてる子がいましたしアイドル的な存在なんでしょうか」
「コラ! 褒め殺しはやめてくださいですわ!」
「"焦るとお嬢様言葉がちょっと崩れるんだね……"」
もう、さっきから3人してからかってきてなんなのですわ!? いい加減顔から火が出そう!
「まったくもう。あと先生? ワタクシ今は婚姻の契りを交わす予定はありませんので、申し訳ないですがおこたえは出来なくてよ」
「"ごめん何の話?"」
「「婚姻!?」」
え、こんなに褒めるんだし多分そういうことなんだよね? ごめんね先生。
「"よくわからないけど、うん、なんかごめんね"」
「おそらく誤解だと思うので解いた方がいいと思いますが……」
「"なんだかんだ嬉しそうだしいいんじゃない?"」
「そう、なんですかね……あはは……」
なんだよその生暖かい目は。むしろこれで好意がなかったらもう磔にされてもおかしくないでしょうが。
「え、マジでこれで好きじゃないんですの?」
「"いや? クララはいい子だと思うし、私は好きだよ"」
「ほらやっぱり」
「じゃなくて!」
ヒフミが割り込む。あれだね、君思ったより大人しい子じゃないんだね。
「男女の仲という意味ではない、ってことですよね!?」
「"ああ、うん。それはもちろん、私は先生だしね"」
「え、こんなに口説いて!? 磔にされますわよ!?」
「"磔になるの!?"」
「そこまではされません! ……多分」
マリーも混ざってカオスになってきた。いやでもシスターフッドって昔はかなりえぐい拷問してたらしいですわよ。
「まあ確かにこれは思わせぶりな先生が全面的に悪くはあるんですけど!」
「"ヒフミ!?"」
「ここは譲れません! 先生はもう少し自分の発言がどう捉えられるかを考えた方がいいと思います!」
なんか痴話喧嘩みたいなの始まった。言い訳する先生と詰め寄るヒフミを横目にマリーと視線を合わせる。
「……えっと」
「魔犬も食わん、ってやつですわね」
「マケン……?」
そうして話し合い(?)が終わったころ、既に辺りは暗くなっていた。
「そういえば、ハナコさんはいつ来るんでしょうか」
「今日は準備の日なので、私以外は来ませんよ」
「え、そうなんですの!?」
「……」
マリーが視線を逸らす。なんも聞かされてないんじゃん僕。
「クララちゃんはその、ハナコちゃんととっても仲良しなんですね?」
「はい! ですが、最近のハナコさんの周りには良くない噂があって心配ですわ……」
「き、きっと何かの間違いですよ! 明日真実を確かめましょう!」
「そ、そうですわよね! ええ、ワタクシは信じていますわ!」
「はい!」
そうだ、親友の僕が信じないと始まらない。僕だけは何があってもハナコの味方なんだから。
「ああ、神よ……どうか、どうか……」
マリーも必死にお祈りしてくれてるし。
「"ハナコって、ええっと……"」
先生が手元の資料を見て微妙な顔になる。ちょっとちょっと、その紙には何が書かれてるんだい。
「"いや待って。クララは見ない方が……じゃなくて、ほら、極秘資料だからこれ"」
「問答無用! 見せなさい!」
「"ダメだよ! あ、こら!"」
「クララさん!?」
結局第2ラウンドが始まり、僕たちが別校舎を出て帰るのはすっかり夜になった頃だった。先生の女誑しには驚いたけど、この世界で数少ない男ともなれば必然的にそうなる、のか……?
まあそんなことはどうでも良くて。明日、ついにハナコと会う。そこで真実を知って、この悪い噂に終止符を打つんだ。
《ハナコさん、明日からよろしくお願いします》
メッセージを送り眠りにつく。明日はきっといい日になるよね!
次回、クララ死す!デュエルスタンバイ!